ー死神ー
-死神-
プロローグ. 「け・・・警部!!また殺人事件がおきました」「本当か!?」「えぇ、被害者は小川猛、道路を歩いている途中に後ろからナイフで刺されたんだと思います」「よし、現場に行くぞ」「はい!!」最近近所で連続殺人が多発している。これで5件目だ。その事件を常に追っているのは刑事の速水叶真(はやみとうま)と警部の大石隆志(おおいしたかし)の2人だ。彼らは殺人が起こる度に徹夜で事件の犯人を考えているが、証拠や動機が分からない。この連続不可解殺人事件の犯人は!!?
1. 「ん~、またか。おい!!証拠は出たか!!?」「いえ、現在捜索中ですが、全然見つかりません」「クソッ!!防犯カメラ等に怪しい人物が写っているか確認してこい!!」現場から数人の刑事が離れた。「警部、この犯人って誰なんでしょうね」「ん?それが分かっていたら苦労しないわ」「ですね。けど変じゃありませんか?今までの犯行で証拠も出てないし防犯カメラにも写らない。これって人間じゃ不可能ですよね?」「確かになぁ。近所の人とかだったら防犯カメラに写らない場所を知っているかも知れないが・・・証拠は出ないし。あっお前ってこの近所だよな?」「ちょっと、嫌な冗談はやめてくださいよ」「だよなぁ」2人は溜息を吐いた。恐らく防犯カメラに写っている事は無いだろう。それから数十分後、刑事が帰って来た。「警部!!防犯カメラに怪しい人物は写っていませんでした」「クソッ!!結局駄目かぁ」それから現場は静かな世界だった。証拠もない。近所の事情聴取からも良い証言は出ない。「警部!!」速水が警部を呼んだ。「ん?どうした?」「あっいえ、なんでも」「ん?どうした?何か言いたい事があるんじゃないのか?言ってみろ。相談には乗るぞ」「あっいえ、状況を弁えて居ない話ですので」「そうか・・・」それから2人は警察署に戻った。「ちょっと過去の事件を見てきます」「そうか」速水は資料室に向かった。ここに過去の事件が全て記録されている。だが、この資料の量、これは一朝一夕(いっちょういっせき)で見つかる物ではない。速水は一旦自分の机に戻った。そして鞄(かばん)に手を入れた。「よし!!最終兵器だ」速水が鞄から取り出したものは栄養ドリンクだった。速水は時計を確認した。「もう7時かぁ」速水は鞄を肩に掛け、家に帰った。「明日から頑張るぞ」速水は気合を入れた。ガチャ、速水は扉を開けた。速水の家は大きな45階建てのマンションの最上階、疲れた後に上がるのが大変だ。エレベーターは暇だし。「ふぅ、疲れた」速水はベットに横になった。そしてゆっくりと瞼(まぶた)を閉じてしまった。
2. 「おい!!速水、遅刻だぞ!!」「すっすいません警部。ちょっと昨日色々あったんで」「言い訳はいい!!また事件だ。現場に行くぞ」「あっちょっと待ってください」「ん?どうした?」「ちょっと今日は過去の資料を見るので・・・」「おぉ、そうか。じゃあ」速水は溜息を吐いた。そして栄養ドリンクを手にした。「いくぜ!!」栄養ドリンクをゴクゴクと飲んだ。「ぷはぁ、目が覚めた。よし!!行くか」速水は独り言を言い、資料室に行った。そして端のファイルから手に取り、黙々とページをめくっていく。速水は資料室に入ってから5時間が経過した。「あっ、あぁ・・・あぁ!!!!!有った!!!!」速水は1つのファイルを上に投げた。「よっしゃぁ!!!!」速水はもう一度ファイルに目を通した。「えぇ、何々?『1月3日、殺人事件発生。被害者は遠藤翔、後頭部から鈍器のようなもので殴られ死亡。1月6日、殺人事件発生、被害者は庄司悟、後頭部をナイフのようなもので刺され死亡。1月7日、殺人事件発生、被害者は警察官の西山透、ナイフで刺殺された。2月11日、殺人事件発生。被害者は榎戸翔太、背中をナイフで5回刺され死亡』か」そして1ページめくるとまた事件だった。「えぇっと、『警部の高田誠司、自殺』え?」速水は吃驚(びっくり)した。「どういうことだ?」だがそれからはちゃんとしたことは書かれていなかった。そして思い切って警部に話をしてみた。「警部」「ん?速水か、どうした?」「高田誠司って知っていますか?」警部は一瞬黙り込んだ。そして立ち上がった。「あぁ、知ってるよ。もうこの世には居ないがね」「知ってます」「え?」「資料室にこれがありました」速水はファイルを渡した。「こ・・・これは・・・」「えぇ、過去にもこの連続殺人は起きているんです。そして警部の死、これは何か関係があります」「どういうことだ?」「警部は自殺をするような人間ではない。のに自殺した。恐らく何らかの事情があったのでしょう」「事情?自殺するのに事情なんて必要なのかね?」「もしかして、自分がこの連続殺人事件の犯人だったら・・・」「っ!!!」「二重人格の人は存在しています。もし高田さんが」「いい加減にしろ!!!じゃあなんだ?今回の事件は私が犯人だ、そう言いたいのか?」「いえ、そういうことではありません」「お前の話は聞くだけでイライラする!!邪魔だ!!」速水は警部に追い出されてしまった。速水は仕方なく家に帰った。速水は警部が犯人だ、とは決め付けて居ないが、先入観でそう思ってしまう。家に戻るとシャワーを浴びずにまた寝てしまった。
3. 次の日、警部とは一切関わらずに資料室に閉じこもっていた。「何か、他に手がかりになるものは・・・」速水は必死で探していた。「クソッ、やっぱり無いか」速水は資料室から出た。速水は声を上げてしまった。扉を開けると目の前に警部が居たからだ。速水は頭を下げながら警部の横を通り過ぎた。「どうしようか」一連事件が収まらないと近所は不安で仕方ないだろう。次は自分かもしれない、そんな恐怖と戦いながら生活するのは至難、警察に早く犯人を捕まえてくれ、とクレームを入れてくる輩も居る。「一体誰なんだ?」速水は近所の道を歩いてみた。もし不審者が居たら即行捕まえてやる。それから夜間は速水は歩く事にした。今までの事件から犯行は0時から1時と決まっており、その間警備していれば被害は最小限に抑えられるだろう。速水は考えていた。だが寝る間を惜しんで警備をすると生活習慣が崩壊する。「しかたない」速水は気合を入れた。
4. 仕事が終わり、現在の時刻は午後11時、速水はシャワーを浴びていた。「仮に警部が犯人じゃないとしたら一体誰であろうか?近所の住民から話を聞いた物の、手がかりとなる証言は無かった。警部が犯人かどうか今の所分からないから警部を尾行したらどうだろうか」速水は暫(しばら)く自問自答を繰り返していた。風呂場から上がり、バスタオルで頭を拭いている途中、誰かの気配を感じた。「ん?」自分の背後に、誰か居る。速水は咄嗟(とっさ)に後ろを振り返った。しかしそこには誰も居なかった。「疲れているんだろう」速水はジャージ姿に着替え、部屋から出た。それからみっちり巡回していたが、別に異常は無かった。
5. 次の日、早朝にも関わらず速水の携帯にメールの受信音が響いた。「ん?なんだよこんな早く」速水はフラフラ歩きながら携帯を手に取り画面を開いた。警部からのメールだった。「え、何々、『また殺人事件発生、被害者は角田清、死亡推定時刻は今日の午前0時23分頃、目撃者は不明。警察は近所の住民に話を聞いており、防犯カメラを調べている。お前も早く来い』殺人事件?ど・・・どういうことだ?」速水はその時間にしっかりと巡回していた。住所を見ると巡回していた場所だ。速水は急いでスーツ姿に着替え現場向かった。「やっと来たか」「警部、この殺人はおかしいです」「ん?いきなり何を言いだすんだ?」「俺は昨日、事件が発生する0時から1時の間、近所を巡回していました。現場もちゃんと見ました。けど死体なんて」「別のところで殺して現場に置いた、って可能性もあるだろう」「あっそうか・・・」「まぁ取り敢えず近所から話を聞いているから手がかりになるような情報を俺らは待つしかないんだから」「警部、話を聞いてきました。近所の話によるとその時間帯、ジャージ姿の速水を見たと」「あぁ、速水はその時間、犯人と出くわさないか、巡回していたようだ」「あっそうなんですか」「警部~、防犯カメラを調べてきましたが怪しい人物は写っていませんでした」「ん~犯人は透明人間なのか?瞬間移動が出来るのか?もうややこしいな」
6. 事件が発生した夜、速水は悪夢に魘(うな)されていた。速水はナイフを持っており、人を刺す、と残酷な夢だった。その恐怖さに速水はベットから起き上がった。「うはっ、なんだぁ、夢かぁ」速水は汗を掻いていた。「それにしても残酷な夢だったな。あっ、巡回するの忘れてた。今からでも遅くないか、もう眠れなさそうだし」速水はベットから起き上がり、ジャージ姿に着替えた。そして飛び出した。最近走っていないからどうせならジョギングを兼ねての巡回だった。「ん?」速水は走っている途中、道路に何か大きな物体が転がっているのを目撃した。「なんだ?」と速水は近づいていった。近づくにつれ、それがなんなのか明確になっていった。「あぁ、ああぁぁぁ」周りは血の湖、そしてその中央に人が転がっている。速水は急いで警部に電話を掛けた。「只今電話に出れません」「クソッ!!」速水は何度もかけた。するとようやく警部が出た。「なんだよ、こんな朝早く」「警部、来てください!!また事件が」「何!!?住所はどこだ!?」「えぇっと」それから警部が現場に駆けつけ、刑事やパトカー、救急車が駆けつけた。「見つけたときは犯人は近くにいたか?」「いえ、周りは誰もいませんでした」警部から短い事情聴取を受け、死体の状況を見に行った。「背中を3回程度刺されて大量出血で死亡、ですか」「あぁ、残酷だな。夜中にこんな物見て、目ぇ覚めただろ?」「えぇまぁ」「まっ取り敢えず戻るぞ」「えっあっはい」速水は違和感を覚えた。もう一度死体に駆け寄る。「おい速水!!!戻るぞ」「えぇあぁはい!!!!」速水は警部に付いて行った。「どこかで、見たことある顔だった」「ん?被害者か?」「えぇまぁ」「被害者の名前は石松康則だ。知っているか?」「いえ、けど顔は」「まぁそんなことはあるだろう。取り敢えず今は忘れて状況整理だ」「はい」だが速水は被害者の顔が頭に浮かんで仕事に集中できなかった。
7. 仕事が終わり、家に帰った頃はヘトヘトだった。ベットに飛び乗ったが、暫く寝れなかった。被害者の顔が脳裏に浮かび上がり、寝る気にもなれなかった。だがずっと目を瞑(つぶ)っていると段々眠りに誘われ、やがて眠ってしまった。暗い闇の中でずっと下に落ちている気分な感じだった。そしてまた夢を見た。自分はナイフを持っている。そして人を刺し、そこから逃げる。相変らず残酷な夢だった。目を開けてベットから起き上がると相変らず汗を大量に掻いていた。「全く、何でまた」だが瞼が重いのでベットに戻り寝た。
8. 寝坊してしまった。現在の時刻は10時、速水は慌てて朝食を摂り、スーツに着替えて出た。職場に向かっている途中、携帯にメールが入った。けど慌てているので向こうに着いてから見ようと思い、無視した。「おぉ、速水、メール見たか?」「え?メール?」「また殺人事件だよ」「えっ?」速水は急いで携帯を見た。「『また殺人事件発生、被害者は飯塚省吾。背中をナイフで刺され死亡。早く来い』あっ急いでたんで見てませんでした」「そうか、まぁいい。お前が来るのを待っていたんだ。現場に向かうぞ」「あっはい」現場に行くとまた違和感を感じた。被害者の顔に覚えがある。「警部、この人・・・」「また覚えがあるのか?」「はい」「ん~、何か関係あるんじゃないかな?」「まぁ考えます」速水は気味が悪くて早く帰った。
9. 相変らず人を刺し殺す夢を見た。ベットから起き上がっても何も無い。だけど前とは違う夢だった。刺した人の顔を覚えている。そして血の色も覚えている。メールで殺人事件の事が入ったので現場に向かった。そして死体と直面した。「あ・・・あぁ・・・」「どうした速水?」「くっ」速水は現場から逃げ出し家に帰った。「ま・・・まさか・・・」そう、速水が見た夢に出てきた人の顔と被害者の顔が合致するのである。「お・・・俺が・・?」洗面台に行き、顔を洗った。「違うよな・・・まさか・・・クソッ胸糞悪い、寝る!!」速水は眠くないのにベットに入った。眠くないのにすぐ眠ってしまった。
10. 「おいお・・・起いろ・・・起きろ・・・」「はっ」速水は目を覚ました。周りを見渡す。「どうやら目が覚めたようだな」「だ・・・だれだ!!?」「名は無い、死神だ」「し・・・死神?そんな非科学的な事は信じない」「単刀直入に言おう。連続殺人の犯人はお前だ。いや、お前じゃないが、体はお前。心は俺、だ」「っ!!?」「夢を見ただろう。お前に自分で気付かせるために多少意識がある状態で動いていたのだ」「どういうことだ?俺が犯人なんだったらなんで防犯カメラに写らないんだ?」「防犯カメラを確認しに行った刑事の意識を乗っ取っていたからだ」「っ!!?」「今までの犯人は、速水叶真、お前だ」「嘘だ・・・嘘だ・・なんで俺が!!?」「嘘だと思うんだったら防犯カメラを見てこい。全てが分かるぞ」「クソッ」「警部じゃない、お前だ。真実を知ったお前はどうする?」「姿を現せ・・・」「あ?」「姿を現せ!俺の前に現れろ」「良いだろう!!!」部屋に黒い靄(もや)が掛かり、骸骨が現れた。右手に鎌を持っている。いかにも死神って感じだ。「お前に姿を現せた。死神には掟があるんだ」「なんだ?」速見の首が飛んだ。そして部屋中に血が飛び散った。「死神は人間に姿を見せてはいけないんだ。もし見せたら・・・見た人間を殺さないといけない。殺さなかったら死神が殺される。お前の願いは叶えたぞ。悪く思うな」部屋に黒い靄が掛かり、部屋には速水の首と胴体だけになった。
エピローグ. 警部は眉間(みけん)に皺(しわ)を寄せて考えている。「警部・・・」「何も言うな。分かっている」「はぁ」「まさか速水が殺されるなんてな・・・アイツは誰よりも情熱を持った男だった。そんな奴が死ぬなんて・・・神様は時にむごい事をする、ってのは本当だな・・・」真実を知らない世間、世間は速水の見方だった。そんな速水は死神の世界で罪悪感を持っていた。あの時死神が言い残した言葉。「死神に殺された人間は死神になれる。大歓迎だ」速水は辺りが岩だらけのところに立っていた。向こうに誰か居る。速水は近づいた。そこには高田誠司のような死神が立っていた。
ー死神ー