英雄達の牙(ファング)
プロローグ
薄暗い部屋の中、蝋燭の僅かな光に照らされた5人の男達。
「お前達には私を思う存分楽しませてもらう。ただそれだけだ。」
「そいつぁいいなぁ。暴れまくってやるぜぇ。」
「必ずしも旦那様を満足させて差し上げます。」
「…了解…」
「ああ分かった。楽しませてあげるよ。………。」
そう告げた次の瞬間にはもう彼らの姿は無かった。
翻るカーテンの狭間から紅い光芒がゆらゆらと差し込む。
そして何処からとも無く風は吹き、蝋燭の火を掻き消した。
強者が弱者を消すように…。
THE TIME OF BEGINNING
「ジリリリリリン」
聞き慣れたクソみてえに乾いた音が耳に突き刺さる。
いつもならここで二度寝といくところだが、今日はそうはいかねえ。今日はこの番長・兵藤武蔵様が南雲高校の名を背負ってカチコミに行くからだ。俺らがカチコミに行く私立吹上高校は近頃近隣の高校のヤツらを手当たり次第にシメていやがる。
そんな調子に乗ったクズ共に現実を叩き付けるのが今回の目的だ。まあ、俺が単に暴れたいってのもあるがな。
俺は愛用の長ラン、ドカンに身を包み、右手にメリケンサック、左手に絶対的自信を持って家を出た。
「アニキ!遂にカチコミっスね!」
背後から妙に気合の入った声がした。こいつは白石。別に舎弟にした覚えはねえが、アニキアニキとやたら付き纏ってくる小柄な坊主頭だ。
面倒だから基本こいつは無視だ。そんな俺の希望も儚く散り、白石は遂に学校まで口を閉じることは無かった。
俺は十数人の同志と共に吹上へと向かった。
「カチコミかぁ。ロシアの血が騒ぐなぁ。大串。」
この超絶ゴツイ声は日向だ。ちなみに俺は大串じゃねえし、日向はロシア人じゃねえ。でもこいつは外人並いやそれ以上のガタイを持つ。
日向は南雲のナンバー2で、夢はハーレムらしい。まぁこのツラじゃあ無理だろう。
それぞれ熱い思いを滾らせアスファルトを踏みしめていたその時、吹上がそのツラを地平線から覗かせた。
「きったねー校舎だ。俺の歯より黄ばんでんじゃね?」
日向はタバコのヤニで汚れた歯を見せて笑った。ほかの奴らは冷めた目で日向を見ているが触れないでおこう。
「カチコミじゃ!!!コルァァァァ!!!!!!」
俺が叫ぶと吹上の校舎が遽しくなったのが手に取るように分かる。
すると吹上で番を張っている八神を筆頭に数えきれない程の雑魚共がワンサカ出てきた。八神の金髪リーゼントが妙に腹立つ。
興奮して俺の右手のメリケンサックがキリキリと鳴った。
「ショータイムの始まりだ。」
八神が拳を高く突き上げたのを合図に背後の雑魚共が一斉に襲い掛かってきた。
その時、急に突風吹き荒れ、何処からとも無く黒ずくめの一人の男が現れた。
男がおもむろに雑魚共に手を翳すと、一瞬にして奴らは校舎に叩き付けられた。
「弱き者に用は無い。強き者のみ集え。」
男がそう呟いたかと思うと、周囲は眩い閃光に包まれた。
「アニキー。」「兵藤ー。」
皆の声がどんどん遠くなっていく。遂に俺は気を失っちまった。
戦:始まりし時
目を覚ますと俺は小さな小屋の中に居た。そこらじゅうにナイフや銃が無造作に置いてあることから、古い武器庫と思われる。
俺は体に付いた埃を払いながら立ち上がり、外に出ようと扉を開いた。
するとその時、待ち構えていたかのように一人の男がダガーナイフで切りかかってきた。
刃は左肩を掠り、男は体勢を崩した。その隙を突き、俺はメリケンサックで男の顎を打ち抜いた。
その男は膝から地面に崩れ去る。その男の急襲にも驚いたが、外の風景を見て俺は目を疑った。
そこはこの世のものとは思えない地だったからだ。空は赤みがかり、真紅の月が顔を覗かせている。
荒れ果てた大地には、朽ちた草木が点々としていた。そこらの家屋は皆崩れ、人の住んでいる気配はまるで無い。
俺はもう気が気ではなかった。と、その時聞き覚えのある男の声がした。
「気分はどうだ。強き者達よ。いや人間達はお前達を番長と呼んでいるのだったな。お前達は今、次元を超越した場所に居る。
元の世界に戻る術はただ一つ、自分以外の番長を抹殺する。簡単だろう。私をとくと楽しませてくれ。」
何処からとも無く聞こえてきたその声の主はあの黒ずくめの男だった。
「抹殺…か。」
俺は気が乗らなかった。喧嘩は好きだが、殺しは気が引ける。それも互いに見ず知らずの人間を殺すのは…。
だが仲間のもとへ帰るためだ。俺はダガーナイフを2本、拳銃[M9]2丁に手榴弾、マシンガン[M63A1]1丁とありったけの弾丸を持ち小屋を出た。俺は高鳴る鼓動を抑えつつ、戸の近くにぐったりと横たわる男の喉にナイフを突き付けた。迷いがあった。
(俺は…コイツを殺すのか…)
できない。俺はナイフをしまおうとした。その時仲間の顔が頭をよぎった。
(日向、白石…帰らなきゃな。)
俺は覚悟を決め、男の喉をかき切った。大量の血しぶきが上がり、俺は返り血に染まる。
俺の中では罪悪感よりも仲間のもとへ帰らなければという気持ちのほうが強かった。
長ランの袖で血を拭いつつナイフをしまった俺は次の番長を抹殺しに歩き出した。
2km程歩いた頃だろうか、足元に糸が張られているのに気付いた。糸の先に爆弾らしき物が繋がれていることから、これが罠ということは見えたのだが、人の姿は見えない。すると背後からドサッと物が落ちる音がした。
振り返ると一人の男の死体が落ちていた。その時、上方からナイフが投げられ、俺は後ろに跳び、それをかわす。
「少しはやるようだな。」
ナイフが飛んできた方向から声がした。見るとベルトに数多のナイフを装着した上半身裸の男が鉄骨の上に立っていた。
蜂襲猛戦
俺の顔を見て不服そうに男は続けた。
「その顔じゃあ俺を知らないようだな。俺はスズメバチのシュウだ。いつもは針を使ってるんだが、今日はいいモンがあったんでな。」
(投げナイフ使いか。どうやらこの罠はその死体の男が仕掛けたものみてぇだな。)
そんなことを考えてるうちにシュウが動いた。シュウは鉄骨か飛び降りると同時に数本のナイフを投げた。
それをかわす俺だが、不覚にも拳銃とナイフを落としてしまった。ふと見ると目の前には1本のナイフが迫ってきていた。
それをギリギリでかわすもその刃は俺の頰をかすめ、罠の糸を切った。
「これで思いっきり暴れられんだろ。」
シュウはそう言ったかと思うと、瞬時に切りかかってきた。それを横に流すと、そのままシュウは転がりながら蹴りを繰り出した。
その蹴りが俺の太ももに入り、思わず膝を着くと、すかさずシュウは倒れた状態からナイフを投げてきた。
それを俺は倒れながらかわした。するとシュウは俺の上にまたがり、ナイフで首をかき切ろうとしてきた。
それを必死に受け止める俺だがこのままでは持たない。この距離だと手榴弾は当然のこと、マシンガンさえも使えない。
シュウの顔が息のかかるほど近づいた。とうとうヤバくなった俺は辺りを見回した。
すると糸を切ったナイフが地面に刺さっているのが目に映った。
(しめた!!!)
俺は手を伸ばそうとしたがこのままでは手が離せない。俺はシュウの目に向かって唾を吐きかけた。
唾は見事にシュウの目に入り、シュウは怯んだ。その隙に俺はナイフに手を伸ばし、シュウの首筋めがけ突き刺した。
「お前に怨みはないが、消えてもらう。」
俺は更に深くナイフを差し込んだ。シュウは断末魔の叫びを上げる間も無く息絶えた。
俺はシュウの死体をどかし、どんどん冷たくなってゆくシュウの横でぐったりと地に伏した。
影のプロローグ
その頃、あるビルの廃屋で2人の男が話していた。
「お願いだぁ。助けてくれよぅ。俺ぁ手負いなんだよぅ。」
右腕から血を流しながら一人の男は言った。
「やっと獲物が出たと思ったら手負いの上命乞いかよ。」
もう一人の男が呆れたように言った。
「まぁ、手負いのヘタレ野郎殺したところで面白くねぇし…」
「ありがとよぅ。恩に着るよぅ。」
手負いの男は呆れ顔の男にしがみ付きすすり泣いていた。と、その時
「…なんてね。」
手負いの男はそう呟くと怪我をしているはずの右手で懐から拳銃を取り出し、もう一人の男の額に向けた。
「どうもキミはボクの演技に気付かなかったみたいだね。知らないの?ボクは寺泊のカメレオン舐川忍だよ。」
そして真紅の月の下で乾いた破裂音が鳴り響いた。
未知なる恐怖
一方俺はそんな事は知らず、月明かりにほんのり赤く照らされた土の上で歩みを進めていた。
相変わらず人の気配は無く、この景色にも飽きてきた。そんな事を考えながらひたすら歩いていると、ちょっとした集落が見えてきた。
やはり人が住んでいる様子ではない。しかし近づくと一戸の家屋から数人の男の話し声が聞こえてきた。俺は壁に身を隠し、話を聞いた。
「同じ人間同士殺し合うのもなんだ。ここは一つ同盟を組んでもっといい脱出法を編み出そうや。」
「そら名案じゃのぅ。わしゃ乗った。」
「わいも人殺しにゃなりたないし、賛成すんで。」
どうやら男達は同盟を組み、番長全員抹殺以外の脱出法を考えようとしているらしい。
「くだらん。」
「何!!!」「何じゃ!!!」「何の用や!!!」
一人の男の声に家の中がざわついた。それもそのはずだ。その男の声とは、あの黒ずくめの男の声だったのだから。男は続けた。
「実にくだらん。人間の真理とは何か。助け合うこと。否。絆を結ぶこと。否。闘うことだ。闘うことを止めた愚者共に用は無い。行けクリムゾン。」
(クリムゾン。確かに男はそう言った。何者なんだ。)
壁の向こうでも、クリムゾンが何なのか恐れおののいた様子だ。
すると間も無くガゥルルルルルという獣の呻き声のようなものが聞こえた。それは途轍もなくデカく、おっかないものを連想させる様な声だ。
(遂に出るのか…。クリムゾン。)
そう思っているうちに、壁の向こうで男達の叫び声と銃を乱射する音が聞こえ出した。
「バッババ…バケモノだぁぁぁぁぁ!!!!!」「お助けぇ~」「ももっもう駄目じゃぁぁぁぁ!!!!」
すると数秒で静まり返ってしまった。気になってしょうがなかった俺は、恐る恐る壁の向こうを覗いて見た。
俺は目を疑った。そこには夥しい血しぶきの中に5mはあろうかという真紅の大狼が血の付いた牙を剥いていた。
「なっ!」
俺はつい声を出してしまった。大狼は俺の方を睨み、歩みを寄せてきた。
俺は腰を抜かしてしまっていた。大狼の息吹がすぐそこにまで迫っている。
(もう…終わりだ!!!)
俺は失望し、死を覚悟した。その時、再び男の声がした。
「そのへんにしておけ、クリムゾン。こやつはまだ見込みがある。私を楽しませてくれる見込みがな。フハハハハハハハハ!!!!」
そう男が言うとクリムゾンはその巨体を翻し、物惜しげに去って行った。
(アイツが…クリム…ゾン…)
俺は全身の震えが止まらなかった。声すら出せず、情けなくへたり込んでいた。とても動く気にはなれない。
何せ、番長しか居ないと思っていたこの異次元にあんな化け物が居たのだから。
俺は極度に落胆した。もう笑うしかなかった。脱出できる気がしない。俺は笑った。笑って笑って。どれだけの時が流れただろうか。
俺の頬には悲しみの雫がつたっていた。
「くそっ!!くそぅ!!くそぉぉぉぉ!!!!」
俺は叫び続けた。悔しくてしょうがなかった。少し前まで俺は無敗の番長で腕っ節には絶対的な自信があって、それで…それで……
「そんなに叫んでどうしたの?ボクちゃん。」
急に男の声がした。顔を上げると、色の濃い肌に金のネックレスをしたウェーブ頭の男がこちらに銃口を向け、立っていた。
暴狼餓狼
(ヤバッ!)
俺は男が近くに居たことに全く気が付かなかった。すっかりと我を失っていたのだ。
男はすぐに銃を放った。しかし銃弾は俺ではなく、俺の足元に穴を開けた。俺はゾッとしていた。
「フハハハ。俺が無防備な人間を殺すとでも思ったのかよ。俺は琉球の暴れ狼、岸間田政志だぜ。」
岸間田は得意気に笑うと銃を下ろした。
「武器取れよ。楽しもうぜぇ。ヒャヒャヒャ。」
岸間田は不気味に笑った。コイツは完全にこの殺し合いを楽しんでる。俺はゆっくりと立ち上がり、マシンガンに弾丸を込めた。
コイツは今迄のヤツらとは違う。俺の長年の勘がそう言い聞かせてきた。コイツからはヤバイオーラが沸くように出ている。
「ROUND 1. FIGHT!!!」
岸間田がそう言うと、俺達の本当の殺し合いが始まった。
俺が岸間田の上体を狙い、銃を放つとヤツは這い蹲るようにしてそれをかわし、俺の足に向かって銃を乱射してきた。
やがて一発の銃弾が俺の左脚を貫く。
「うぐっ!!!」
今迄に感じたことの無い、信じられない程の激痛が走る。息ができない。俺は片膝をつき、マシンガンを構えた。
俺はマシンガンを乱射したものの、その反動に耐えることができず、撃ち続けることができなかった。
それでも岸間田は手加減も無く攻め立ててきた。俺が乱射している分、ヤツの命中も無かったのだが、ついに左肩に穴が開いた。
血がドッと噴出す。俺はゴトリとマシンガンを赤く染まった砂の上に落とした。力を失った左腕がブランと情けなく垂れた。
その時長ランの裏でカシャンという金属の触れ合う音がした。その瞬間、小屋で手榴弾を持ち出していたことを思い出した。
岸間田はそれを知らずに、鬼の首でも獲ったかのような顔をして銃を構えだす。
俺は岸間田に悟られないよう、長ランに顔を突っ込むようにして手榴弾のピンを口で外した。
テレビやゲームで見る限り、ピンを外してから起爆まで少し時間がある。すぐに投擲してしまっては、ヤツに逃げられてしまう。
俺は震えながらピンを抜いた手榴弾を隠していた。すると岸間田は銃の引き鉄を引こうとした。それを見た俺は倒れるようにしてそれをかわした。それと同時に俺は隠していた手榴弾をヤツの足元目掛け投げつけた。
しかし思いのほか早く手榴弾が起爆してしまった。岸間田はその熱風で吹き飛んだが、恐らく死んではいない。
「くそっ!!」
俺は反動のデカイマシンガンは諦め、拳銃で止めを刺すことにした。
俺が長ランの内側から拳銃を取り出そうとしていると、血塗れの岸間田がゆらりと立ちあがった。
「ヒャッハー!!!まだだ、まだだ、まだだ、まだだぁぁぁぁぁぁ!!!!!!全然効いてねぇぜぇ~。グギャヒャヒャヒャ!!!!」
ヤツは完全に狂っている。アドレナリンが大量に出ているようだ。そうだとすればヤツの言うとおり全く効いていない。
しかしそれは痛みを感じていないだけ。一気にカタをつける!俺は岸間田の頭部に狙いを定めようとした。
しかし全身を駆け巡る激痛にそれを遮られる。だが、撃たないよりは撃った方がマシと思った俺はその引き鉄を引いた。
そして放たれた銃弾は岸間田の右脚を貫いた。ヤツは一瞬バランスを崩したものの脚を引きずりながら俺に迫ってきた。
(コイツ化け物か!!)
ヤツはかれこれ5発の弾丸を浴びているのだが、その歩みは留まることを知らない。
「俺は負けない!いや、負けられないんだぁぁ!!!!俺は最強なんだ!!無敵なんだ!!!そうじゃないといけないんだぁぁぁぁ!!!!」
(!!)
俺はドキリとした。コイツさっきの俺と同じじゃないか。熱いモノが込み上げてきた。なんて哀れなんだ。…そう思えてきた…。
するとその時、岸間田は銃を構え俺に向けると、右肩、左肩と銃を撃ち抜いた。…まさか
(これはっ!!トライアングル射法!!と、すると次は!!)
岸間田はゆっくり、そしてじっくりと俺の額に狙いを定めた。まず両肩を撃ち、動きを封じ頭を撃つ。これがトライアングル射法。
(流石に…ヤバイ)
「やっと…。やっとコイツに勝ったぞおぉぉぉ!!!!!」
岸間田が引き鉄を引こうとしたその時。ヤツはドサッと地面に崩れた。痛みは感じないとはいえ、やはり体が持たなかったのだろう。
「何故だ…何故俺が倒れる。…何故勝っていない…。何故…。何…故………」
岸間田はそれきり口を開くことは無かった。
「岸間田…」
あの時俺は自分の姿を見ているようだった。
(傍から見れば俺は…哀れ……なのか…)
生きる意味
俺は立ち上がろうとした。が、全く体が動かない。やはりこの傷では動くどころか生きられるかどうかも分からない。
その時様々なことが頭を過ぎった。こんな哀れな番長の下についていた仲間は今迄どう思っていたのか。
こんな哀れな男がたった一人死んでいき、それで誰かが悲しむのか。
岸間田と会ってから俺は自分の哀れさに直面した。すると何処からとも無くあの男の声がした。
「あの男…。ヤツならもっと楽しませてくれると思ったが見込み違いだったようだな…。にしてもお前。なぜ浮かない顔をしている。
ククッ。まあその傷では仕方ないか。お前はまだ私を楽しませるだけの面白みを持っている。その傷。治してくれよう。」
男がそう言うと、背後に人の気配がした。
振り返ると全身を純白の衣で覆った仮面をつけた男が立っていた。わずかに見える肌には包帯が巻かれている。
「我が名は回復術師シアン。旦那様が命により汝が傷。治しに参った。」
シアンはそう言うと、おもむろに俺に手を翳した。すると眩い閃光が走り、俺の傷はみるみるその口を閉じていった。
「なんてこった。信じらんねぇ。」
俺は全身を見てみたが何処にも傷は残っていない。
「シアンっつったっけ?お前一体…」
そういって振り向くも、そこに彼の姿は無かった。
そして俺は男の言葉を思い出した。
(また…闘えってことか…)
俺は立ち上がり、その虚空をじっと見つめ、自分の人生を悔いた。
そして赤く染められた大地を俺をあざわらうかのように乾いた風が吹き抜けた。
そのころ俺が目を覚ましたあの小屋で、一人の男が装備を整えていた。
「あのオッサン。ここどこだっつってたっけ?まぁいいや。人殺しかぁ。ロシアの血が騒ぐぜぇ。」
その男はロケットランチャーを手に取りながらそう呟いた。
過去悲愴
さんざん立ち尽くした後、俺は歩き出していた。
岸間田のことが頭から全く離れていかない。自分は何のために生きるのか。そんな事を考えながら進んでいると、大きなビル群が見えた。
ビル群といっても廃屋ばかりで、身を隠すぐらいしかできない状態だった。
よく見るといくつかの窓からスナイパーライフルがのびている。数人の番長が待ち伏せしていたのだろう。
俺がこのビル群に入っても撃ってこないことから皆死んでいることがうかがえる。
一つのビルの中へ入ってみると一階で一人の丸々とした男が血を流し横たわっていた。
男をよく見ると服のポケットに焼きそばパンとコーヒー牛乳が入っていた。
こっちへ来て何も口にしていなかった俺は、喜んでむさぼりついた。
(しまった!!警戒を解いちっまった!!!)
しかし、誰も襲ってこない。これだけ隙があれば一人や二人は襲ってきそうなもんだが。
そう思っていると、何者かの足音が速いスピードで迫ってきた。俺は音のする方へ銃口を向けた。
するとビルの入口から血の付いた右腕を押さえながら、一人の男が駆け込んできた。
男は俺を見るや否や、腰を抜かしたかと思うと、土下座してきた。
「たっ助けてくれぇ…。ハァハァ。お前を殺す気はねぇ…。ハァハァハァ。お願いだ…見逃してくれぇ…」
そう言って男は俺の脚にしがみ付いてきた。俺は一瞬許そうと思ったが、紅狼が頭を過ぎった。しかしそれ以前に…
(コイツの血…。まだ全然乾いてねぇ。おかしい。俺がこのビル群に入ってから40分は経ったはず。こんなに湿っているなら、銃声が聞こえるはずだ。俺はここへ来て一度たりとも銃声は聞いてねぇ。…って事は)
俺は全てを悟った。
「演技はそのへんにしときな。名優さん。」
俺がそう言うと、男は少し青ざめたように見えたが、すぐにこう言った。
「フフッ。寺泊のカメレオン。舐川忍の演技を見破るとは。やるね。キミ。」
そんな舐川に対し俺はこう尋ねた。
「お前。人を騙して殺そうなんて卑怯なマネしようとしてたんじゃねぇだろうなぁ!!」
「キミにっ!!キミにボクのなにがわかるんだよ!!!!」
「どういうことだ」
舐川は怒鳴るとそのまま続けた。
「ボクは中学の時。内気で暗い性格から、かっこうのイジメの的にされていた。酷いイジメをうけたもんだよ。
でも何よりもボクはっ…ボクはそれを見てみぬフリをする奴らがどうしても許せなかった!!
ボクがそいつらの前でどんなにイジメられようとも、誰も助けてはくれない。皆自分を守るだけなんだ!結局人は自分が可愛いんだ!!
自分が良ければそれでいいんだ!!!そんな奴らに文句を言いたくても、ボクはイジメられている身。何一つ文句が言えなかった。
ボクは中学校生活を捨てて、高校で変わろうと思った。髪を染めて短ランはおってボンタンまで履いた。でも中身は変われなかった。
その腹いせにボクは見知らぬ生徒に泣きついて、油断した隙にスタンガンで眠らせていた。
それを知った数人の生徒から『俺の嫌いなアイツを眠らせてくれ。』といつしか言われるようになった。
そんなものでもボクは友達ができたとおもってすごく嬉しかった。でもやっぱりそうじゃなかった。
スタンガンでターゲットを眠らせれば、その生徒との関係は終わり。口もきいてくれない。ボクは悔しかった。
友達だと思っていたのに。裏切られた気分だ。寺泊のカメレオンって二つ名だって自分で考えた。
誰もボクを見てくれなかったから。誰でもいいからボクに気付いてほしくて作ったんだ。でも…でも誰もそう呼んではくれなかった。
三年になってボクは遂にその時の番長をスタンガンで眠らせたんだ。ボクは喜んだよ。これでボクに気付いてもらえる。そう思った。
でも次の日、誰一人その話はしていなかった。ボクはやけになってその話を大声でしたんだ。でも皆の反応はボクの予想と違っていた。
『背後から人を襲った卑怯者』そうはっきりと言われた。もうボクは受け入れるしかなかった。だからボクはこんなやり方しか出来ないんだ。」
舐川はうつむきながら涙をこぼした。
「お前っ!お前バッカじゃねぇの!!!」
「!!!!」
俺が怒鳴ると舐川は演技じゃなく本当に驚いた様子だった。俺は続けた。
「お前はそれでいいのかよ!卑怯者のままで。もう変わりたいとは思わねぇのかよ!!!」
「それは…ボクだって変わりたいに決まってる!!!」
「そうだろ。じゃあ覚悟決めて正面からかかってこいよ!!男だろっ!!さぁ来い!!!」
すると舐川の目が変わった。さっきまでのくすんだ目じゃなく、一人の戦士の目に。
「ボクだって変われるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
そのやる気に満ちた瞳はただひたすら真っ直ぐな勝利を見つめていた。
すると突然一人の男がビルの中に入ってきた。男は舐川を見るや否や銃を向け、こう言った。
「見つけたぞ。卑怯者めっ!また人をだまくらかして殺そうとしてんだろ。そうはさせんぞ!!」
「いや!!違うんだ!!!」
俺は男を止めようとしたが、それも虚しく男の放った銃弾は舐川に幾つかの風穴を開けた。
俺はすぐに男の額を銃で撃ち抜いた。そんな俺の背後で舐川は力無く倒れる。
「舐川!!舐川しっかりしろっ!!!」
俺はもう虫の息の舐川に呼びかけた。すると舐川はみるみる青くなっていく唇を動かした。
「やっぱり…ボクは…卑怯…者…なの?やっぱり…変われ…ない…の?」
「そんなこたぁねぇよ!お前は変われた!俺に正面から挑んできたじゃねぇか!!お前はよくやったよ!!!」
「フフ。…ボクに…そんな事…言って…くれたのは…キミが…初めて…だよ…ありが…とう………」
そう言ったきり舐川の青い唇が動くことは無かった。
「舐川…。いや“寺泊のカメレオン”お前はよく頑張ったよ。」
俺の腕の中で静かに眠る舐川が心なしか、微笑んでいるように見えた。
俺は俺の中で大切な何かが砕け散るのを感じた。頬をつたう涙がそれを物語っている。
紅い月明かりが窓から寂しい俺の背中を照らしている。
しかしいつまでも立ち止まってはいられない。仲間のもとへ帰らねば。
硬甲強靭
俺はゆっくりと舐川の体を横にし、泣く泣くその瞼を閉じさせた。
俺はビル群を後にし、もう振り返らないと決めた。舐川のことも、岸間田のことも。
そして新たな一歩を踏み出そうとした時、俺の脚に一本の鎖が巻きついた。その鎖が伸びる方見ると一人の男が立っていた。
首に亀の刺青を入れたスキンヘッドの2mはあろうかという大男だ。
男が鎖を引くと脚が引っ張られ、俺は倒れた。するとすかさず男はもう一方の手を振った。
と思うと、チッチッチッと枯れ草を切り裂きながら鎖鎌が一丁地を滑ってきた。
俺はすぐに後ろに身を引き、それをかわした。それを見た男はこう言った。
「ほほぉ。イイスジしとんなぁ。感心感心。グハハハハハ。」
「お前。何者だ?」
「おっと。ワリィワリィ名乗り忘れとったなぁ。俺は四条畷四天王の一人。壁鎧の玄武や。」
四条畷四天王。聞いたことがある。それぞれ四聖獣の名前がつけられていて、四人揃えば手をつけられないという話だ。
しかしこの異次元で誰かと共に戦うことは不可能。しようものなら紅狼に喰われる。
「そういやお前の名前聞いとらんやった。お前何ちゅーんや。」
「ああ俺か。俺は南雲の兵藤だ。」
「そうかい。兵藤ちゃんか。ほいだら、楽しい戦いしようや。」
「フンッ。踊らされているのに気付いてないのか。あの黒ずくめの男に。」
「まぁ、気付いとるっちゃあ気付いとる…かな。まぁ戦えればええんとちゃうか?」
「悲しいヤツだ。」
そう言うと俺は鎖の絡みついた脚を思いっきり後ろに引いた。すると玄武は体勢を崩した。その隙に脚の鎖を解いた俺は銃を構えた。
と、その時、俺の背後のビル群から大きな物音がした。見てみると、ビルが崩れ、ブワリと砂埃が上がっている。
そのはざまに見えたのは、紅く逆立った硬毛。深い闇に包まれた紺碧の瞳。そう紅狼だった。
また誰かが手を組もうとしたのだろう。
「ほほぉ!!むっちゃデカイのんおったもんやなぁ!!!」
「感心してる場合かよっ!!!」
「まっ。この勝負はお預けや。俺が殺るまで死ぬんやないでぇ。」
「フッ。お前もな。」
前は紅狼から助かったものの、今回はわからない。俺と玄武はそれぞれ真紅の世界を散っていった。
ヤツがいるということは他の三人も居るはず。あの四人が手を組まないことを祈ろう。
俺が勝つためにも、奴らが紅狼に殺られないためにも。俺の手で奴らは殺す。
俺はそう決意しながら紅い大地を駆け抜けた。
精神透視~メンタルスキャン~
すると少しして、まだかろうじて壁のあるコンクリート製の物置を見つけ、俺は駆け込んだ。
そこには以前俺が目覚めた小屋より遥かに多くの武器が揃っていた。
俺は持っていたマシンガンと拳銃を捨てて新たに武器を装備することにした。
マシンガンは重いため、サブマシンガン[M10]2丁、また役に立つであろう手榴弾を今度はありったけ、軍バンに付けて腰に巻いた。
ロケットランチャー……は重いのでやめた。ふと日向のことが頭をよぎる。
(もし日向が居たら持って行ったろうな。ハハッ。)
ここへ来て数日と経っていないが、仲間のことが果てしなく遠く、愛おしく感じてきた。俺は海よりも深いため息を一つ、無意識についていた。
アイツらに会えないからだけでなく、アイツらが…本当に俺を…必要としているのか…という理由もあった……。
くそっ。振り返らないと決めたのに、岸間田との戦いの時のことをつい思い出しちまう。
仲間に会いたいのに、どんなツラして会えばいいのか分からねぇ。俺は複雑な思いを胸の奥底にしまい込み小屋を出た。
途端、上の方から声がした。
「へぇ。“仲間に会いたいのにどんなツラして会えばいいのか分からねぇ”かぁ。結構大変なんだね。」
見ると右の瞳の紅い、細身の男が屋根に腰掛けていた。それよりなぜヤツが俺の考えていたことが分かったのか不思議でたまらなかった。
「なぜ俺の考えていたことが分かる?」
俺は男に問いた。すると男はこう答えた。
「ハハッ。愚問だね。ボクの特殊能力、精神透視。これを持ってすれば心を読むなんて簡単さ。」
「精神透視?」
「そう。ボクの生まれ持った能力なんだ。キミの攻撃パターンだって簡単に読めちゃうんだよ。フフフッ。」
男は得意気に笑った。攻撃が読める。俺は信じられなかったが、あの時俺の心を読んだのは確かだ。
とっとと殺すしかねぇな。俺は銃を構えようとした。
「キミは銃を構える。」
!!ビビった。本当に俺の動きは読まれているのか。やっぱりあの能力は本物だ。ヤバイな。どうする。
「だから言ったじゃないか。もう読まれてるんだよ。あっそういえば自己紹介が遅れたね。
ボクは精神透視者ジルハック。よろしくね。」
「ジルハックって日本人じゃないのか?」
「フフッ。そう言うと思った。日本人じゃないというか、ボクは人間じゃないよ。キミもこの能力を知った時点で少し気付きかけたよね。
ボクは父さんに言われてキミと遊びに来たんだ。」
「ど…」
「どういう意味だよ。でしょ。だから読めてるんだよ。キミの質問も何もかも。」
ジルハックは食い気味で言ってきた。ちょっといや、かなりイラっとくる。そしてジルハックは続けた。
「ボクの父さんは混沌。キミ達をここへ連れてきた張本人さ。そう、今キミの頭をよぎった黒ずくめの男さ。
そして父さんはキミ達に醜い殺し合いをさせることで人間に醜態を晒させて楽しんでいるんだ。ボクもそのやり方には賛成。
だって人間って面白いんだよ。自分が助かる為なら迷わず同種族をも殺すんだ。キミだってそうでしょ。」
俺は返す言葉が無かった。なぜなら俺はヤツの言うとおり、今まで何人も人を殺してきたのだから。
「まっ。という訳で、父さんに“私を楽しませろ”って言われてキミと戦いに来たんだ。混沌親衛隊四神柱の一人であるボクがね。」
「!!!」
混沌親衛隊四神柱。まさか混沌には紅狼以外にも手先がいるってのか。
ということはコイツは紅狼並みの力を持っている…ヤバイ。どうする。
「ハハハッ。焦ってる焦ってる。キミの思ってるとおり、ボクは紅狼にも並ぶ戦闘能力を持っている。さぁ勝てるかな?ハハッ。」
虎牙一閃
そういうとジルハックは屋根からフワリと舞い降りた。ってか今浮いた!?マジで人間じゃねぇ。じゃあ一体何者なんだ。
「一体何者なんだって?それはまぁ、いわば神になれなかった者。かな。」
神になれなかった。でもなれなかっただけでそれだけの力は持ってるってわけだ。するとジルハックは意味の分からないことを言い出した。
「あれ?お客さんかな?ふぅん。隠れているのに不意打ちはしないんだね。まっ、したところで返り討ちだけどね。」
誰と話してるんだ?俺は周囲を見渡したが人の影は全く見えない。
「隠れてても無駄なんだし出ておいでよ。」
ジルハックがそう言うとさっきまで俺が居た小屋から一人の男が出てきた。驚いた。中に居た時、俺は全く男の存在に気が付かなかったのだ。白い長ラン、ドカンに白い鉢巻と全身白でキメたその男は腰に差した日本刀に手を添えて何も言わず、ジルハックに睨みを利かせた。
「普通に喋らずにボクの能力を使わせて会話か。でもちゃんと喋らないとその子がついてこれないよ。」
どうやら男はジルハックに心で話しかけていたらしい。するとやっと男が口を開いた。
「俺は四条畷四天王、影斬の白虎。俺には貴様を倒す策がある。せいぜい楽しんで逝きな。」
(影斬の白虎だと!?白虎は四天王の中でも最強と謳われる猛者。しかしジルハックを倒す策とは何なんだ?)
そう思っているうちに白虎は刀を鞘から抜いた。するとどういうことか、ジルハックは動揺した様子だった。
「キミ!どうやってその刀を手に入れたんだ?それは刀鍛冶の作品じゃないか!?」
「いかにも。これは異次元(ここ)で会った刀鍛冶より授かったもの。貴様がそこまで動揺するとは、これは相当の脅威なのだ な。」
「まぁ半分当たっていて、半分違う…かな。その刀は相当と言う程脅威じゃない。というか何故刀鍛冶(ブラックスミス)がキミにそれを授けたのか…。いや、なんでもない。ところで、その刀がボクを倒す策って言わないよね?」
「当然だ。」
白虎はそう言うと静かに眼を閉じ、幾つか深呼吸をした。すると急に平静を保っていたジルハックが慌てだした。
「何故?精神透視が出来ない。ま…まさか無心!?」
無心。そうか!心が読まれるなら心を無にすれば!…勝てる。これは勝てるぞ!!
白虎は慌てふためくジルハックを目にも留まらぬ速さで斬り上げた。
ジルハックから夥しい血しぶきが上がったかと思うと、ヤツの左腕はすでに宙を舞っていた。
「ボクがっ…このボクが傷を負うなんて…。何かの間違い…だよね。」
左肩を押さえながらそう呟いたジルハックは急に吹き荒れた強風と共に姿を消した。
「チッ。逃げられたか。」
白虎はそう言うと唖然とする俺をよそ目に静かに立ち去っていった。
(白虎。なんてヤツだ。アイツと殺り合って勝てる気がしねぇ。ってか、アレ?ジルハックが逃げなければ白虎は確実に勝っていた。
ジルハックは紅狼に並ぶ戦闘能力を持っている。ということは白虎と組んで紅狼を出現させ、それを共に狩ることも可能。
そうすれば仲間を作ることが出来て、そのまま白虎を留めておけば、他の四天王達も仲間に加えることが出 来る。そして混沌親衛隊四神柱を抹殺。そうすれば混沌も動かざるをえないはず。後は出現した混沌を瀕死に追いやり脅して元の世界へ…。完璧だ。よしっ…じゃあまずは白虎を…って居ない。)
考えるのが長すぎて白虎はその姿をくらませてしまった。折角掴みかけたチャンスだったのに…。まぁこの先嫌でも会うことになるだろう。何せ脱出法は全番長の抹殺なのだから。
その男…
俺は白虎の後を追うことなく、自分の道を歩き出した。そしてふと俺はこう思った。
(そういや白虎。あの男誰かと似たオーラを持っている。誰だ?あぁ、アニキか。懐かしいなぁ。アニキ。)
俺がアニキと慕う男。西園寺劉我。先代の南雲の番長だ。アニキは冷静で、それでいてどこか温かい。そんな人だった。
俺がまだケンカのいろはも知らなかった頃、俺は意味も無く下っ端につっかかっていってはケンカをする毎日を過ごしていた。
そんなある日。他校の人間にいつものようにケンカを売った俺だったが、あまりにも強く俺は膝を落としていた。
その時、朦朧と霞む景色の中、一人の男が俺達の間に割って入ってくるのが見えた。アニキだった。
当時俺はアニキと面識はほとんど無かった。普通なら下っ端ですらない俺なんか放っておくが、アニキは違った。
アニキは俺の為に必死に戦ってくれた。俺はそんなアニキに感激し、静かに涙を流していた。
すると全ての敵を倒したアニキがこちらへやってきた。そして、薄汚れたハンカチを俺の目前に無造作に置くと無言で立ち去っていった。
倒れた屈強な男達の呻き声の中を淡々と歩むその漢の背中を見て俺は決心した。この人みたいになるんだと…。
それから俺はアニキの下へ弟子入りし、ケンカの深さを学んだんだ。アニキ無くして今の俺は無いんだろうな。いや、決して無い。
あれからアニキと共に成長していった俺は遂にアニキに認められ、番長になる試練を受ける権利を得た。
試練は当然、アニキとのタイマンだ。あの日のことは今でも鮮明に覚えている。あれは2年の春先。アニキの卒業直前のことだった。
屋上で待ち合わせた俺達は互いに武器を捨て、紅い夕日に照らされながら対峙していた。そして一陣の風が吹く。
「手加減無用だ。武蔵。来い。」
「ああ。分かったよ。アニキ。全力で行かせてもらう!」
そう言うと俺はアニキに走り寄り殴りかかった。アニキはそれをひらりとかわし、俺の腹に膝蹴りを入れた。鈍い音がこだまする。
俺は効いていたが倒れるわけにはいかねぇ。左手で痛む腹を押さえながらアッパーカットを繰り出した。
その拳はアニキの顎を綺麗に捕らえ、アニキは後退りした。これで条件は同じだ。
そして、俺達はがっしりとコンクリートを踏み締めた。アニキの拳が風を切り裂きながら俺の顎に入る。
そして、すぐさま俺が拳を振るう。これの繰り返し。どれだけこれが続いただろうか。皆目見当も付かない。
俺達の顔はボコボコに腫れ上がり、口からは血が流れ出ていた。
そして、遂に一人の男が倒れた。……アニキだった…。俺は勝利の喜びと目標を越えてしまった空しさを一度に感じていた。
それから一ヶ月経ったある日。
アニキは次期番長である俺とバイクで海に行き、番長とはどうあるべきかという話をを口数少なく、要点のみしていた。
その帰りのことだった。先頭を走るアニキの前に一匹の野良猫がとび出してきた。それを避けようとしたアニキは大きくスリップし、転倒した。
俺はバイクを停め、ぐったりと血を流して横たわっているアニキに駆け寄った。呼び掛けるが返事は無い。
俺はすぐに救急車を呼んだがその時には……。
おっと長々と回想しちまった。まぁ今思えば優しいアニキらしい最期だったのかもな…。
そんな回想をしながらだだっ広い大地を歩いていると向こう側から金髪リーゼントの男が歩いてくるのが見えた。
あれっ?何でだ?妙に腹立つ。すると男はニヤリと笑いこう言った。
「久しぶりだなぁ。兵藤。あん時の続きとでもいこうかぁ。」
「誰だっけ?」
「ざけんな!!吹上の八神だっ!!!」
金神再戦
やっぱ八神か。確かにアイツには腹が立っていたが殺そうとまでは考えていなかった。気が引けるな。
といった具合で俺が銃を手にするか否か迷っていると八神はすぐさま銃口をこちらに向けた。
やっぱ殺し合いは殺し合いか。皆混沌の企みに気付けばこんなことは無いのに。血気盛んなヤツらにんなこと言っても通じないな。
「人間って悲しいもんだな。」
「あ゛ぁん?ワケ分かんねぇ事ぬかしてんじゃねぇ!!ショータイムだ!!!」
そう言うと八神の持つ二丁の拳銃が火を吹いた。まぁアイツも銃の扱いには慣れてないらしく、全く当たらない。
今の俺の敵じゃない。迷っててもこちらが殺られるな。俺は持っていたサブマシンガンを構えた。
そういやコイツを使うのは初めてだな。でも戦ってりゃあ扱えるようになるだろう。そう思って撃ってみた俺だったが…。
「何っ!!なんて反動だ!!!」
サイズ的になめてたが反動は一人前だった。片手じゃ到底使えない。俺は小さな機関銃を上品に両手で持って放った。
前より良くはなったがその反動が消えることはない。八神とは少し距離がありヤツに当たりはしなかったものの、八神はヤバくなったのか
手榴弾を投げてきた。俺はすぐさまそれから離れ、地面に伏せた。
しかし一向に爆発する気配が無い。すると足音が近づいてきた。見ると目の前に八神が居るではないか。
「ヘヘッ。手榴弾のピンは抜いてねぇよ。それなのにあんなにビビッて……。クククッ。恥ずかしっ」
「何だと。」
地面に転がる手榴弾をよく見ると確かにピンが付いたままだった。ヤバイ。この距離ならいくら初心者でも銃弾を当てられる。
そう思っていると、やはり八神は銃を構えだした。とっさに俺はヤツの膝を蹴った。
八神の上体が崩れたところを装備していたナイフで切りつけた。が、八神が後ろにかわしたため喉元を掠った程度だった。
かなり焦っていた俺はふとシュウのことを思い出した。
(投げナイフ!)
一刻も早くけりをつけたかった俺は持っていたナイフを八神目掛け投擲した。
空を切るナイフは八神の腹部を捉え、傷口からは紅い血が流れ出る。
「ぐぅっ。くそっ。まだ負けた訳じゃ…ねぇぞぉ!」
そう言うと八神はふらふらと逃げていった。俺は敢えてトドメを刺さなかった。敵とはいえ顔見知りだったからだ。
それにあの傷じゃもう…。………あっナイフ!……まぁいいか。…アニキもきっと……、こうしてただろうな。
足元のおぼつかない八神の背中を俺はじっと見つめていた。…心の何処かでアイツが死なないことを祈りながら…。
朱風舞翼
それから少しして歩き出そうとした俺はふと思った。
(これまで歩いちゃあ戦い、歩いちゃあ戦いだ。たまには休んどくか。)
ここらじゃ銃声も聞いてねぇし、敵は近くに居ないだろう。そう考え俺は大の字になって寝転がった。
気持ちいい…。こんなに安らぎを感じたのはどれだけぶりだろう。そうしていると、つい意識を飛ばしてしまった。
「こんな所で大の字で寝るなんて美しくないですね。」
急に声がして俺は目を覚ました。一気に現実に引き戻せれた感が凄かった。
そして目の前では色白で長い黒髪を後ろで束ねた男が2m程の槍を持ち、俺のほうを見ていた。
やがて一陣の風が吹き、男の持つ槍に括り付けられた旗が靡く。その紅い旗には一羽の鳥…いや朱雀が描かれていた。
「お前まさか…朱雀!?」
「おやおや。もう気付きましたか。なかなか察しがいいですね。うんうん。
美しいですよ。あなたの言う通り私は舞槍の朱雀です。どうぞよろしく。」
「あ…あぁ。よろしく。」
なんなんだ。この気の抜ける感じは。もるで闘志が湧かねぇ。
「まぁ。こんなに話していても美しい紅の大狼に食されるやもしれませんので、戦いましょうか。美しく。」
「お前。俺たちが争うことをやめたら紅狼が出ることを知っているのか?」
「えぇ。何度かお目にかかりませたので。」
こいつこんな感じだけどちゃんと四条畷四天王なんだよな。ここで戦うと流石にヤバイかも。
そして朱雀は槍の柄をこちらに向けたので、俺はそれを掴み立ち上がった。やっぱ戦わねぇといけねぇか。
まぁつってもこっちは銃で、向こうは槍。俺のほうが圧倒的に有利だ。そう思い俺はすかさず銃を放った。
するとなんと朱雀は銃弾を全て槍で斬り落としてしまったのだった。この槍はまさか…
「そいつぁあの刀鍛冶の作品か?」
「何処までも察しがいいですね。おっしゃる通りこれは刀鍛冶より授かりし槍。この輝き。しなやかな柄。美しいでしょう。」
やはりこいつに勝つのは無理だとふんだ俺はあの話を持ちかけた。
「朱雀。お前、俺と一緒に紅狼を倒さないか?」
「フッ。ご冗談を。あの狼に勝てるとお思いですか?」
「確かに。一人じゃ無理だろうさ。でも二人で挑めばどうにかなるんじゃねぇか?」
「それもそうですが、二人よりも五人の方が負担も少ないのでは?」
「おお!乗ってくれるか!!」
「えぇ。ですが一緒に居ては効率が悪い。二手に分かれましょう。私は玄武と白虎を追います。貴方は青龍を。」
そう言って朱雀はなにやらチップのような物を俺に手渡した。
「これは?」
「GPSです。私の持っているレーダーに貴方の居場所が表示されるので、私が二人を見つけ次第貴方の元へ参ります。」
そう言って朱雀と俺は二手に分かれ、三人の捜索を開始しようとしたその時、あの男の声が響き渡った。
「それは同盟と受け取ってもよいのだな?」
(しまった!小声のつもりだったが聞かれたか!!)
しかし混沌は思いもよらぬ事を言い出した。
「紅狼を倒そうとするとは面白いことになりそうだ。私は止めんぞ。ヤツを倒せるのなら倒して見せよ。ヌハハハハハ。」
アイツが紅狼を召喚しなかった!?助かったがこいつぁまた混沌に踊らされたな。まぁここ迄来て後戻りはできない。
そして俺達は今度こそ三人を探しに向かった。
この作戦がうまくいけば紅狼は勿論、混沌親衛隊四神柱も壊滅させることが出来るかもしれない。
そんな希望を胸に、俺は青龍の元へと急いだ。
異次元の踊り子達
青龍は噂によると片目が潰れ、全身に幾つかの傷と大きな龍の刺青のある男だ。
そんな厳つい図体のうえ、かなり怒りっぽいという。
……どんだけ近寄り辛いんだよ。他の二人と変えてもらえばよかったな。でも今更そうするのもちょっとな。
これから一緒に戦う仲間になるわけだし、しゃーねー。行くっきゃないな。
少し気が滅入った俺だったがそれもすぐに吹き飛んだ。
遥か彼方に湖が見えたのだ。俺はあの時のコーヒー牛乳だけでは足りなかったため、急いで駆け寄った。
しかしここは異次元。そこに俺の思い描いたオアシスは無かった。
湖の水は酷く濁り、とても飲めるようなものではなかった。
そのときの気分の落差は凄まじかった。またデブでも探せばいいか。俺は自分にそう言い聞かせて先に進もうとした。
しかしその時。一本の鉄繊維が首に巻きつき、締め付けていく。
「ぐっ」
俺は繊維を切ろうとナイフを取ろうとした。が、無い。しまった八神の腹に刺さったままだ。
繊維がどんどん首に食い込みつつ俺は銃を手にした。そして繊維に向け一発。
繊維はキンッと高い金属音をたてると地面にするりと落ちた。
俺は敵を把握すべく、背後を振り返った。しかしそこには誰も居ない。ただの死人の罠だったのか?
いや、違う。その時俺は湖の水面に同心円が描かれるのを見たのだ。
湖に誰か居る。そう思った俺は湖へ銃を乱射した。
が、無反応。と思いきや、幾つかのあぶくが昇ってきた。待っときゃいずれ顔を出すだろうと考えた俺はとりあえず待つことにした。
2分程度してついに男が顔を出した。その刈上げ頭の色黒の男は無理に落ち着いた顔をしているが、明らかに息が上がっていた。そして
「あなたが落としたのは金の斧ですか?銀の斧ですか?それとも鉄の…」
「鉛の弾丸です。」
そう言って俺は男を蜂の巣にした。奇襲をしかけて、俺の時間を奪ったうえ、ふざけた命乞いをした男に対し頭にきたのだ。
しばらくして頭が冷え、また混沌の思い通りになってしまったことを悔いた。
冷静でいねぇとまた混沌に踊らされちまう。アニキみたいに冷静に…な。
空斬銀翼
そう思っていると上空でゴゴゴゴゴという凄まじい騒音が大気を揺るがせた。見上げるとF-22戦闘機がふらふらと空中散歩をしていた。
かと思うと、その高度がよろよろと下がり遂に地面に打ち付けられた。
初めはなぜここにF-22があるのか戸惑ったが、別に不思議ではない。何せ武器庫があったのだから。
今迄見なかったのは、軍の基地を見つけられなかったのと、誰も飛ばすことができなかったからだろう。
さっきのヤツは離陸はできたものの、その他諸々が駄目だったのだろう。あんな死に方はしたくねぇ。見つけても乗るのはやめよう。
乗りこなせるヤツもまさかいないだろうし。……!!いる。乗りこなせるであろう人間が!!
その男の名は富崎龍矢。俺の中学ん時の同級生だ。アイツは父親が自衛官で戦闘機にも乗っていた。
それと富崎自身の戦闘機好きもあって、アイツは戦闘機の種類は勿論、操縦方法まで詳しく知っていた。
さらにアイツとは中学卒業時に別れたが、ケンカの腕は超一流だった。高校で番長になっている可能性が高い。
まさかさっき堕ちたヤツじゃないだろうな。いや、アイツならもっと上手く操縦できるはずだ。上にも警戒しなきゃな。
もし空襲をうけたらどうする。鉄の塊になんて歯が立たねぇよ。
燃料タンクを狙やぁいいだろうが場所が分かんねぇし。……とりあえず乱射すっか。
未知の恐怖と戦いつつ俺は新たな一歩を踏み出した。四方八方に警戒網を張り巡らせていると、目の前に胡坐をかく男が見えた。
そのガタイのすばらしくいい男はロケットランチャーと巨大なガトリング砲を持ち、どこか懐かしい風を吹かしていた。コイツは…まさか。
「日向……なのか?」
俺は考えるよりも先に言葉が出ていた。すると男は立ち上がり、そして振り返って微笑んだ。
「おう。久しぶりだなぁ。岩見。」
「岩見じゃねぇし。ハハッ。」
俺は日向にこのタイミングで会えたことが嬉しくて堪らなかった。
もし、朱雀と手を組む前に出会っていたら、殺さなくてはならないところだったかったからだ。
俺は日向に四条畷四天王と手を組んだこと、混沌(カオス)やヤツの手下たちと戦わなければならないことなど今までの全てを話した。
そして何よりも気になっていたあのことについて訊いた。
「お前は……」
「何だよ。」
「お前は俺の下についてて幸せか?」
「ガッハッハッハッ。なんだそんなことか?んなもん幸せに決まってんだろ。でもお前の下についた覚えはねぇぜ。」
「何?」
「お前は俺のマブダチだ。そうだろ?こうやってお前とつるんで暴れられんなら、そんな幸せなこたぁねぇぜ。」
「!!………ククッ。そうか。」
「ああ。当たり前だろ。」
「……ありがとよ。」
「あぁん?なんか言ったか?」
「いや。何でもねえよ。」
俺は今まで気が付かなかったが、最高の仲間を持ってたんだな。そんな感動に浸っていると遂にあの轟音が響いた。
あの時のF-22とは比べものにならない程のスピードで迫ってくるSu-37が俺の目に映った。
と、次の瞬間Su-37は機銃掃射を仕掛けてきた。俺と日向はあちこち走り回ってかわしたが、このままだと危ない。
あの腕。間違いねぇ。富崎だ。そうだ日向のロケットランチャーで。
「日向。そのロケットランチャーでどうにかなんねぇか?」
「うむ。あのスピードじゃあ当たるかどうか分かんねぇな。弾数少ねぇからなぁ。まっ。とりあえずやってみるわ。」
そう言って日向はこちらへ向かってくるSu-37に弾頭を向け、一発ブッ放った。
しかしSu-37は派手に旋回し、ヒラリとそれをかわした。
そして、体勢を立て直しつつ、こちらへミサイルを放った。
「もうだめだ。」
「くそっ。」
暴走青爪
しかし、そのミサイルは地面直前でゴトリと落ちると4つに割れた。すると落ちたミサイルの起こした砂埃の中で声がした。
「ゴウゴウゴウゴウうるせぇんじゃ!!ボケカス!!!マジでシバくでぇ!!!」
できることなら言う通りシバいてほしい。と思っていると除々に砂埃がはけてきた。
そこのは上半身裸で龍の刺青の男!さらに全身の傷!片目は……潰れてる!!まさかコイツ!!
「お前もしかして青龍か?」
「あ゛ぁん?せやが何か悪いか?」
青龍は巨大な鉤爪を付けている。恐らくこれであのミサイルを……。そうだ!!同盟のことを話さないと。
そう思っている矢先、Su-37が折り返してきた。
「何べんも何べんも懲りんやっちゃのう!おいっ!!ちょっと貸してみい!!」
「お…おう。」
青龍は日向からロケットランチャーを奪うように取り、Su-37に向け構えた。
「おい。アイツ相当上手いぜ。」
「うっせぇ!アホ!!やってみらんと分からんやろうがい!!」
そう言って青龍はロケットランチャーを放った。するとやはりSu-37はひらりとかわす。
それを見ないうちに青龍は次弾を装填していた。そして青龍は予想していたであろう点に一発放った。
するとそこにSu-37は見事に入っていき、爆発炎上。なんて野郎だ青龍。コイツは期待できる。早速同盟の話しを。
「なあ。おい。青龍。ちょっと話しがあんだけど。」
「なんや。とっとと言えや。」
「あぁ。実は朱雀と…というか四条畷四天王と手を組んで紅狼っつーバケモンを倒すことになってな。そこでだ。お前に協力して ほしいって話しなんだが。」
「あ゛ぁ?バケモン倒すだぁ?……そんバケモンっつーのは強えぇのか?」
「あぁ。相当。」
「よっしゃ。やってやろうやねーか!この暴爪の青龍様がそんバケモン、シバいたるわ!!」
よし。上手くいったみてぇだ。あとは朱雀たちと合流して……。アレ?アイツら何処にいんだ?
GPSは持ってっけど向こうがこっちに来るしか合流方法はねぇな。
とりあえずふらついて仲間でも増やすか。
「なぁ。青龍。」
「あ゛ぁ?何や?」
「朱雀たちが来るまで時間あんだろうし、そこらへんふらついて仲間でも増やそうぜ。」
「ほぅ。俺らだけやったら不安やってか?」
「い…いや。そんなワケじゃねぇよ。」
やっぱカラみづれぇ!!こりゃこのまま待ってたほうが楽だな。
「やっぱこのままココで待っとくか。」
「あ゛ぁん?待っとくじゃと?暴れようぜ、暴れようぜ!!よし!進むでぇ!!!」
あぁぁぁ!!!面倒せぇぇ!!!……もういいや。コイツに合わせといてやるか。
「分かった。進もうぜ。日向。」
「お…おう」
そう言って進みだした俺らだったが正直もうクタクタだ。戦いは青龍に任せとこう。
そう思いながら歩みを進めていると遂に人影が見えた。
茶髪で筋肉隆々の男だった。しかしこちらを見るや否や
「あの傷。刺青。せせっ青龍だぁぁ!!」
そう言って脱兎の如く駆けていった。しかし青龍はそれを逃がしはしなかった。
「おい!ちとその銃貸せや。」
そう言うや否や俺の持っていたサブマシンガンを取り、一発だけ放った。ヤツもこの銃の反動を知っていたのだろう。無駄には撃たない。
すると放たれた一発の銃弾は男の後頭部を貫いた。男は大量の血を吹き上げながら地面に沈んだ。
「あーあつまらん!!漢なら向かって来いちゅーんじゃ!!!」
恐らくコイツの噂が広まっている以上まともに戦えることは無いだろうな。
鎧崩覇轟
そこから何人の番長が逃げ出しただろうか。この展開にもいい加減飽きてきた。
そしてまた人影が見えてきた。赤髪でゴツい鎧を纏った大男だった。どうせコイツも逃げんだろ?もう面倒くせーよ。
そう思っていると男が口を開いた。どうせ助けてくれだろ。と思ったが、その予想は悉く外れた。
「貴様らなかなか遊べそうだなぁ。グハハハハハ!!」
「遊べそうじゃとぅ?ふざけたやっちゃのう。瞬殺したるわ。」
あーあ怒らせた。アイツもう死ぬな。そう思った俺だったがまたも俺の予想は外れた。
男を中心に風が吹いたかと思うと、俺のすぐ横の地面が大きく割れた。俺は確信した。コイツは混沌親衛隊四神柱だと。
「お前、混沌親衛隊四神柱だろ。」
「やっと気付いたか小僧。そうだ。俺は混沌親衛隊四神柱の一人。完全破壊者ジェノブレイだ。」
「あ゛ぁん?混沌ウンタラカンタラ?何じゃ?そら?」
くっそ。ここまで説明してなかった。
「え…と。コイツは、だな。青龍。俺が説明した紅狼に負けず劣らずの力を持つ四人組の一人だ。」
「ほお。強えぇんやったらそれでええわ。」
「紅狼?グァハハハハハハ!!あんなワン公と一緒にすんなよ。俺はアイツとは比べモンになんねぇぜ。」
「何?」
「俺は四神柱の中でもトップの戦闘力を持ってんだぜ?紅狼なんてクソみてぇなもんさ。グハハハハハ!!!」
「おい兵藤。青龍。コイツ俺ら三人じゃ勝てそうにねぇぞ。」
「ああ。そうだな日向。青龍ここは一旦退くぞ。」
「お゛お゛ぅ?退くじゃあ?もっと俺を楽しませぇ。俺は戦うでぇ。」
勝手にしろと正直思ったが、コイツに死なれては困る。畜生、ココに残るしかねぇ。
「さあて、遊ぼうぜぇ。グハハハハハ!!」
「上等じゃあ!!!コルァァァァァ!!!!」
青龍は鉤爪を振りかざしながら両手を大きく広げて聳え立つジェノブレイへ単身突っ込んでいった。
するとジェノブレイは左手を右手で押さえるようにして青龍に掌を向けた。
「ライジングオブクルセイダー!!!!」
ジェノブレイがそう叫ぶと俺の身体にはビリリと緊張が走り、ドフッという音と共に彼の手から光の筋が放たれた。
バリバリと轟音をたてながら空を切る電光は青龍のもとへと直進したが、青龍は鉤爪でそれを弾き飛ばした。
飛ばされた電光は風圧で地面をこれでもかというほど抉りながら小高い丘にぶち当たった。刹那、丘は平地となってしまった。
「甘いのぉ!!ジェノなんちゃら!!!んなもんじゃあ俺は倒せんぞぉ!!!!」
「いいぜ、いいぜぇぇぇ!!!!こいつぁ楽しめそうだぁ!!!!!…ところで、そりゃ刀鍛冶の作品だなぁ。
まぁアイツのことだ。なにか策でもあるんだろう。」
「お゛ぉう゛?何じゃとぅ?」
「ヘヘッ。なんでもねぇよ。さぁ、続きだぁ!!楽しもうぜぇぇ!!!!」
「上等!!!!」
もう俺や日向じゃどうにもならない位にヒートアップしちまった。と、思っているとあの男の声が響き渡った。
「そのへんにしろ。ジェノブレイ。こやつらはまず紅狼と戦わねばならん。お前が殺しては元も子もないのだ。」
「はいはい、分かりましたよ。…チッ、ここで潰しときゃいいのによぉ。」
「何か言ったか?ジェノブレイ。」
「い…いえ。何も…」
「なら良い。さあ退くのだ。」
混沌にそう言われてジェノブレイは渋々地面に光弾を放った。
そしてそれが巻き上げた紅い砂埃が引くともうそこにヤツの姿は無かった。
再会 -際会-
これには当然、青龍は怒り狂った。
「あんのヤロォォォォ!!!!試合放棄じゃとぉぉぉ!!!!許せん!!!!許せんぞぉぉぉぉぉ!!!!!!」
こりゃもう止めようがない。頭が冷えるまで待とう。日向も同感だったようだ。こちらを見て苦笑いをして見せた。
そんなこんなで20分。いや30分は経っただろうか。青龍の怒りは治まることを知らず悪化する一方だ。
もううんざりだ。そう思っていると遥か彼方に三人の人影が見えた。アレは、朱雀、白虎、玄武!!あぁ救世主だ。
俺は彼らに喜んで駆け寄っていった。
「朱雀っ!!青龍をどうにかしてくれ!!かれこれ30分は暴れまわってんだ!!」
「へぇ。まだ30分ですか。それは先が長いですねぇ。」
「ガッハッハッハ。アイツはパシリが焼きそばパンと間違えて焼きさばパンを買ってきた時三日三晩怒り散らしとったけんのぉ。」
「うぅわ。マジか…。(やっ…焼きさばパン!?何なんだその酷いパンは…実在するのか!?)」
「いかにも。こうなれば下手に話しかけないのが利口だ。」
青龍の方を振り返ると、日向に悲しそうな目で見つめられながら今だに暴れていた。思わず溜め息が漏れた。
「おい兵藤ちゃんよ。青龍とおるアイツは誰や?」
「あぁ。アイツはウチのナンバー2の日向だ。」
「おいおい。ここに来とるのは番長だけやないんか?」
「アレ?そういやそうだな。」
玄武の言う通り、何故アイツがここに居るのだろう。会ったときは興奮のあまり細かいことには気が付かなかった。
「おーい。日向。」
俺は再び日向のもとへ向かい、そして尋ねた。
「お前、なんでここにいんだ?」
「は?」
「だってここは番長しかいねぇはずだろ?なんでナンバー2のお前が…」
「あぁ、そりゃお前アレだ。吹上で何かメッチャ光ったときお前が消えていくのが見えてな。咄嗟に長ランの裾掴んだんだ。
そしたらなんか、そんままピカーっとなってここにいたんだ。」
「ああ。俺のバーターか。」
「うっせぇ。」
なるほど伝導か。そんなんでワープできんだな。
あ、そういや四条畷四天王が揃ったぞ。いよいよだな。すると再び混沌の声がした。
血飛沫の凱旋
「遂に揃ったようだな。さて、存分に楽しむが良い紅狼狩りをな。フハハハハハ。」
ヤツの笑い声が大地を駆け抜けると、あの忌々しい呻き声が聞こえ始めた。その轟きに俺達の士気はこの上なく上がった。
「遂にこのときですね。さあ、さあ!!!美しく舞いましょう!!!!」
「ガッハッハッハッハ!!!ワン公が俺らに勝とうたぁ、世も末だな。」
「フッ。滅すのみ…」
「紅狼とやら!!!俺は最高に機嫌が悪いんじゃ!!!!サンドバックになってもらうでぇ!!!!!」
「バケモン退治かぁ。ロシアの血が騒ぐなぁ。戸田。」
「戸田じゃねぇし。」
そんな事を言っているうちにあの紅い毛並みが十一の瞳に映った。その燃える様な紅に俺達の魂もかきたてられる。
先陣をきったのは、やはり青龍だった。
「てめぇが紅狼か!!!八つ裂きにしてくれるわぁぁぁぁぁ!!!!!!」
青龍は単眼をグワリと剥き、紅狼の元へと獣の如く駆けていった。
「おおっと。待てや青龍!!様子見いひんやったら…。ええい!!!クソッ!!!」
玄武は考えなしに突っ込む青龍を止めようとしたが、その甲斐なく青龍は紅狼に跳びかかってしまった。
すると紅狼は地面が割れんばかりの声量で吼えた。大地がグラグラと揺らぎ、遠吠えが耳に突き刺さる。
そして跳びかかっていた青龍は空中に居たため、踏ん張れず20m程、赤ん坊のように吹き飛ばされた。
「言わんこっちゃない。」
玄武が呆れたように漏らす。しかし青龍はすぐに立ち上がった。
「ナメとる…。ナメとるのぉぉ!!!が…、オモロいでぇ!!!ミンチにしたるわぁぁぁ!!!!」
相手の強さを改めて知ってテンションが上がっているのだろう。
それを見ていた他の2人も胸の鼓動が高まっているようだ。
「あぁ。なんと勇ましい旋律!!しかし私がすぐに消音して差し上げますよ。」
「圧倒的な力を前にして魂が奮い立つ。フッ俺も取り憑かれたか…。武神に…。」
一方日向は初見のバケモノに戦慄を覚えた様子だ。
「あ…あれが紅狼か…。ロッロシアの血が騒ぐぜ。」
日向が無理をしているのが手に取るように分かる。すると玄武が、いつになく冷静に指示を出した。
「バケモン相手に正面から突っ込むんは無望や。俺と兵藤ちゃんと青龍でヤツの注意をそらす。
そん間に朱雀と白虎、そんでそこの怯えとる日向ちゃんが背後から一発かますんや。これでアイツもバタンキューや。」
四人はこの策に賛成したが、一人だけ反対する者がいた。青龍だ。
「俺が引きつけ役じゃとぅ?ふざくんな!!俺がアイツをグシャグシャにするんじゃ!!俺に討たせい!!」
「まぁ落ち着けや。正面からお前がぶっ潰しゃええこっちゃ。」
怒る青龍を玄武が落ち着かせる。まぁ確かに正気でなければ紅狼に勝つのは難しいだろう。
「おお!!せやなぁ!!俺が正面からブッ飛ばしてくれるわぁ!!!」
青龍も納得したようだ。そんな中、紅狼はこちらが襲いかかるのを待っているようだ。
おそらく混沌から自ら攻めないよう言われているのだろう。
「ほいだら、三つ数えたら行くでぇ!!一…」
「ううおおぉぉぉりぃやぁぁぁぁ!!!!」
玄武の指示も聞かず、青龍が攻め出た。まぁこうなるのは薄々感づいてにたが…。まぁいい。行こう!
俺達は武器を構え、そして高鳴る鼓動を抑えて、あくまで冷静に紅狼の方へ駆けていった。
俺と玄武と青龍はヤツの目前で一旦立ち止まり、挑発も兼ねて一斉攻撃をしかけた。
サブマシンガンの威力を学習済みの俺は手を下に添えるのではなく、反動の出る上に添えて弾丸を放った。
反動はかなり少なくなったが、紅狼の毛が弾丸を絡めるようにしているためダメージは皆無のようだ。
一方玄武の鎖鎌は紅狼の右前足に突き刺さり、血飛沫が上がったもののヤツに大したダメージは無いように見える。
そんな俺達を消すため、紅狼は右前足の鎖鎌を払うと同時に足を振りかざし、俺らに向かって振り降ろしてきた。
すると青龍が落下点に潜り込み、ヤツの肉球に鉤爪を突き立てた。
これには流石の紅狼も多大な痛みを感じたらしく、足をすぐに遠ざけ、情けない声を上げながら後退りした。
そのころ紅狼の背後に回り込んだ三人は一斉攻撃を既に行っていた。
日向の巨大ガトリング砲がヤツの左後足に降り注ぎ、右後足には白虎と朱雀の刃が一閃する。
サブマシンガンよりガトリングの方が威力があるため、きちんと着弾している。
白虎と朱雀の攻撃も大量の血飛沫が上がっていることからヤツの少なからず効いているのが窺える。
しっかしタフな野郎だ。ダメージがあれだけ蓄積してもまだ倒れない。
そこで俺は狙いを上げ、眼球を狙い銃を放ってみた。すると見事に命中そ血が噴いたが、脳には達していないようだ。
しかしそのダメージは多大なものだったらしく、よたよたと倒れこんだ。するとヤツは再び咆哮した。
その咆哮はさっきのものとは段違いに大きかったため、俺達は皆4、50mは飛ばされた。
再び紅狼の方に目をやり、俺達は唖然とした。紅狼の上に四人の人影が見えたのだ。
言うまでもない。混沌親衛隊四神柱だ。
各々の闘い~FIVE WARS~
「グハハハハ!!遊びに来てやったぜぇ!!小僧!!!」
「汝らに怨みは無いが、旦那様の命。汝らを消させてもらう。」
「フフッ。あの時は油断していたよ。白虎。」
「!!!」
俺と白虎は驚きを隠せなかった。斬り飛ばしたはずのジルハックの腕が存在していたのだ。
「フフッ。この腕?これはシアンに治してもらったんだ。シアンの回復(リカバリー)能力に助けられたよ。」
(クソッ。シアン。アイツが…。)
するともう1人。機械的なスーツを身に纏った。いや、スーツと一体となった男が低く、不気味な声で語った。
「混沌様…言ッタ…汝ラ…殺セ…。ダカラ…我…汝ラ…殺ス…」
その男を見た四天王たちは驚愕していた。
「お前は…刀鍛冶!!」
「!!!何だって!?」
「なんと…。刀鍛冶は四神柱だったのですか?」
「イカニモ…我…混沌親衛隊四神柱…刀鍛冶…ファルスメイ…」
「刀鍛冶って、お前らが武器を貰ったってヤツか?」
「あぁ。間違いないで。アイツに俺らは武器をもろうたんや。が、しかし何故敵の俺らに渡したんや?あー!!ワケん分からん!!!」
玄武だけでなく、他の三人も戸惑いを隠せないでいる。そんな折、紅狼がゆっくりと立ち上がりはじめた。
四神柱は紅狼から飛び降り、四方へ散った。すると冷静になった白虎から俺に指示がとんだ。
「兵藤。俺達は四神柱の排除に向かう。お前と日向は紅狼の息の根を止めろ。
安心しろ。ヤツは弱っている。二人でも大丈夫だ。」
そう言うと白虎を始めとして四人は四神柱を追って四方へと散った。
「白虎!!よくもボクに傷を負わせたねぇ!!!もうボクは能力に頼らない!!実力でキミを倒してみせるよ!!白虎!!!!」
「フッ。怒りを表に出すとは。お前の負けだ。怒りは筋肉を硬直させ、動きを鈍らせる。勝負あったな。」
「フフフフフッ…アァッハハハハッ!!!!!それは人間の話だよねぇ?言わなかった?ボクは人間みたいに愚かで醜い存在じゃない!!
ボクは神になるべき存在なんだ!!なのに何故天は認めてくれないのか。ボクは分からなかった。でも今分かった気がするよ!!!
強さだっ!!!強さが足りないんだ!!!!世界を統べるのに必要ものっ!!!それは力!!!!力こそ全て!!!!人間如きに腕を飛ばされるボクじゃ駄目なん だっ!!!でも今!!ボクは強さを天に証明する!!!キミをっ!!!キミを八つ裂きにしてねぇ!!!!白ああぁぁぁっっ虎おおおぉぉぉぉ!!!!!!」
ジルハックはそう言うと一瞬にして白虎の目前へと移動し、白虎が反応するより先にボディブローを入れた。
「グハァァ!!」
白虎は呆気ない位吹き飛んでしまった。ほんの一瞬の出来事だった。凡人なら見えないほどのスピードだ。
「ボクは天に認めさせてみせる。見ててよね。父さん。」
そう呟いたジルハックはどこか遠くを見つめていた。
すると岩の砕ける音がした。ファルスメイと玄武だ。
「痛ってぇ!くっそ!!油断してもうたわ。今度は本気でいくで!!」
どうやら見たところ玄武はファルスメイに不意を突かれ、飛ばされたようだ。
岩に打ち付けられた玄武にファルスメイは獅子が如くゆっくりと機械音をたてながら歩みを寄せる。
「何故…汝…立チ上ガル…。大人シク…倒レレバ…ヨイ…モノヲ…。」
「そりゃあお前、戦いてぇし負けたくねぇけんに決まっとるやろうが!!」
「人間…分カラナイ…。」
(というかファルスメイはなんでサイボーグなんだ?刀鍛冶感が全く無い。)
そう俺が思っていると、それを読み取ったジルハックが答えた。
「フフッ。刀鍛冶も元はあんな姿じゃなかったよ。あいつはああなる前、あまりにも禍々しい武器を大量に作っていたんだ。
そんな武器を作り始めて3年位かな?アイツは体中痣だらけになってワケの分からないことまで言い出したんだ。まぁ、皆すぐに気付いた よ。あの武器たちの呪いだってね。酷いモンだよね。自分で作った武器に呪われる。でも結局は自業自得さ。それから呪いは酷くなる 一方でサイボーグ化無しでは生きられなくなったってワケだよ。」
なるほどよく分かった。ところでこの長いジルハックの話の間、白虎はきちんと待っていた。侍だなとつくづく思う。
そしてファルスメイは、両手首から黒銀の刃を出し玄武に斬りかかる。
玄武はその巨体を軽快に揺るがせ、強大な刃の一閃を次々とかわす。
その隙を見た玄武はファルスメイの脚に鎖を巻きつけ、引き倒そうとした。
しかしファルスメイの脚はしっかりと地面をとらえたままビクともしなかった。
すると脚の一部が展開し、円盤状の鋸を出し鎖を断ち切ってしまう。
これには玄武も驚いた様子で咄嗟に鎌を突き立てようとしたが、カキンと弾き返されてしまっている。
「人間…我ガ…相手…否…」
一方、朱雀とシアンは未だに睨み合いの状態だ。
「汝らは無謀な賭けに出た。人間如きが我ら未神に勝とうとは。何やら策があるのか。はたまた無策で死に急ぐのか…。
いずれにせよ、我らは汝らを消すのみ。」
「ほほう。なかなか言ってくれますね。しかし、あなたは気付いていない御様子です。あなたのその純白の衣が真紅へと染まる時が
刻々と迫っていることに…」
「我にそのような脅しは通用せぬ。」
「通用するも何も今のは脅しではなく事実ですよ。疑うのならそろそろ始めますか。」
朱雀がそう言うと思案は黄金に煌く槍を出現させ矛先を朱雀へ向けた。
それを見た朱雀は少し戸惑いつつ旗槍を構え、シアンの懐へ潜り込む。
「プリミティブダム」
シアンがそう唱えると黄金の槍から眩い閃光が放たれ、朱雀を吹き飛ばす。
体勢を立て直した朱雀が見たものは、仄かに輝きを放つ半透明の壁に覆われたシアンだった。
「バリアとは卑怯ではありませんか?」
朱雀が少し苛立った様子で言った。
「我に勝利しようというのなら、まずこれを破ってみせよ。」
「なるほど。それなら、上等ですよ。」
そう言った朱雀の眼は今迄とは違った純粋な闘志が支配している。構えた槍にはただシアンのみが映る。朱雀が地面を蹴った。
するとある男の叫び声が聞こえてきた。言うまでもなく青龍だ。
「また会ったのう!!ジェノなんちゃら!!楽しい戦いができそうじゃ!!!」
「グハハハ!!小僧がまだ生きているとはなぁ!!ワン公にとっくに喰われたと思ってたぜぇ!!!」
「あ゛ぁ!?ふざくんなデカブツがっ!!!あんなモンに俺が喰われるかい!!!」
「そりゃそうさなぁ!俺の見込んだ男だぁ。あんなのに殺されちゃあ困るってもんだぜぇ!!!」
「お前に言われてんあんま嬉しないのぉ!!まぁええ!暴るぅでぇぇぇぇ!!!!」
青龍はそう言うと鉤爪を紅い月明かりに煌かせジェノブレイへと駆けていった。
その間にジェノブレイは両手を天に掲げ、なにやら唱えだした。
「クルセイダーズサウザントメイス!!!」
ジェノブレイはそう言うと同時に天に向けていた掌を青龍に向けた。
するとその両手から無数の光軸が放たれ、青龍へと一直線に飛ぶ。
青龍は最初の数十発こそかわせたものの遂には被弾してしまった。青龍はその後追い討ちをかけるが如き光に打ちつくされた。
しかし青龍はその身体の傷が一層増えてもなお立ち上がる。
「ほう。立つかぁ!!まぁそうじゃねぇと面白くねぇしなぁ!!!グハハハハハ!!!さぁ!もっと遊ぼうぜぇぇ!!!」
「上等じゃ……上等じゃぁぁぁぁ!!!!コルァァァァァ!!!!」
そして俺達と紅狼だが、最初よりは大人しいものの戦闘力は確かなバケモノと抗争を繰り広げていた。
俺はヤツの顔面に向け銃を放つ。しかしなかなか軟部に当たらずダメージは無い。
するとヤツは右前足を上げ、俺を潰しにかかった。すぐさま日向が上げられた足に向けロケットランチャーを発射する。
ヤツの右前足はその弾頭をまともに喰らい木っ端微塵になった。辺りには血の雨が降り注ぐ。紅狼は再び倒れこんだ。
「日向!!その調子でもっとブッ放せ!!」
「ワリィ兵頭!もう弾頭がねぇ!!」
「なん…だと?」
「まぁこっちのガトリングでいってみるわ。」
「あぁ!!頼む!!」
こうして弾数に限りのある俺達は相手の急所を探りつつ攻撃を続けた。
白き鋼の闘志
そのころ白虎とジルハックは激しい攻防を繰り広げていた。
白虎が眼を閉じているため、気配だけで戦っていることが窺える。
まぁあのスピードを肉眼で捉え、判断するのは不可能だろう。第六感というものが必要だな。
ジルハックの拳を横にかわした白虎はここぞとばかりに斬りかかる。
しかし刃がそこに至る前にジルハックは姿を消し、白虎の背後に回り込んでいた。
ジルハックが攻撃のため拳を引く頃には白虎の体勢は整い、刀身を背に這わせていた。
ジルハックの拳は刀身に直撃し隙が生まれる。それを突き、白虎は刃をジルハックへ向けそのまま切り上げた。
その一閃をジルハックは見切り、身体を横に捻りかわすが、頭が僅かにおくれ、右耳が落ちた。血飛沫が上がる。
すると朱雀の攻撃を止めていたシアンがジルハックへ掌を向けた。すると案の如く閃光が差し、ジルハックの耳が元に戻る。
それに対し一瞬動揺した白虎は集中力が一時的に乱れた。
それを見て取ったジルハックは瞬時に白虎の左手を掴み、握り潰した。ベキゴキグシャッという生々しい音が響く。
「グアァァァァ!!!グッ!ゥグ!!」
「フフフッ。こんなものなの?白虎。反撃しないならもう終わらせちゃうよ。ボクの強さを証明してね。」
そう言うとジルハックは白虎の腕を掴んだまま白虎の腹に蹴りを入れる。
白虎はジルハックの手の中に左腕を残したまま、地面を引きずるように吹き飛ばされた。
「あの時のお返しだよ。白虎。もっともキミのは元に戻らないから高くついたけどね。フフフッ。でもこれで終わっても面白くないよね。
そうだね~。次は足でも千切ろうかな。フフフフッ。」
不気味な笑みを浮かべながらジルハックは白虎へと迫っていく。
白虎はそんな中、尽きようとする力を振り絞り刀を手に取った。そして、ジルハックが白虎の右足に手をかける。
すると白虎はすかさず足を引きながらジルハックの胸に刀を突き刺した。
「俺は…戦う。己が…信念…貫き…通すまで……。散れ…ジルハック………」
しかしジルハックは白虎の胸座を掴み、
「キミが悪いんだ。白虎。大人しくしていればよかったのに。」
そう怒りを抑えながら言うと右手で白虎の顔面を貫いた。
白虎の顔は原型を留めないほどに崩れ、辺りは血で紅く染まっていく。
「ボクは勝ったんだ!!ボクは強さを証明したんだ!!!見てた?父さん!!!ボクはやったよ!!フフフッ…アアァッハハハハハ!!!!ザマぁ無いね白虎!!」
すると何かが空気を切り裂きながら進み、ジルハックの首を通過する。それはその後地面に突き刺さった。鎖鎌だ。
そしてジルハックの首はドサリと地面に落ちた。
「残念やったな。ジルハック。能力を使わなかったがゆえ、そして正気を失ったがゆえに隙だらけや。」
そう言った玄武の握った拳はプルプルと振るえ、頬には涙が伝っていた。
すると玄武の背後に刃を振りかざしたファルスメイが現れた。それに感づいた玄武はすぐに鎖を引き、鎌を手にする。
その鎌を振り向きざまに突き立てると丁度ファルスメイの右手関節部分、装甲と装甲の間に刺さった。
ファルスメイは傷口からビリビリと外部に電流を漏らしながらなにやら呟きだした。
「右手…感覚機能…ショート…。被害…拡大…可能性…アリ…。右手…全機能…遮断…。尚…分離…」
するとファルスメイの右手はプシューという脱力音を立てると腕の付け根から落ちた。
断面は変形してカバーしている。
奪う非情さ×失う哀愁
すると死んだはずのジルハックの声が聞こえてきた。
頭部だけになっても尚生きていたのだ。なんという生命力(バイタリティー)。
「フフフフッ。まだ終わってはいないよ。さぁ、シアン。ボクを元の姿に戻すんだ。」
「不覚ながら我にそれは不可能。そこまでの深手となれば回復は見込めん。」
「何?この役立たずめっ!!そうだ!父さん!!父さん助けてよ!!父さん!!!」
すると混沌の声が響きだした。
「ジルハックよ。人間如きにここまでやられるお前に我が息子を名乗る資格は、無い。生き恥めっ!!消えるがいい!!!」
すると天から黒く輝く雷が幾つもジルハック目掛け飛んでくる。これにはジルハックも激しく動揺した。
「どうして?どうしてだよ!!父さん!!ボクはこんなに父さんのために捧げてきたのに!!!どうして…。どうしてえぇぇぇぇぇぇ………」
ゴゴゴゴゴという激しい轟音の末、地面には巨大な穴が開き、ジルハックの姿はい跡形もなく消し去られた。
この衝撃の展開に俺達は敵味方の域を超えて驚愕する。
まさか自らの名誉の為とはいえ実の息子を手にかけるとは誰一人として思わなかったのだ。
「クッ。大事な仲間が死んだが…。混沌様の意思じゃあ。仕方ねぇ。クソッ。」
「チクショー!!!!白虎がっ!!白虎がぁぁぁぁぁ!!!!!全てお前達の…お前達の頭のせいじゃぁぁぁ!!!!!」
青龍がより一層ヒートアップしたようだ。また激しい戦いが始まるだろう。
すると青龍は鉤爪を構えなおし、ジェノブレイに向かって今までより速く、そして力強く駆けていった。
「ウオォォォォ!!!!くたばれぇぇぇぇぇ!!!!!ジェノなんちゃらぁぁぁぁぁ!!!!!」
「無駄な足掻きだ!!!クルセイダーズグランドフレイル!!!!」
ジェノブレイが唱えると地面から幾つもの岩が突き出してきた。青龍はそれを見事にかわしつつジェノブレイへと迫っていく。
「何っ!?ええい!!!バリケードオブクルセイダー!!!!」
ジェノブレイがそう叫ぶと地面が大きく隆起し、巨大な壁が現れた。
しかし青龍はそれをものともせず打ち砕いてしまう。
「もらったぁぁぁぁ!!!!!」
青龍はジェノブレイに跳びかかった。しかし青龍の鉤爪はジェノブレイの重鎧に阻まれてしまう。
「ええい、くそ!!せこいやっちゃ!!そんでなんや。さっきからクルセイダー、クルセイダー言うて。」
「そうか!!小僧はまだ知らねぇんだったなぁ!俺がアルビジョワ十字軍の末裔ということを!!」
「ほう!!じゃけんクルセイダー技ばっか使いよるゆうわけや!!スッキリしたで!!ほいだらお前は人間ちゃうんか?」
「グハハハハ!!!アルビジョワ十字軍初代首領は未神だった!!その血を引いたのが俺というわけだ!!」
「なるほど!疑問が消えたところでお前にも消えてもらうでぇ!!!ジェノなんちゃらぁぁぁ!!!!!」
「いい加減名前覚えろクソッタレェェェェェ!!!!」
二人は再び交戦に入った。
朱き血潮の信念
そのころ朱雀はシアンのバリア破壊寸前の所にまで至っていた。
「我がプリミティブダムをここまで弱らせるとは。人間にしては上出来だ。」
「ご安心を。きちんと破壊して差し上げますよ。」
そう言って突いた渾身の一撃はパリンッという高い音を響き亘らせバリアを砕いた。
「さぁ序曲が終わった所で、そろそろ鎮魂曲を奏でましょうか。」
そう言って朱雀が矛先をシアンに向けたとき、シアンが何やらブツブツと唱えだした。
すると魔法陣、しかもかなり分厚いのもが現れた。
「これは!!魔法陣!!!」
「いかにも。しかし単なる魔法陣に非ず。これは魔法陣を幾重にもしたもの。立体魔法陣。果てしない魔力を要するがゆえ、存在し得ないと
言われたが…。我は全時空で唯一それを身につけし者。これを受けし者は決して立ってはいられぬだろう。」
「ええ。そうですか。でも私は意地でも立ってみせますよ。漢なのでねぇ。」
やがてシアンの呪文が終わりに近づき、突風がシアンを中心に吹き荒れる。飛ばされぬよう踏ん張っているので精一杯だ。
すると遂にシアンは呪文を唱え終えてしまった。
「エターナルバーンスカーレットテンペスト!!!!」
シアンがそう叫ぶと、立体魔法陣から一筋の図太い炎の嵐が朱雀へ向かい噴き出した。
灼熱の炎は朱雀を包み込み、誰もが終わりと感じていた。しかし黒煙の狭間から人影が覗いた。
全身傷だらけになりながらも二本の脚でしっかりと地面をとらえ、立っていた。
「なっ!?我が最強の魔法に耐えただとっ!!!」
「だからグッ…言ったでしょうゲホッ…立ってみせるとグフッ…ゴホッ…」
「しかし次で終わりにして進ぜよう。その傷ではもう耐えられまい。」
そう言って再びシアンは呪文を唱え始める。しかし朱雀はここぞとばかりに槍を構え、それを全力で投擲した。
槍はシアンに向かい一直線に飛んでいき、彼の張った立体魔法陣にぶち当たった。
朱雀の槍は一枚、また一枚と魔法陣を突き破っていくが、次第に勢いは衰えていく。
すると朱雀はそれを悟って駆けていった。そして槍を掴み更に深く刺し込んでいく。
シアンの呪文も激しさを増す。しかしシアンの魔法陣作成よりも早く朱雀の槍は突き進み、遂に魔法陣を全て破壊した。
朱雀は勢いをそのままにシアンに一気に槍を突き刺した。槍はシアンの仮面を貫き、頭部を貫通した。
仮面は砕け散り、そこには焼け爛れた青年の顔。心なしか安らかに眠っているように見える。
しかしそれもつかの間。その目は開き、朱雀に手を伸ばしてきた。
朱雀は咄嗟に腰の短剣を抜き、シアンの首をかき切る。身体はドサッと地面に崩れ落ち、槍には頭だけが刺さっていた。
「鎮魂曲…完奏ですね…」
朱雀はそう言うとシアンの頭を槍から抜き取った。するとジェノブレイが叫び声をあげる。
「貴様!!!よくも俺の仲間をおおぉぉぉ!!!人間如きが調子に乗りやがってええぇぇぇぇ!!!!」
人間に仲間を殺されて酷く怒り狂っているようだ。
「アルティメット……クルセイダーアアアァァァァ!!!!!」
ジェノブレイが叫ぶと、彼の鎧には大きな紅い十文字が浮かび上がり、地面がグラグラと揺れだした。
更には強風が吹き荒れ、辺りには黒雲が立ち込めた。
そしてジェノブレイは目にも留まらぬ速さで朱雀のもとへ移動し、彼を軽々と持ち上げた。
「くたばれぇぇぇぇ!!!!クソッタレーェェェェ!!!!!」
怒りに身を任せたジェノブレイはそのまま朱雀を真っ二つに引き裂いてしまった。
青き魂の情熱
血の雨が降りしきる中、青龍がジェノブレイに斬りかかる。
「この野郎!!!もう許せへんでぇぇぇ!!!!朱雀をっ!!!よくも朱雀をぉぉぉ!!!!!」
怒りの一撃はジェノブレイの左肩を根元からごっそり切り落とす。
しかしジェノブレイが振り向きざまに放った右の張り手が青龍の胸をとらえた。
ドフッという音と共に青龍は弾き飛ばされた。しかし彼はしっかりと地面をとらえ、再び走り出す。
一方、俺と日向は横たわる紅狼に登りだしていた。
弱点という弱点は見当たらなかったものの、至近距離で頭を撃てば死ぬと考えたのだ。
三本脚となった紅狼は当分立つことはできないはず。頭まで到達する時間は十分にあると見て俺達は登っている。
15分程で登り終えると俺達は銃口をヤツの後頭部にぴったりとくっつけ、一斉にたたみ掛ける様に発砲した。
全ての弾を一箇所に当てればいずれ脳に達すると考えた俺達は、銃口がズレないようにしっかりと固定する。
すると紅狼は最後の力を振り絞り暴れだした。しかし俺達はヤツの体毛に手足を絡ませ、しっかりと耐える。
やがて銃弾は脳に到達したらしくヤツは急にドサッと倒れ、動かなくなった。
「やった…やったぞぉぉぉぉ!!!!!」
「遂に…遂にやったな!!京極っ!!!!」
「京極じゃねぇし!!!」
そして俺達はそれぞれ、俺は青龍の、日向は玄武の援護に向かうことにした。
仲間が殺られると怒りによって力が増すジェノブレイは早く倒しておこうと考えた俺はすぐに攻撃に移った。
サブマシンガンを用いて発砲するも、やはり鎧に阻まれてしまった。これはまぁ想定内だ。
考えるべきはこの手榴弾をどう使うかだ。普通に使っても再び鎧に防がれるだけだろう。
そんな事を考えていると、ジェノブレイがこちらに掌を向けはじめた。
「ライジングオブクルセイダーァァァ!!!」
「ヤッベェ!!!」
俺は間一髪横っ飛びでそれをかわした。マジで死ぬかと思ったぜ。再びジェノブレイに目をやった俺はふと閃いた。
青龍が切り落とした左肩。それにより鎧が割れ、そこに隙間ができていたのだ。
そこに手榴弾を押し込めば、木っ端微塵間違いなし。そうふんだ俺は隙を探る。
するといいタイミングで青龍が斬りかかっていった。ジェノブレイの意識は完全に向こうにいっている。
ここぞとばかりに俺は駆け出し、青龍の攻撃に備えているジェノブレイの左側に回りこむ。
ピンを抜く俺。右手で青龍の鉤爪を受け止めるジェノブレイ。そしてその時は来た。
俺はヤツの鎧と体の間に手榴弾をベルトごとねじ込み走り去った。
「青龍!!!離れろ!!!!」
俺と青龍が駆けていく中、ジェノブレイはひたすらもがき続けた。
「クソッ!!!この俺がっ!!!四神柱最強のこの俺がっ!!!人間如きにぃぃぃ!!!!クソッタレェェェェェェ……」
手榴弾は鎧の中で大爆発を起こし案の定ジェノブレイは木っ端微塵となった。
玄なる鉄(くろがね)の決意
その頃日向は玄武と合流し、ファルスメイ討伐にあたっていた。
「おお!!日向ちゃん!!一緒に戦うてくれるんか?」
「あぁ。まぁ、成り行きでな。」
「ほいだら、俺がアイツを引き付けとる間にアイツの装甲と装甲の間を狙って攻撃してくれい!!」
「お…おう。了解した。(クッソ~。マジでか!?あんなデカブツと戦えってか?)」
あまり乗り気じゃない日向を差し置いて玄武はファルスメイに鎖を巻きつけた。
「ファルスメイ!!お前の相手は俺や!!かかってこいや!!!」
玄武が日向に目で合図を送る。嫌々ガトリング砲を構えた日向だが、やがて決意を固め、ファルスメイ目掛け発砲した。
何発も撃つうちに数発が装甲の狭間に入り込みダメージを与えた。
「腹部…熱制御…システム…故障…。臨時…冷却…システム…起動…。右脚…送油ポンプ…破損…。変形…カバー…。左膝…滑車…
損傷…。予備滑車…作動…。全装甲…被害…甚大…。シカシ…汝ラ…我…倒セヌ…。」
「なんでや?」
「我…武器…渡シタ…。ソノ…武器…呪イ…アル…。製作者…死ヌ…。ソレ…使イ手…死ヌコト…。汝…我…殺ス…。
汝ラ…死ス…。ソレデモ…我…殺ス…カ…。」
なんてこった!ファルスメイを倒せば四天王が死ぬのか!?どうしたものか。
すると青龍が口を開く。
「オイ!!玄武コルァァ!!!何悩んどんねん!!!ソイツ殺すしか方法は無いんや!!!とっとと殺れ!!!混沌に踊らされてばっかやったらあかん かろうが!!!奴に負くんなやぁぁぁ!!!!」
「お前は……それでええんか?」
玄武が心配そうに聞き返すが、青龍がそう簡単に意見を変えるわけが無い。
「当たり前ぇじゃ!!とっととぶっ殺せ!!!」
その言葉を聞いた玄武は優しく青龍と俺達に微笑むと、やがてファルスメイと対峙した。
「我…死ス…。汝ラ…死ス…。ナゼ…。ナゼ…我…殺ス…。」
「混沌(カオス)のシナリオを破るためや。」
そう言って玄武は鎖鎌を走らせ、ファルスメイの首の装甲の隙間に深くねじ込んだ。
「臨時…冷却…システム…破損…。火気…管制…システム…大破…。傷…出火…。ダメージ…壊滅的…。全システム…出力…低下…。
復旧…不可…。自爆…装置…起動…。3……2……1……」
ファルスメイは爆発を起こし、玄武は吹き飛ばされた。すると遂に玄武と青龍に異変が起こる。
「身体が…動かへん!?」
二人の身体は足元からみるみる石化していく。
「玄武!!!青龍!!!今助けるからなぁ!!!!」
そう叫び俺と日向は彼らの表面の石を砕こうとする。
「やめんか!!もう…完全に中まで石化しとる。もう…無理なんや…。」
「そんな…玄武…。」
「俺は…もう疲れたんじゃ…。少し休ませぇ…。」
「青龍…冗談だろ…」
次第に石化は進み、やがて首の辺りにまで達した。二人は息絶えようとする中、最期の言葉を呟く。
「最期に…お前らみてぇなんに…会えて…俺は…幸せじゃ……」
「俺達の…分まで…生き抜いて…見せぇよ…。兵藤…ちゃん…日向…ちゃん……」
遂に全身が石と化した二人。俺達は二人に手を伸ばすが、触れる前に砕け散った。
その破片を掴み、俺は長ランのポケットにそっと入れた。握った拳が震える。目頭が燃えるように熱い。
「クソッ……。クソォォォォ!!!!」
「噓だろ…玄武…青龍…」
四天王は全滅した。四神柱を駆逐して。信じられない。
そして感じた。彼らなしで…たった二人であの男に挑む無謀さを。
猶予期間(タイムリミット)
俺と日向だけで混沌に挑む。その無謀としか思えない手段を俺達は選ばざるをえない。
俺達は戦うと決めたのだから。そう思っていると、混沌の声が響き渡った。
「フハハハハ!!!我が四神柱を滅すとは。しかしお前達の主戦力である四天王は消えた。私が出たところで良い戦いは望めないと見た。
一時間猶予を与えよう。その間に戦力を集めるなり、武器を調達するなりしたまえ。フハハハハハ!!!!」
勝ち誇ったような笑いと共に消えていった混沌の声を聞き終えると日向が心配そうに尋ねてきた。
「オ…オイ兵藤…。どうするよ…。」
「まずは武器の調達だな。ここから3kmぐらいのところにデッケー武器庫がある。そこに行くぞ。」
「3kmか…。あぁ、分かった。」
こうして俺達はジルハックと白虎に会ったあの武器庫へ向かった。
(しかし仲間をどうするかだ。ここまでろくに人と会ってねぇし、見渡す限り人影もねぇし。)
そうこうしているうちに武器庫に到着した。ここまで約20分。
俺達が武器を物色していると始めてきたときには気付かなかった白く煌く大が目に入った。
「おい、日向。これ見ろよ。」
「おー。」デッケーなぁ。持っていけよ。」
「はぁ?こんな重いもん持ってまわれるワケねぇだろ。」
「でも見ろよ。この周りとミスマッチなカンジ。これが混沌攻略の鍵になるんじゃねぇのか?」
「そう言われてみればそうだな。で、お前の持ってるゴッツい銃はなんだよ。」
「あぁこれか?これは何かよく分かんねぇけど、光化学エネルギーとか書いてるからレーザー銃かなんかだろ。」
「おいおい。とんだオーパーツをよくそのテンションで語れるな。」
そんなやり取りをしながらも俺達は重装備を整え、武器庫を後にした。
すると地平線の彼方に何やら塊が見えた。その塊は土埃を上げながらこちらに近づいてくる。
その姿がはっきりと見えたとき俺達は安堵の表情を覗かせた。
その塊は八神をはじめ、番長200人余りだったのだ。
「おい。お前らどうしてここに?」
「混沌とかいう俺達をここに連れてきたヤツがもうじき出るっていうからよぉ。行くっきゃないっしょ!」
「黒い雲があんのここだけだし、なんかすぐ場所も分かったぜ。」
「別にお前に協力するわけじゃねぇ。が…ククッ。ヤツに一泡吹かせてやりてぇからよぉ!!」
彼らは口々に語った。士気が上がったところで彼らは武器庫に入り、装備を整える。ここまで約50分。
そんなこんなで混沌について語り合っていると空が引き裂けんばかりに雷鳴が轟き、地面が何箇所も隆起し始めた。
そして最も高く聳え立った崖に黒い光と共に1人の男が降り立った。混沌だ。
「愚かな人間どもよ。いくら束になっても私には勝てぬ。さぁ消えるがいい…。」
混沌と秩序
「一斉射撃ぃぃぃ!!!!!」
混沌が話し終えると同時に八神が指示を出した。混沌はライフル、マシンガン、バズーカ、とたたみ掛けるように射撃され黒煙が上がった。しかし煙が引くとそこにはヤツの姿は無く、ただ崖だけが崩れ去った。
すると陣の後方で阿鼻叫喚と鬨とが入り混じった声が上がった。
「うわぁぁぁぁ!!!カッ混沌だぁぁぁぁ!!!!」
「うぉぉぉぉぉ!!!!」
「死ねやぁぁぁぁぁ!!!!」
すると地面から巨大な火柱が上がり数十人を焼き尽くした。多大な打撃を受けた俺達は動揺の色を隠せずにいた。
狼狽する番長の中にはワケも分からず乱射し、仲間を撃ち殺すものまで出てくる始末だ。俺は大剣を構え、混沌のもとへ駆ける。
混沌が見えてきた。体中から黒いオーラを放ち、何人も番長を引き裂き、返り血にその身体は染まっている。
ヤツもようやく俺に気付いたらしい。が、俺はかまわず斬りかかる。その一閃はかわされたものの、混沌は驚愕した様子で語る。
「その剣はっ!!まさか聖剣KOSMOS!!!お前がそんなものを持っているとはっ!!!」
日向の言ったようにこれこそ混沌攻略の鍵だったようだ。俺が再び斬りかかろうと振りかぶると、混沌は指から光線を発し
COSMOSを吹き飛ばしてしまった。COSMOSは200mほど後方に突き刺さっている。
すると混沌の両手から放たれる電撃がヤツの胸の前で衝突し、黒い雷の弾が出来上がった。
ヤツはそれを俺の方へ飛ばそうとする。と、刹那、1人の男の声が耳に入った。
「危ねぇ!!!」
日向だった。日向は俺を突き飛ばし、混沌の攻撃をまともに喰らった。俺が振り返るともうそこに彼の姿は無かった。
「日向ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
俺は思わず叫んでいた。しかし悲しみに浸る時間も無い。俺はCOSMOSを求め駆け出した。
しかし混沌がそれを見過ごすはずもなく俺に光線を放とうとした。
するとそれを阻もうとナイフで斬りかかる男。八神だ。が、八神はすぐに弾き飛ばされると、地面から伸びてきた幾つもの鋭い岩に串刺しにされてしまった。しかし、その僅かな時間も俺がCOSMOSに辿り着くには十分だ。俺は白き聖剣を構える。
それを見た混沌は黒い光を放ち、黒く煌く大剣を出現させた。その大剣はCOSMOSに酷似している。
「これは我が闇の力の結晶、死を司りし魔剣KHAOS。この力、とくと目に焼き付けるがいい。」
混沌はそう言うとKHAOSをブンと一振りした。すると周りの番長達は次々と真っ二つに切り裂かれ遂に俺一人となってしまった。
「混沌と秩序。どちらが勝つか。さぁ証明の時ぞ!!!フハハハハハ!!!!」
紅黒い世界に混沌の笑い声が木霊する。遂に決戦の時。俺はCOSMOSを強く握りなおし、しっかりと構えた。
そして混沌が動く。その一撃を俺は頭上で刀身を用い防いだ。しかし魔剣の一閃は余りにも重く、戛然は大地を揺るがす。
防いだものの俺の足は地面にめり込み、とても反撃は不可能と思われた。その時、ある男な声が頭に響いた。
「兵藤!!諦めんな!!!」
「日…向!?」
日向だ。日向の声だ!!いや、日向だけじゃない。八神、朱雀、玄武、白虎、青龍、シュウ、舐川、富崎、岸間田、そしてアニキ!!!
皆の声援が俺の頭の中にKHAOSから流れ込んでいる。
「兵藤!!俺達の思いをCOSMOSに込めろ!!!」
日向の一声が響き終えると、俺の持つ聖剣COSMOSは眩い光を放ち、KHAOSを弾き飛ばした。
「混沌!!!俺は!!俺達人間は!!!お前みてぇに1人で自分の名誉や利益のために戦ってんじゃねぇ!!!皆で助け合って!!!皆で支え合って戦ってんだ!!!1人のお前に!!そんな俺達が!!!人間が負けるわけねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
俺の全身全霊をかけて振りきった一撃は混沌を真っ二つに斬り裂いた。地面に突き刺さった魔剣KHAOSは闇の力を失い消滅した。するとやはり混沌は僅かに息があり口を開いた。
「フッ。甘いわ…。人…間。まだ終わっては…おらん。私の…最後の力…今…放たんっ!!!」
そう言うと黒い光軸が天高く混沌から放たれ、空が崩れ落ちてきた。
「何っ!!次元がっ!!!崩れだしているのかっ!?」
俺は成す術も無くそのまま漆黒の闇に呑み込まれていった。黒洞々とする闇の中。俺は意識を失っていく。
END AND START
「ジリリリリリン」
聞き慣れたクソみてえに乾いた音が耳に突き刺さる。
いつもならここで二度寝といくところだが、今日はそうはいかねえ。今日はこの番長・兵藤武蔵様が南雲高校の名を背負ってカチコミに行くからだ。俺らがカチコミに行く私立吹上高校は近頃近隣の高校のヤツらを手当たり次第にシメていやがる。
そんな調子に乗ったクズ共に現実を叩き付けるのが今回の目的だ。まあ、俺が単に暴れたいってのもあるがな。
俺は愛用の長ラン、ドカンに身を包み、右手にメリケンサック、左手に絶対的自信を持って家を出た。
「アニキ!遂にカチコミっスね!」
背後から妙に気合の入った声がした。こいつは白石。別に舎弟にした覚えはねえが、アニキアニキとやたら付き纏ってくる小柄な坊主頭だ。
面倒だから基本こいつは無視だ。
そんな俺の希望も儚く散り、白石は遂に学校まで口を閉じることは無かった。
校庭で散り行く桜が春の終わりを告げているように見える。
それと同時に園芸部の花壇の向日葵はこれから始まる夏に心を躍らせているようだ。
俺は十数人の同志と共に吹上へと向かった。
「カチコミかぁ。ロシアの血が騒ぐなぁ。大串。」
この超絶ゴツイ声は日向だ。しかしなぜか何というかいつもと違う安堵感みたいなものを感じる。
それぞれ熱い思いを滾らせアスファルトを踏みしめていたその時、吹上がそのツラを地平線から覗かせた。
「きったねー校舎だ。俺の歯より黄ばんでんじゃね?」
日向はタバコのヤニで汚れた歯を見せて笑った。ほかの奴らは冷めた目で日向を見ているが触れないでおこう。
「カチコミじゃ!!!コルァァァァ!!!!!!」
俺が叫ぶと吹上の校舎が遽しくなったのが手に取るように分かる。
すると吹上で番を張っている八神を筆頭に数えきれない程の雑魚共がワンサカ出てきた。八神の金髪リーゼントが妙に腹立つ。
興奮して俺の右手のメリケンサックがキリキリと鳴った。
「ショータイムの始まりだ。」
八神が拳を高く突き上げたのを合図に背後の雑魚共が一斉に襲い掛かってきた。
その時、急に突風吹き荒れ、何処からとも無く黒ずくめの一人の男が現れた。
そしてこちらを見た男はニヤリと笑みを浮かべた。
英雄達の牙(ファング)