さぁお金の話をしよう・・・

スタート

最初はネットの求人広告だった

「正社員募集・月２０万ノルマなし昇給随時」

はっきり言って怪しい・・・

『ＹＹファイナンス』その響きが怪しい・・・

でも俺は電話した・・・何故なら・・・金が無いからだった・・・

出たのは女性だった、面接希望を告げると翌日の昼過ぎを指定された

１階に某中華料理チェーンのある雑居ビル・・・俺が「サラ金ビル」と呼んでた

その地元のビルの６階だった

「いらっしゃいませ」

ケバイ女性・・・美智子さんが声を掛けてきた

「あの１時に面接お願いしていた倉田と申しますが・・・」

「はい、少々お待ち下さい」

美智子さんは奥の社長室へ入って行った、暇になった俺は店内を見回した

あきらかに「負け色」を纏った男女と眼の奥が笑ってない笑顔の男達、流石に「不気味

さ」があった

「どうぞこちらへ」

奥へ通される間に俺は「とんでもない世界に飛び込んでしまった」と後悔を始めていた

怖い・・・とにかく怖い

「君が昨日電話くれた人か」

菅原文太みたいな男がここの社長だった

「まぁ座って履歴書見せて」

応接セットのテーブルにはクリスタルの灰皿・・・殴られたら死ぬ・・・

「なんでウチに？」

なんて答えよう・・・考えてた言葉が出て来なかった

「はい・・・一度金融業をやってみたくて・・・」

社長は少しこちらを見てからまた口を開いた

「で・・・君借金はある？」

思えば遠くへ来たもんだ

恥ずかしながら俺には小額だか大手金融から借りた借金があった

「それどうにかならないの？」

社長はタバコを吸い始めた

「あ・・・なります・・・親戚に借りて何とかします」

「そう、でもウチは闇じゃないけどまっとうな会社じゃないよ、それでも良いの？」

「はい」

今考えればどうかしてたんだ・・・

「まぁ帰ってもう一度考えるんだな、本当に働きたかったら電話くれ」

俺はこの言葉で『良い人』って思ってしまったんだ・・・

そして・・・

翌週の月曜日、俺はＹＹファイナンスに居た

レディー・スタディー・ゴー

最初の三ヶ月は内勤だった、電話を受ける事、あと掃除に明け暮れていた

この頃は客を何処かバカにしていた「なんで金利がバカ高いウチに来るんだろう」

そう本気で思っていた

確かにトイチやトゴと言った闇ではない、でも法定金利は遥かに超えている

のにどうして来るんだろう・・・その頃はそう思っていた

「クラ、明日から永井に付いて回収やってみないか？」

月一回の飲み会の席で社長に言われた・・・

永井さんは俺より２つ上の優しい先輩、仕事も堅実にこなし社長の覚えも良い

「はい、是非」

俺が即答したのは金融やるなら回収といった花形がやりたかったのと

単純に「歩合」が生じるからだった・・・

ＹＹは面白い会社で外回り（回収）には月に回収額の１割（俺はそうだった）の

歩合がプラスされていた

かくして翌日から永井先輩と回収していたが・・・

正直ヌルイ・・・皆言われれば金を払う・・・

ネタにならない・・・

まぁ永井先輩はまだ回収の新人らしく「そういった案件だけ」を扱っていたらしい

ただ毎日昼飯は先輩がおごってくれてたのは非常に助かった

飛んでイスタンブール

そんなある日ラーメン屋の店主からの回収があった

「ここは水曜定休日だから水曜に行くんだよ、

店舗２階が住まいだからさ店に借金取りが行っちゃマズイだろ」

そう言いながら永井さんは呼び鈴を押した

「居ないのかな？」

俺は習性で電気メーターを見た・・・どうも店舗と一緒なのか知らないが

勢い良く回ってはいる

「どう思う？」

永井さんは携帯片手に聞いてきた

「留守じゃないですか？」

「だよな」

永井さんは会社に電話した様だった、会社も同じ判断だった

２日後たまたま店の前を通ると店は休みだった・・・永井さんがその事を

会社に報告すると会社から調べる様指示が出た

「電気メーターは相変わらずか・・・普通休むなら貼り紙位するだろう

しな・・・」

険しくなる表情の永井さんの横で俺は不謹慎にもワクワクしていた

「・・・えぇ、ウチ以外は殆ど摘んで（借りて）ないんで飛ぶ金額では

ないかと・・・」

その日はどうにもならず会社に戻った

その数日後永井さんは大目玉を食らう事になる・・・