ARMORED CORE4 Another HERO's episode

オールドピースシティに向かうトレーラーの運転席。耳にさしたヘッドセットからは、荷台に繋がれた朱いネクストACに乗る彼の激しい咳き込みが聞こえていた。

「……大丈夫?」
「ああ。問題…ない」
私の問いかけに、彼は短く答える。
問いかけた私も悪かった。彼は絶対に弱音を吐く事はないのだから。
それに、聞くまでもなく彼の容体は悪化していた。
無理もない。ネクストACによる深刻なコジマ汚染と劣悪なAMS適性からくる多大な精神負荷。この二つが二年もの間彼の身体を蝕み続けているだ。本来なら立っているだけでも激しい苦痛を受け、ショックで死んでもおかしくないはずなのに。
「一度でいいから、ちゃんと治療しましょう。本隊の皆もきっと……」
「駄目だ!」
頑なな否定。彼の怒鳴り声に耳がキーンと鳴った。
「声、大きいよ」
「……すまない」
思わずとは言え怒鳴ったこと彼は反省の色を見せる。
「やっぱり、味方への汚染を気にしてるの?」
「…………」
今度は彼は何も言わなかった。
彼が口ごもるのは、あまり言いたくない真実だけ。
「……バカ」
「何だ、急に」
ハッキリ言え、お前らしくもない。
彼の言葉の後には、そう続いている気がした。
「私たちは……、少なくとも私は、あなたと運命を共にする覚悟がある。一人で傷を背負う必要は無いのよ。じゃないと……」
「その先を言ったら怒るぞ」
何度も自分に言ってきた言葉。それが最後になったいつかのように、彼はまた私を叱る。そして沈黙が訪れる。
それを破ったのは、さっきよりも苦しそうな彼の咳き込みだった。
「……ねぇ。もうやめてもいいんじゃない?」
病に蝕まれる彼をこれ以上見たくなくて。何度も口をついて出た言葉が、また私の口から漏れ出した。
「何度も言うが、俺は……」
「もうあなたは十分に戦った。それも、英雄と呼ばれる程に」
「……」
「なんの為に? 命を削ってまで英雄でい続ける理由って、何?」
もう泣きそうだった。目の前の砂にうもれかかった道が歪んでいる。
そんな私の訴えを、彼は静かに聞いてくれていた。
「いつまで、頑張るのよ……」
いつ倒れてもおかしくない状態だというのに、彼は仲間の為に戦い続けてきた。そしてこれからも独りで戦い続けるのだろう。自分の命を削って。
そんな彼が、私にはとても愛おしかった。
「英雄と呼ばれる限り、俺には英雄でい続ける義務と責任がある」
「英雄だから?」
「そうだ」
彼の言葉に迷いは無かった。
「……損な役ね」
「違いない」
そう言って彼はまた笑ってくれた。
「大丈夫?」
「あいつのことか?」
「……ええ」
トレーラーのハンドルを握る手に力がこもった。気持ち、窓から流れる景色が早くなる。
「本当に、戦わないといけないの?」
彼の言うあの男。アナトリアの傭兵の噂は私たちの元にも届いていた。
国家解体戦争当時、国家側についたある優秀なレイヴン。詳しくは知らないが、彼はあの男に対して浅からぬ因縁があるらしい。
「彼と戦う必要性は無いのよ?」
「こちらに無くても向こうにはあるだろう。俺は企業にとって厄介者だからな」
彼の言わんとする所は私にも分かった。
アナトリアの傭兵の戦歴を見れば分かる。約一ヶ月の活動で完了した作戦は八。その全てを成功させ、致命的損傷も無し。
全ての企業がアナトリアの傭兵に関心を寄せていた。つまり、企業があの傭兵に私たちの駆逐を要請してもおかしくないということだ。
「彼、強いらしいよ」
「知っているさ」
事もなげに彼は言った。
私には何も言い返せない。言い返す資格も、無い。
「あいつを倒すまでは、俺は何があっても死ねない」
彼の言葉は、時に私の心を深く抉った。
先程だってそうだ。
倒すまで死ねない。なら、倒してしまったら?
私には彼の身体が何故保っているのか分からない。
考えるだけで怖かった。彼の口から告げられるのも。
「………………そう、ね」
結局私は、彼の言葉の真意をついに聞く事は出来なかった。
「日が沈む……。今日はこの辺りで休みましょう?」
「いや、まだだ。バルバロイのロックを外せ。……来るぞ」
次の瞬間、搭載されたセンサーが反応を示した。

オールドピースシティ中央。そこに、一機の蒼いネクストACが佇む。
搭乗者は、アナトリアのリンクス。
「目標を確認」
凛とした女性の声が淡々と告げる。
「輸送部隊による陸送中です。焦らず目標を引きつけ、奇襲して下さい」
「了解」
イクバール社ベースの中軽量ACが、夕陽に染まる茜色の大地を蹴った。

「アナトリアのリンクス⁉」
「これも運命ということか。……目標を変更。バルバロイ、起動する!」
彼がそう宣言すると同時に彼の愛機バルバロイがフワリと飛び立つ。
その瞬間、前方から放たれた一筋の蒼白い光線がバルバロイの爪先を掠め、警告が鳴り響いた。
「奇襲か。無駄な策だったな」
彼が嗤う。
「なんて、躊躇のない攻撃なの……」
「あいつはそういう奴だ。お前はこのまま戦線を離脱しろ!」
私は素直に従った。私がいた所で足手まといにしかならない。
「……何で⁉」
しかしギアをフルスロットルに叩き込む私の視界の端には、いつもなら足が止まると嫌う障害物の多い旧市街の方に迷わず突っ込む彼の姿があった。
それが私を逃がすためのものだと瞬時に悟り、いても立ってもいられなくなる。
「アマジーグっ! 余計な事を考える暇があったら自分が生き残る事を考えなさい‼」
私は思わず怒鳴っていた。それに暴露(ばれ)たかという彼の小さな笑いが重なる。
「バルバロイ、既に起動しています。注意して下さい」
「確認。作戦行動に支障はない。戦闘を続行する」
オープンにされた回線から私たち以外の声が流れ出す。
アナトリアのリンクスとそのオペレーター、フィオナ・イェルネフェルトの声だ。
ネクスト技術の先駆者、イェルネフェルト博士の娘。
「理にかなった動きだ。侮れんな、レイヴン」
アナトリアのリンクスの動きを確かめるように彼が言う。
その時私にはなぜか、バルバロイのメインカメラを通して映る蒼いネクストACが余所見をした気がした。
「左だ!」
彼の声で反射的にハンドルを切る。するとまさにいまいた所に高速の弾丸が穴を穿ち、続いて激しいショート音が轟いた。その勢いでトレーラーが横転し、私は外に投げ出される。
「貴様ァ!」
ヘッドセットが私の頭から外れる直前。彼の怒り心頭に発した叫びが聞こえた。
打ち付けて軋む身体をなんとか立たせ、旧市街の方を見る。
「消えろ消えろ消えろ!」
完全に彼は理性を無くしていた。砂漠の狼の名に相応しく、獰猛にアナトリアのリンクスを追い詰めて行く。
彼は怒りによって限界以上の力を引き出していた。しかしそれは、命を削るスピードが早くなっただけのこと。
「オーバーペースすぎるわ! 感情的になっては……っ⁉ 繋がらない……!」
私の声は、既に彼には届いていなかった。
そして、私の背中を寒気が襲った。
限界を超えた恐るべき挙動でバルバロイが砂漠を疾走する。だが、最も恐ろしいのは狂人(バーサーク)化した彼を紙一重でいなすアナトリアの傭兵のほう。
決して単調ではない彼の猛攻を巧みに躱し、着実に左手のレールガンを直撃させていく様はまるで。
「見えているの……? 彼の、動きが……?」
後ろに目があると錯覚しそうなほどだ。
連続多段QB(クイックブースト)でバルバロイが背後を取ったとしても、フラフラとした挙動でロックを外してしまう。
「残弾数低下。レールガン、パージ」
十五発と少ない弾体を撃ち尽くしたのか、長細い鉄塊をアナトリアのリンクスがバルバロイに向かって放り投げた。
「足掻くな」
それを悪足掻きと判断した彼は大きな影を隠れ蓑にして肉薄する。
投擲されたレールガンを挟んで対面する二人の間に、アナトリアのリンクスは右手のガトリングを構えた。
まさかと、私は思った。
「避けてッ!」
私の叫び声と同時にガトリングの銃口が断続的なマズルフラッシュを光らせる。そしてアナトリアのリンクスがパージしたレールガンが、彼を巻き込みながらスパークを伴った爆発を起こした。
どうやらレールガンの発射エネルギーをプラズマグレネード代りに使ったらしい。
「アマジーグ⁉ 応答して!」
回線が戻ることを信じ、私は彼を呼び続けた。
巻き上がる黒煙の中、そこに、朱い装甲が太陽の光を反射するのが見えた。しかしそれを確認したのは私だけではなかった。
格納されていた小型ブレードを左腕に装着した蒼いACが蒼白い金属粒子の刀身を振りかざして黒煙に突っ込んで行く。
一瞬、バシッというコジマ粒子の干渉した音が鳴った。
直後に数回の破裂音と共に火花を散らしたバルバロイが飛び出、続いてアナトリアのネクストがブレードを振り切った形で黒煙を裂く。
「強すぎる……」
ノイズ混じりの彼の呟きと、APが10%を切った事を知らせる警報(アラート)だけがハッキリと聞こえた。
「逃げて! 死んだら意味無いでしょう⁉」
いくら言った所で私の声は彼には届かない。だとしても、叫ばずにはいられなかった。
絶望的な状況だ。それでも彼は、戦う事をやめない。相対するあの男と、そして自分自身と、戦う事をやめなかった。
もしかしたら、諦め方を知らなかったのかも知れない。
「その力で……貴様は何を守る……?」
突然の問い。無意味にすら思えるそれを、彼はアナトリアのリンクスに投げかける。
「彼女を。フィオナの意思を」
「そうか……」
即答したアナトリアのリンクスに、彼は何故か安堵のようなため息をついた。まるで、それが全ての答えであるかのように、全てを理解した様だった。
その瞬間、バルバロイの動きが変わった。
まるで迷いが無くなったかのように、限界を超えることに躊躇が無くなる。
「…………!」
彼は死ぬ気だ。直感的に私にはそれが分かった。
一陣の風が荒野を吹き抜ける。
いつの間にか、私は前へと歩み出していた。
ただ今は、彼の側にいたかった。
「…………て…」
蒼前の夕暮れに朱と蒼の対比が螺旋を描いて行く。
撒き散らした真鍮の薬莢がその湾曲したラインに光を乱反射させた。
離れ、近づき、引き剥がし。飛び交う弾丸が黒煙を裂き、互いの装甲を穿つ。
「……やめて…」
バルバロイが左手のショットガンを残し、全武装をパージする。
アナトリアのネクストACも、 左腕のブレードのみを残す。
「終わらせる……!」
彼が叫んだ。
彼が空中でブーストを切り、ショットガンが下に突き出される。
対するアナトリアの傭兵は飛び上がり、左腕のブレードから金属粒子の刃を作り出す。
「やめて……っ。もうやめてーーーーっ!!!!」
コジマ粒子の干渉したノイズ。ショットガンの乾いた発砲音。レーザーブレードの耳障りな共鳴。それが、私の叫びに重なった。
時が止まった様な錯覚。離れて行く二つの影がゆっくりと地面に吸い寄せられて行く。
派手な音を立てて、二つの右腕が落ちた。
そして、彼の朱いACが、背中を大地に叩きつけた。
「終わりか……。あるいは、貴様も……」
彼の声はもうほとんど聞き取れない。私の声も、彼に届きはしない。
酷く損傷したバルバロイの隣に、右腕を失った蒼いACがただゆっくりと降り立つ。
そして。
左腕のレーザーブレードが蒼白い刀身を再度形成する。バルバロイの胸部コア、そのコックピットに向けて。
「先に逝け。戦友」
「……結局、俺は貴様を越えられなかったわけか」
ただ呆然と立ち尽くす私には、繋がらないヘッドセットのノイズだけがいつまでも鳴り響いていた。

ARMORED CORE4 Another HERO's episode

原作では不可能な動作が含まれますが、その辺は二次創作としてご了承下さい(^^;;

ARMORED CORE4 Another HERO's episode

これは、英雄であり続けた男の最期の活動記録。 フロムソフトウェアの名作「アーマード・コア」シリーズ、AC4より。 マグリブ解放戦線の英雄、砂漠の狼こと“アマジーグ”の最期を、彼のオペレーター視点で描いたもう一つの英雄譚。 人は、何の為に戦うのか……。

  • 小説
  • 短編
  • アクション
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-04-01

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work