snow white
Snow white
あの時も、今日みたいな牡丹雪の降り始める日だった。
「はぁぁあ…………」
吐き出す息は白く凍る。冬なのだからそんなことは当たり前だ。
高校の始業式を終えた俺、宮坂慎一(みやさかしんいち)は、少し慣れはじめた懐かしい通学路を歩いていた。
この街に戻ってきてからもう半年になった。とある理由により高校三年という時期に転校することに不安はあったのだが、前にこのあたりに住んでいたおかげもあって、いざ学校に顔を出して名前を言ってみれば、小学生の頃の俺……というか俺の右頬にある絆創膏のような形のアザという特徴を覚えていてくれた奴が沢山いたおかげでボッチになると言う問題は回避出来た。
赤ん坊のころに付いた一生傷がこんなところで役に立つとは思いもしなかったが。
「……。さぶっ」
閑散とした道を歩く俺を冷たい冬の風が撫でていく。
少し暗くなり始めた冬空のそれは痛みを伴うほどで正直ツライ。
自販機でココアでも買っていこう。
「えと……、なんだ、売り切れかよ」
チッと舌打ち。なんてことはないココアだが、この辺ではこの自販機にしか置いていないのだ。それぐらいはしたっていいだろう。
俺は仕方なく代わりにミルクティーのボタンを押した。
ガコン――――。
どこにでも売っている普通のミルクティーだ。カシュッとプルタブを上げれば甘ったるく濃厚な香りが暖かい。
「でも、あのココアには勝てねぇなぁ」
実は少しハマッていたのだ。
まだ出会ってから日は浅いが、ここから家まで5分のお供はやはりアレがいい。
そんなことを考えながら歩いていると、道端に女性が座り込んでいることに何故か俺は気が付いた。
いや、何故かじゃない。俺が気づいたのは、デジャヴュだったからだ。
確かあれはまだ、俺が小学生だった頃か。
あの時も、今日みたいな牡丹雪の降り始める日だった。
その日暗くなるまで小学校で遊んだ俺は、一人で通学路を帰っていた。すると、自分の家の前に同い年ぐらいの女の子がうずくまっていたのだ。
『どうしたの?』
『まよっちゃった』
てへへ、とその子は手に持った真新しい玩具のカメラ(といってもちゃんと撮れる)を掲げて見せた。話を聞くと、そのカメラをプレゼントに貰って夢中に撮っているうちに迷子になったらしかった。
『じゃあ上がっていきなよ。うち、ここだから。お巡りさん、よんでもらお?』
『え、でも……』
『風邪ひくよ?』
ニッと笑って俺が手を握ると、思った以上に冷えきっていたその子は少し恥ずかしそうだったが家に上がってくれたのだ。
あの時はまだ子供だったとはいえ、よくあんな大胆な真似ができたものだ。今でも覚えているくらいだから、もしかしたら好きだったのかもしれない。
確かその後は母さんが警察に連絡して、二人で家でココアを飲んで、向こうの親が慌てて来たんだっけか。帰り際に彼女が持ってたカメラで記念にツーショット写真も撮ったっけ。
そういや……名前。なんていっただろうか?
「あの…………」
俺が昔の思い出に浸っていると、不意に間近で声がした。
「あの!」
「ん、あ。え、俺?」
声の主に焦点を合わせるとその人は「うん」と頷く。
さっき見つけた女性が俺に話し掛けてきていた。少し年上かと思っていたのだが。こうして話してみると、どうにも同い年ぐらいらしい。
「私に何か着いてます?」
「はい?」
俺はその質問に首を傾げた。
「いや……。別に、何も?」
「じゃあ、なんでジロジロと人を見るんですか」
その人は少しムッとしてそう言うと、少し服の裾を引っ張った。
どうやら俺は思い出の回想中、彼女を無遠慮に見詰めてしまっていたらしい。
「あっ、そのっ、ゴメ……」
パシャッ――――
(パシャッ?)
慌てる俺を襲ったのは、彼女の罵声でも文句でもなく、聞いたことのある機械音とフラッシュだった。
「うん。イイ顔いただきですっ♪」
「え……?」
驚きながらも彼女の掲げた手元をみると、そこには黒く光るカメラが収まっていた。しかもデジタルカメラなどではなく、素人でもそれと分かる本格的なゴツいヤツ。
「…………なにそれ」
「何って、私の相棒ですけど」
その相棒のレンズを俺に向けて彼女はニッと笑う。
「……詐欺か? これは新手の詐欺なのか?」
「まあまあ。落ち着いて下さいよ。3―Aの、宮坂センパイ?」
「いや、落ち着けるわけねぇだろ。いきなり写真とか取られ……って何で俺の名前を?」
彼女の言葉に若干俺は身を引いた。
知り合いにこんな美人はいなかったはずだが。
「わああ! 警察とかは勘弁ですよ!? 私は東雲 遥(しののめ はるか)っ。2―Cの東雲ですっ! あと宮坂センパイは転校生なんだから、名前くらい知ってますって!」
慌てて生徒手帳を開示してくる遥。確かにそのようだ。というか後輩なのか。プロポーションがいいし胸もデカイから年上か同い年かと思ったが。
俺は警戒を解いて110でスタンバイしていたケータイから指を離す。
…………ん? 東雲?
何となくその名前が気になった俺は、がさごそと鞄を漁ってHRで渡された学校新聞を取り出した。
「あ、まさか……」
思った通りだった。今年度の表彰者の欄に、その名前はあった。
「全国高校生写真コンテスト金賞の…………」
「うう……。あんまり言わないで下さい」
立ち上がったと思ったらずるずると萎むようにしゃがむ遥。
「ど、どうした?」
「ううん。なんでもない……。なんでもない……です……」
そんなことは無いと思うのだが。
本人がそういうのだからそっとしておくのが一番だろう。
そう思った俺は、少ない語彙を繋いで話題をかえることにした。
「えっと。んで、東雲さ……」
「名前」
「は?」
「ちゃんと名前で呼んで下さい」
名字で呼ばれるのが嫌なのか、名前に愛着があるのか。そういってしゃがんだまま俺を見上げてくる遥。
「じゃあ遥さ……」
「さん付けもナシで!」
んなっ!?
なんとわがままな……っ。
異性で、しかも初対面のはずなのに、何故ここまで親しく出来るのだろう。
幼稚なのか純粋なのか……。色んな意味で不思議でしょうがない。
「分かった分かった。じゃあ、遥」
「ハイ♪」
平静を装ってみるものの実は結構抵抗がある。
こんな所で得意のポーカーフェイスを披露するとは思わなかった。
ゲフンと咳ばらいをして俺は質問に戻る。
「一体、こんな所で何してたんだ?」
その瞬間、遥の瞳が曇った。
「………………あ、あはは」
「なんだ?」
「やっぱり……気になりますよねー……」
ふぅ……とどこか物憂いなため息を吐く遥。
赤いマフラーの間から立ち上る白く凍った吐息と、その明後日を見るような潤んだ瞳に少し胸の奥がキューッとする。
あれ、なんだこれ。なんかこれじゃあまるで…………
「聞きたい……ですか?」
「ぅえ?」
突然の問い掛けに俺は素っ頓狂な声を上げる。そしてよく考えもしないままに首を縦に振っていた。
「…………わかり、ました。センパイなら……」
よっぽど言いにくいことだったのだろう。そこで遥は一つ息を大きく吸い込んだ。
「私……家出、したんです」
「え……? えっ。ちょっ!?」
「でも、行く当てが無くて……」
俺は言葉を継げないでいた。
家出なんて。いったいコイツに何があったと言うんだ。
「それで……もし。もしよかったらなんですけど」
俺が驚愕のあまり絶句しているのにも気づかずに遥は言葉を繋いでいく。
「これも……何かの縁だと思って」
「………………………!?」
「泊めて、くれませんか」
声を振り絞ってそこまで言い切り、俺の手を取って顔を上げた遥の目は不安でこの曇天のように濁っていた。
俺は、固まったまま何も答えられなかった。
「……あは。やっぱ、ダメですよね。ごめんなさ――――」
パッと遥が放そうとした手を、俺は考えるよりも先に握り返してしまっていた。
「…………先、輩?」
「風邪、引くぞ。……せめて冷えぐらいは癒せ」
俺は遥の手を引いて歩きだしていた。
その思った以上に冷え切った細い手を見過ごすなんて、俺には出来るはずもなかったのだ。
風呂とトイレを除けば一部屋しかない我が家の端で、俺は寝間着の上から服を着込み、予備の毛布に包まって凍えていた。いつも使っている煎餅布団は遥に貸したのだ。しかもここにはエアコンなんて物は無く、ストーブもあまり性能が良くなかった。
「あの……先輩」
「なんだ?」
「やっぱり私、そっちで……」
「駄目だって言ったろ。マジで放り出すぞ?」
大人しく寝てくれたのはいいのだが、10分毎ぐらいにこんなやり取りがある。
嫌でも布団を使わなきゃ追い出すと脅したのだが、やはりこちらが無理をしているのを遥も見過ごせないらしい。
「あの……」
「だぁーかぁーらぁー!」
「い、いえ。少し……寒くないかなって」
毛布に顔を半分隠してこちらを伺う遥。
何故か俺の心臓がトクンと脈打った気がした。
「あ……すまん。バスタオルでなんとか……」
「そ、そうじゃなくてですね!」
「ん?」
「一緒に……入ればいいんじゃないかなって……思って…………」
プツンと、なにかがキレる音が頭に響いた。
「……いい加減にしろよ」
正直、ずっと我慢していたんだ。
さっきから少し漂っている女の子特有の甘い匂いと、まるで恋人のような空気。
「せっかく人が我慢してるっていうのに……!」
遥の作ってくれた暖かい晩飯がめちゃくちゃ美味かった。風呂上がりの石鹸の匂いにすっげぇドキドキもした。
「ふざけんなよ!」
思わず俺は声を荒げていた。
「私、ふざけてなんかないですよ」
「どこが。好きでもない奴に色目つかってることのどこがおふざけじゃないんだよ!?」
自分が遥に言葉を投げつける度に、心に楔が打ち込まれていくみたいだった。
ああ。そうだ。これはきっと、俺が、遥を……
「……それが泊めてやってる代償だとか謝礼だとか考えているなら今すぐ出てけ」
「先輩……」
「俺を、本気にさせないでくれ……。頼むから…………」
じゃないと、俺は…………!
「いいですよ。本気になっても」
その時遥の口から紡がれたのは、予想だにしない言葉。
するりと布団からはい出た遥がうずくまった俺の前で屈む。
「先輩は、一目惚れと運命って信じますか?」
「……何の話だ」
顔を上げだ俺を受け止めたのは、遥の優しい笑顔と冷えた頬に感じる暖かい手の体温だった。
「やっぱり、わからないんですね……。『風邪を引く』だなんて、あの時と同じ口説きかたをしたくせに」
「あの時と……同じって…………!?」
クスリと微笑んだ遥の顔が近づく。
「ずっと、見てたんですよ……?」
「ンぐっ…………!!」
一言の抗議も許さないとばかりに、俺の口は遥の唇で塞がれていた。
「ん……んンっ……。ちゅっ……ちゅ………ん、ふぁ……宮坂…先…ふぁい……」
「!!!!!!!!!?」
ぬるりとしたものが口腔で踊る。
人生で初のキス。しかもディープキスだった。
「……ちゅ……くち、ちゅっ……んん……ぷぁ…………はぁ、はぁ、はぁ」
それからどれくらい経ったのだろう。ようやく離れた唇の間では、二人の唾液の糸がアーチを描がいてぷつりと切れる。
遥の瞳は潤み、少し不安げな色を残しつつも触れ合う悦びに蕩けていた。
「っはぁ……っ。なっ、なっ、なっ!?」
「私を……見て…………ください。私で…………感じて……っ」
ちゅぷ――――――
再び訪れた、熱く湿った柔らかな感覚。
「ちゅっ、ちゅっ……ちゅ、………ん…くちゅ…………」
最初は啄むように。でもすぐに舌が滑り込んでくる。
すでにいろいろと限界を超えていた。甘く染みるような快感が崩れかけた理性にトドメをさす。
「んぅっ!? んあっ……ちゅぷ、あ…ん、くちゅ……ぴちゃ……ちゅ……ふぁんっ……!?」
突然遥がくぐもった嬌声を上げて身を竦める。
俺は遥の身体を抱きしめ、頭を抑え、その口に無理矢理舌をねじ込んでいた。
攻撃は最大の防御とはよく言ったものだ。
歯茎や頬の内側を舌先でなぞってやると遥は無防備な状態で動かなくなる。その上で俺の口腔に突き出されたままの舌を絡めてやれば、ビクビクと身体を震わせて終いには膝をカクンと折ってしまった。
「っはぁ、はあ……。……ゴメン。加減……出来なかった」
「……おわ…り…?」
腰が抜けたようにペタンと座った遥は俺の言葉など聞いちゃいないようだった。自分の始めた行為と俺の行動の意味を噛み締めるように己の唇を指でなぞる。
「先輩……」
「うっ…………」
「今の……は?」
「あ゛ぁ~~~っ!」
なんてことをしてしまったんだ。
思わず頭を抱えてのたうちまわる俺。
遥が始めたこととは言えやり過ぎたかもしれない。いや、絶対にこれはやり過ぎだ。
「……ゴメン」
「謝るくらいなら、もっと……ほしいです」
「え?」
言葉の意味を計りかねた俺は遥に聞き返した。
やり過ぎたと思って謝ったのに、いまのじゃまるでまだ足りないとでも言うような……
「そのとおり、ですよ?」
えへ、と遥ははにかむ。
「だから、もっとセンパイがほしいです。…………大好き、です」
その瞬間、俺がなんとか保っていた理性がパリンと割れて崩れ落ちた。
「……もう駄目。ムリだよ」
「きゃん!?」
少しポーッとしていた遥を俺は小突いて押し倒す。
急な展開に遥はついてこれてない。
「せんぱぁあっ!?」
いきなり首筋に吸い付いた俺に遥は目を剥いた。
「ちゅっ…………。遥が、いけないんだからな」
そういって俺は遥の首筋から鎖骨にかけて舌を這わせた。
遥の味がする。汗のしょっぱさと、女の子の甘さ。
もう戻れそうになかった。
唇を離す前に俺は遥の胸元にきつく吸い付いた。ちゅぱっと音を立てて彼女の柔肌が波打つ。
「んぅ!」
「何したか、分かる?」
「わかんない……です」
「じゃあ分かるまで続ける」
「そんっ……なぁんっ! ひゃあっ、あっ、ぅく……んぁっ」
プルプルと小刻みに震え出した遥の身体を上から押さえ付け、その細くて綺麗な首筋にいくつもの徽を執拗なまでにつけていく。
俺の背中を掴んでいた遥の手がポンポンと力無くタッブしたことがかろうじて分かった。
「はふぅ……ふぁ、はぁ…………っ。……キスマーク、ですか?」
「よく出来ました」
俺はそう言って優しめのキスを遥の上気して赤くなった頬に送った。
「ゃ、ん……。くすぐったいですよぉ」
恥ずかしそうに俺の下で身をよじる遥。だが嫌がっている感じではなかった。それが証拠に背中に回された手はその温かさを増して放してくれそうにない。
「ねぇ、先輩」
「ん?」
「先輩って、けっこう独占欲が強かったりします?」
ホールドした俺を正面に見据えて、遥はそんなことを言う。
どうだろう。あんまりそういう自覚はないのだが……。
「どうしてそう思う」
「だって、キスマークなんて『俺のものーっ』って言ってるようなものじゃないですかぁ」
遥は少しSっ気のある笑みを浮かべて俺の背中に「の」の字を書く。
考えもしなかったが、言われてみればその通りかもしれない。
「う……た、確かに……。あー、もしかして嫌だったか?」
少し不安になる。
そんな俺を見た遥はまたクスリと笑い、さらに期待を込めた視線を向けてきた。
「嫌じゃないです。だから……」
「だから?」
「つ、続き……シてください」
その言葉に俺の心臓はドクンと大きく脈打った。
顔を寄せて、またキスを求める。だがそれに遥は「うう~っ」と唇を尖らせた。
何かが不満らしい。
「なんだ。続きじゃないのか」
「そ、そうですけどぉ。そうじゃなくってぇ……っ!」
「なくって?」
「せっ、センパイは……キスだけで満足…………ですか?」
自分でぷちぷちと二つほどボタンを外してからの反則的な上目遣い。
一発K.O.だった。何せ元から残ライフは多くなかったのだから。
なにも言葉を発することなく俺は遥の胸を揉みしだいた。
服の上からのはずだが、豊満な遥の胸に俺の指がめり込む。
「いたっ。もっと優しく」
「ごっ、ごめん」
力を弱めて撫でるようにしてみる。
「ん……、ふゃ! あははっ! く、くすぐったいですぅ!」
今度は弱すぎたようだ。刺激が快感にまで達しないらしい。
今度はこねるように。ゆっくりと、手に力を込めていく。
「ふあ……ん、いい、カンジです……ぁふ……んっ、あぁぁ」
「よかった」
スルスルとマッサージするように遥の胸を愛撫する。柔肌がおもしろいように形を変え、熱を纏いながら俺の手を受け入れた。
「おっぱい、気持ちいい?」
「ふにゃ………あ、き、きもちいいです……センパイ、上手……だから、ぁん……ぅ」
ジワジワと浸透してくるような快感に悶える遥。ただ、やはり服の上からでは少々物足りないようだった。
「ふぃあっ……あっ、先…輩………じかに…んあっ……脱がせて…」
「いいのか?」
遥はコクリと頷く。それを確認した俺は、遥のパジャマを一気に開けさせた。
ぷるんと張った胸が荒い息にあわせて上下する。
「……けっこう、可愛い下着なんだな」
思わず俺はそうつぶやいていた。
見るからに柔らかそうな遥のバストを包むブラは、薄ピンク色の生地にこれまたピンク色のリボンをあしらった可愛らしい物。ショーツも同じデザインだ。
少し大人っぽいイメージを持っていたから意外だった。
「あんまし可愛いのはヤです?」
「いや、むしろ好きかもしれん」
そんな会話をしつつ、俺は遥の胸から目が離せなかった。
ミルク色の肌はキメが細かくぷるぷるとしていて、仄かに甘い匂いを漂わせているようだ。
ちょん、と俺の指先が遥のブラのホックに触れる。
「くふ…………いいですよ。見て……ください」
そんな遥の言葉に後押しされるように俺は、戒めをプツンと解いた。瞬間、それまで秘められていた二つのたわわな果実がまろびでる。
冷たい空気に触れるだけで刺激となるのか、可愛らしい桜色の乳首がムクリと自己主張をしてきた。その突起を指の間に挟み込み、少しひねるように抓りあげた。
「ひあぁっ!?」
途端に甲高い悲鳴を遥は上げておとがいをそらす。
さっきのように甘い刺激では決してないがどう見たって快感を得ているようだった。
「遥、イきそうなの?」
俺は遥の耳元でいじわるく囁く。
「ひくっ! ふあ……あっ! そんなっ……ことっ……ぁんっ! くぅ……ん」
「……ふーん。そうなんだ。じゃあ、一回イかせてあげるよ」
あくまで優しく囁きながら、俺は遥の胸を弄っていた手を下へ下へと滑らせていく。
胸の谷間から少し浮き出た肋骨、形のよいお臍。上から順に、なぞるように。
「ふ……ん、ふあ? セン……パイ…………?」
少し意識が飛んでいたらしい遥が不安そうな声を出した。しかしその瞳に宿る暗い光は、これからされることへの期待に違いなかった。
「嫌だったら、ちゃんと言うんだぞ」
そうして俺は、ショーツの上から遥の女の子の部分に手を這わせた。
ぬちゅ――――――――――
「ひぅん!」
「う、わ。すご……こんなに、濡れて」
遥の中心部。そこはすでに熱を帯びていて、零れそうなほどに蜜を溜めていた。
濡れ染みの真ん中に指先を押し当てればぐじゅりと秘肉がほころび、ショーツが吸いきれなくなった透明な愛液が染み出して指に絡まっていく。
(それに、なんか……クラクラするような匂いが…………)
アルコールに酔ったような、しかしおそらくそれ以上の陶酔感。理性が身を潜めて本能が牙をむく。
「ふぁうん……っ!? んゃあ!」
「ん……。ちゅ、ぴちゃ……」
俺の舌先がショーツを押し上げる遥の肉豆をつついた。とどめなくショーツの上にあふれ出す遥の愛液を啜りあげ、逆に自分の唾液を刷り込んでいく。
「ふゃあっ! あっくぅ……、ふん、ぅあぁ……そんな……あっ、トコ…あっあっ…! ……ああっ! ふあぁ……っ」
「脱がすよ」
もはや遥に許可を貰う余裕も無かった。
ショーツの端に指をかけ、ズリ下ろす。
「遥、すっごくエロい」
「はふぅ、んうぅ……。そんなこと、ないもん…………」
「でも、ショーツとの間に糸引いちゃってるけど」
「うう~~~~~~! わ、私じゃないですっ!」
目をギューッとつむって遥は自分が感じていることを否定する。
もう限界近いくせに少し強情な遥を見ていると、俺の中になにやら黒い劣情が渦巻いた。
「じゃあ、これは…………何?」
そう言って俺は遥の股間から溢れた蜜を五本の指で掬い取り、彼女の眼前で見せ付けるようにゆっくりと指をひらく。するとそこには、にちゃっと音を立てて濃い粘液が幾本もの糸を引いた。
「ひゃあ…………」
途端、遥はさらに顔を赤くする。
「もぅっ! 先輩のバカバカバカ! えっち! ヘンタイっ!」
「はは。ここまでしたらもう否定できないな」
「うぅ、先輩Sだ……。ぜったいにSだぁ……」
そう言って、いまさら素肌を隠そうとする遥。ぷいと横を向いた横顔を真っ赤に染めて唇を尖らせる。しかしその一方で、何かを待つように目の端でこちらを伺っているのが分かった。
なにかって? そんなの、決まっている。続きだ。
だから俺は、遥の髪に顔を埋めて囁くように言ってやった。
「正直に言ってごらん? 遥は、俺に、どうして欲しい? 何をしたい? 何を……されたい?」
あくまで優しい問いかけ。しかし俺は、遥のバストを、そのコリコリにしこった乳首に触れないように撫でるような手つきで刺激していく。決して刺激が快感に達しないように、細心の注意を払いながら。
「ふうぅぅんっ。せ、せんぱぁい……」
悩ましげな視線。それが俺の興奮を高ぶらせていく。
「言って。言わなきゃ分からない」
「……………………」
「遥?」
「……せて……だ…い」
「なに?」
「い、イかせて……くだ……さい…………」
とうに遥も理性は無かったようだった。潤んで蕩けた目に涙を溜め、必死のおねだりまでしてくる。
「よく出来ました」
「ふぁ!? ゃっ、ぁぁぁぁぁあああ!!」
ひときわ大きな嬌声。ビンビンになった遥の乳首を俺の左手がひねり潰した瞬間だった。そんな遥を後ろから抱きすくめるようにし、残った右手を下にやって遥の膣中へと侵入させた。
「遥のココ、すごく熱い」
少し押し込んだだけでそこは花開き、俺の人差し指を深くまで飲み込もうとする。一本だけだった指を二本に増やし、かき回すようにドロドロの膣壁を擦ってやれば遥の身体は否応無しに震え上がった。
いつの間にか遥の手が俺の手の甲に添えられていて、自分でその手を動かしていた。
「ふぅっ、んぁ、あ……い、いやぁ……っ、ナカっ、でっ……ふああっ! ゆ、ゆびっ、ゆびぃぃっ!!」
にちゃ、くちゅ……くちゅ…………にゅちゃっ、ちゅくちゅく……くじゅっ……
「ふああぅ、あふ、あっ、んゃあ! ああ……ぅあ、うゅぅあっ! くひゅあっ!!」
遥の声が切羽詰ったものになり、身体を震わせる間隔がどんどん短くなってくる。
「気持ちいいの?」
聞いても遥はイヤイヤをするように首を横に振るだけ。身体を包み込む逃げようのない快感のせいで遥はもう何も言えなくなってしまっていたのだ。
しかしここまで来たのに、まったく素直じゃないな。……これはオシオキが必要だ。
「ガマンしたら、止めるからね?」
そう言って俺は遥の首筋に舌を這わせながら、かぎのように中指を折って親指と挟み込むようにし、中と外から充血してプックリと腫れあがったクリトリスにトドメの刺激を与えた。
「ふゃぁぁぁぁぁああっ!! ひょ、ひょこらめぇっ! イひゅっ、イっひゃ……やっ、いっ、ふあっ、あっ、あああ~~~っ!?」
ガクガクと俺の腕の中で遥は身体を跳ねさせる。絶頂を迎えた遥の膣は勢いよく収縮し、ドプリと熱い蜜を大量に吐き出した。それは俺の手だけでは受け止められず、手首に流れ、床へと滴り落ちていく。ちゅくりと指を抜けば、さらに多くの粘液が遥の太腿を伝っていった。
「はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ……んっぱぁ、はぁっ、はぁっ」
「遥? やっといてなんだけど…………大丈夫?」
「ふぁ? あっ、あふぅ…………」
聞いていないのか、もしくは聞こえないのか。恍惚とした表情の遥は、時折ヒクリと身体を震わせて荒い息を繰り返すばかりだ。
呼吸が落ち着いたところを見計らって俺は再度声をかけた。
「大丈夫?」
「へーき……です。……はぁ……少し、ふぅ……強く……て……」
そう言いながら、遥は寝返りを打つようにしてこっちを向く。
「…………えへへ」
「どうしたんだよ、急に」
きゅっと身を丸めてはにかむ遥に俺は問いかけた。
「笑わない?」
「うん」
何が来てもいいように、俺は腹に力をこめた。そして遥はポツリポツリと言葉をつむいでいく。
「えっと……ね。ちゃんと、女のコとして見てもらえたのが、嬉しくって……」
「……………………………」
「センパイ?」
俺が黙っているのをどう捉えたのかは知らないが、不安そうな上目遣いでこちらをうかがう遥。その姿があまりにも男心をくすぐるので。
「あー、もう! 可愛いなあ!!」
「へっ? ゃあん!!」
体温を分かち合うように、俺は力いっぱい遥を抱きしめた。
柔らかくて温かい、とても優しげな心地よい感触。出来ることならずっと味わっていたいと思う程に安心感を与えてくれる。
しかしそう思ったのもつかの間、遥が「あっ……」と何かを思い出したような声を上げて身体を離してしまった。
「どうし…………あ」
聞く前に言葉が途切れた。遥が見つめていたのは、俺の股間に出来上がった立派なテントだったからだ。
「…………み、見ても?」
「え。それはちょっと……」
「私の見たくせに見せないなんて言いませんよね?」
一刀両断。それを言われてしまえば俺に遥を止める術はなかった。
さっき俺がしたように、遥の指が俺のスウェットにかけられ、トランクスごと引き下ろされる。
「こ、これが……。先輩の、お、おちんちん……」
トランクスが取られた瞬間、ばね仕掛けのおもちゃのように跳ね上がった俺のモノを見た遥の第一声がそれだった。
「イメージしてたのよりもおっきい……? それに、なんか……変な匂いがする」
スンスンと顔を近づけて匂いを嗅ぐ遥。そのとき、遥の吐息を感じたペニスがビクンと跳ねて遥の頬を打った。
「ひゃあ!?」
「ぅあ、ごめん!」
「だ、だいじょーぶ……です。でもなんかぬるぬるしたのが……」
おそらく先走り液のことだろう。擦った際に付いてしまったらしい。それを遥は指で掬い、あろうことかそのまま口に運んでしまった。
「ちょっとしょっぱい……かな」
「おいおい。んなもん舐めなくても…………」
その時だった。心なしか、遥の顔が蕩けたように見えたのは。
そしてすぐに、性への好奇心に負けた遥の視線と手がいきり立った強張りに絡みつく。
「ちょっ……!」
ユルユルとした穏やかな快感。慣れ親しんだ動きではあるが、自分でするより数倍気持ちがよかった。しかし、射精するところまでは快感が上っていかない。微妙にタイミングが合わない。
(せめて、あのおっぱいで挟んでもらえたら気持ちいいだろうな)
まだこんなことを考えるほど余裕がある。
遥もなんとなくそれが分かったようで、一度俺の顔を見て、チラと自分の胸を見てから再度俺の顔を見上げた。
「おっぱいで、して欲しいんですか?」
「なっ!? 俺は何にも言ってないぞ!?」
「くふふ。見れば分かりますよ。ずっとわたしのおっぱいを見てたじゃないですかぁ」
んしょ、と遥は自分の乳房を持ち上げ、俺のモノを挟み込んだ。その瞬間、今まで感じたことのないフカフカした暖かで柔らかな感触が脳裏を支配する。
「んしょ、んしょ。…………どんな、かんじですか?」
「う……ん。すげー、気持ちいい……あったかくて」
俺は半分上の空だ。今すぐにイってしまいそうということはないが、少し気を抜けばヤバイかもしれない。
しばらくそうしていると、最初は大変そうだった遥の声にどこか鼻にかかった甘いものに変わっていることに気がついた。
「遥? もしかして感じてる?」
「ふえ? そんなっこと……ない、れすよ?」
そんなこと無いこと無いだろう。
「でもなんか息荒いし。目もとろけて、えっちぃ声が漏れてるよ?」
「うう~~~! せぱいはいじわるです! いじわるはおしおきですっ! …………あむっ」
少しニヤニヤしながら言ったのが尺に触ったのか、遥は胸の間からひょこりと顔を出していた亀頭をいきなりくわえ込んだ。
「うわっ、ちょっ、やめ!」
「ジュジュッ、ジュル、える、えろ…………チュルチュル……れる……じゅぷ」
亀頭を舐め回し、尿道口を執拗に吸いたてる遥。
おっぱいとは違う、熱くてヌメヌメした粘膜が俺を包み込む。
少し深くモノを咥えた遥は軽く吸い上げながら口で扱き上げた。
「くあっ……!?」
その瞬間、これまでに無いあまりに甘美な快感が背筋を駆け上がり、脳髄を穿った。
「ンふぁ……。これ? これが、いいんれふか?」
そう言って遥はもう一度俺のモノを深くくわえ込み、こんどはチューッと強く吸い付きながら顔を引く。
「ぅあああああ!?」
「ちゅーっ、ちゅっ、ちゅーっ! ジュッ、ちゅるっ、ちゅるるッ!!」
持っていかれるような感覚とカリ首を唇で擦られる感触が気持ちよすぎる。
ペニスをおっぱいで挟み込み懸命に口でご奉仕してくれる遥の上目遣いな顔がたまらない。
身体の真芯に熱い滾りが集まっていく。
俺の官能は限界まで高ぶってしまっていた。
「は、遥! ヤバイ! 口っ、放せッ!」
残った理性をかき集めて俺は叫んだ。
本音を言えば、このまま遥の口腔にぶちまけたい。でも、女の子はあんまりそういうのが好きではないらしいし。あと嫌われたくない。
だが、遥はペニスをくわえ込んだままギューッと目をつむり、ふるふると首を横に振った。
「イヤって、おま……くっ! 口に、出ちまうぞ?」
「いい、れふよ……?」
モノを扱き上げながら、遥は優しげな微笑みを俺に向ける。
「イっへ、へんふぁい。わらひのおくひれ、イっへ?」
そんなことを言われたらもう我慢の限界だった。
パッと瞼の裏で光が飛ぶ。
「ィ、くっ…………!」
びゅるっ、びゅるるっ――――――!!
「んぶぅう!? んんっ、んく……ンぅ………っ」
勢いよく放出された精子が遥の口に吐き出された。
ドクッドクッと脈打つたびに大量のそれが溢れ、受けきれなかった分がこぼれて遥の顔や胸元を汚していく。
「んんっ! んーっ! ん…………こく、ん」
「え。い、いま……飲んだ?」
答える代わりに、眉をハの字にした遥の喉が二度三度となった。
苦しいだろうに、懸命に子種を嚥下しようとしている。
「別に飲まなくたっていいんだからな?」
心配になってティッシュを差し出すが、遥はそれを受け取ろうとしない。意地でも出したくないらしい。
「コクッ……コクン! ………………ぷあっ! んっ。けほっ、けほっ!」
七度も喉をならし、遥は口で受け止めた分の子種を飲みきった。
「無理しやがって。最近溜まってたから、飲むの辛かっただろ」
そう言って俺は彼女の背中をぽんぽんと叩いてやる。
「ん、んん。……にがぁい……」
「だったらすぐに吐き出せよ……」
「そんなのヤですっ! せっかくセンパイが気持ちよくなってくれたのに、そんな勿体無いことできませんっ!」
精液でベトベトになった顔のままぷうと頬を膨らませる遥。さすがにそのままでは居心地が悪そうなので、俺はティッシュで精の残滓を拭ってやった。
「あう……………」
「ん、キレイになった」
しかし、俺の手でふき取られた精子を見た遥は「あ……っ」と申し訳なさそうな声を上げる。
「どした?」
「ごめんなさい……。いっぱい、こぼしちゃった」
「いいって、別に。飲んでもらえるとは思ってなかったし。それに女の子はあんまり飲むの好きじゃないってなんかで聞いてたしな」
そうは言いつつも、俺は遥の気持ちがうれしかった。その証拠に、今しがた出したばかりの強張りは衰える様子も無く遥の胸の間で硬さを保っている。
この後、どうしようか。なんて言葉を交わす必要はもうなかった。
求められるがままに求めて、互いを貪り合うだけ。それでも
「……いいのか? ホントに、俺なんかで」なんて聞いてしまう。
正直俺は自分に自身がない。全てをもって平均以下な俺のどこに自身が生まれようか。
何をどうやっても上手くいかない。こっちに来たのも、前の学校で問題を起こしてしまったから。
そんなどうしようもない人間が、こんなにも素敵な子を抱こうとしている。
自分の気持ちも、遥のことも、遥を幸せに出来るかどうかも、まだわからないのに。
「先輩……」
なのに遥は。
「先輩がいいんです」
こんなにも温かくて。
「先輩じゃなきゃ、だめなんですよ……?」
こんなにも、可愛くて。
「だから、」
こんなにも、優しくて。
「先輩の徽を、私に刻んでください」
「遥…………っ」
あつかましくも、永遠に一緒にいたいと思ってしまう。
「きて……。先輩を感じさせて……っ」
「ああ。いくよ」
そして俺は、仰向けになった遥にのしかかるように、濡れそぼった秘唇に亀頭をあてがった。
滑らないように手で押さえ、ゆっくりと腰を前に突き出していく。
くちゅりと淫靡な音とともにそこは俺のモノによって割り広げられ、エラまでが遥の中に埋まった。
「は、ん……もう少し、下…………」
遥の指示どおりに位置を調整する。
「えっと。…………ここ?」
「は、はい。多分……」
遥の言うとおり、そこであっているのだろう。竿の先がそこにあったすぼまりにちゃんとはまり込んでいるのが感覚で分かる。
「いくよ」
俺のその言葉に、遥はそっと手を俺の背中に回す。
「怖かったら、いくらでも爪立てていいから」
「うん…………っ」
力を込め、きつく狭い膣口を広げる。
「ふうんっ……んっ、んんうぅっ!」
膣内はすでにぐずぐずのドロドロだった。しかしやはりと言うべきか、その入り口は狭く、遥は悲鳴のような嗚咽を漏らす。
背中の痛みなんて気にならなかった。だって遥はこの何十倍もの痛みに耐えて俺を受け入れてくれるのだから。
「くぅあっ!?」
遥が短い悲鳴を上げる。亀頭が何かに引っかかり、それを押し上げたのだ。
遥の処女膜。初めてを捧げてくれたことを実感する。
「はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ…………」
つかえたような遥の息遣いが苦しかった。だから俺は遥を抱きしめ、せめてく早く痛みを終わらせてやろうとさらに腰に力を込めた。
そして次の瞬間、それは唐突に訪れる。
ぷつん、と音がして、ほんの少し締め付けが緩くなった。
「んいぁぁぁぁああああああぁぁあぁああっっ!!!!!!!!!!」
耳をつんざくような悲鳴。やはり破瓜の痛みというのは相当のものなのだろう。背中についた傷跡がさらに抉られる。
「ふぐぁぅ……っ。せんぱいっ、せんぱぁいぃっ」
「もう少しっ、だからっ」
処女膜が破れ、さっきよりも幾分広がった遥の膣をさらに深く潜る。
それでも遥の膣は狭く、全体的に強い締め付けはあまり変わらない。しとどにあふれ出す遥の愛液がもう少し少なければ動くこともままならなかったかもしれないほど。それにもかかわらず遥のそこは熱くねっとりと絡みつくようにペニスを包み込み、肉のヒダが敏感な部分を刺激してくる。
間違ってもここで暴発しないように気をつけながら、俺は体重に任せて剛直を押し進めていった。
「ぁあぁ…………っ、うくっ……ぅ!?」
コツン……。
俺の腰が遥の形のいいオシリにぶつかり、狭かった穴が終わりを迎える。
終着点にあったその肉のリングは恐らく遥の子宮口だろう。
「全部、入ったよ」
「ほん、と…………?」
泣きべそをかいた遥の顔を見つめて、俺は静かに頷いた。
視線でその事実を伝えれば、遥はその目尻に溜めた大粒の涙をぽろぽろ零し始める。
「ごめん。やっぱ、痛かったよな」
遥はふるふると首を横にふる。
無理をして。ロクに言葉も出せないくらい痛いくせに。
涙をキスで拭ってやった。肌の匂いと相まって甘く感じる。
「俺も初めてで、上手じゃないから」
「ちがう。ちがうの」
ひっくひっくとシャックリを続けながら、遥はぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
「嬉しいの。先輩が、もらってくれたの……うれしかったの…………」
そこまで言い、終いにはふえーんと泣き出してしまった。涙や嗚咽とともにせきを切ったように彼女の溢れんばかりの想いが言葉の奔流となって俺を包む。
そうやって繋がったまま強く遥を抱きしめ、どれぐらいの時間が経っただろう。すすり泣きが止む頃、ようやく遥は口を開いた。
「もう、大丈夫」
「でも…………」
「まだ少しジンジンするけど……たぶん、大丈夫」
それに、と遥は顔をしかめながらも悪戯っぽい笑みを見せる。
「センパイも……動くの、ガマンしてくれてますよね?」
「ぐっ……なんで分かるんだよ」
「だって、抱きしめ方が固定するみたいになってるんですもん」
そう言って遥はクスリと笑った。
「……返す言葉もございません」
まったくもってその通りだ。入れた瞬間から遥の膣中は気持ちがよくて、思わず遮二無二にかき回したくなっていた。だが遥の表情を見る限りそれは絶対に駄目だと思って我慢していたのだ。ここまで耐えた自分によくやったと言いたい。
ただその我慢が別のところに現れているとは微塵も思っていなかったが。
「でもね。もうガマンしなくてもいいんですよ?」
「でも……」
まだ痛いんじゃ……?
隠した表情を見る限りそう思うのだが。
「だから大丈夫なのっ。それに私だってつらいんですよ? せんぱいのを感じて、お腹の奥がキュンキュンするんだもん…………」
むくれながらもねだるように、言う。
もうたまらない。止まれないし、止まりたくもなかった。ただ一言「いくよ」とだけ言い、モノをゆっくり引き抜いていく。
「ひうぅっ!」
「うあっ!?」
抜けるような快感。手や胸、口ももちろん気持ちがよかったが、やはりこれは次元が違いすぎる。
今すぐもう一度ここに突き入れ、めちゃくちゃにかき混ぜたい。だが思わず上げてしまったらしい遥の悲鳴を聞き、俺の分身に絡みつく粘液に混じった鮮やかな朱を見てなんとか押しとどまる。
「無理、してない? やっぱりもうちょっと休んだ方が……」
「だ、ダメぇっ!」
今までに無い強い否定。
「で、でも…………」
「ちゃんと気持ちいいからぁ……っ。やめちゃ、やぁ…………!」
そんなしかめっ面で言われてもなぁ。
少々困ったことになった。
俺としてはちゃんと遥にも気持ちよくなって欲しいと思う。でもこのまま続けても遥に苦痛を与えるだけみたいだし。
だが遥は意地でも続けさせたいようだ。
「なあ、遥。やっぱ擦れると痛い?」
「だ、大丈夫。痛くない、痛くないもん……。そんなにズキズキなんてしないから」
どうやらズキズキした痛みがあるらしい。でもじっとしている時はそうでもないようだ。
現に今はそんなに辛そうではない。いや、もどかしさという点では辛いのかもしれないが。
ならば、と俺は今までに見てきたエロ本やらエロ動画やらの知識を総動員して解決策を見出した。
「もう一度奥まで入れるよ」
そうとだけ断って再びモノを膣内に突きこむ。ただ今度は体重をかけて、子宮口を押し上げるようにもっと深くまで。
「ぁく……っ!」
やはり擦れると痛みがぶり返すらしかった。
「たぶんこれなら、痛くないと思うから……」
そう言って、亀頭を子宮口に押し付けながら俺は円の描くように腰を動かした。
「ふえ? な、なに……それぇ。あっ!? あんっ! ふぁっ、あっ……ぁんっ」
「どう? 痛くない?」
問いかけながらすりこぎで肉のリングをすり潰すように刺激を与えていく。
「ひぁっ……あ、あ…………っ。だ、大丈夫……はぁっ……ん…………ぅんっ」
「気持ちいい?」
「わかん……ない…………あっ……なんだか……んっ、はぁっ……ピリピリしてぇ……」
「ぴりぴり?」
「う、うん……。わたしのおまんこ…………しびれたみたいになってぇ……ふあぁっ!」
ということはやはり気持ちがいいのだろう。
鼻にかかった甘い喘ぎ声をBGMにして、俺は遥の膣内をほぐしていく。時折唇を重ね、乳房を弄り、快感という鎮痛剤を与え続けていった。
「んぃあっ…………ああっ……、はぁっ、あん……ふあぁっ……あっ」
「遥」
「ふ、あ? ……あっ……なに? んくっ……せんぱい」
「もう大丈夫みたいだな?」
「ふえ?」
どういうこと? と遥は視線で訴える。
もしかして……自分では気づいていないのだろうか。
「腰、勝手に動いてるよ?」
意地悪くそう言ってやるとしばらく虚ろだった遥の瞳が見開かれ、のぼせたような顔の赤さが三割り増しになる。
「うぉあ!?」
その瞬間一気に愛液の量と膣圧があがり、俺のモノを痛いくらいに締め付けてきた。
意地悪されてこんなになるなんて……。もしかしてコイツ、Mなのか?
もしくは認めたくはないがどうにもSらしい俺が目覚めさせてしまったか。
まあ、今はそんなことどうでもいい。そんなことよりも。
(こ、これはヤバイッ!?)
膣内のヒダヒダというかツブツブが物凄いうねり方で扱き上げたのだ。しかも一瞬じゃなく、継続的に。
「ひぃぁあっ!? せんぱぁっ……! い、いきなりっ……あひゅうっ、おっきくしないでぇ……ふあぁ、あっ!!」
「ち、ちがっ!? 遥のが締まって……くあぁっ!?」
余りの快感に耐えかね、俺は一度ペニスを引き抜く。
ずちゅっ……という音とともに熱くとろとろして少し赤みがかった液体が遥の蜜壺から掻き出される。
「ふえ? なんで……? なんで抜いちゃうのせんぱいっ」
モノを引き抜かれて今にも泣きそうな顔をする遥。その必死さから推測するに、どうやらイイところだったらしい。
そのもどかしさに歪んだ顔が笑顔よりも愛おしく感じた。
「すぐに挿れてあげるから。遥、四つんばいになってくれないか?」
そう言う俺に遥は一瞬きょとんとした表情を向け、次にまさかという顔をする。
「先輩……、まさかお尻でなんて……?」
「ち、違う!」
俺はそこまで鬼畜じゃない! ……多分。
「ただ後ろからしてみたかっただけだよ。まあ、ご要望とあらばアナルもやぶさかではないが……?」
その言葉に遥はブンブンと首を横にふる。さすがにそこまでやる気は無いらしい。だが俺の「後ろからしたい」という願いは聞き届けられたようで、素直に指示に従ってくれる。
「こ、こう?」
そう言って遥は丸みを帯びて美味しそうな臀部をくいっと俺の眼前に持ち上げた。
「すごいな……これ」
さっきまで男根が奥まで入っていた遥の秘裂はぱっくりと広がっていた。その奥からはとどまることを知らない透明な蜜がトクトクと溢れ出し、太腿を伝って靴下にシミを広げていく。その逆ハートの少し上では先ほど遥が挿れるのかとカンチガイしたもう一つの穴が少し物欲しそうにヒクヒクと息づいていた。
(……まさか、な)
もしかしたら、実は遥自身がアナルセックスを望んでいる、なんていうのは的外れもいいところだろう。
「せんぱぁい……」
遥が情けない声を上げてこちらを覗う。恐らく身体が疼いて仕方がないのだ。
だがそれは俺も同じこと。耐え切れなくなった遥が一層高く上げたお尻を誘うようにゆするものだから、すでに興奮のメーターは振り切ってしまっていてペニスも限界まで膨らんでいる。
熱く滾った切っ先を再度ピンクのワレメにあてがうと、遥は「んあっ……」と甘い吐息を漏らし、横目で俺の動きを覗う。
今度は何の躊躇もなく、俺は遥をズンッと奥まで一気に貫いた。腰が程よく付いた尻肉に当たってパツパツと湿った音を鳴らす。
快楽が教えるままに、俺は遥の膣壁を抉っていった。
「ふゃあぁっ、あっ……あひゅっ……ふぁ? あっ! あっ、あっ!! ふぁあぁっっ!?」
真ん中辺りを小刻みに擦ると、遥の声の質が変わる。少し感触も違うようだし、ここが噂に聞くGスポットなのだろうか。
「遥っ、気持ちいいっ!?」
そう聞いたものの、肘がかくんと折れてしまった遥はもはや布団を強く握り締めてガクガクと身体を震わせることしか出来ない。そんな遥を俺はピストンを続けたまま後ろから抱きすくめ、その胸を鷲掴みにして硬くしこった乳首を抓り上げた。
「ひきゅぅぅうううんっっっ!!!!!!!!」
途端、遥が甲高い悲鳴を上げた。それと同時に強く収縮した膣全体からドプッと熱い何かが溢れ出し、掻き出されて布団に大きなシミを作る。
どうやら先にイってしまったらしかった。だがそれで止まれる俺じゃなかった。
ペニスに纏わり付いた遥の本気汁を新たな潤滑油にしてより一層強く激しい動きを繰り出す。
「せ、せんぱっ!! わらひっ、まらっ……! イっ……!?」
「ごめんっ! でも、止まらないんだッ!」
謝りながら指で遥の口を塞ぐ。それを嫌がることもせずに、遥はまるでフェラチオをするようにおしゃぶりを始めた。
俺は空いた手をクリトリスに持っていこうとしたが、あるものが目に留まってその手を止めた。
遥の身体の震えと一緒にキュムキュムと収縮と弛緩を続ける放射状の皺の中心。
そこにあるのは遥の排泄口だった。
(チンポは無理でも、指くらいなら…………)
そんな好奇心を抱いてしまう輩は少なくはないはずだ。
行為を続けながら掻き出される蜜を掬い取り、お尻の谷間に垂らしていく。尻たぶを揉むフリをして垂らした蜜をその穴に流し込みつつ広げていった。
尻たぶを掴み上げればパクパクとそれは小さな口を開ける。遥はおしゃぶりに夢中……というかそちらに意識を集中させないとヤバイのか、こちらの動きに気づいた様子は無い。
ほんの少しだけ。嫌がったらすぐに抜こう。
そんな軽い気持ちで親指の先をアナルの中心にほんのちょっと押し当てた、次の瞬間。
「ンぐうぅぅううぅううううう!?」
「うわぁっ!?」
遥はくぐもった悲鳴を上げて海老反りになり、俺は驚いて叫んでいた。
それもそのはずで、俺の親指は付け根まで遥のアナルに飲み込まれていたのだ。しかもそれと同時に膣内の締め付けがこれまでにないくらいの強さで俺のモノを絞り上げようとしてくる。
「ふぅーっ! ふぅーっ! ふぅーっ!」
突然訪れたとてつもない違和感に柔肌を慄かせプルプルと頭を振る遥。しかし下半身は正直なのか、貪欲に全てを飲み込もうとしていた。
キュッキュッと膣が締まり、その度に熱い蜜が溢れて隙間から零れ落ちる。
遥がイき続けているという認識はとうの昔に失っていた。だから俺は親指を遥の後ろの穴に突っ込んだまま、ありったけの力を込めてストロークを再開した。
「あぐっ! あっ! あひっ! くぁあっ!」
ゴンッゴンッと子宮口に叩きつけるように剛直を突き入れる度に遥は口に含んだ指の間から空気を求めて喘ぐ。更なる快感を求めて、俺は遥の口を塞いでいた手で乳房を弄った。
「んぃああああああああっっ! ひゅっ、ああぁっ! ゃぁぁあああああっっ!!!!」
途端、遥が身をよじって暴れだす。
俺の指が消えたことで舐めなきゃという意識が無くなり、ダイレクトに百パーセントの快感をうけてしまったらしい。
そんな遥を強く抱きしめ、俺自身も終わりが近いことを告げる。
「遥……っ! お、俺!」
「ふあああっ! せんぱいっ、せんぱいっっ、せんぱいぃっっ!!」
何度も、何度も何度も互いを呼び合う。そして、その時がくる。
俺は自分の証を捧げるために、遥の子宮口にめり込むほどに亀頭を思いっきり突き上げた。
「イ…………クッ……!!」
そしてパッと何かが破裂したような感覚。
ドクッ、ドクドクッ――――――――――!
「ひぁあっ、ああっ! んぁぁぁぁぁあああああああああああっっ!!!!」
二度目の射精とは思えないほどに濃い子種が遥の子宮に直接注がれる。
しっかりと俺の精を受けた遥は二、三度ビクビクと痙攣したかと思うと、ぷつんと糸が切れたみたいに身体の力が抜けてしまった。
すっかり精子を出し切って柔らかくなったペニスを引き抜いた俺は、気絶してしまった遥を抱き起こし、三枚ほど布団の上にバスタオルを敷いてその上に仰向けに寝かせる。
本当に愛らしい……いや、愛しい女の子だ。
こんな短時間で俺はこの女の子のことが好きで好きでたまらなくなってしまっている。
「これも、一目惚れなのかな」
そう独りごちた俺は、眠る遥の唇をそっと奪った。
腕の中におさまった遥の髪を梳きながら、俺はこの場の幸せをかみ締めていた。
始めは寒かった部屋も暖房が効いて……というか俺たち自身が発散した熱のお陰でずいぶん温かくなっている。
「夢じゃ、ないんだよな……」
触れれば確かな温もりがそこにはあった。
しかし、ほんとにこれで良かったのだろうかとも思う。
「ん…………、んん~~~~っ」
「うん? 起きたか」
色々考えて今更ながらも悩んでいると、眠っていた遥が目を覚ました。
「……ん、あれ……先輩? あ……そっか、私、寝ちゃったんだ」
「まだ寝ててもいいぞ?」
「ううん。起きる」
しかしそう言いつつも遥は俺の腕の中で丸くなった。
「夢じゃ、ないんだ…………えへへ」
「嬉しそうだな」
「もぉ、何年片思いだったと思ってるんですか」
本当に嬉しそうに、遥は貸した腕を撫でる。
「何年……てことは、やっぱり…………」
「ええっ、まだ気づいてなかったんですかぁ!?」
そう言ってムッとする遥。
気づいていなかったわけでは無いのだが、確信が持てなかっただけなのだ。
すると遥は仕方がないなぁという顔をし、カバンを引き寄せて一枚の角が折れた写真を取り出した。
そこに映っていたのは、小学校低学年の俺とあのときの迷子の女の子。
「俺もまだ持ってるよ、その写真。押入れのアルバムの中だけど」
ということは約十年か。他にもっといい男も居ただろうに。
それだけの重みの愛を受け取る資格が、はたして俺にはあるのだろうか。
「先輩?」
急に押し黙った俺を怪訝に思ったのか、遥が俺の目を真っ直ぐに覗き込んでくる。
「遥。今更だけど、本当に俺でよかったのか?」
「むっ。まだ言う……。言ったはずですよ、センパイじゃなきゃダメだって」
「違う。そうじゃないんだ。ただ、遥は俺がどんなろくでなしか知らないから……」
そうだ。俺はそんなに出来た人間じゃない。
母子家庭だった俺は小学校二年までこの町にいた。あの写真は、その冬に撮ったもの。三年にあがる直前に転校したのは、母さんが過労で死んでしまい親戚引き取られたからだ。
「二年になったときに先輩が居なくて落ち込んだんですからね?」
「じゃあ、学校も同じだったのか。ごめんな」
転校先でも、親戚の家も。何一つ問題は無かった。ただ一つの問題は俺自身。学校には時間とともに馴染んでいけたが、おじさんやおばさんの優しさが耐えられなかった。
「バカな話だけどな」
そして一番問題なのは、半年前のことだ。
「嫌なやつらがいてさ。殴ったんだよ」
顔面がボコボコになるまで。
そういった俺の罪の告白を遥はじっと聞いてくれていた。それだけで心が洗われるようで、なんだか救われた気さえした。
「知ってますよ。全部」
己が関知する罪を言い終わったころ。遥はそんな事をポツリと呟いた。
「新しい家族に馴染めなかったのはお母さんを忘れたくなかったから。前の学校で同級生を殴ったのは、その人が友達をいじめてたからですよね? それもばれない様な悪質な手で」
「な……っ、何、で……」
誰にも言ったこと無いハズなのに。
「これも言ったはずですよ。ずっと見てたって」
そう言って遥はクスリと笑う。
「それに、そんなこと言ったら私なんてもっと酷いですよ」
「……なぬ?」
「進路で親と揉めたんです。それで、家出」
よくある話だとは思うが……。
カメラを持ち歩いていたところを見るに、専門学校に行きたい遥と大学への進学を望む親の間で摩擦が生じたのだろう。
「だって親も先生もみんな映像系の学校に行けって言うんですよ? ほんと、やんなっちゃいます」
まさかの逆だった。
「でも賞とか取ってるんだろ?」
「だから言わないでくださいよぅ……。それが拍車をかけてるんですから。R大の人間学部を受けたいっていったら、みんな口を揃えて無理だって言うし……」
「R大の?」
そこは俺の志望校だったりするが……、まあ偶然だろう。
「ちなみにこれが応募した写真なんですけどね」
そう言って遥はより一層身体を寄せながらゴツいカメラ(最新式のデジタル一眼らしい)のディスプレイを俺に見せてくれた。
それは何の変哲も無い風景なのだろう。だが、そのとき遥が何かを思ってファインダー越しに捉えて残した世界。
「わかんないけど、なんか温かいな」
「ホントですか!?」
「うん。他のも見ていい?」
そう尋ねると、遥は快くカメラを貸してくれた。最初は高価な機材を扱うことに臆していたのだが、遥の作品を見るごとにそんなことはどうでもよくなっていった。
「すごいな……。全部の写真が何かを訴えてきてるみたいだ」
そのほとんどが遥の感情なのだろうが、中には素朴な疑問なようなものもあった。
「えへへ……。先輩にほめてもらうの、嬉しいな」
「あ、あんま恥ずかしいこと言うなよ。照れるだろ…………ん?」
そこで俺はあることに気がついた。風景のほかに人物が映っているものがある。
いや、もちろん通りすがりの通行人はいっぱいいるのだが、どうにもある一人にスポットを当てたものがチラホラ……というか結構ある。しかも、ぜんぶ後姿。
「これは……」
見覚えがある、というのは少々語弊があるだろう。だってそれは、俺自身が絶対に直接見られない後姿だったのだから。
「お、俺……ですか?」
「見てたって言ったハズですよ?」
屈託の無い、今までで一番いい笑顔だった。
もう苦笑するしかない。だってこれが嬉しいなんて、どう考えても異常だろ?
「やっぱ新手の詐欺だろ」
「じゃあ、何の詐欺ですか?」
「恋愛詐欺。巻き上げられたのは金じゃなくて心だからな」
そして二人で笑いあう。
「ふふ……先輩っ……そ、それ、寒すぎですよ?」
「あっ、ひでぇ!?」
「でも、そういうところも含めて好きですから」
「俺も……」
その言葉を口にしながら思う。
そういえば、言うのはまだ初めてだったっけ?
「俺も好きだよ。でも……」
言葉を続ける俺と、それを聞く遥の視線がしっかりと合う。
「俺はまだあんまり遥のことを知らない。だからこれから、よろしくお願いします」
一瞬キョトンとした遥。しかしその言葉の意味はすぐに理解できたようで、あのクスリという微笑を浮かべた。
「こちらこそよろしくです。先輩っ!」
そして俺たちはささやかなキスを交わした。
窓の外では降り積もった雪に太陽の光が反射してキラキラとかがやいている。
俺と遥。二人の世界はこの雪のようにまだ真っ白だけれど。
雪解け水が小川になるように、それが草木を育むように。
きっと素敵な何かを与えてくれるはずだと、俺は思う。
Fin
snow white
高校の時に書いた物が発掘されたので供養。