『夜に出歩く。』等
・夜に出歩く。
夜に出歩く我が家の犬を
明るく追い掛けるキミの姿の
行く先を見つけたボクの影絵は
電信柱にぶつかって
南南東を忘れたところ,
取り敢えずに北を向いて
所構わず西ばかり見て
欠伸を一つしたところ
グラニュー糖を頼み忘れて
追い付くことを始めたところ,
鍵はでも部屋の中
何処も閉まったりしてないから
先に帰ってもいいところ
電話は後に,回してもいいところ,
二度寝だけはしないように
二度と起きないこと,ないように,
冷凍庫に間違って,入ってる
ヨーグルトは食べて欲しい。
猫と杓子と定規のようで,
水と魚が交わるよりは
月とある,亀のような
違いがある,確かにある
キミとボクと我が家の犬でも
食卓は共にした仲,
片付けも欠かさなかった間柄,
分かってもらえると思う。
あれは固めるものじゃないってところ。
夜を出歩く我が家の犬は
お手が出来ない我が家の犬。
フリスビーも何度か落とすし
骨も咥えて何度も落とす。
それで不器用な瞳を見せて,
不器用なんですと言う。
それで尻尾を大きく振る。
横から横へと振り続ける。
『THE ワイパー』,
そう名付けた,
キミかボクか,キミとボクが,
箒みたいに暇を散らして,
御都合主義の時間を過ごした。
冷たい水も朝に流して
顔を洗って髭を剃った。
キミと我が家の,犬以外の
ボクだけの,ことだけど,
我が家の犬は見ていたよ。
尻尾を振って,見ていたよ。
我が家の犬の,唯一の特技で
多分彼だけの,唯一の特技で
キミとボクが大好きな,
彼の大きな,たった一つな,
自慢出来ない唯一の特技で。
我が家の犬,夜に出歩く,
訳ごと一緒に追い掛けて,
夜を歩く,キミを探して,
ボクも夜を歩く。
まだ見えず,
未だ追い付けずに,
南南東を忘れたところ,
鍵を一つも持ってないところ,
誰も開けない扉がある
我が家の留守は,
それぐらいで良い塩梅,
帰ってからお茶漬けでも,
食べられる風通し。
換気扇も黙って見守る
そんな空気が待っている。
だから
夜に出歩く我が家の犬を
明るく追い掛けるキミの姿の
背中を探すボクの影絵は
昨日の西を曲がったところ
今日の東に進んだところ,
電信柱にぶつかって
買いたい物を忘れちゃったところ。
ブロッコリーが気になっているところ。
当たっているのか分からない。
だから
我が家の犬を
連れているキミに
丁度一言,多くて二言で,
尋ねるように,聞いてみたいところ。
今夜のおかずは何がいいか,
二種類ぐらいなら,余裕をもって
きっと美味しく,作れるところだから,
夜に出歩くボクは我が家で、
夜に出歩くキミと我が家の、
犬を待てずに夜に出歩く。
・宇宙人への手紙の課題
先生が言う国語の課題は
宇宙人への手紙だった。
言葉も通じない設定らしい。
『狙い』が見えて,嫌になった。
授業らしくて,嫌になった。
だから私は歯向かって
何も書かない私になった。
何も言わない私になった。
それで良いと,先生は言った。
その本心が知りたくなった。
初めて書いた手紙には
宇宙人は一人もいなくて
漢字からして堅物な
先生の名前から始めた。
続く言葉は沢山あって
どこかの海を泳ぐより
息苦しい感じに包まれた。
柔い感触,
これを破くことが出来たなら
宇宙人への第一歩,
慌てることはないかもしれない。
返信は,あったから嬉しかった。
本心は,分かったようで分からなかった。
『そう感じたから,そう言ったのです。』。
なんて,国語の先生らしくない。
手紙は続く。
二通目にも
謎の先生が待っている。
・してきなかんじ
短いながら
長くないように
綴ること
綴れること
すぐに丸を
付けられること。
余りの意味がない。
丁度良いと訳でもない。
もの足りない感じは
少々の隠し味?
味わえないのと近い感じ。
あまり意味がない感じ。
やっぱり難しい。
何がそうなのか,分からない感じ。
あるのかないのか,見えないくせに
背中に残った,感じも感じる。
むず痒い感じに,
薬が欲しくなる。
憧れの一倉さんに
好きな糸井さんに
聞いてみたい。
この感じ,
残る感じ,
書いても書いても,
足りない感じ。
してきなかんじ。
してきなかんじ。
『夜に出歩く。』等