【苗石】絶対に見つける
【ネタバレがすさまじいです】ダンガンロンパより、苗石の小説です。苗木目線でお話しをすすめていきます。腐向けです。
閉塞的な空間で
ボクたちは、閉じ込められた。希望ヶ峰学園『だったらしき』場所に。
どうやってここに来たのかも覚えていない。どうしてボクたちだけがこんなことに巻き込まれているのかもわからない。
みんながそれぞれ、この閉塞的な空間に絶望を抱いていたと思う。せめて空が見えたり、外の空気だけでもすえたら…なんて思っていた。
モノクマから、絶対的に絶望的な 『超希望的学園生活』 についてつげられ、いそいで学園内の出口などを捜索したけれど、見つかることはなかった。
ただ、個室や食糧など、ずっと暮らせる環境が整っていたことは明確だった。
絶望的ながらも、まだ出られるかもしれないと希望を持っていた矢先、事件は起きてしまう。
そう。モノクマからはなたれた『動機』…によって、舞園さんが殺された。そして、学級裁判の結果、桑田クンがおしおきを受けた…
その日の夜、ボクは当然、寝つけるはずもなかった。何事もなかったかのように、タイムスリップしたかのように、なんの痕跡もない部屋でも、僕の脳内には舞園さんの遺体があった時のことや状況が鮮明に残っていた。
それに、桑田クンの痛々しいショケイ…さっきまで生きていた人間が、少しずつ弱っていきながらじっくりと殺されてゆくさまは、ボクの精神を軋ませていた。
寝ようと思えば思うほど、頭は冴えてゆく。かといってベッドから出る気にもなれず、ボクはこれから先のことについて考えていた。
――――――ピンポーン
誰かがボクの部屋のインターホンを押した音で目覚め、自分がいつの間にかに寝ていたことを知る。…今、何時なのだろう。扉をゆっくりと開けた。
「…はい…」
「苗木くん!おはよう!」
い、石丸クンだ…ボクは、石丸クンに対して『めんどくさそうな人だなあ』という考えしかもっていなかった。正直、そんなかかわりたくないし…
「どうしたの…?」
「どうしたもこうしたもあるまい!モノクマのアナウンスから30分も経っているのにキミが来ないから、心配してみにきたのではないか。」
え?モノクマのアナウンスが聞こえないくらいに熟睡してしまってたのか…
「あ、ありがとう…今行くよ」 ボクがいったん部屋に入ろうとすると、石丸クンがボクの腕をつかんだ。
「待ちたまえ!顔色がよくない。昨日はちゃんと眠れたのか?」
「…眠れるわけないじゃないか。あんなことがあったのに。」 ボクは冷たくそう言い放った。
「でも、部屋はきれいに片付いていたのだろう?昨日のことなんて嘘のように。なら…」
石丸クンの言い方が、ボクの弱っていた神経を逆なでた。
「だから眠れるとでも言いたいの!?昨日の出来事は嘘じゃなかった!ボクたちはしっかり見てきたじゃないか!痕跡が何もなくなったって、ボクの頭の中には舞園さんや桑田クンが…!!」 そこまで言って、ボクは止まった。石丸クンが悲しそうな顔をしていたからだ。
「す、すまない…言い方に配慮が足りなかった。気が向いたら、食堂にきてくれ。ちゃんと謝りたい。」
深々と頭を下げると、少し早足に石丸クンはその場を去った。なんでも思ったことを口に出すような人だとは思っていたけど、ここまでだなんて…
ボクは自分の部屋にもどり、まだ心の中にある怒りを必死におさめようとした。
なんだよ…
ボクはまた眠った。怒りと、空腹を抑えるために。食堂で待っているって言う石丸クンに会いたくなかったから。石丸クンが帰るまで眠る。
しばらくして、ふと目が覚めた。ボクはそっとドアを開け、周りを確認してから外に出る。誰もいないみたいだ。
食堂の前まで行ってみると、扉は開いている。まだ夜時間ではないってことか…。
食堂に入ると、また誰もいなかった。時計を確認すると、21時50分。夜時間の10分前だ。予想以上に自分が眠っていたことに驚く。
石丸クンもいなかった。
「10分前にもなれば当然だよな…時間に厳しそうだし。」
ボクは、何か食べ物だけでも持って帰ろうと、厨房へ向かう。
―――ガッシャアアアアアアン!!!!
突如、厨房から大きな音が響いた。こんな時間に誰だ?昨日の今日で、ボクは警戒心を強め、恐る恐る厨房をのぞく。
「い、石丸ク…ン???」 そこにいたのは石丸クンだった。
棚から鍋を取ろうとしたのか、床に鍋が散乱している。その真ん中に石丸クンが突っ立っていた。
「ななな、なえ、苗木くん!お、遅いじゃないか、待ってたぞ!」
「なんでそんなにあわててるの?あと、何しようとしてたの…?」
この状況で言い訳をするのも見苦しいと判断したのか、石丸クンは申し訳なさそうに言った。
「実はな、朝、キミを怒らせてしまっただろう?アレから僕は反省して、謝るためにキミがここに来るまでずっと待っていたんだ。」
え?ずっと?もう10時間以上経ってない?
「なのに来ないから、心配になってしまってな。夜時間ももうすぐだし、何も食べないのでは力も出ないだろう。だからおかゆでもと思ったんだが…」
「そこでボクに見つかっちゃったんだ?」
石丸クンはうなずいた。 そして、あ。と思いついたような顔をした。
「よく考えたら、僕はお茶をいれるのは上手なんだが料理は…おかゆなんて作ったことすらないんだった。どうすればいいのだろう?」
考えもしなかった。という顔で話す石丸クンに、ボクは少し呆れながらも、フォローする。
「つ、作ったことないのなら無理しなくていいよ…適当にあるものを食べるよ。もうすぐここも閉まっちゃうみたいだし。」
適当に食べ物を持って、食堂を石丸クンと出た。石丸クンがボクの部屋まで送ると言ってくれた。すぐそこなんだからそんなことしなくていいのに。
部屋に着いて、自分の部屋に入ろうとしたとき、石丸クンに呼び止められた。
「苗木くん…!今日は、本当にすまなかった。キミの気持ちを考えれば怒って当然だったと思う。申し訳なかった…」
石丸クンの態度に、ボクが許さないはずがなかった。むしろ、ここまで心配してくれてこっちまで申し訳ないというか…
「もう、気にしてないよ。それに、石丸クンなりに元気付けようとしてくれたんでしょ?嬉しいよ。ありがとう。それじゃあ、おやすみなさい。」
ボクはそういって、そっと扉を閉じた。閉じるまでの一瞬に、石丸クンの顔に安堵の表情が見えた。
気を紛らわすこと
案外、石丸クンも見方を変えればいい人なのかもしれない。ボクはそう思うようになった。
真面目が服着て歩いているような性格だし、融通はきかないしデリカシーもなければ空気も読めないけれど…
裏表のなくてしっかりした性格ともいえるよね。なんて考えてみると、ボクは石丸クンに少し興味を持った。
だから、朝の朝食会(?)で石丸クンを誘ってみることにした。一緒に時間をつぶさないかって。
朝食を食べ終わり、みんなが散り散りになってゆくなか、先ほどの約束を覚えていた石丸クンがボクに話しかけてきた。
「いつもは勉強をしているのだが、今日は苗木くんがいるからな。少し話でもしないか?僕はお茶を淹れるのだけは母に褒められたんだ。」
「うん。いいよ。」
石丸クンの淹れたお茶は、確かにおいしかった。
「それで…苗木くん。何か話をしてくれないか?」
ボクが話すのか…
「…石丸クンってさ。毎日勉強してるの?」 とりあえず、他愛のない会話から始める。
「うむ!毎日しているぞ!勉学は学生の本分だからな!!たまに筋力の衰えを防止するためにスポーツなどをしているが、それ以外の時間は勉強だな。」
「…本当に?すごいな…勉強って楽しいの?」
その質問に石丸クンは、考えるしぐさをした。
「楽しい?…そんなこと、考えたこともなかったな。勉強は楽しいものではなくてやるべきことだと思っている。ああ、でも、新しい知識が増えてゆくのは気持ちが高まる。もしかして、それが勉強は楽しいってことなのか?」
「うーん、たぶん、そうだと思うよ。」
勉強を楽しいかどうかを考えたこともないなんて石丸クンらしいな。とボクは思う。
「ねえ、石丸クン。ボクにも勉強教えてよ。」
石丸クンの話を聞いていると、ボクも勉強をしてみたくなった。それと、石丸クンの事をもっと知りたいと思ったんだ。
「もちろんいいとも!勉強はいいぞ。今のような状況でも気を紛らわすことができるからな!」
気を紛らわせられるのか…それはいいかも。誰もが参ってしまうようなこの状況を、少しでも、一瞬でも紛らわすことができるのなら。
こうして、石丸クンと一緒に勉強をするようになった。
毎日
「苗木くん、ここは前回間違えた場所だったな。今回はちゃんとできているではないか。」
「うん、あれからちゃんと復習したからね!」
なんだかんだで、ほぼ毎日石丸クンと勉強をしていた。最初は内容がまったくわからなくて、石丸クンが内容の説明をボクのレベルに下げてくれるのが情けなくて恥ずかしかった。
でも、最近は理解できることが多くなっていた。もちろん、石丸クンとの勉強を終えたあとは復習をしたからなのだろうけど。
勉強って楽しい。そう思えている。
「やはり。苗木くんには努力の力があると思っていたが…まさかここまでくるとは。僕も教えがいがあるというものだ。」
勉強の楽しさも続ける理由になっているけど、最近気づいたことがある。
「そんなことないよ…まだ石丸クンの教えがないとわからないところも多いし…石丸クンのおかげだよ。」
「な、苗木くん…そこまではっきり褒められると少し照れるのだが…」
この顔だ。石丸クンは褒めると、あまりみんなに見せないような顔ではにかむ。
その顔が見たくてボクは石丸クンと勉強を続けている。この理由に気付いてしまったときは自分がちょっと気持ち悪く感じたけどね…
「と、とにかく!明日もまた一緒に勉強をしようではないか。このところ苗木くんと勉強をともにしていて、判明したことがあるんだ。勉強とは、一人でやることが大切だが、友人と一緒にやることもまた違う楽しさがある。と。」
「え?石丸クン、友達と一緒に勉強したことないの??」
「勉強とは一人でやるものではないのか…?」
「なるほど、そういう考えだったのか。石丸クンに友達がいないから一緒に勉強なんてしたことないのかと思っちゃった。ごめんね?」
冗談に聞こえなかったらしい。石丸クンの表情が固まった。
「…と、友達とは、どうやったらできるのかわからなかったんだ…進学校ではお互いがライバルだから一緒に勉強などということもしなかったしな。」
どうやったらって、自然とできるものだと思うけど…とにかく、石丸クンには友達と呼べる友達がいなかったのかな?
「じゃ、じゃあ、ボクは石丸クンの友達一番乗り?!」
「うーむ…そうかもしれないな。キミが僕のことを友達と思ってくれているのなら。」
「もちろん!思ってるよ!!石丸クンの友達第一号なんだねボクは!」
どうしてこんなに嬉しいのか自分でもわからなかったけど、うれしかった。
嫉妬
石丸クンとの勉強にもだいぶ慣れて、習慣化してきたところに、それは起きた。
夜時間の少し前だろうか。軽食でも持っていこうと食堂によると、石丸クンと大和田クンが言い争っていた。
「キミのような風紀を乱す輩は忍耐力が欠如しているんだ!根性がないからそのような格好をしているのだろう!現実から目をそらして…」
「なんだとコラァ?根性がねぇだと?テメェみたいな真面目な綺麗ごとばっかぬかしやがる野郎の方が少し脅しただけでビビるんだよ!お前の方が根性ねえだろうが!!」
二人の声が食堂の外に響く。
「ちょっと!なにしてるの!二人ともやめてよ!」
「こいつがよォ…突然来て忍耐力がないだの根性無いだの言いだしやがるんだよ!」
「本当の事ではないか!」
「なら、根性試しでもするか?逃げねえだろうな?あ??」
「いいだろう!受けてたとうじゃないか。」
こうして、始まったのは喧嘩…ではなく、サウナでの我慢対決だった。ボクは夜時間を前にその場を離れたが、何か嫌な予感がした。
なんだろう、この胸騒ぎは…
朝、ボクはいつも通り食堂へ向かう。
「おはよう。」
そこにはみんな集まっていた。葉隠クンが寄ってきてボクに話しかける。
「苗木っちおはようだべ。それより見てほしいんだよ、アレ…」
葉隠クンが指差す方に、仲よさそうに肩を組む石丸クンと大和田クンがいた。
「やあ、苗木くん!おはよう!昨日は付き合わせてしまってすまなかったな!な、兄弟?」
「おう!ありがとな!」
きょ、兄弟…?なんか、すごく仲良くなってる…?それになんだ?この胸のざわつき…昨日の嫌な予感はこれか?
「苗木くん!重ね重ねですまないが、今日は共に勉強ができそうもないんだ。兄弟と語り合わなければならないからな!」
これだ。これが嫌な予感だったんだ。石丸クンが遠くに行ってしまうような感覚。
「すまねえな兄弟!わざわざ時間とってもらってよ!」
「何を言っているんだ、当たり前じゃないか!」
そう言って朗らかに笑う二人をよそに、ボクの心はどんよりと曇ってゆく。
嫉妬だ。友人を奪われたという感覚よりも、もっと濃くてドロドロとした…
仲よさそうに会話している二人を見ているのがあまりに辛くて、ボクはそっと食堂を出た。
これは?
ボクは自分の部屋に戻ると、ベッドに飛び込む。
「なんだよこれ!!なんなんだよこれ…ッ…!」
大声で叫んでも、すぐに沈黙がおとずれる。誰もこの気持ちを教えてくれる人なんていない。
「なんでこんなにもやもやしてるんだよ…ただ、石丸クンが…」
そこで一度、息をのむ。
「石丸クンが、大和田クンと仲良くなれただけじゃないか…この絶望的な生活の中で、新しい友情が芽生えたのはいいことなんだし…」
ボクと過ごす時間が少なくなるだけ。そんなの、別になんでもないじゃないか…
最近、ボクはおかしい。
石丸クンとの勉強が楽しみになっているのは、まだ普通かもしれない。その楽しみな理由がおかしい。
『石丸クンに会えるから』なんて。そんなのは、ボクは男なんだから女の子に向けられるべき感情じゃないのか?
それに、大和田クンに対する嫉妬も…
自分で自分がわからなくなっていた。ボクが毎日予習をしているのも、復習をしているのも、これが続けられるのも、
『石丸クンに会いたいから』??絶対違うと言葉でいくら否定しても、心の中ではそれをとっくに肯定していた。
そして、この感情に人間がつけた名前も知っている。…『恋』だ。
ボクは女の子が普通に好きだし、今も好きだ。でも、石丸クンだけは別だって思う。
こんな状況だからかもしれないけれど、石丸クンは毎日、希望を持って前へ進み続けていた。それが眩しくて、うらやましくて、あこがれていたんだ。
さっきの大和田クンと仲良くしてて嫉妬したのも、友情からくるものじゃなくて、石丸クンが好きだからなんだって思うと、自分が認めたくないものを認めたからか気分がすっとした。
自分が男を、しかもめんどくさそうなんて思っていた石丸クンを好きになるなんて…
ここまでを気づけば、ボクは石丸クンのことばかりを考えていた。そんな自分が気持ち悪くてしかたない。
でも、好きなんだ。好きになってしまったんだ。
起きてしまう
石丸クンが好きだと自分で認めてからは、毎日が苦痛でしかたなかった。
大和田クンと石丸クンは日に日に仲良くなっていっていたし、それをイヤでもみせつけられている感覚がして耐えられなかった。
そして、毎日の習慣であるから、勉強をするときはボクも誘ってくれた。それが逆にボクを悩ませることになる。
石丸クンの部屋に二人きりってだけで緊張するようになったし、顔も満足に見られないし…勉強の内容も頭に入らない。
こんなにつらい思いをするのは初めてだ…
「…苗木くん!」 ボクを呼ぶ声が、ボクを現実へと引き戻した。
「な、なに?石丸クン。」
石丸クンは深くため息をついた。
「キミは最近おかしいぞ?うわのそらだし、内容もよく聞いていないようだが。。」
鈍感そうな石丸クンに気付かれるくらいボクは態度に出ていたのか…やっぱり、これ以上一緒に勉強するのは無理なのかなあ…
「ゴメン、石丸クン。しばらく一緒に勉強するのをやめにしたいんだ。なんか集中できなくて…少し休んでもいいかな?」
一瞬悲しそうな顔をした彼に、ボクは少し喜んでしまった。ボクとの勉強を本当に楽しみにしてくれていたんだなって感じた。
「うーむ。苗木くんがそういうのなら仕方がないな。でも、復習は欠かさないようにな。」
ボクはうなずくと、石丸クンの部屋を出た。
唯一の『石丸クンとのボクだけのつながり』は、自分で断ち切ってしまった。これでいいんだ。少しは辛くなくなるだろうし…
ほんの少しの後悔と安堵が入り混じる。
あー。なんで石丸クンなんか好きになっちゃったんだろう。
もし、女の子の誰かを好きになっていたら仲良くなろうと努力して、一生懸命に緊張しながら告白して。
その子が好きだって考えただけで毎日が楽しくて会えることを楽しみにできたのに。
ボクは、好きだって伝えることすらできない。自分でさえこの気持ちが大きくなってゆくことが気持ち悪いと思ってしまうのに
突然同性から「男性として好きです」なんて言われたら相手はどう思うだろう?
誰にも相談できない、ずっと胸の奥に抱えていかなければならないこの想いは、ボクの手にあまりすぎた。
起きてしまった
起きた。
第二の殺人。また、モノクマの動機によって起きてしまった。
被害者は不二咲千尋さん。犯人が誰なのか明確な手がかりが見つからないまま、学級裁判をむかえる。
学級裁判で次々と明らかになってゆく事件の内容。不二咲さんは男性だったのか…
進んでいくうちに、大和田クンが犯人である可能性が高いということになった。
ボク自身も、大和田クンが今回の犯人ではないかと疑いはじめていたが、それよりもきがかりな事があった。
そう、石丸クンだ。霧切さんや十神クンの推理によって大和田クンがどんどん不利になってゆく。
そんな状況に、兄弟と呼んで仲良くしていた石丸クンが耐えられるはずもない。
信じられないというよりも、信じたくないという気持ちが強かったように見えた。
決定的な証拠。そして、十神クンの目撃証言。
これが大和田クンが犯人だということを示し、大和田クンも観念したように、ゆっくりと自供をはじめた。
投票の結果も、正解発表も、大和田クン自身も、彼が犯人だと証明しているのに、石丸クンだけは認めようとしなかった。
―――――そして、オシオキ。
ボク達の目の前で、大和田クンは死んだ。殺された。モノクマに。…いや、投票をしたボクたちに。
ウワアアアアァアアアアァアァア!!!!!
石丸クンの悲痛な叫び声と、沈黙するボクたち。
ボクは最低だった。
ココロのどこかで、『石丸クンを独り占めできる』そう思っていたから……
うそだ
みんなで、そこに残ろうとする石丸クンを無理やりエレベーターに乗せる。
石丸クンは暴れることも叫ぶこともなかったけれど、ただ、一点を見つめて立っていた。
涙も枯れきっているのか、涙をこぼすこともせずに。
「ボクが石丸クンを部屋に連れて行くよ…」 みんなにそう言い残し、ボクは石丸クンの肩を支えながら部屋に向かう。
部屋に着き、扉を開ける。そのとき、石丸クンは聞こえるか聞こえないかくらいの声でつぶやいた。
「嘘だ…兄弟が…人を殺めるなんて…」
そのあまりに悲痛な声は、ボクの心をゆさぶった。
「石丸クン…」 何か、何か声をかけなければ。そう思う前に、石丸クンが言葉を発していた。
「苗木くん…ありがとう。……少し、ほっといてくれ…」
力なく目の前の扉が閉まる。
うるさいくらいに声が大きくてあんなに元気だった石丸クンがここまで落ち込むなんて。
ボクはどうしたらいいのかわからずに、静かにその場を後にした。
食堂に行ってみると、全員ではないがほとんどの人が集まっていた。
「苗木っち。どうだった、べ?」
葉隠クンは僕の表情をみてうすうす勘付いたのか、うかがうような言い方で聞いてきた。
「…しばらくほっといてほしいみたい。かなりショックうけてたみたいだよ…」
「石丸、大和田と一番仲がよかったもんね…暑苦しいくらいにさ…」
一番仲がよかった、か。なんでそんなささいな言葉に傷つくんだボクは…朝日奈さんに悪気はないのもわかってるのに…
あんなに落ち込んでる石丸クンをみて、一番ショックを受けているのは間違いなくボクだ。
大和田クンの存在が、石丸クンの中でそこまで大きくなっていたことに、ボクは…ボクは…
空いた
扉をそっと、音をたてないように開ける。やっぱり、鍵なんてかかってない。
不用心だな…心のなかでつぶやく。右手に強く、強く握られた包丁。
不思議と心は安らかだった。こわくなんてなかった。
だって、これから…石丸クンはボクのモノになるんだから。ボクだけのモノにナルンダカラ。
ココロが麻痺してゆく。高揚感。
石丸クンは、椅子に座っていた。何をするでもなく、ただ、焦点の合わない目を虚空に向けていた。
そっと、静かに、石丸クンの首筋に刃をこすり合わせる。何も抵抗しない。抵抗する気力すらないのか。
「痛くないように、すぐに殺してあげるからね…」
包丁を深くのどに刺す。たくさんの紅い液体が噴き出す。石丸クンの体温。温かくて気持ちがよかった。
何度も刺す。ボクのカラダが石丸クンで染まってゆく。嬉しかった。
「ボクね、石丸クンがずっと前から好きだったんだ。気づいてたかな?」
もう、二度と焦点が合うことのないうつろな瞳の石丸クンに語りかける。ちゃんときいてくれてたかな??
血だらけのカラダをそのままに、ボクは部屋から出る…
ここで、暗転する。
モノクマのアナウンス。朝だ。
「ゆ、夢だったのか…!」
夢の中では冷や汗なんてかいてなかったのに、目覚めると冷や汗で身体がぐっしょりだったし、呼吸も荒かった。
なんであんな夢を…
ふらふらと食堂へ向かう。夢のことなんて忘れたかった。
食堂にはすでに何人か集まっている。朝日奈さん、霧切さん、石丸クン…
石丸クンは、真っ青な顔色でそこに立っていた。一睡もしていないことは明らかで…
「石丸クン、おはよう…」
「……」
何もしゃべってくれなかった。
そっと
朝食のあと、石丸クンを探す。誰もいない教室に、座っていた。
「…僕を独りにしてくれないか…」
その言葉に少し傷つきながらも、石丸クンの隣に座る。
「別に何も話しかけたりしないからさ…隣にいるくらい、いいでしょ?ほっとけないんだ。」
断ることも、承諾もされなかったが、承諾と判断する。
ねえ、石丸クン。もし、ボクが大和田クンと同じ立場になっても同じようにかばってくれた?
不二咲さんのように殺されてしまっても、悲しんでくれた??
そして、今の石丸クンみたいにふさぎ込んでくれた???
次から次へとわく疑問は、ボクの口から出ることはせずに、頭の中をぐるぐると駆け巡るだけだった。
お互いに一言も話さないまま、時間は過ぎて行った。夜時間の前になる。
「石丸クン…少しは寝ないとだめだよ。ご飯も食べなくちゃだめだよ。」
そう言って、教室を出た。きっと、一緒に部屋までは戻りたくなかっただろうから。
眠る前に、今朝見た夢を思い出す。
もし、石丸クンがあのままだったら、夢のようなことをしてしまうかもしれない。
ボク以外の誰かを思ったままの石丸クンをこれ以上見せつけられるようなら、いっそ、ボクの手で…
そこまで考えて、自分の思考に恐怖する。
こんなことを考えてしまうくらい、ボクの石丸クンに対する想いは深く、強くなっていっているということか。
ねえ…
あれから数日、ボクは石丸クンが一人でいるところに行って、夜時間の前まで一緒にすごすということを繰り返すようになった。
鬱陶しそうにすることはなかったけれど、どう思っているのかはうかがい知ることはできなかった。
今日も、石丸クンと二人で教室の端に座る。でも、いつもと少し違った。
「苗木くん…」
石丸クンがボクに話しかけてきた。何日ぶりのことだろう。
「苗木くんは、どうして僕の傍にいる?何か話しかけるわけでもなければ、ここから去るわけでもない。なぜだ?」
ボクに視線を向けることはせず、淡々としゃべる石丸クン。
「それは、ボクが…石丸クンの友達だからだよ。」
沈黙。
「…友達…とは、なんなのだろうな。僕は、兄弟の事を本当に友人だと思っていたし、絆も感じていた。」
その声は、今にも叫びだしたいのを、逃げ出したいのを、必死に我慢しているかのような、感情を押し殺している声だった。
「それなのに、どんな理由であっても、彼は人を殺してしまった。僕は、兄弟のことを何もわかっていなかった。」
「苗木くんは、『僕の何を知っているというんだ…?』」
知らない。ボクは、石丸クンの事を何も知らない。どんな幼少期を過ごしてきたのかとか、趣味とかも何も。
ボクたちを繋いでいたのは、空っぽな『友達』という言葉だけ…。
――――ガタンッ
ボクは石丸クンを押し倒していた。上に乗っていた。
「ねえ、もし、ボクがここで石丸クンを殺そうとしたら、どうするの?抵抗する?」
自分でも驚くくらい、低くて恐ろしい声だった。
石丸クンは目を瞑った。
「…殺したいのなら、…殺せばいい。僕は、キミのことなんて何も知らない。」
その言葉はボクの頭を強くなぐりつけた。よろよろと、力なく石丸クンの上から立ち上がる。泣くな。泣くな。
「…石丸クンの心には、ボクの入る隙間なんてないのかなぁ?」
教室を出る。目から熱いものがこぼれる。
前までの石丸クンだったら、『苗木くんがそんなことをするわけがないだろう。仲間じゃないか』って言ってくれたと思う。
こんなの、おかしいって…言ってくれたのに。
漠然と
『殺したいのなら殺せばいい』
その言葉はいつまでも消えることなく、色褪せることなく再生された。
もし、石丸クンがあのままだったら…
ボクが、殺そう。ボクの手で。
これは夢なんかじゃなくて、現実だ。ボクは石丸クンを殺そうとしている。
誰か、誰かボクをとめてくれ…石丸クンを変えてくれ。。
そう願い、眠りについた。
ただ、誰かにすがりつきたい気持ちを胸に抱きながら。
動く
ついに事態は前へ進みだす。
朝日奈さんが、不二咲クンが遺したアルターエゴを見つけた。
今は亡くなってしまった不二咲クン…彼の希望がボクたちにも伝わった瞬間だった。それは、暖かくて、眩しい。
みんなはそれぞれの形で期待を抱いていた。アルターエゴが何か見つけてくれることを。
…でも、ボクは、別のことで頭がいっぱいだった。
石丸クンのことを殺すかどうか…
この日は石丸クンに会いにいかずに、部屋にとじこもっていた。
夜時間の前だろうか。
―――ピンポーン
「…はい…?…!い、石丸クン…!」
石丸クンが立っていた。部屋に招き入れると、素直に入ってくる。
「ど、うしたの…?」
きまずいなあ…あんなことあったばかりだし…
「…生きていたのか?」
ん?聞き返す。
「不二咲くんは…生きていたのか?」
…アルターエゴのことか。石丸クンはあの場にいたはずなのに…
「…石丸クン、お風呂に入らない?」
浴場にいく口実のつもりだったが、今の自分にとってはなんだか意味深すぎて少し恥ずかしくなる。
無言でついてくる石丸クンと浴場につくと、アルターエゴをそっと出す。
「石丸クン…不二咲クンは…。」
アルターエゴが急に話し出す。
[そこにいるのは石丸くん…だよね?]
アイコンが大和田クンに変わる。
大和田クンの声で、しぐさで、石丸クンに言葉をしゃべってゆくアルターエゴ。
それは、本当に、この場に大和田クンがいるかのような。
石丸クンを横目に盗み見ると、目つきが変わっていた。
複雑
あれから、石丸クンは石丸クンだけれど石丸クンではなくなった。
大和田クンを石丸クンを足して2で割った、自称『石田』らしい。
言葉づかいは前までの彼とは思えないほど乱暴な口調だったけど、時間にうるさかったしきっちりとしたところは何も変わっていなかった。
どうしよう。どうしよう…ボクがアルターエゴと会話させたせいだ…
石丸クンが元気になってくれたのはよかった。でも、こんなに性格が変わっちゃうなんて…
彼がどんどん離れていく感覚よりも、もうまったく手が届かない場所に行ってしまった感覚が強い。
朝食が終わって気づいてみると、石丸クンはすでにいなかった。
石丸クンの部屋の目の前に、立っていた。
「苗木ィ!おせーぞ!」
「え…?」
「勉強すんだろが!良い子はお勉強の時間だろ?あ?」 口調はほぼ大和田クンなのに勉強とか言ってる…
「ボ、ボクをまた誘ってくれるの…?この前あんな事言ったのに…」
石…田クンははっきり言った。
「何言ってんだよ!お前がオレを殺すわけねーだろ!そんなことしねえヤツだよオメェは!!」
考え方は、前までの石丸クンに戻ってた。
安心…なんてできるわけない。
どうして、大和田クンの存在がここまで石丸クンにとって大きいの?
大和田クンのせいで石丸クンは鬱になって、大和田クンのせいでもとにもどって。
ボクなんかじゃ、石丸クンを慰めてもなにもならないのに。何も変わらなかったのに。
ボクは生きているんだよ?大和田クンは死んだのに。それなのに、キミの心を動かし続けるのは、大和田クンなんだね…
今にも、自分の握っているペンを、隣で勉強をしている石丸クンに突き刺したい気持ちだった。
争う?
ある日。
山田クンと、石丸クンのアルターエゴの取り合いが始まった。
兄弟は自分のモノだと、アルターエゴは自分のモノだと。
ささいな喧嘩だったけど、イヤな予感しかしなかった。
みんなはくだらない争いだとしか見ていなかったけれど、また、何かが…
そんな中、放送される、モノクマの呼び出し。
やはり動機の提示だった。100億円。
そ、そんなこと?ボクは少し拍子抜けする。イヤな予感はこれのせいじゃないのかな…
でも、ボクたちはイヤというほど見てきたではないか。
自分の価値観だけで安心してはならないと。『ただの100億円』は誰かにとっての『人を殺す価値のある100億円』かもしれない。
この中で誰かが、殺人を計画している…そう思うととても怖かった。そんな考えをしてしまう自分もまた、怖かった。
殺人が起きることが当たり前になっているこの小さな世界で、また何かが起きる。そんな予感がずっと頭から離れなかった。
こんなの
鳴ってしまった。
鳴ってしまった。
ナッテシマッタ。
死体発見、アナウンスが。
石丸クンが、死んでた。いや、殺された。
「うわああああアアアアアアアアああああアアあああ!」
ボクの叫び声は、自分でも聞いたことのないくらいの悲痛な叫びだった。
「石丸クン!嘘でしょ?!ねえ!目を覚ましてよ!!!!!」
正直、山田クンが死んだことなんてどうでもよかった。最低な人間だけど、大好きだった、愛していた人を殺されたらだれだってそうじゃないか
許せなかった。犯人が。憎かった。
誰が殺したんだ?誰が石丸クンを???この中の誰かだ…!!!誰かだ……
みんな自分じゃないかのような涼しい顔してる。誰だ…!!!!!
手に入らないのなら、ボクがいっそ石丸クンを殺してしまおうかと考えたこともあった。ボクの手でって。
でも、石丸クンがいなくなって初めて気づいた。ボクは殺さなくてよかったんだって。
失ってこんなにも傷つくのなら、殺さないでいいんだって。
それなのに、犯人は殺した。
ボクは、冷静な判断を下さなければならないと、深呼吸をした。
捜査を精一杯やろう。石丸クンのために。自分のために。
「絶対に見つけるからね。石丸クン。」
【苗石】絶対に見つける
一度苗石の話は書いてみたいと思っていました。今度機会があったらほかのシチュエーションで書いてみようかなあと思います。