妖刀シンフォニア

趣味炸☆裂
気楽に書いていくので、気軽に読んで下さい。
一章で一話完結のお話の短編集になります。

いろはに序曲

あれは、7歳の時。近所の神社で幼馴染たちと鬼ごっこしてた時だったかな。
幼馴染と言えば、向かいに住んでる同い年の犬神敬太(いぬかみ・けいた)と、裏に住んでる稲村十季(いなむら・とき)っていう2人なんだ。敬太は同じ高校だけど十季は私立の女子高に通ってる。今でも良く会うよ。えっと、その時は敬太が鬼で、俺が追いかけられてたんだ。それで捕まらないように走るわけだけど…鳥居を走り抜けたとき、急に世界が変わったんだ。神社の境内に向かって鳥居をくぐったから、普通なら神社が見えるわけだけど…。そう、確かに神社は見えた。でも雰囲気が全然違ったんだ。
なんていうか…古びた神社だったのが、やけに豪華で。凄くびっくりして振り向いたら、町が広がってたんだ。広場の高い階段の下に、見たこともないような町が…。
敬太も十季もどこにもいなかった。凄く怖くなって、不安になって、泣きそうになって、パニックになって。混乱してその場に立ち尽くした。そしたら神社から誰かが出てきて…

そこは八百万の神様の住む世界だという。
むかしの日本は妖怪と、つまり迷信と密接な関係だった。けど開国して文明開化が始まると、人々はそっちに気を取られて迷信なんて忘れちゃったんだ。そしたら人間は妖怪が見えなくなっていった。妖怪が見えなくなった人間は自然を破壊し、古いものを捨て始める。妖怪は住む場所を追いやられて、人間に対してすごーく分厚い結界を張ったそう。そして妖怪、つまり九十九神は自分たちの世界を創造したんだって。
それは当時は人間の世界と全く同じ世界だったけど、今は違う。江戸時代の景観の「粋」な世界…。そこを妖怪たちは桃源郷と呼んだ。

ところで忘れてたけど、俺の紹介をします。
俺は6代目吉田家当主(予定)吉田柚樹(よしだ・ゆずき)。当主といっても、別に凄いものではないんだ。公家でもなければ旧家でもない。ただ、ちょっと歴史と地位のある家柄なだけです。歴史はそんなに深くは無いけれど。地位というのは、先代が侍だったことかな。始まりは石田三成に仕える武士だったみたい。でも名前こそ有名じゃないから、これが何かと関係するものではないかな。で、なんの地位があるのかというと、桃源郷の中での話なんだ。
我が吉田家の初代 吉田松鷹(まつたか)さんは、武士の一家に生まれたものの、幼くして盲目になってしまったらしい。勿論目が見えない状態で刀を振るうことはできないから、成人して暫くして家を離れた。そしてふらふら放浪していたところ、田舎の村に暖かく迎えられて移住。その村…つまり今俺の住んでいる場所、並木町に。そこは迷信や信仰に溢れていた。盲目になったことによって第六感が研ぎ澄まされた松鷹は、「逆に」何かがいろいろ見えていたらしくて、病気や痛みの原因とか、神がかったこと、いろんなことがわかっていたから、それでいて穏やかな性格で村の人から慕われていたそう。
時には刀を振るって村人を守ったりすることもあって、最終的には道場を開いた。それが、今の我が家です。
村には神社があって、そこの神官さんとも助け合って上手くやっていたみたい。ちなみに今現在にもその神社はあって…。村田神社っていうんだけど、前述した鳥居のある神社のことです。
で、なんだったっけ、そうそう。その松鷹さんは一振り(口)の刀を大切にしていた。松鷹さんが死んだあと、その鞘を抜いてみると松鷹さんが現れて、いろいろと助けてくれる迷信がある。ほら、九十九神は長年大切に使っていたものに魂が宿ったものって言うでしょ?それは村田神社に大切に保管されていて、家にはない。人々が妖怪を忘れていく中、この吉田家と村田神社は妖怪を忘れなかったし、密接だった。だから妖怪に桃源郷に招かれて、今でも密接なんだ。村田家と吉田家はその誠実な姿を認められ、直接神に仕える。
村田は政治を、吉田は武力を。村田はもとから神に仕える仕事だけど、吉田はそうじゃなかった。つまり今の地位にあるのは松鷹さんのおかげなんだよね。で、そういった妖怪と未だに密接な関係にある家は、実は日本全国にあるわけで。その血を引く人は大体桃源郷に行ける。鳥居をくぐればね。そうそう、大体というのも。血を引いてても、その血が濃い人と薄い人とがいる。それで行ける人と行けない人とが出てくる。
たとえばうちの兄ちゃん、梓(あずさ)っていうのがいるんだけど、彼は血が薄い。けれどもなんとか見えるし行ける。
でももともと穏やかで争い事が苦手だから、あまり好まないみたい。桃源郷では顔を隠してるから会ったことが無いんだけど、勉強を教えてるみたい。
それとあと、姉ちゃん。桜(さくら)がいるんだけど、こっちは当代の父さん、桂介(けいすけ)の血をばっちり引いてるサラブレット。勝気で冷静で口数が少なくて、鋭い目が父さんにそっくり!生まれてすぐに父さんが「女の子に似て俺に似てかわいそう」とこぼしたらしい。
そんなサラブレットだけど、父さんが女の子に刀を振らせたくないと言って刀を作らなかった。うちの一家は子供が生まれると刀を作るんだ。
だから、俺が次代なんだ。…俺は母さん似なんだけど、才能は兄弟の中では一番…才能あるのかなぁ。兄ちゃんは嫌がってるだけで、姉ちゃんは女性だからっていうだけだと思う。俺もあんまり争い事は好きじゃないんだけどね!

…まあ、桃源郷で何をするかっていうと、生きている間は警護とかお手伝い。
死んで妖刀になったら、1人の神様についてお世話係兼警護というか。まだ生きてるから詳しくは知らないんだけど。「お目見え」じゃないけど直接神様に会えて、世話をするという信頼をもらっているから地位は高いわけだ。いわゆる宮内省?桃源郷では神社が中心に世界がまわってるんだ。
勿論村田神社は小さい地方の神社だから、もの凄く偉い神様がいるわけじゃないけど。ちなみに桃源郷の中心の神社は伊勢神宮。ま、さすがですよね…。

そして何より神様たちに登用される理由はコレ。
人間と妖怪のハーフの血筋だから。実はお人好しの松鷹さん、何をだまされたか鬼と結婚したそう。
鬼は美しい姿に化けて人をたぶらかす、っていうけど…。松鷹さんには全部見えてたんじゃないのかな。
きっと相手も良い人(妖怪?)だったんじゃないかな、泣いた赤おにみたいな!
つまり、強い鬼と刀を振るう強い武士との血は社中(宮中の桃源郷バージョン!)警備に登用するには最適だったんだろうな。

えっと、だから俺は夜になると村田神社の鳥居をくぐって桃源郷に行くんだ。
そこで宮中で吉田家のお仕事をする。現実離れしてるから凄く楽しいよ?
時々体を張らなくちゃいけないから怖いことも多いけれども、気さくな神々と妖怪との生活。俺は、好きです。

妖刀シンフォニア

妖刀シンフォニア

ノクターン!鳥居をくぐるとそこは妖の国でした。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-03-23

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