宗教上の理由・永久の旅へ
あれ…。
ここはどこ…。
あたし、いや、あたしたち、どうしちゃったんだろ…あ、花耶ちゃん、起きて、る?
「う、うん…あ、お姉ちゃん…えっと、花耶たち、どうしちゃったの?」
え、うん…あの…どう、したんだろ…。
「あ、気付いた?」
気が付くとあたしの目の前に、犬みたいな生き物がいた。いや違う。これは、オオカミさん。確か、うちの神社とうちの村を守っている…あれ、なんであたし、このオオカミさん知ってるんだろ。それに、なんでオオカミさんがしゃべってるのに、不思議に思わないんだろ。ねえ、花耶ちゃんどう思う? …花耶ちゃん?
「…神様!」
!!!
そうだ、花耶ちゃんの言う通りだ! あたしは思わずひざまずいた。でも、
「やめてよそういうの。ボクの前でそういう堅っ苦しいのは無しだよ」
あたし達の目の前に、神様がいる。天狼神社で奉っている真神様。花耶ちゃんよりワンテンポ遅れてあたしも思い出した。あたし、真神様のお使いとして地上に産まれたんだった。そして、あたしを守ってくれる守り人として使わされたのが花耶ちゃん。
でも、もう一個の謎がわかんない。なんであたし達、天上の世界に戻って来たんだろ?
「あのね…」
柔らかい表情の神様が、急に深刻な顔になってこう言った。
「君たちは、死んじゃったの」
急にあの風景が甦った。あたしたちが持つ、最後の記憶。思わず叫んだ。
「あの女の子は無事?」
あたしと花耶ちゃんが、同時に同じことを尋ねると、神様が微笑んだ。
「もう、二人とも、他人のことばっかり心配して。でもやっぱり、ボクが見込んだことはある、かな。ふたりとも良い子たち。大丈夫、あの子は元気だよ」
あの日。あたしと花耶ちゃんが道路を歩いていると、狭い道に車が猛スピードで入ってきた。その時タイミング悪く、小さな女の子が道へ出てきた。あたし達もすぐ飛び出した。
「危ない!」
女の子の身体がゴロゴロ道路を転がっていき、草むらに飛び込んでいったのが見えた。でもその直後、すごい衝撃を感じた。
…気がついたら、あたし達はベッドに寝かされていて、枕元でピッピと音が鳴っていた。目は見えなくて、包帯を巻かれている感触があった。今思うとあれは、病院で脈拍とかを計る機械の音を聞いていたんだと思う。
「花耶ちゃん…」
あたしがかすかな声で言うと、左手がぎゅっと握られた。あれが花耶ちゃんの返事だったんだと思う。
そのあと、あたしの記憶は無い。
そっか、あたしたち、死んじゃったんだ…みんな悲しんでるのかな…。
「キミたちは病院に運び込まれて、隣同士のベッドで、同時に息を引き取ったの。みんな悲しんでるよ。でも言ってる。子供の命を救ったのだから偉い、って。ボクもそう思う。真耶ちゃんは神使の役目をしっかり果たしたの」
神様は女性だけど、ボクという言葉を使う。オオカミの姿をしているけど、二本の足で立っている。オオカミって怖いイメージあるけど、なんかかわいい。神様って恐れ多いイメージあるけど、友達とか家族みたいに感じる。
神様は優しく言う。自分の命を投げ売ってでも小さな命を守ったことは神使として誇っていいんだよ、と。そして、あたしが神使の努めを果たしてきたご褒美として、これからはこの天上の世界でゆっくり過ごして欲しいという。
「神使って特別な存在なんだよ。普通、死んだ人はしばらく天上で過ごしたあと、また地上に生まれ変わるの。でも真耶ちゃんはボクの魂をちょっとちぎってお花の中に入れて産まれてきたの。だからここは真耶ちゃんのふるさと。これからボクと一緒に暮らすんだよ」
天上の世界はすごい綺麗で、花が咲き乱れている。こんなところで毎日暮らせるのは素晴らしいことだと思う。地上のみんなとお別れするのは辛いけど…。
…あれ?
「花耶ちゃんも、一緒、だよね?」
すると、また神様の顔が曇った。
「花耶ちゃんは神使じゃないから…」
「花耶ちゃんは…実は花耶ちゃんは、人間の子なの。だからここには住めないの」
花耶ちゃんは、あたしと違って、地上に産まれる予定だった魂の中から、一番丈夫で一番賢い子を選んで、妹にしたんだって。だから花耶ちゃんは、あたしと違って人間の子。
それで、天上界は死んだ人が暮らすエリアと神様や神使が住むエリアに分かれているんだって。だから人間の子供である花耶ちゃんはここには住めないの。
ショックだよ。あたし、花耶ちゃんとずーっと一緒で、世界一仲の良い姉妹だと思ってきたのに。そんな、身分の違いがあったなんて…。どうにか、ならないのかな、あたしと一緒に花耶ちゃんが暮らせる方法…。
「…あの、あたし、神使の位無くても、いい…」
「だめだよ」
神様が、うつむきながら言った。神使は人間になれないし、人間と同じ立場に降りることも出来ない。しかも神様は人間のエリアと行き来ができるけど、あたしたち神使は人間のいるエリアには行くことができない。
だから、あたしと花耶ちゃんは、もう、会えない。
「そ、そんな…」
あたしの目に涙があふれてきた。イヤだよ、そんなの。花耶ちゃんともうお別れだなんて…。思わず泣き声が出そうになったその時、
「うわあーーーん」
花耶ちゃんが一足早く、大声で泣き始めた。
「やだよー、そんなのやだよー。そんなだったら、死んだら魂も消えちゃうほうがよかったよー。あの世なんか無くなっちゃえばいいんだよー」
「そんなこと言っちゃダメだよ、あたし、花耶ちゃんがいなくなるのはもっと悲しい。だから、ね…」
あたしはそう言ってなだめるけど、花耶ちゃんは泣き止まない。それにあたしだって大声で泣きたかった。ここは花が咲き乱れる楽園。もちろん人間のエリアも美しいらしい。でもあたしたち、そんなのいらない。花耶ちゃんと一緒に暮らせるなら、地獄だっていい。
「あのね、地上は色々大変だよ。戦争とか、犯罪とか…」
神様がなだめてくれるけど、納得できない。いくら苦しくても、地上のほうがいい。だって、地上なら花耶ちゃんと一緒にいられる。あたし、そのほうが…。
「ボクだって、なんとかしたいよ。でもダメなの。決まりだから…そろそろ、行かないと…花耶ちゃんの力が吸い取られちゃう…」
神様も、花耶ちゃんが憎いわけじゃない。それは分かっている。でも人間がここにいると、パワーを吸い取られて、眠ったままになっちゃうんだって。そしてその通り、花耶ちゃんの身体がぐったりし始めて、冷えてきた。
「いいもん…花耶、お姉ちゃんと一緒にいられるなら、ずーっと寝たままでいいもん…」
花耶ちゃんの声が少しずつ小さくなっていく。でもあたし、そんなのイヤ。それだったら離ればなれでもいいから花耶ちゃんに元気にいてほしい。でも花耶ちゃんはどんどん弱っていく…花耶ちゃんは、人間…そして、あたしは神使…。
「ねえ神様、あたしの魂を花耶ちゃんにあげるとか、できないの?」
あたしはひらめいてそう言った。神様は一瞬はっとしたけど、首を振った。
「できるけど、ダメよ。そしたら今度は真耶ちゃんが寝たままになっちゃう」
そう言ったとたん、神様は口をふさいだ。しまった、とばかりに。
そうか、やっぱ出来るんだ! だったら迷わない! あたしの魂を花耶ちゃんにあげてほしい! あたしは神様に食って掛かった。
「いいもん! 花耶ちゃんが元気になってここにいられるならそのほうがいいもん!」
「だ、ダメだよ…花耶が寝たままになるって言ってるじゃん…」
か細い声で横から割って入ったのは花耶ちゃんだ。もちろんあたしだって引きたくないから、気がつくと押し問答になっていた。でもその間にも、花耶ちゃんの力は弱って行った。
「お願い神様! あたしの力を花耶ちゃんに!」
「ダメ! 花耶はいいから、お姉ちゃん生きて!」
オロオロする神様。そこに…。
「いいじゃない」
後ろから声がした。同時に、なんだかあたりがキラキラした感じになった。神様がはっとして振り返ると、ひざまずいた。
「姫様!」
そこには、綺麗な女の人、いや、ここにいるのだから神様に違いないと思う。しかも真神様がひざまづいているということは、もっと偉い神様。そしてあたしは、この神様に見覚えがある。
「真耶ちゃん、花耶ちゃん、地上でのお務めご苦労様。真神ちゃんが言ったとおり、ふたりとも偉かったね。あ、私は木花咲耶。みんな姫って呼んでるから、そう呼んでくれると嬉しいな」
文字通り神々しいけど、この神様も親しみやすい感じがする。喋り方が真神様に似ているけど、この神様の喋り方が真神様に移ったんだと思う。
木花咲耶姫命。うちの天狼神社はもともとこの木花咲耶姫命を祀っていたらしい。火の神様なので火山の近くにあるうちの村に縁があったみたい。でも忙しくなったのでその頃神使だったオオカミを神様に昇格させ、うちの神社を譲った。そしてオオカミのほかにもこのあたりにいる動物たちをどんどん神使として、村の中の神社を任せていった。
いま、村の中で木花咲耶姫命を祀っているところは嬬恋家の本家の神棚だけ。それなのに木花村という村の名前が付いたのはそういうこと。村にいるすべての神様と神使は、この姫様のおかげで存在しているの。
「堅苦しいこと抜きって言ったの、真神ちゃんでしょ?」
姫様はそう言って微笑む。
「いい方法あるのよ? ちょっと私に相談してくれればよかったのに」
「姫様…見てたくせに…ずるいですよぉ」
真神様が、子どもみたいにすねる。姫様はぺろりと舌を出す。ちょっといたずら好きみたいだ。でも姫様は優しく言う。
「ごめんね。でも大丈夫、私が何とかするから。手伝ってもらっていいかな? 簡単だから」
あたしと花耶ちゃんは、姫様と神様に挟み込まれるように座らされると、そのままぎゅっと抱きしめられた。神様の身体はもこもこであったかくて、姫様の身体はぷにぷにで柔らかかった。姫様と神様はなにやら唱え始めた。あたしたちはただただ目をつぶってじっとしていた。そして姫様と神様が口をそろえて、、
「えいっ!」
あたしの全身が急にむずむずしてきた。そしてさっきまでここにいた花耶ちゃんの感触が…いや違う。
「うわ、もこもこ」
目を開けるとそこに一匹のウサギがいた。思わず手に取ろうとして驚いた。あたしの手が毛むくじゃらになってる!
なんと、あたしはオオカミに、花耶ちゃんはウサギになっちゃった!
「これで二人とも神使になったよ」
姫様が、にっこりしながら言った。あたしと花耶ちゃんは、お互い顔を見合わせて、次の瞬間抱き合った。
「やったー! やったよー!」
そして神様と姫様の方に向き直ると、あたしは神様に、花耶ちゃんは姫様にダイブした。
「神様! 姫様! ありがとう!」
こうして、オオカミの神様と、ウサギになった花耶ちゃん、そしてオオカミになったあたしの三人暮らしが始まった。時々姫様も遊びに来る。地上のみんなとは会えないから寂しいけど、天から見ることが出来る。本当は会いたいけど、それは出来ない決まりだし、天上のあたしたちと次に再会出来るとすれば、それは向こうから天にのぼって来た時。つまりあたしたちと会えないってことはみんな地上で元気にしてるってこと。会えない時間が長いほど、みんな長生きするってこと。だからそう思えば、寂しいけど平気。
夜、あたしは神様と一緒の布団で、花耶ちゃんを抱いて寝た。二人とも柔らかくて、あったかかった。
「…と、いう感じなんだけど、どうよ?」
苗ちゃんが、あたしたちの顔をじっと見ながら言う。あたしと花耶ちゃんは手にとった原稿を見ながら、顔を見合わせる。
「…どうって、言われても…」
あたしは困惑した。この、あたしと花耶ちゃんを主役にした物語は、苗ちゃんが書いてきたもの。よく出来てるって思うけど、自分たちが登場人物ってのはなんか照れちゃう。でも…。
「ちょっと! 苗ちゃんどういうこと?」
花耶ちゃんが食ってかかった。そう、引っかかるのはそこ。あたしたち、物語の中とはいえ、死んじゃうってのはちょっと…。でも花耶ちゃんが興奮しているので、あたしはなだめなきゃって思った。
「花耶ちゃん落ち着いて。あくまでもお話だからさぁ。それに、あたしはウサギさんになった花耶ちゃん、かわいいと思うけどなー」
これは素直な感想。ただでさえあたしの可愛い妹である花耶ちゃんがウサギさんになったら、もっと可愛いと思う。でも、
「そういう問題じゃないの!」
花耶ちゃんの怒りは収まらない。
「いやー、たまにはこういうのもよくね?」
と笑って流す苗ちゃんだけど、このままだと花耶ちゃんとの間にもやもやしたものが出来ちゃわないかなあ…という予感は当たっちゃったみたい。
「ていうか、なんでこんなお話書いたの? 花耶たちが気分悪くなるとか思わなかったの? 花耶のこと嫌いなの? こんなのぶじょくだよ! じんけんしんがいだよ!」
ああもう…花耶ちゃん落ち着いて、落ち着いてってば…。
「私が書いてって頼んだの」
突然背後から声がした。気が付くとあたしたちの部屋の入口に希和子さんが立っていた。
「ごめんね苗ちゃん、こんなこと頼んじゃって。でも苗ちゃんお話作るの得意でしょ? 真耶ちゃんたちが自分のことより車にひかれそうになった女の子を心配するところなんか、二人のことよく観察してるわね。さすが私が見込んだだけあるわ」
苗ちゃんはアニメやマンガが大好きで、最近は自分でもお話を考えたりしてる。それを希和子さんが知って、この物語を作ってもらったみたいなんだけど…。
「希和子さんなの? じゃあなんで希和子さん、こんなお話苗ちゃんに書かせたの? 苗ちゃん、そんなやくまわり、じゃん!」
今度は花耶ちゃんが希和子さんに食って掛かる。でも希和子さんは穏やかに答えた。
「身代わり、なの」
希和子さんが理由を説明し始めた。
嬬恋一族には、あるおまじないが伝わっている。人間は一度しか死なない。そして死期はいつ来るか分からない。そこで。物語の中に自分を登場させ、その自分に代わりに死んでもらう。そうすれば本物の自分は長生きできるというわけ。
「前もって説明できればよかったんだけど、本人には種あかしをしない習わしなの。ちょっとドッキリさせる意味もあるのかもだけど。気を悪くしたらごめんね? でもこれでおまじないは完了。ふたりとも、元気にながいきできるよわよ」
そういう希和子さんの説明であたしも花耶ちゃんも納得した。そして苗ちゃんに改めてお礼をして、謝った。
「ところで、希和子さんにも、死んじゃうお話って、あるの?」
あたしは尋ねた。うちの一族の習わしってことは、たぶん希和子さん、いや希和子さんの身代わりが死んじゃうお話があるのだろう。
「うん。読む?」
希和子は、憂鬱だった。
会社を経営し、ルックス抜群の夫を持つことができた。可愛らしく素直で利口な子宝にも恵まれた。家は東京郊外の庭付き一戸建て。ドイツ製の外車で出勤する夫と私立学校に通う子どもを駅まで送ったあとは、近所の主婦仲間とテニスやカルチャースクールに没頭する。学校が休みになると家族で海外に出かけるのが習わしだが、今年から信州の高原に別荘を買ったので、夏はそこで過ごすつもりだ。
何もかも恵まれていた。満たされていた、はずだった。でも希和子の胸には、物足りない思いがずっと引っかかっていた。
ある日、家に一人の男が訪れた。
「…お薬、いかがですか?」
セールスマンだった。高価な薬や健康食品を売り歩く男。いつもならやんわり追い返す希和子だが、この日は違った。その男の澄んだ瞳に、視線が釘付けとなってしまったのだ。
「…ええ、お話伺いましょう。でもそのかわり、こちらへおあがりください」
いつの間にか、男は希和子のもとへ日参するようになった。平日の昼間なら家族の誰にも気づかれない。二人の仲はどんどん深くなっていく。最初は営業の合間にやってきていた男は、いつの間にか会社をやめていた。希和子は惜しげも無くプレゼントを提供した。いつしか近所付き合いは希薄になり、夫や子どもたちとのコミュニケーションも面倒になっていった。
梅雨も開けた夏の日の午後。
「なぁ、もうすぐ夏休みだ。子どもたちずっと家にいるんじゃないのか?」
「大丈夫よ、主人と子どもは先に別荘に行かせるわ。そして私たちはこの家に残るの。別荘に来いと言われたら行けばいい。そのときもあなたにはコテージを用意するわ。大丈夫よ、会うための口実なんて、いくらでも作れるわ。…ちょっと、何心配そうに、顔、怖いわよ? 一体どうし…」
「…なるほど、そういうことか…」
希和子の後ろから声がした。
希和子と男は、家から逃げ出した。最近希和子の様子が変であることに気づいた夫はひそかに興信所を使って調査し、希和子の浮気の証拠をつかんだ。そしてその現場を押さえたのだった。男とスッパリ別れれば許してやる、夫はそういうつもりだったが希和子にそのつもりは無かった。つまらない日常を変えてくれたのはこの人。ならばいっそこの人と…。
駅前でレンタカーを借り、遠く離れた山奥へとやってきた。
「もう、終わりだわ…」
希和子はつぶやいた。長年かけて築き上げた幸せな家庭。でも、もういい。あれは砂上の楼閣。今の私はこの人と添い遂げたい。
「…覚悟は、できてる?」
「ああ」
かつて男が売り歩いていた薬。それは健康のためとは名ばかりの劇物。大量に摂取すれば命にかかわる。そしてそれは希和子たちにとって好都合だった。
「あの世で」
「あの世で」
「幸せになろう」
翌日の地元紙には、男女二人無理心中との見出しが躍った。
「うわ、なにこれ、シュミわる」
花耶ちゃんが珍しく何かをけなす言い方をした。
「しかも脚本としてはすごく雑じゃん。一昔前のサスペンスドラマの劣化コピーって感じ?」
苗ちゃんも厳しい批評をした。うん、あたしもこれはちょっと…って感じがする。なんか話がギスギスしてて…。
「いや、いいのよこれで。物語の中の自分が不幸であればあるほど、現実の自分には都合いいの」
ああそうか、身代わりなんだから、本当の自分のぶんまで不幸になってくれたほうがいいのか。じゃああたしたちのお話ももっと不幸になったほうが良かったのかな?
「真耶ちゃんは神使だから、自分で幸福を引き寄せられるの。だから物語で不幸を演じさせなくてもいいわけ。あとこのお話は兄貴…真耶ちゃんたちのお父さんが調子乗ってサービスしすぎたの。この手のドラマ好きなのよねー兄貴は」
へー。じゃあどっちもアリなんだ。
「ところで、さ」
花耶ちゃんが、何かに気づいたらしい。
「この物語の中の希和子さんって、奥さんになったんだよね?」
ああ、そうだね。でもそれがどうした、って、あ…。
「もしかして、物語の中の希和子さんが本人の代わりに結婚しちゃったから…」
あたしと花耶ちゃん、苗ちゃんは顔を見合わせ、そしてゆっくり希和子さんの方を向いた。
「って、気にしてたことをーっ!」
希和子さんがわーっと駈け出した。どうやら図星だったらしい。
「…げきりん、触れちゃったね…」
花耶ちゃんがぼそっと言った。
とりあえず、希和子さんの大好きなかぼちゃのケーキ持って謝りに行こう…ね…。
宗教上の理由・永久の旅へ
というわけで、エイプリルフールでありましたー。いやあ、まだあづみのほうの話が進まなくてですね、四月一日になったらやろうと思っていたネタ投下のほうが先になっちゃいました…。ちなみに作中で示した木花村という村名の由来は、前々から準備していた設定です。実際のところ木花咲耶姫命がオオカミ=真神を従えているという教えは実在しないのですが、これはフィクションってことでひとつ。
宗教上の理由本編のほうも、頑張って書いて行きたいと思います。というか物語の中の時間が冬のまま止まっているんですよね…何とか頑張らないと。