夕日の裏側
その日の夕方、僕とてっちゃんとハコちゃんは3人で屋上に出て夕日を眺めた。
丸く明々とオレンジ色に輝く夕日が、全てを赤く染めていく様は何度見てもすばらしいと、僕は思う。
「きれいだね」
隣に立つハコちゃんの赤く染まった髪が風になびいていて、とても綺麗だった。
「俺は星の次に夕焼けの空が好きだな」
「あたしは逆。夕焼けが一番。星は2番目かな」
てっちゃんとハコちゃんは楽しそうに話す。
何てことないただの会話なのに、何だかすごく愛しくて、何だかすごく切ない。
「ねぇトオルくん、夕日の裏側には何があると思う?」
ハコちゃんが僕に問い掛けてきた。
「何で僕に聞くの?」
「トオルくんは幻想的な考え方するの好きじゃない。だから」
「そう」
夕日の裏側だなんて、考えたこともなかった。
夕日の裏側にはいったい何があるんだろう。
「思い出とか、かな」
「思い出?」
「前見たドラマで、夕日を見ながら昔のことを思い出して涙を流すシーンがあってね、だから夕日を見るときっと過去のことが思い出されるんじゃないかなって」
「ああ、なるほどね」
ハコちゃんが一人ごちたように頷いた。
「夕日を見てると時々胸が締め付けられるように切ない気持ちになるのはそのせいだったんだね」
僕は黙って夕日を見た。
いつか、この日の僕らが思い出になる日が来るんだろう。
夕日を見たこと、赤く染められたハコちゃんの髪を見て切なく思ったこと、てっちゃんたちとの何気ない会話を愛しいと感じた自分のこと、そういうの全てが、思い出になって、夕日を見るたびにそれを思い出す日が来るんだろう。
それはとても悲しいことのような気がした。
「いっぱい思い出作ろうね」
ハコちゃんが元気よく言って、笑った。
「いつか、もし万が一、てっちゃんやトオルくんとサヨナラしなきゃいけなくなってもね、たくさんの思い出を夕日の裏側にためておけば、夕日を眺めるたびに二人とのこと思い出して元気になれる気がするから」
「ねっ」と笑顔を浮かべ、ハコちゃんが僕の手を握る。
てっちゃんは呆れたように笑って「バカップル」と呟いた。
僕は夕日を見た。
いつか思い出になってしまうであろう、今日がどんなに切ないものとわかっていても、忘れたくないと思うから、僕は夕日をしっかりと目に焼き付ける。
夕日の裏側に、また一つ僕らの思い出が出来たと思ったら、悲しい気分が少しだけ和らいだ。
《FIN》
夕日の裏側