三題噺「桃太郎」「蚊取り線香」「古いラジオ」
「………なんだ、お前?」
「やぁ!」
俺は突然現われた異質な不審者をなめまわすように眺めた。
「私のことは気にしないで下さいー」
「……そうか。俺は今取り込み中なんだ。邪魔だからどっか行ってろ」
俺が蝿を追い払うように手を振ると、男は顔を輝かせながら嬉しそうに言った。
「おや、蚊でも飛んでますかー? そんな時はー……」
そして、男は嬉々として鞄を漁りだすと
「はい、蚊取り線香ですー」
「はっ!」
「なんだ、その渦巻きは? ……いいからさっさとこの島から出て行け」
「あらー? どうやら違ったようですねー……」
男は意気消沈したように肩を落とした。
「ふん!」
しかしその直後、男は再びにこやかな笑顔で俺に話しかけてきた。
「はっはっはー。今のは冗談でしたー」
「……笑えない冗談だな。おい、お前。俺の評判を知らないのか?」
「おや、情報を知りたいんですかー? そんな時はー……」
「いいから話を最後まで聞け! それとその古ぼけたガラクタもさっさと捨てろ」
俺が男の話をさえぎって睨みつけると、男はまたもうなだれた。
「あらー。これも違ったようですねー……」
そう言うと男は今しがた取り出した古いラジオを鞄に再びしまいこんだ。
「とぉ!」
「はっはっはー。これも冗談でしたー」
そして男は再び眩しい笑顔を俺に向けてくる。
「嘘でも本当でも何でも良い! 俺は忙しいんだ! とっとと帰れ!」
「おや、お邪魔虫ですかー? そんな時はー……」
そして男は"それ"を取り出した。
「……へえ。良い物を持っているじゃないか」
俺は男に負けず劣らぬ笑顔を浮かべると、
「たぁ!」
"それ"を先ほどから目障りだった若者に向けた。
「……これは良い」
俺は太陽の光を浴びて鈍く光る"それ"を軽く振り回す。
目の前には『桃太郎』と名乗った侵略者が俺の一撃の下に倒れている。
「おい、これの名前はなんだ?」
男のいた方向に振り返る。
「はいー。金棒ですー」
そこに男の姿はなかった。
三題噺「桃太郎」「蚊取り線香」「古いラジオ」