淡水の中で

淡水の中で

根拠もないのに好きになった。
何処が好きなのか分からないぐらい好きになった。
初めて会ってから、直感。
この人を好きになるかもしれないと思った。
今、この人を好きだと確信しているけれど。この先もそうかは分からない。
この先なんかあるかどうか分からないから。
この気持ちを忘れたくないと思った。

ぽつぽつと、雨のように降る言葉

ぽつぽつと、雨のように降る言葉

雨の日の散歩はとても楽しそうだと思った。
私はよく、家族と喧嘩したり、暇だったり、考え事をしたい時、散歩へ行く。
私の中で消化不良なたくさんの課題を、散歩をしながら終わらせていく作業は、とても楽しい。
私が「今から散歩に行こう」と言うと、君は「分かった。行くよ」と二つ返事で来てくれる。
しとしと、雨が降る中で、君を待っていた。
雨のカーテンの向こう側で、君を見つけて嬉しくなった。
梅の花が綺麗で、雨が静かで、君がいて。
君と、繋がっている手があったかくて、触れる肩があったかくて。
半分だけ、あったかいと君が言った。
そうだね、と私も返す。
それから少しずつ会話が途切れていって、いつの間にか、雨の音しか聞こえなくなった。
しとしと、雨が降る音は、まるで君の声のようで、少し眠くなってきた。
結局散歩出来なかったね、私が笑うと、でも楽しかったよ、君が笑う。
一緒にいるだけで、楽しいよ、と。お互い心の中で付け足しあって。

雨の日の、幸せな昼下がり

濁り

濁り

どろどろの濁った水が、二人をびしょびしょにさせた。
彼女の濁った気持ちを、彼の透明な体に吸い込ませていく。
だんだん彼の体が濁っていくのを、彼女は澄んだ気持ちで見つめた。
彼の心はズタズタで、死にかけていた事に、少し経ってから彼女は気づいた。
二人の肌に張り付いていた水はやがて乾いて、濁りは目立たなくなったけれど。
彼女は思う。
彼の濁りがどうしようもなく愛おしいと。もっと自分の言葉で傷つけばいいのにと。
そうして、二人でずっと濁っている事が出来ればいいのに。

恋の末辿り着いた答えを、真夜中のうわごとに紛れ込ませて。

夜の中

夜の中

夜は何処か不思議な気持ちになる。
うとうと、何度も夢の世界へ入りそうになりながら、君の声を聞こうと一生懸命耳を凝らす。
やがて二人の声は囁き声になっていて。
何度も、同じことを繰り返し囁いて。何度も、約束をして。
夜の中に溶けていく君の声がどうしても愛しく思える。
でも、夜の中は甘いピンク色の靄だけじゃないから。
どうしても君の顔が見れない事に不安を抱く。
この先のことに不安を抱く。
不安になって、囁いてみる。
その答えを聞いて、胸の辺りがきゅっとした。
君はいつもは気が利かない癖に、欲しかった言葉をくれた。
それから、どうしようもなく君に会いたくなった。
時間が経っていくことがとても惜しく感じた。

このまま永遠に、幸せな夜が続いてくれたなら。

大切な音

大切な音

桜の木に、小さな花が見えた。
あと少しで満開かな、と言ったら、君は笑ってくれた。
少し歩いて、止まって、また歩いて、止まる。
寒いと呟いていた君の手をぎゅっと握ると、ぎゅっと握り返してくれた。
だんだん暖かくなって、二人で座り込んで、日向ぼっこをしても、太陽のぬくもりより君の肌の体温の方がよく感じる。
耳の傍で聞こえる君の鼓動の音が、速くなったり遅くなったりを繰り返して。
その音が世界中で一番大切な音に聞こえて。
実際、大切な音だということに気づいた。

君の音は、どんな素敵な音楽より私の好み。

淡水の中で

淡水の中で

ゆっくり更新する短編集です。ちょこっと時間空いた時にどうぞ。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-03-21

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  1. ぽつぽつと、雨のように降る言葉
  2. 濁り
  3. 夜の中
  4. 大切な音