白ぎん舞台女優 彼は私と。
白ぎん舞台女優 彼は私と。
真っ暗な部屋の中で兄がポツリと呟いた。
「俺は絶対こんな生活抜けだしてやるからな」
「勇気りんりんだね」
「前例はあるんだ、他のやつにやれたことは俺にだってできる」兄の口癖である。
「ふーん。まぁ一人で頑張ってねお兄ちゃん」満面の笑みを兄に投げつけ、ようと思ったが、部屋が暗いので見せようもない。精一杯ごきげんな声を投げつける。
「お前も一緒に行くんだよ」
不機嫌な兄の声。
「やーよ。彼……、ここが気に入ってるんだから」
「……!!」
暗くて見えないが、兄の歯噛みする様子が見えるようだ。
兄の彼に対するジェラシーには困ったものだ。大体その反応だって愛の燃料にしかならないというのに。
外から物音がする。
私達の会話がうるさかったのか、もう食事の時間か、愛おしい彼が来てくれる。もちろん兄の前で愛おしいなんて口には出さないけど。
光がゆるゆると入ってきたかと思うと、一気に光が私達に降り注ぐ。
暗幕は払われた。
「うん。今日も元気そうだな」
「おはよう」
彼と私の間に笑が交わされる。
綺麗に整えられた彼の手、今すぐにでも飛びつきたい。
笑顔の彼とは対照的に不機嫌そうな兄。
兄の体は私と同じく透き通るように白い、血が濃いせいか私と瓜二つ。つまりイケメンといって差し支えない。
「よーし、食事の時間だー」
彼から差し入れられた食事、美味しそうである。私は飛びつきたい気持ちを我慢しつつ優雅に食事に興じる。レディーとしての嗜みである。
兄のがっつきっぷりには少し引くけど。
しかも食事をさっさと済ませると檻の中にあるプールで優雅に水浴びをするという豪胆っぷり。
結局は口では逃げたいだなんだと言っていても彼の手からは離れられない。居心地がよいこともあるし、私達はそう育てられている。
だったら素直に愛すればいいのに。
双子のはずなのになぜこうも思考に差があるのか。顔が似てなけりゃ血縁に疑いを持つレベ
「んー」わたしは首をくきりとたおす。
今日はおしごとみたいだ、
しびれ薬がごはんにはいってたんだ、
いしきがふわふわするねむたい
かれがわたしが倒れるのをてつごうしのむこうからみている
もうかれのかおもみれない
からだをもちあげられている きれいなかれのての
ぬくもり
目が覚める。
私の唯一の仕事。舞台の時間だ。
チラチラ見える光と歓声から察するに、すでに舞台は始まっているようだ。
彼の服の中に隠れている。
彼の合図と同時に私は光り輝く舞台へ飛び出す。
照明の光によく映える私のからだは、観衆の視線と歓声を独り占めにする。
そして大好きな彼の手に帰っていくと、さらに歓声があがる。
大好きな彼の手。
私はギュッと握った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
仕事を終えて汗を拭う。
早いとこ帰ってビールを胃袋に迎え入れたくて仕方ない。
と、控え室の扉が開く。入ってきたのは今回のショーの依頼人様だ。
俺は疲れを押入れに押し込んで背筋を正す。
「ごくろーさん。やっぱり君が来てくれると盛り上がるよ」
「いえいえ、良い会場を手配してもらってこちらとしてもやり甲斐がありましたよ」
「そういえば、あの鳩って何処かに隠してるの?」
「そいつはマジシャンに聞くのは野暮ってものですよ」
白ぎん舞台女優 彼は私と。