ミルクティー
第一楽章
12月25日。クリスマス。人々は幸せそうにケーキを囲んで恋人や家族や友達と過ごしている。そんな中私といえば…。今年もこのカフェに来てミルクティーを飲んでいる。
バカだなって自分でも笑えてくる。期待したって来ないのは分かってるのに。どうしても期待してしまう。また、あなたが私の前に現れて、またぎゅっと抱きしめてくれるような気がするから。だから私はあなたとさよならしたこの場所に今年も来たんだ。ねぇ、あなたは今どこで何をしてるの?私の事なんてすっかり忘れて他の誰かと幸せそうにクリスマスを祝ってるの?自然と涙がこぼれ落ちる。仕方ないよね、まだ好きなんだから。諦められるわけないじゃん。こんなに人を好きになったのはあなたが初めてなんだから。
「おはよー。」うわっ、もう来た。時計を見るもう8時を回っていた。眠そうに音楽室のドアを開けたこの男は、何度も全国大会の優勝経験をもつ我が明誠高校吹奏楽部の部長、神崎紫音である。「今日も朝早くから頑張ってんなー。最近の上達の秘密はこれかー。懐かしいなー。俺も一年の頃は上手くなりたくて毎朝早起きして練習してたなー。」あぁもう。朝からよく喋るな。私は早く練習したいのに。ここは適当に受け流すのが1番いい。「上達だなんて、いつも合わせるときに私ばっかずれるし、技術もまだまだだし、なによりもうすぐ先輩になるのにこれじゃまだまだためなんです。」「お前はほんっとに真面目だなー。もうちょっと楽にいこーぜー。」「私も部長みたいに楽に生きれたらいいんですけどね。」「なんだよ可愛くねーな。そっか真面目な美和ちゃんは俺と話すよりトランペットの方がいいんだよな。ふぁー。俺眠いからここでしばらく寝るわ。」と言って音楽室の床で眠りについた。幸い音楽室の床はカーペットが一面に敷いてあって風を引く事はなさそうだ。とはいえまだ3月の朝、さすがの部長も寒さでプルプル震えている。「ねー。俺、寒いんだけどー。美和ちゃんあっためてー。」「なっ何を言ってるんですか!そんなとこで寝てる部長が悪いんでしょ!寒いんだったら何か着るか、あったかいとこに避難するかしてください!私は練習してるんです!部長にかまってる暇なんてないんです!邪魔しないでください!。」思わずムキになってしまった。明らかに動揺してるのバレバレだ。部長も私の反応を見てニヤニヤしている。やられた。「はいはい、冗談だってー。そんなムキになんなくてもいーじゃん。顔赤いぞー?どうしたんだ?まさか、温めるとこ想像して興奮しちゃった?」「バカにするのもいい加減にしてください。あっ、もうこんな時間だ。そろそろ教室行きます。お疲れ様でした。」あーもう最悪。せっかく練習しようと思って来たのに、ちょっとしかできなかった上に部長にからかわれるし。絶対今日は占い最下位だ。
「ちょっとみわー。どこ行ってたの?カバンあるのにいないから心配してたんだよ?具合悪いの?大丈夫?」「あっ、うん。ごめんね心配かけて。朝練行ってたの。」「ほんとあんた真面目よねー。私なんて部活にすらほとんど顔出してないのにー。」「ほんとに絢香は。まーでも今日はほとんど練習できなかったんだけどね。あいつのせいで。」
「ん?あいつ?あー、部長のことねー。ふふふっ。」「ふふふって何よ!こっちは練習出来なくて悲しんでるのに!。」「あらーまー。本当は部長に会えて嬉しいくせに。だいたい学校の王子紫音様に想われてるのに、全く喜ばないなんて理解できない。もー私がかわりたいくらいだよ。本当に。でも、あんたのその顔を見る限りまんざらでもないみたいね?付き合うのも時間の問題かもね。いーなー美和ばっか。私にも王子様現れないかなー。」「はいはいそこまで。チャイムなるからまた後でね。」と言って私はその場から逃げた。大体あり得ないし。私が部長好きとか。付き合うとかもっとあり得ないし。でも、何でだろう。部長のこと考えるとなんか自分が自分じゃないみたいな感覚に襲われる。何なんだろうこれは。気持ちが落ち着かない。そして、ちょっと苦しい。でもなんかこの感覚嫌じゃない気もする。あーもうわけわかんない。空はあんなにも晴れわたってるのに、私の心はどん曇りだよ。どうしてこんなに悩まなきゃいけないんだろ。てか、何を悩んでるんだ私は。いけないけない。授業に集中しなきゃ。
ミルクティー