家族ごっこ
家族は完璧な関係ではない、不完全なものだから自分達はこの仕事に就いているのだろう。
冬に入って間もない頃だった。
温暖化のせいか雪は降らず、刺さるような寒さだけが日増しに強くなっていく。
辺りは寂れた町並みで、その寂しさがこの寒さの原因にも思えた。
中途半端に暑くて中途半端に寒い。
丁度、次の仕事先に向かおうとした時にその地方出身の同僚がそうぼやいていた。
「雪が積もるなら情緒もあるんでしょうけどね…」
彼は笑いながらそう言っていた。
どことなく故郷を思い出して照れ臭そうな顔が聞いていた年齢より若くも見えた。
「そろそろ時間だな」
そう言って助手席の男が車から降りる。
四十代のスーツ姿は着なれているおかげか細身の男によく似合っていた。
たかだか二十代の自分もいつかこんな風に着こなせるのだろうか、と直木は少し考える。
この仕事でスーツが似合うに越したことはない。
「早くしろ…」
少しだけ悩む直木に車の外から男の声が聞こえる、なれない声色だった。
そういえば彼と仕事をするのは今回が始めてだというのを思い出した、彼は先輩で何度か会った事はあるがあまりお互いの事は知らない。
上手く協力できる自信が湧かなかった。
ミラーで服装を整えて車のドアを開ける。
中途半端に寒い冬の風が車内に流れ込む。
この車を降りたら仕事が始まる。
「早くいくぞ…直木」
男はそう言うと早々と目の前の病院に入っていく。
「そんなに急ぐ事もないだろ父さん」
そう言って直木も小走りにその背中を追った。
家族ごっこ