三題噺「白いスク水」「縦笛」「ランドセル」
かれこれ三時間ほど私は悩んでいた。
「……むぅ。悩むなぁ……」
目の前にあるのは二着の水着。一般的にはスクール水着と呼ばれるタイプの水着だ。
ただ、二着の水着には一箇所だけ違う点があった。
「白か、黒か……」
そう。詰まるところ、私は明日に着る水着の色で悩んでいるのだった。
「ふふふ……。これなら勝てる!」
次の日の朝、私は意気揚々と教室の扉を開けた。
途端に教室がざわめいた。
「……嘘だろ」
「ちょっと本気?」
皆が驚くのも無理はない。
私は白いスクール水着を着ていた。そう、水着で登校したやったのだ。
胸の部分が少しスースーしているが、そんな感覚も私の気分を一層高揚させた。
「みんな、おはよう!」
勝った。私は勝った。私は級友たちの反応を見て、自身の勝利を確信した。
「おっはよーう!」
しかし、そんな確信はあっさりと覆される。
級友たちの視線が私の後ろに注がれるのがわかる。
私はすぐに後ろを振り返ることができなかった。
見るな。見るな。見るな。そんな目で見るな。私以外を見るな。私を見ろ。あいつを見るな。見るな。見るな。見るな。見るな。ここに私がいる。あいつなんか見るな。私だけを見ろ。他の奴は見るな。見るな。見るな。見るな。見るな。そんな目で見るな。もう見るな。目を閉じろ。見るな。見るなよ。見ないでくれよ。お願いだから見るな。見ないでください。だから見るな。もう見るな。見るなぁぁぁぁあああ!!
私はゆっくりと振り返る。
そこに立っていたのは――。
六月二十三日、晴れ。
今日は朝から大騒ぎだった。
救急車は来るし、先生は急遽学級会議を始めるしで、もう授業にならなかった。
先生もさすがにドン引きしてたみたい。
……どうしてこうなっちゃったんだろう。
ボクはただ、
「ちょっと変わってる人が好き」
って話してただけなのに。
白いスク水を着てた松村君、キミ男だよ?
ランドセルを背負って縦笛を吹いてた山口君、キミ高校生だよ?
二人ともおかしいよ。狂ってるよ。完全に変態さんだよ。
ボクを好きだって言ってくれるのは嬉しいんだけど……。
ボクも男の子なんだよ?
三題噺「白いスク水」「縦笛」「ランドセル」