変なものを釣った

ちょっと人を食ったようなショートショートを書いてみたかったのです。

 「なんだかさ、変なのが釣れたよ」
夫が差し出したのは深緑のクーラーボックス。中には何やら変なものが入っているらしい。
「どんなの。見せて」
妻はさっと受け取り床に置いてぱちっ、ぱちっと蓋を開ける。
少し間があって、
「きっと海牛よ。だって魚には見えないもの」
「そうだよな、魚じゃないもんな」
「飼ってみる?水槽一つ余ってるし」
「そうしようか、水槽一つ余ってるし」
というわけで、御手洗家で近所の湖で釣られてきた海牛が飼われることになった。ちなみに海牛飼育は初めてだ。

 「あらあ、この子、泳ぐのね」
海牛の挙動に対し、妻は声をあげる。
「そりゃあ、泳ぐに決まってるよ」
二カ所にある岩場から岩場に器用に泳いでいく海牛を横目で見ながら、夫が言う。
「海牛だからな」
「そうよね、海牛だものね」
二人は納得し、
「じゃあ行ってくるよ」
「行ってらっしゃい、あなた」
と、いつもの朝である。

 「こいつ、雄なんだろうか」
夫はいぶかしむ。
「両性具有よ。蝸牛と一緒なの」
「へえ、よく知ってるな」
妻は得意顔である。
「ということは、蛞蝓とも一緒か」
「さすが私の夫、頭がいい。次期社長候補ね」
「またそれを言う」
夫は苦笑するも、まんざらでもない様子である。
「じゃあ行ってくるよ」
「行ってらっしゃい、あなた」
しかし、夫はまだ昇進したことがない。

 「いつまでこの海老を食べているつもりかしら」
と、妻は心配そうである。
「確かに、ずっとくわえてるもんなあ」
夫も心配そうである。
「いっそ、取ってあげたら。すっきりするんじゃない、この子も、僕らも。」
「それもそうね。海牛だものね」
「じゃあ、行ってくるよ」
「行ってらっしゃい」
夫を見送ってから、水槽に手を入れて、海牛を水から取り出した。
そして、海牛の前方に釣り上げられた時からずっと付いていた二本というか二尾の海老を、妻は思い切り引きちぎった。

変なものを釣った

何を釣ったのか、お分かりになったでしょうか。あえて明示していません。
ヒントは昔の生き物です。

変なものを釣った

夫はウミウシらしきものを釣って、妻とともに飼うことにしたが、よく見ると普通のウミウシではない。 しかし、夫婦そろって無知だったので・・・・・・

  • 小説
  • 掌編
  • ミステリー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-03-22

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