いつかまたどこかで

プロローグ

「2年B組の篠崎君。篠崎(しのざき) 祐輝(ゆうき)。至急職員室まで来てください」

 それまで楽しくみんなと給食を食べていた俺はその放送を聞き、食事の手が止まる。周りの友達も驚いた顔をしていた。

「篠崎……。お前なにやらかしたんだ?」友達の一人が俺に尋ねてくる。

「今の、俺だよな? 呼び出されるようなことは何もやってないと思うけど……」

 俺はK中学に通う中学2年生。成績は学年でもトップクラス。問題なるような行動は一切せずにマニュアルどおりの優等生タイプ。

 そんな俺が、突然呼び出されるわけだから、クラスのみんなからの視線が熱い。

「とりあえず、行った方がいいよな……」俺はわけが判らない気持ちを抑え、職員室へ向かう。

 職員室に入ると、担任が青白い顔をして俺に話しかけてきた。

「篠崎……。落ち着いて聞いてくれ。お前のお母さんが、先ほど、職場で倒れたとの連絡が入った」

「えっ?」その内容を聞いた俺はそれからのことを良く覚えていない……

 ……後で知ったことだけど、倒れた原因はなんとか心筋梗塞症。医者の説明では心臓の筋肉が硬くなり、命の危険性があると言われたことだけは覚えている。病室のベッドで横なる母さんの体には、いろんな管が通されており、とても普通の状態には見えなかった。

 医者から、母さんの病気の話しをされている間、父さんはずっと泣き続けていた。医者の口から「死」や「覚悟」の単語がポツリ、ポツリと出てきたが、俺は自分が子供だから、難しい話はわからないと考えるのをやめた。それどころか、きっと医者は必ず治ると話していると信じていた。そして、また前みたいに家族3人で楽しく過ごせると思いながら、ただ母さんの病気の説明に対して、静かに頷いているだけだった。

 医療ミスなんてよくある話……。母さんを診察した医者だって、きっと適当に診察して、いい加減な判断しているに違いない。そう思うことで気が少し楽になった。

 だって、母さんの命が長くても、半年なんて話はありえなし、嘘に決まっている。そんなの信じたくもないのだから……。

 目を覚まさない母さんを横目に、面会時間も終了になったので、父さんと一緒に家に帰った。その時の帰り道で、父さんにこんな質問したのは覚えている。

「母さんとまた一緒に暮らせるよね?」

「ああ。祐輝が直ると信じていればきっと元気になって、またみんなで過ごせるさ」

「そうだよね……。父さんは忙しいと思うから、俺ができるだけお見舞いに行って母さんを元気付けるよ!」

「ありがとう……」そう言って、笑った父さんの目に涙が溢れていた。

 俺はその涙の意味なんて考えなかった。ただ純粋に俺がしっかりすれば、母さんはまた元気になると信じて、その言葉だけを頼りに俺は毎日母さんのお見舞いに通った。

 日ごとに弱っていく母さんを見ながら、つらくて、涙が止まらなくて、何も手につかないほど落ち込んで、それでも母さんに早く元気になって欲しいと、無理をしてでも元気に振る舞って、そんな生活を1年近く続けた。

 そう医者に半年しか持たないと言われていた母さんだったけど、1年近く生きられた。医者も奇跡だとは言っていたが、結局母さんが死んでしまったのでは意味がなかった。奇跡があるなら、治って病院から退院して欲しかった。

 丁度その頃、高校受験のシーズンだったけれど、母さんが死んで家のこともあるし、とても高校に行く余裕なんてないと思っていたので、中学卒業後は適当な就職先を見つける予定だった。

 そんな俺に対して、父さんが高校には絶対に行けというので、それから慌てて高校を探し始めた。1年間も母さんの看病に力を入れていたのだけが原因ではないけれど、学年でもトップクラスだった成績は、下から数えた方が早いくらいに散々なものになっていた。

 だけど、父さんの気持ちには応えたくて、その成績で入れる高校を探し、なんとか入学は出来た。入学した高校は偏差値も低く、卒業生の9割以上が進学ではなく就職を選択するようなところ。

 頑張っても母さんが死んでしまったように、どんなに頑張っても変えられないものがあると知ってしまった以上、頑張って何かを目指そうだなんてとても思えない。

 俺も、高校を卒業後は、どこか適当なところで働いて、それで人生をなんとく過ごしていけばいいや考えるようになっていた。

 あの彼女に会うまでは……。

第1章 動き出した運命 (1)

 それは中学3年生の時だった。日ごとに弱っていく母さんを見るに耐えかねて、病院の屋上でたまらず泣いてしまったんだ。

「うぐぅぅぅぅ。うわぁぁぁぁ」

 どれくらい泣いていたのか分からないけど、まあけっこう情けなく大声で泣いていたと思う。そしたら、それを同じ歳くらいの女子に見られてしまっていた。

 もう顔から火が出るほど恥ずかしかった。だけど、その子は何を言わずにジッと俺を見つめたままだった。なんとなく気まずくなり、俺は涙を拭うと、

「なんだよ。お前、そこで何やってるんだよ!?」その子に声をかけた。その子は驚いた顔をして、「何も」と答え……

「あなたは泣いていたんだね。何かあったの?」と逆に質問を返してきた。

「ああ、あったよ」

「話聞くだけなら聞くよ?」そういうと、その子は俺の隣にやってきた。

「誰も母さんを助けてくれないから……」俺はボソッと小さくそうこぼした。彼女は聞こえなかったみたいに不思議な顔を見せた。首をかしげた顔が妙に可愛くて、自分が言おうとしていることが情けないことに思えて、そこで咄嗟に嘘をついてしまう。

「俺の夢が決まったんだっ! 俺は医者になって、病気の人を助けるんだ! 今は助からない人も俺が医者になって助けてやるんだ!」胸をはり、力説気味に言ってみる。冗談だと思って笑ってくれるか、呆れて立ち去ってもらうために……。だけど、彼女は違った。

「ふーん。そんな夢を持っているんだ。夢のために頑張っても、叶わなかったら意味がなくない?」と、全否定してくるものだから、ついムキになって……

「そんなことない。頑張れば夢が叶うんじゃない。頑張らなければ夢は叶わないんだよ! やるだけ無駄だからなんて最初に言ってたら、夢は絶対に掴めない!」なんて、前の日にドラマで言っていたセリフをそのまま口する。

「頑張らないと夢が叶わないか……。そうだね。何もせずに勝てるわけないもんね」

「そうだよ。夢を描いて、その夢に向かって努力できる人だけが何かを得られるんだ。うまくいくのかどうかの結果は死ぬ間際に考えればいいんだよ」

「……そっか。そうだね。あなたの夢、叶うといいね」そう言うとその子はにっこりと微笑む。

「絶対に叶えてみせる! お前も夢が見つかったら、叶うといいな!」

「じゃあ、私の夢はあなたの夢を応援すること」

「なんだよそれ……」

「あはははっ」そう言ってその子は明るく笑っていた。そして、その子の声がだんだんとぼやけて、野太くなっていき、最後には……

「お~い。もういい加減起きてくれよ」男の声に変わる。

「っ!」突然の変化に俺は驚き、バッと目を開けて顔を持ち上げる。声の主は、近野(こんの) 明(あきら)だった。

「あれ? 近野? ああ、夢だったのか……」どうやら、学校の机の上で寝てしまっていたらしい。

「頼むよ。やっと1学期の中間テストが終わったんだから、さっさと遊びに行こうぜ」

 近野とは、この高校に入ってからの友達で、中学以前の俺のことは何も知らない。おちゃらけていて本音をあまり見せようとはしない。そのかわり相手に深く突っ込んでいくこともないので、気楽に付き合えた。

 正直、心を開いている人が突然死んでしまう、あんな心の痛みはもう体験をしたくないから、極力友達も増やさず、頑張らずに高校生活を過ごしていた。

 だらだらと暇をつぶすような生活を繰り返し1年が過ぎ、俺は高校2年生になっていた。

「ああ。そっか、2年初の中間テスト残念会をやる予定だったな」

「そうそう。今回も赤点満載でさ……って、俺のことは良いんだよ。起きたんなら早く行こうぜ」

「ああ」俺は返事をしながら、さっき見た夢を思い出す。遠い昔の記憶。それ以来会っていないあの子との約束。「なんで急にあんな夢を見たんだ?」

「お~い、まだ寝ぼけてるのか? ほらぁ、ぼーとするなよ」近野はニカリと笑う。ああ、と返事しかけて机に乗っていた進路調査票を見つける。あ、これでか……。

「医者になりたい、だなんて書けるわけないよな……」俺は苦笑し、その紙にサラリーマンとなどと適当に殴り書く。そして、これの提出期限が今日までだったことも、同時に思い出した。「あ、そうだ。やべぇ。ちょっと、進路調査票だしてくるっ!」

「はあ? 明日でいいじゃないかよ」

「これってさあ、提出期限今日までじゃなかったっけ?」などと、やり取りをしていると、

「あの……私、先生のところに行くからよかったら、一緒に持っていこうか? ……そ、その、進路を見られてもいいならだけど……」と同じクラスの女子に話しかけられる。適当に書いた進路先だ見られても全く恥ずかしいものではないし、持っていく手間が省けるのは非常に助かる。

「え、本当か? じゃあ、ぜひ頼むよ」俺はその女子に進路調査の紙を渡す。

「うんっ。わかった」その子は笑顔で受け取ってくれた。

「ありがとう。じゃあよろしくな。……ちょっと待ってくれよ、近野!」俺はそれだけ言うと、近野の後を追う。

「なあ。さっきのって、水沢か?」俺が近野に追いつくと不思議そうな顔で近野がつぶやく。

「へ? そうだっけ? 初めて話した気がするな。進路の紙を先生に一緒にだしてくれるってさ。まあいいや、早く帰ろうぜ」俺は近野にそう言って、いつものだらけた放課後生活に向かっていった。

 医者になる夢。こんな高校に入ってしまった以上、そんなのは妄想で、笑われることはあっても、誰も応援なんてしてくれない。絶対に叶いっこない夢だから……。



 ***



「おい。篠崎。進路調査の紙は提出したかよ?」それから3日後の昼休みに、焦った顔をして近野が話しかけてきた。近野は今風のクセを活かした長めの髪に、ピアスなんかつけて、パッと見イケメンにしか見えない。だが、コイツは性格でかなり損をしている。

「はぁ? 俺、この間の放課後、書いてたじゃん」

「……あ、そうだったな。ちっ……。裏切り者め」

「なんで裏切り者になるのかはともかくとして、そんなもん、適当に書けばいいんだから、さっさと書いて出して来いよ」

「そうはいかねえよ。なるべくカッコいいことを書かないとな」目を輝かせて近野は俺に語りかける。こんな感じで近野は少々頭が足りない。ここさえ治せばかなりもてるんだろうな。

「はぁ? なんでだよ?」俺は思わず突っ込みをいれる。

「だってさ。カッコいい夢があった方が、女にモテルって言わねぇか?」

「言わないし……。そもそも、夢だけでモテるなら、彼女いない奴なんていないんじゃないか?」俺は哀れんだ目をしながら近野を見た。

「ちがうね。夢がある奴は、絶対にモテルって。で、お前はなんて書いたんだよ? まさか適当に、サラリーマンとか書いてないだろうな?」

 図星だった。俺は何も考えずに、第1希望をサラリーマン。第2希望を金になる仕事と書いて提出していた。ダメなら、後で書き直せばいいやという考えで。

「ああっ! その顔は間違いなく、サラリーマンと書いたね。俺にはわかるぞ。やだね、夢のない男は……」近野が馬鹿にしたような笑みをこぼす。

「ああ。そうだよ。その通りだよ。サラリーマンって書いたよ。それが問題あるのか?」俺は少し切れ気味な声出して、近野に反発をする。

「だからさ。今時サラリーマンなんて書いたって、モテナイって。せっかくだから、発表されて自慢できるような仕事を書こうぜ!」嬉しそうに俺に言ってくる近野。

「なんと言われても、俺はもう変更はしないけどな。……んで、何がカッコいい仕事なんだよ?」

「それがわかれば苦労しないって!」そう言って近野は笑う。

「じゃ、俺が決めてやるよ。第1希望は医者。第2希望は弁護士な。そして、第3希望が政治家だ」

「医者、弁護士、政治家ね……。なんかピンと来ないな……」

「そうか。……お、じゃ、パイロットや宇宙飛行士なんてどうだ?」

「宇宙飛行士か……。うん。それいいなっ!」近野は目を輝かせる。

 宇宙飛行士なんて、日本でも数える程度しかいない超難易度。はっきり言って医者や弁護士になる方がよほど容易だろう。しかし、こいつはそれを進路先に書くらしい。

「よし。じゃ、俺の進路先は宇宙飛行士にしよう」

「本気(マジ)かよ……。悪い。俺はそんな大きな夢はかけない。サラリーマンでいいや……」

「これで俺は宇宙飛行士を狙う高校生だ。俺を紹介する時は、そう紹介してくれよ」近野はニッコリと笑う。

「ああ。わかった。宇宙飛行士候補生の近野さん」俺は思いっきり引きつりながら、返事をした。

「よーし! これで俺は夢を持つ男となったのだ!」近野は心から嬉しそうな声をあげる。

「はいはい。よかったな」

「……あ、ところでさ、今日お前暇か?」近野が身を乗り出し、突然話を変えてきた。

「特に用は無いけど、めずらしいな。そんな事聞いてくるなんて。いつもだったら、断っても、後ろからストーカーのようについてくるのに……」俺はそう言いながら苦笑する。

 近野は放課後になると、決まって俺の後ろを勝手についてきて、ゲーセン行こうだの、カラオケ行こうだのと、遊びを提案してくる。少々わずらわしいが、家に帰ってもやることもないので、近野に付き合っている。なので、こいつがあえて「暇か?」と聞いてくるのは珍しいことだった。

「今日は……。いやいや。まだ言うのは早いな。とにかく、放課後。いつもみたいに時間空けといてくれよな」嬉しいそうに近野はそう言うと、その場を走り去ろうとする。

「おい。こんな時間からどこ行くんだよ。もう昼休み終わるぞ?」俺は近野を引きとめようと思わず、大きな声を出す。

「わ、わりぃ。昼休みが終わる前に、これを担任に提出しなきゃいけないんだった」近野は、そう言いながら、進路希望を書く紙を俺に見せ、そのまま走っていく。

「忙しい奴だな」放課後か、あいつのことだし、またバカなことを考えているんだろうな……。



 ***



「よっ! おつかれ。ほいじゃ、行こうぜ」放課後になると近野が世話しなさそうな顔で近寄ってきた

「さっきも聞いたが、どこにだよ?」

「それは決まってるだろう。カラオケだよ」

「カラオケ? なんのひねりもなくカラオケなのか? そして、それはもう確定事項なんだな?」

「おうよ。そして、なぜカラオケなのかというと……」近野はそういうと、グイッと俺の首に腕を回してくる。

「ちょ、ちょっと。なんだよ。気持ち悪いな」

「実はさ、このクラスに早瀬っているだろう?」腕に回したまま小さな声で近野が言う。

「早瀬? もしかして、早瀬(はやせ) 里奈(りな)のことか?」

 早瀬里奈はこのクラスのムードメーカー的な存在。ショートヘアの体育会系のノリの女。曲がったことが大嫌いでいつもさばさばしている。女というよりも男のほうが近い印象。誰とでも気軽に話せるらしく、男女問わず友達の多い奴だ。

「そうそう。あいつにさ、今日カラオケに誘われたんだよ」

「それは良かったな。……それでなぜ俺を誘う?」

「それがさ。向こうも2人で来るらしいから、誰か誘って欲しいって言われたんだよな。特に篠崎とかをさ」

「特に俺って、なぜだ?」

「知らねぇよ。とにかく誘ってくれって言われたんだよ。まあ、いいじゃん。とにかく行こうぜ。今日も暇なんだろう?」

「まあな。しょうがねぇな。暇だし、付き合ってやるか」俺は自分の首巻きついていた近野の腕を払いのける。

「さすがっ。そうこなくちゃな」近野は嬉しそうに笑う。

「んで、他は誰が来るんだ?」

「あとは……。水沢らしいぜ。あの2人、仲いいから無難なところだな」

「水沢って、誰だっけ?」

「お前、まじかよっ……。水沢(みずさわ) 美桜(みお)だよ」

 水沢美桜は早瀬の後ろにいつも隠れているような控えめの女の子。去年から同じクラスなのにまともに会話したこともない……と思う。少し長めの髪に細身の体つきで見るからに女の子という感じ。クラスの中でもあまり目立たないタイプなので、正直、水沢のことをよく知らない。

「あんまり印象ない奴だけど、まあいいか。それと俺たちいれて全部で4人か?」

「ああ。そうだ。他に呼びたかった奴でもいるのか?」

「いるわけねぇだろう。そんな奴いるなら、わざわざお前となんか遊ぶかよ」

「おいおい、ひでぇな。俺たち親友だろ?」近野がニカッと笑う。

「はいはい。さっさと行こうぜ」



 ***



「あっ! こっちこっち!」

 駅前のカラオケの前に行くと、2人組の女子のうちの一人が手を振ってくる。早瀬だ。隣にいた水沢は恥ずかしそうな顔をしながら、会釈をしてきた。俺も釣られてつい会釈を返す。するとびっくりした顔をして水沢は早瀬の後ろに隠れてしまう。

 なんでだよっ! そんなことを疑問に思っていると、近野が早瀬に話しかけていた。

「おお。早瀬。もう着てたのか。早かったな」近野は満面の笑みを浮かべている。

「そりゃあね。教室の真ん中で、だらだらと会話している2人組に比べたら、早いのは当然でしょ」笑顔の近野とは対照的に、少し怒っている早瀬。

「はははっ。そりゃそうだな。まあ立ち話もなんだし、さっさと入ろうぜ」そんな早瀬の態度をまるで気にもせずに、笑顔を貫ける近野。

「そうだね。美桜、行くよ」

「あ、う、うん……」水沢はそう返事をすると、俺の方をチラッとみて、恥ずかしそうに早瀬の後を追った。

「なんだかな……」水沢の態度がよくわからずに、俺は首を傾げる。「なあ。近野ぉ。俺ってなにか、水沢に避けられているのかな?」

「ん? なんでだよ?」

「いや、なんとなく」

「なあに気にすんなよ。そんなことはねぇよ。絶対に」近野は俺の肩をポンと叩く。

「なんでお前が、そんなことわかるんだよ」

「わかってねぇのは、お前だけじゃねぇかな……」

「なんだよ。言いたいことあるなら、はっきり言えよ」

「まあまあ。良いじゃねぇかよ。あいつら店内に入って行ったし、俺らも早く行こうぜっ!」近野はニカリと笑うと、俺の背中を押した。



 ***



「隣に座ってもいいかな?」近野と早瀬がテレビの前を陣取って、楽しそうに歌っているのを、後ろの席からぼんやりと見ていた俺の隣に、水沢がやってきた。

「えっ? ああ。別に空いてるし、好きなところに座ればいいんじゃないか」そっけなく答える俺。

「うん。ありがとう。じゃあ、ここに座るね」首を傾げながら、ニコッと微笑むと、俺の隣に水沢がゆっくりと座る。その瞬間ふわっと花の蜜のような甘い匂いが、鼻腔を刺激して、心臓がドキッと高鳴るのを感じる。カラオケボックスの電灯が暗めの設定でよかった。おそらく顔が真っ赤になってるだろうと容易に想像できた。

「……なんか楽しめてなさそうだね。……もしかして誘ったの、迷惑だったり、する?」水沢は何も答えない俺に気を使ったのかそう話しかけてきた。

「うん? ああ。別にいつもこんな感じだよ。水沢は、楽しめてないのか?」

「ううん。そうじゃ無いけど、あんまりこういう場に、慣れてなくて……」

「カラオケには、あまり来ないのか?」

「え? うん。私はあんまり……。篠崎君は?」恥ずかしそうに水沢は答える

「あ、ああ。俺も自分から来るってことは無いかな。近野に誘われたら来るくらいだな」

「へぇ。そうなんだ。私も早瀬に誘われたらって、感じかな」水沢の表情を見ていると、恥ずかしそうな顔と、嬉しそうな顔が、交互にコロコロと入れ替わる。俺の視線に気がついたのか、水沢が不思議そうな表情で口を開く。「なにか、私の顔についてる?」

「あっ。いや、そんなことはないけど。でも、まあなんだその……。誘われなきゃこないわけだから、俺たち似た物同士だな。……って思ってさ」気持ちを見透かされさそうで、思わず俺は適当ことを言って誤魔化す。

「え? ああ。うん。そうだね。……一緒だね」頬を赤らめながら、照れくさそうに水沢は笑った。

 咄嗟に言ってしまった為に、これ以上の会話が見つからない。俺が戸惑っていると、焦った顔をして、水沢が口を開く。

「あ。ごめん……。私と一緒だなんて、迷惑だよね……」水沢はしまったという顔をして、気まずそうに苦笑する。

 意外な事を言われて俺は血の気が引いていくのを感じる。でも、なんて言えば良いのかわからない自分がいた。

 その場に気まずい沈黙が流れる……。それを感じたのか、カラオケで早瀬と盛り上がっていた近野が俺たちに声をかける

「そこっ! 盛り上がっているかい?」その質問に俺も苦笑するしかなかった。



 ***



 その後、水沢と気まずい雰囲気のままカラオケも終わり、俺たちは店の外に出た。夕方とはいえ、まだ明るさの残る時間だった。

「まだ明るいけど、これからどうする?」近野が全員に向けて、そう言い放った。

「あ。私。……もう帰ろうかなって、思います」そう返事したのは水沢だった。

「え? もう帰るの?」近野の質問は当然だった。小学生ならともかく、高校生にもなって、こんな時間に帰るのは、いくらなんでも早すぎる。

「ええっ。まだ良いじゃん。だってまだ6時だよ? もうちょっと遊ぼうよ! 篠崎も寂しそうだよ?」早瀬は水沢の腕をとりながらそう言う。なぜ俺が寂しそうだなんて話になるの不思議だったが、黙っておいた。

「そうだよ。もう少し遊ぼうぜ! 帰っちゃったら寂しくなるじゃん」近野も早瀬に合わせて水沢を説得する。

「で、でも……」水沢はそう言いながら、何かを伺うようにチラッと俺の顔を見る。そこで、さっきカラオケで気まずくなったから、そう言っているのだと理解した。

「二人ともさ。水沢にだって、帰らなきゃならないほどの用事があるかもしれないのに、そんな理由で勝手に引き止めるなよ。可哀想だろう?」水沢がどう思っているのかは関係なく、用事があるという以上、引き止めはしないが……。

「あ、そうか……。そうだな。悪い。なんか用事でもあったの?」近野も俺の話に同調したらしく、心配そうに水沢を見る。

「あ、うん。そう。そうなんだよ。ご、ごめんね。後は3人で楽しんでね」少しだけ引きつった顔をしながら、水沢は笑顔を見せる。

「ええ! 本当に帰っちゃうの? だって今日は……」早瀬は1人だけ不満げな顔を水沢に見せる。

「う、うん。里奈ごめんね……。急に用事を思い出しちゃってさ。また来週学校でね……。じゃ、じゃあね」水沢はそれだけ言うと踵を返し、寂しそうな表情のままトボトボとその場を去っていく。俺は何も水沢に声をかけられなかった。

「おい。引き止めなくてもよかったのかよ?」近野が俺にボソリと言う。

「良いも悪いもないだろう。用事があるって言うんだからしょうがないってことで。……うんで、俺たちはこの後、どうするんだ?」

「んもうぉ、本当にっ! ああ。ごめん。私も帰るよ。ちょっと待ってよっ! 美桜っ!」大きく叫んだかと思うと、挨拶もそこそこに早瀬は水沢の後を急いで追った。

「おっ。おいっ!」近野も叫ぶが、早瀬は聞こえていないのか、振り向きもせずに水沢のもとに走っていく。「たくぅ。なんだってんだよ」

「まあ、いいじゃん。もう今日は解散しようぜ」俺はかったるそうにため息をついた……

第1章 動き出した運命 (2)

 翌週の月曜日、登校中に水沢を見かけた。週末のこともあり、話しかけようかどうか悩んでいると「あっ」水沢が振り向き、目があったので、急いで笑顔を作り話しかける。

「よ、よう。おはよう」気まずさ100%の挨拶をする。

「あ、あ。お、おはよう……」水沢は顔を真っ赤にして恥ずかしそうな顔をする。

「……えーと」話すことを考えながら、俺は水沢の隣に近づいた。「あ、そうだ。この間の用事は、大丈夫だったのか?」

「えっ? あ、あれは、……うん。大丈夫だったよ」

「そうか。ならよかった」

「ご、ごめんね。急に帰るなんて言って、雰囲気、壊しちゃったかな?」

「ああ、そんなことないし、大丈夫だよ。別に誰も気にしてないからさ」

「そ、そう? ……そっか、気にしなかったのか」俺の返事にまた悲しそうな表情を浮かべる水沢。

「うん? どうかした?」

「あ、ううん、なんでもないよっ!」俺の質問に慌てて笑顔を作る。

「……ってかさ、なんで水沢って、そんなに俺に気を使うんだ? 俺なんか気を使わせるようなこと、してるかな? あー、でも、おそらくしてるんだろうな。だったら、ごめんな」

「えっ? あ、あの。……ううん。べ、べつにそんなんじゃないよ。うん。本当にそんなつもりは、全くないんだ」

「そうなのか? それにしては……。もっとさ、気軽に、普通に話してくれてもいいよ。別に水沢のこと、嫌いってわけじゃないからさ」

「そうか、よかった。もしかしたら、嫌われてるのかと、思ってて……」

「嫌ってるように、見えたのか?」

「あ、ううん。私の勝手な思い込みだったから。……気にしないで」

「やっぱり紛らわしい態度にしてたんだな、ごめんな」

「え? ああ。ううん。いいの」水沢は両手を振りながら否定する「私が勝手に勘違いしただけだから、どちらかといえば、悪いのは私の方だよ……」

「水沢が気にする必要は無いってっ! 誤解させちゃったのは、俺だし、本当にごめんって、こんなこと言い合ってもしょうがないよな」俺は思わず笑ってしまう。

「だね……」水沢も照れながら笑う。

「……実はさ、恥ずかしい話なんだけど、俺この歳になるまで、彼女なんていたことなし、女子と話したこともあんまりないんだ。そんなわけでどう接していいのか、わからないんだよ」俺は照れを隠すようにそう水沢に伝える。意外そうな顔をして、水沢は口を開く。

「へぇ。意外だな。篠崎君。女子に結構人気あるから、彼女は当然、いるのかと思ってた」

「へ? い、いるわけないだろう……」俺は思わず、上擦った声が出た。

「ふーん。そっかそっか。いないのか~」水沢は嬉しそうに微笑む。

 今まで気がつかなかったけど、水沢が相当可愛いってことをその笑顔で知った。思わず心臓がドキドキしてしまう。目が合うと恥ずかしいので、水沢からそれとなく視線を逸らす。

「私のこと、き、嫌いじゃないんだったら、また一緒にどっか遊びに行こうね!」頬を赤らめながら水沢はそう言う。

「え? ああ。わ、わかった。機会があったら、あ、遊びに行こう、な」

「ああ! なんか嫌そうだな……」

「そ、そんな事ないって……」俺は少し戸惑いながら返事をする。

「本当? じゃ、いつにする?」

「えっ、いつって……」まさか食いついてくるとは思わずに、戸惑ってしまう。

「あ、ごめん。またやっちゃったね……。社交辞令ってやつだよね。空気読めなくて、本当にごめんね……」水沢は申し訳なさそうに軽く頭を下げた。

「そんなことはないよ。いつでもいいよ。そっちの都合に合わせるよ」そのしぐさを見ていると心が痛み、つい自分らしくない返事をしてしまった。

「ほ、ほんと? やったぁ。ありがとうっ!」水沢はとても嬉しそうな声をあげた。

「……ああ。そうだ。また近野や早瀬も誘うか?」

「え? ああ、そ、そうだね。……その方がいいか、な?」水沢は俺の顔を伺うように視線を送ってくる。

「じゃあ、呼ぼうか。近野には俺から話しておくから、早瀬には水沢が話しておいてくれよ。で、4人で都合のいい日程を考えようぜ」2人で遊びに行って間が持たなかったらと思うと、提案を受け入れてもらえてよかったと、ホッと胸をなでおろす。

「うん……。わかった」水沢がションボリとした顔をする。

「おっと、じゃあ、学校に急ごうぜ!」俺はその表情に、気がつかない振りをして、話題を逸らす。



 ***



「なあ。水沢ってさ。俺のこと、どう思ってるんだろうか?」

 昼休みにいつものように近野と食事をしながら、ボソリと俺が質問を投げかけた。その質問に近野が楽しそうな表情で、返事をしてきた。

「お? どうした急に? 恋愛にでも目覚めちゃったか?」

「なんだよそれ」近野の返答にあきれた表情で返す。「……彼女さ、なんか俺にすげぇ気使ってくるだろ? あれって、何か意味があるのかなと思ってさ」

「ふーん。まあ、好きなんじゃねぇの? 水沢がお前のこと」

「……やっぱり、そう思うよな」

「って! 驚かないのかよ?」近野は苦笑する。「まあ、あそこまではっきりとした態度を見せてたら、まるわかりだもんな」

「つーかさ。先週のカラオケって、俺と水沢をくっつけるために企画したんじゃないだろうな?」

「ああ、悪い。やっぱりばれちゃうよな。悪気があったわけじゃないから、怒んないでくれよな」

「うん。まあ、嬉しい事だし、別に怒りはしないけどさ……。それならそうと事前に教えてくれよ」

「お。じゃあ付き合うのか? まあ、水沢って、かなり可愛いもんな。あれで尽くしてくれるっていうんなら、最高だよな」

「可愛いか。まあ確かにな……。って、別に付き合うわけじゃねぇよ」気恥ずかしくなり、慌てて否定する。

「そうなのか? ふーん。もったいねぇ」

「……それでさ。今日の朝、水沢と話したんだけど、また4人で遊ばないかって、話になったんだけど、お前、今度いつ都合がいいのよ?」

「うん? 4人? 4人ねえ……。わりぃ。俺はパスで頼むわ。せっかくなら2人で遊びに行って来いよ」近野は面白くなさそうに伸びをすると、かったるそうに声を出す。

「この間付き合ったんだから、今回は俺たちに付き合ってくれてもいいじゃないかよ」

「付き合うのは俺じゃなくて、お前だろ。4人で遊ぶよりも、2人の方が水沢も喜ぶと思うぞ。それとも、女と2人になるのは怖いのか?」ちょっとバカにした顔で近野が笑みを浮かべる。

「……うん。否定はしない。この歳になるまで、女と2人で出かけたことなんかないからな」近野の挑発のるような真似はせずに素直に本音を話す。

「そんなに素直に言われちゃったらな……。たくぅよ。しょうがねぇな。じゃあ、4人で出かけて、途中で2人ずつに分かれていいって条件ならいいぞ?」

「おお。それでいいよ。じゃあ段取りとか頼んだぞ。俺はいつでもいいからな」

「っておい。俺に丸投げかよ」近野がおどいた顔をする。

「だって、お前ってそう言う段取り好きだろ? 早瀬も好きそうだし、一緒に決めてくれよ」

「好きなわけないが……。って、そうだな。ま、わかったよ。話し合ってみる」

「ああ。すまない、よろしく頼む」

 早瀬の名前を出すと、いい方向に行くかもと想像はしていたが、本当にうまくいくとは思わなかった。やはりこいつって、早瀬のこと好きなんだろうな……。俺はついつい意味ありげな目で近野を見る。

「なんだよ?」

「いや、なんでもない」

「そんな顔でみるなら、段取りするのやめるぞ?」

「わるい。そんなつもりは無いんだ。是非よろしく頼むよ」立場が悪くなりそうなので、とりあえず頭を下げておくことにした。



 ***



「あのさ。篠崎、今日でもいいかな?」その日の放課後。早瀬から突然話しかけられる。

 チラッと早瀬の後ろに目をやると、水沢が少し離れてこちらを見ていた。俺と目が合うと顔を赤らめて恥ずかしそうに会釈をしてくる。

 どうやら朝の約束どおり、早瀬と話し合った結果、今日の放課後になったようだ。

「ああ。俺はいいけど、早瀬は部活、水泳部だったよな、この間も行ってないと思うんだが、今日もサボるつもりか?」

「あのねぇ。私が堂々と部活をサボるわけないでしょ。土曜日も今日も自主練ってことで休みをもらっているのよ」

「そうなのか。そこまでして、俺たちに付き合ってくれるなんて、なんだか悪いな」

「悪いと思うなら、2人で遊びに行けばいいんじゃない?」早瀬がちょっと意地悪そうな顔で笑みを浮かべる。

「2人で遊びにいけるなら、そもそも、お前達を誘ったりはしないからな」

「まあそうだよね。でもさあ、なんで美桜と2人きりになるのは嫌なの?」早瀬は水沢に聞こえないような小さな声で話しかけてくる。

「嫌って言うか……。なんとなく不安なだけだよ」俺も小さな声で答える。

「不安?」

「お前みたいに、誰とでも仲良くなれるようなタイプの人間には、わかんない悩みだよ。お前って会話に困って、気まずくなったことなんてないだろう?」

「むっ。なんかむかつく発言ね」早瀬は少し口を尖らせるが、すぐにいつもの人当たりのいい笑顔に戻る。「でもまあ、あながち間違ってもいないか。わりと適当な性格だから、話せなくなるとか、わざわざ考えたりはしないからね」

「だろ。本当に羨ましい性格だよな。……まあ、そんなわけで、俺は話しに困るかもしれんから、いきなり2人きりになるのは不安なんだよ。ってことで俺たちに付き合ってくれ。退部にならない程度に」

「だからさ、さっきも言ったように部活は、休めるようにお願いしてあるから、心配しないで。でも、そう何日も休めるわけじゃないから、あんまり期待はしないでね」

「ああ。ありがとうな」

「ってことで、美桜っ! OKでたよっ!」早瀬の大きな声が、クラス中に響き渡る。水沢は一瞬ギョッとした顔を見せると、周りをキョロキョロと見渡し、顔が一瞬で真っ赤になると、恥ずかしそうに俯いてしまう。「ありゃ。ごめ~ん。美桜」

「……もうぉ。知らないっ」水沢は恥ずかしさに耐え切れず、教室から飛び出していく。

「おいおい。今のはかなり注目されてたな。……ちょっとまずいんじゃないのか?」話を聞きつけやってきた近野が、早瀬に注意を促す。

「わ、わかってるわよ。ちょっと待ってよ。美桜」慌てた顔をして水沢の後を追う。

「うんじゃ、俺たちも行こうぜ」

「今日はどこいくんだ?」

「デートコースの定番。ファミレスだ」

「そもそもデートじゃないし、それにファミレスが、定番なんだ……」



 ***



「ああっ! やべぇ。どうしようか……」もうすぐで指定のファミレスに着こうかというところで、突然近野が大きな声をあげて、両手で頭を抱え込む「カバン持ってくるの忘れた。なんで俺、手ぶらで来たんだよっ!」

「知らねえけど、カバンなんかどうでもいいんじゃないか?」

「そんなわけにはいかねえよ。弁当箱も入っているから、忘れるのは、ちょっとまずいな。しかたない。俺、一回学校戻るわ。この先のファミレス『デイズ』で待ち合わせしてるから、先に行っててくれよ」

「まじかよ。できるだけ早めに来てくれよ。俺だけだと、間が持たない可能性がある」

「わかってるよ。じゃあ、行ってくるな」

 それだけ言うと近野は踵を返し、来た道を走って戻っていく。

「たくう。俺一人で行くしかないのか……」思わずため息がこぼれた

 ぶつぶつと近野の文句を言いながら俺は『デイズ』に到着する。店内に入ると店員が現れる。

「お一人ですか?」ウェイトレスが満面の笑みで接客をしてくる。

「いや、待ち合わせしていて……。すでに中にいると思います」しかし、基本的にシャイボーイの俺は、その笑顔に答えられず仏頂面で返事をする。

「あ、かしこまりました」ウェイトレスは笑顔を崩さずに返事をすると、後ろを向いてホールに戻っていく。俺は周りをキョロキョロ見渡して、水沢と早瀬を探した。

 放課後ということもあり、うちの高校の制服を来た人間がたくさんいる。遠くからでは探せないかなと、半分諦めかけたところで、水沢がこっちを向いて恥ずかしそうな顔をしながら、一所懸命に手を振っているの姿が目に止まる。

 手を振るほうも恥ずかしいかもしれないが、振られている方もかなり恥ずかしい。俺は急いで水沢の席に向かった。

 席の前に来て、水沢が一人しかいないことに気がつく。

「おまたせ。って、あれ、早瀬は?」

「あ、里奈は……。なんか、部活の先輩に呼ばれたとか言って、学校に戻ったよ。あ、でもすぐに戻ってくるって」

「そうなのか」と返事をしながら、近野と早瀬に嵌められたのかもと、つい勘ぐってしまう。それでも席に座らないわけにはいかず、俺は水沢と向かい合う形でボックス席の椅子に浅く腰掛けた。

「えーと。近野君は?」少し不安げな顔で水沢が聞いてきた。

「ああ、あいつは忘れ物だって、学校に一度戻ったよ。早瀬と一緒で、あいつもすぐに戻ってくるとは言っていたんだけど……」

「早瀬と全く同じだね。なんだかな」水沢は戸惑った笑いを見せる。

「まあ、そのうち来るだろう。……なんか注文した?」

「あ、私はお茶を頼んだよ。……ねぇ、2人は本当に戻ってくると思う?」

「うーんと」鋭いツッコミが来たので思わず口ごもる。「どうだろうな。でも戻ってくるんじゃないのかな」

「そっか。そう思うんだ……」

「なんか戻ってこない心当たりでもあるのか?」

「え? あ、ううん。そうじゃないけど、2人してって考えると、ちょっとわざとらしいかなって」水沢はテヘと笑う。

「わざとらしい? まあ、確かにな。余計な気を使ったと考えられなくもない、な」

「でしょ?」

「でもさあ、なんでそんな余計な気を使うんだろうな?」

「そ、それは……」水沢は顔を真っ赤にして俯いてしまう。失言だったかなと思い、俺は慌てながらメニューに手をのばす。

「さ、さてと俺はなに頼もうかな……お、これなんかうまそうだな」などとはしゃいだふりをしてみる。

「え? どれ?」水沢も空気を読んでくれたのか、俺のひとり言に入ってきた。

「このキノコ風ドリア」

「へえ。確かにおいしそうだね。こっちもおいしそうじゃない? 和風ドリア」

 ドリアなのに和風って……。良いんだけどなんか気になるよね。こういうネーミングって……。

「ん? どうしたの?」

「ああ、いや。ってか俺だけ食い物頼むのもなんだし、ドリンクにしとくか」

「えー。いいよ。お腹空いてるんだったら、食べちゃえば? あ、でも、この時間だと夕ご飯が食べられなくなっちゃうかな?」

「そうでもないな。夜はどうせ自炊だし、作るのが面倒だから、食べていっても良いんだけど、俺一人だけ食べるってのが、気が引けるんだよね」

「え? 自炊って……。もしかして、篠崎君って、自分で晩御飯作ってるの?」

「ん、そうだけど。でもさ、さすがに毎日となると作るも面倒だし、作る気が起きない。本当は昼もつくんなきゃいけないんだけどさ、これもまた面倒で……。親父がお小遣い多めにくれるから、作らずについつい買い食いしてるんだけどな」と近野に話すようなのりで軽々しく家族の話題を口にしてしまったことに後悔する。この後に来る質問に検討がついてしまったから。

「そうなんだ。お母さんは忙しい人なの?」ほらやっぱり……。この質問をされると、母親が死んだって話をしなければいけなくなる。それが非常に憂鬱な気持ちにさせられる。

「そうじゃなくて……」

「ん?」水沢は大きな目をクリッとさせながら興味深い顔でこちらの表情を見てくる。俺は唇をギュッと噛み締め、今後は余計なことを言わないように自分を戒め、ゆっくりと口を開く。

「2年前に死んじゃったんだよ。母さんは」沈みそうな感情を押し殺すように、わざとらしくおどけた声で続ける「だからさっ! 親父も仕事忙しいから、食事くらいは自分でやらないといけないんだけど、きちんとはやれてないってわけさ」

「あ、あの……。ご、ごめんなさいっ。余計な事を聞いてしまって……」

「いや、水沢が気にする必要は無いよ。もう聞かれるのも慣れたし、気にすんなよ」

「で、でもっ」

「良いんだって。それよりも注文していいかな?」俺はわざと話題を逸らす。ものすごく申し訳なさそうな顔をしている水沢の顔を、これ以上見ていられなかったから……。

第1章 動き出した運命 (3)

「にしてもだ、あいつら遅いな。やっぱり戻ってこないつもりなの、かな?」注文を終えるまでずっと黙っていた水沢に見かねて、俺から話を振ってみた。

「え、ああ。そうだね。もう結構時間、経ったよね」水沢は腕時計をチラリと見る。

「……飲み物を頼んだ後に言うのもなんだけど、戻ってこないなら、ここで俺たちが待っていても意味は無いよな」

「そ、そうだね……。もう帰る?」

「うーん」俺はチラリと店内にかかっている壁時計を見る。4時50分。「早いな。もう5時前か、今日は用事とか大丈夫?」

「う、うん。今日は大丈夫だよ。篠崎君は?」

「俺も大丈夫。帰っても飯作るくらいしかやることないしさ」

「そっか。……じゃあさ、なにか食べに行かない?」何かを思いついたのか、急にパッと明るい表情になる水沢。

「食べにって、ここファミレスだぞ? なんか食べたいなら、ここで良いんじゃないのか?」

「まあそうだけど、せっかくならおいしいところで食べたいじゃない?」このファミレスで食事をしている人、全員を敵にまわすような発言だが、あえて突っ込まないことにする。

「そっか、そういう考えならいいけど、どこに行くんだ? 何かオススメでもあれば、そこに行こうぜ」

「そうだなぁ。それなら、この近くにいい店があるよっ!」

 嬉しそうな声をあげる水沢につられて俺も思わず笑顔で返す。俺たちは店員が嫌そうな顔をするのを無視しながら、頼んだ飲み物をキャンセルすると会計を済ませ店を後にする。

「あはっ。ものすごく嫌な顔されたね」

「まあな。水沢はともかく、俺なんて何も頼んでないからな。それで30分くらい粘ってるんだから、たち悪いよな」

「たしかにそうだね」あははと水沢が笑う。

「んで、これからどこに行くんだ?」

「えーとね。この辺なんだけど……」水沢は周りをキョロキョロと眺める。「あ、あそこだ、あそこ」水沢が一つのお店を指差す。指差したお店には、モクドバーガーと書いてある。

「え? ええ? ここ? ほんとうに?」

「うん。そうだよ。ここっておいしいよね。もしかして嫌い?」

「いや、別に嫌いじゃないし、おいしいってのは否定しないけど……。ファミレスと大差ないというか、ファミレスよりもダメなんじゃないのか? ジャンクフードだぞ?」

「そうだね。なにか問題でもあるかな?」

「いやあ」問題は無いがファミレスをキャンセルしてくるほどの場所ではない気がするのだが、それでも水沢が喜ぶならいいのかなと思ってしまう。「じゃあまあ、ここでいいか」

「わーい。久しぶりだな。何年ぶりだろう……」

「はあ? そうなのか? おいしいと思っているわりにあまり来ないんだな」

「うーん、まあね。なかなか来る機会がないというか、禁止されているというか……」

「へ、禁止?」

「あ、ううん。なんでもない。さあ、行こう行こうっ!」何かを言いかけて慌てて口をつぐむ水沢。思いっきり焦った表情を見せるが、すぐに笑顔を見せる

「俺に気を使っているとかじゃなく、本当にここでいいなら、行こうぜ」

「うん。もちろんっ!」



 ***



「なあなあ、水沢。やっぱり俺に何か隠していないか?」

「え? ど、どうしてそう思うの?」

「だってさぁ。ここのハンバーガーが好きだって言いながら、『どのハンバーガーがおいしいの?』って聞かれてもな。本当にここで食べたことあるのか?」

 モクドバーガーに入って、俺たちはレジカウンターで注文をしようとした。俺は頼むものを決めていなかったから、先に水沢に選ばせた。すると水沢が『どれがおいしいかな』とか『これはどんな味なのか』とか『カロリーや塩分はどれくらいか』など細かく店員に聞く始末。

 学生が多い、夕方のこの時間にこんな質問をして、だらだらと決めていたら、列の後ろの人間に嫌な顔されるのは必然的。おまけに店員も引きつった笑いをするわで大変なことになってしまった。

 そして、やっと水沢が決めたメニューが『ハンバーガーセット』。何のために悩んだのか意味がわからないくらいに平凡なセットを注文した。

「ご、ごめんね。どれを頼めばいいのかわからなくて……」

「いや、わからないのは良いんだけど、食べたかったわけじゃなく、食べてみたくてここを選んだんじゃないのか?」

「そ、そうだね。そうかも」あははと笑う水沢。

「もしかしてさ、俺のお財布事情を汲んでくれたとか?」

「そんなことはないよ。ただ、この店に入ってみたかったの。本当に久々だったから……」

「なら良いんだけどさ、じゃあ、冷めないうちに食べようぜ」

「うん。そうだね。ほらほら、食べて食べて」水沢はそう言いながら、俺の手元にあるハンバーガーをジッと眺めている。

「うーんと、ジッと見られていると食べづらいのだが……。って、水沢は食べないのか?」

「あ、うん。もちろん食べるよ。食べる為に来たんだもんね」水沢はそう言いながらハンバーガーを持ち上げようとはするが、俺の手元から目を逸らそうとはしない。

 俺はその視線が気になりながらも、とりあえずハンバーガーの包みを開き、中からハンバーガーを取り出す。その様子をみて、水沢はホッとした表情を一瞬だけ見せると、すぐに自分のハンバーガーに目を向け、俺と同じようにハンバーガーを取りだした。

 ……もしかして、こいつってハンバーガーの食べ方も知らないのか?などと思ってしまう。

「あっ! もしかして、今、こいつハンバーガーの食べ方も知らないのか?って思ったんじゃない?」馬鹿にされたと思った水沢は、可愛く頬を膨らませている。

「いや、あ、ああ、そう、よくわかったな。実際はどうなんだ? 違うのか?」

「違わないけど……」

「なあ。もう一回聞くけど、本当にこんな店で良かったのか?」

「うん。それはもちろんだよ。ほら、こんなにおいしいし!」水沢は一瞬ためらった後、パクッとハンバーガーをかじる。

「まあ、満足しているなら、それならいいけど」本当に変わった奴だな。まあ、俺に気があるくらいだから、それだけで変わった奴なんだろうが……。って、そういえば、水沢って俺に気があるって近野が言っていたな。聞いてみるか? と頭の中をよぎるがやめておいた。もしも「そうだ」と言われたら、なんて答えればいいのかわからないしな。

「ほらほら、篠崎君も食べよ、食べよ」ニコニコした顔でハンバーガーをかじる高校2年生。周りからの視線が痛い。そこに水沢の携帯が音をけたたましく鳴り響く。「あ、ごめん電話だ」

 水沢はそう言うと鞄の中にある携帯を急いで取り出す。「あっ。里奈だ。ごめん、ちょっと出るね」

「ああ」俺が返事をすると、水沢は口パクでごめんと言いながら、携帯の通話ボタンをプッシュする。

「もしもし、里奈?」

 盗み聞きも感じ悪いと思ったので、俺は自分のトレイ乗っているハンバーガーに手をつける。ハンバーガーを食べながら、ぼんやりと水沢を眺める。

 水沢は「もうっ」と言いながら、ほっぺを膨らませたり、こちらをチラッとみて顔を顔を赤らめたりと、表情がコロコロ変わるのが面白い。おとなしい控えめなコだと思っていたが、こんな一面もあるんだなと、ちょっと釘付けになってしまう。

 そんなことを考えているうちに水沢の電話が終わる。

「やだなぁ。そんなにジロジロ見つめられると恥ずかしくなっちゃうよ」顔を真っ赤にした水沢が俺の顔を覗きみる。

「ああ。わりぃ。なんか俺、水沢のことを誤解していた気がする」

「え?」

「いやね。もっと控えめであまり感情を表に出さないタイプなのかと思ってた」

「もしかして、控えめのコが好き?」

「いやあ、そんなんじゃないけど、ちょっと意外だなって思っただけだ。それにどちらかといえば、今のほうが好きかな」

「ほ、本当?」頬を朱に染めて、ちょっぴり上目遣いで俺を見つめる水沢

「えーと」そのしぐさを見て、自分が恥ずかしいことを言ってしまったことに気づく。「まあ、な。……あ、それよりさっきの電話なんだったんだ?」

 恥ずかしかったので話題を変えると、水沢はちょっぴり残念そうな顔をするが、すぐに表情を戻す。

「あ、そうそう。里奈、やっぱり来れなくなったんだって。篠崎君に謝っておいてだって」

「そうか、奴にはゆるさんと言っておいてくれ」

「あははっ。私もそう言っておいたんだよ」

「おお。さすが。って冗談はさておき、早瀬は電話かけてくる分、まだましだな。問題は近野の野郎だな。あいつは連絡すら入れやがらない」

「あ、そういえば、そうだね」

「あいつは絶対に許さないぞ」軽い冗談で言ったつもりだったが、水沢がなにやら胸を抑え、苦しそうな表情を一瞬だけ見せる。俺が言った事を本気にしてしまったのでは無いかと焦ってしまう。「もちろん、ほ、本気じゃないぞ? 軽い冗談だぞ?」

「え、あ、うん。わかってるよ」さっきまでの苦しい顔が嘘みたいに消え、素敵な笑みを見せてくれる。それはまるでひまわりがパッと花開くような明るく元気な笑みだった。



 ***



「おーい。篠崎。もう怒ってないんだろ? 一緒に飯食おうぜっ!」

 翌日の朝から近野は昨日のバックレの件について、俺に謝ってきた。結果としてはうまくいったので良いものの、あんなことはもう勘弁ということで話はまとまった。昼休みになり、近野がややその件を気にしながらも、いつものように食事に誘ってきた。

「ああ。わかった。でも、ちょっとパン買ってくるから、ちょっと待っててくれよ」

「んじゃ、先に食べてるからはやくしろよ」そう言って、いつもの近野スマイル見せる。

「……少し急いだ方がいいかな」俺は教室から廊下にでる。そこで……

「あ、あのさっ!」

「うん?」当然、後ろから声をかけられて振り返るとそこには、水沢の姿があった。「どした?」

「あの、ね。もしかして、今日も食堂で何か買うの?」

「ああ。そうだよ。昨日も言ったけど、作るのが面倒くさくってさ」

「じゃあ、もし、良かったら、私のお弁当、もらってくれないかな?」

「えっ? なんで、悪いからいいよ」

「そう……。でもさ、お父さんのお弁当間違ってもってきちゃったから、私一人だと多すぎるんだよね」

「ふーん。なるほどね。んじゃ、あまるようなら、もらうぞ」

「ほんとう? やったっ!」

「お父さんのってことは、弁当1つなんだよな? じゃ、屋上にでも行こうか。さすがにここだと恥ずかしいし……」

「そ、それがね。2つあるんだよ。だから片方だけもらってくれればいいんだけど……」

 なぜ、お父さんの間違って持ってきて、なおかつ自分の弁当箱があるのかについて激しく疑問を持ったが、水沢が真っ赤な顔をしているので触れないことにした。

「まあいいっか、ちょっと、近野に断ってくるから待っててくれ」

「えー。いいよ。もらってくれるだけで十分だよ?」

「いやいや。大丈夫だって、断ってくるから」水沢にもらった弁当なんて食べてたら、近野からなんて言われるかわからんし、ここは近野を断るべきだろう。

「ってわけだ。悪いがまた明日な」ものすごく説明を省いて、一緒に食べられないことだけをアピールする。

「はいはい。あとで詳しく聞かせろよ」またしても、近野スマイルで明るく見送ってくれる。



 ***



「お前のお母さん。本当に料理上手なんだな」

 水沢にもらった弁当を食べ終わって、俺たちは一息つく。もらった弁当は少々薄味ではあったが、素材の味が最大限に引き出されていて、ものすごくおいしかった。久しぶりの手料理で涙が出そうになるくらいに。

「本当? よかったぁ。喜んでくれたならうれしいよ。でも、お母さんだけじゃないよ。私も手伝ったんだよ」

「ほう、そうなのか、どれが水沢美桜のオリジナル手料理だったんだ?」

「それは内緒。まずいって言われてないから、それで良いんだよ」水沢はニッコリと微笑む。

「そっか。気になるが、我慢しておこう」

「……ねえっ。そんなに気にいってもらえたならさ、明日も作ってもらおうか?」

「いやぁ。それはさすがに悪いからいいよ」お金も浮くし、ものすごく嬉しい提案ではあったが、非常に申し訳ないので遠慮しておく。

「ううん。気にしないでいいよ。なんか、篠崎君のお母さんの話聞いちゃって、私に出来ることないかなって思ったらさ、これくらいしか思いつかなかったから……」

「そんな。良いって気にするなよ」

「気にしちゃうよ。篠崎君。たまにものすごく寂しい顔するじゃない? それって、今思うと、家族の話が出たときなんだなと思っちゃったの」

「よく俺がそんな表情してるって、気がついたな」確かに母親のことを考えると今でも胸が苦しくなるが、それでも表情には出していないつもりだった。「俺自身もまさかそんな顔してるなんて、思ってもいなかったのに」

「あ、ごめんね。ちょっと気持ち悪い奴だって、思われちゃったかな」

「大丈夫。そんなことは無いけど、ただすごいなって思ってさ」

「そう? だって、篠崎君クラスの男子の中でもなんか少し違うじゃない? うーん。なんて言えば良いのかな。なんか影があるって言うか……」必死になって言葉を選んでいるのが可愛らしく見える。

「そうか? どちらかと言えば、あっけらかんとしていると思ってるんだけど」

「そうだね。近野君と話しているときはそう思う。本当に楽しそうだよね。でもね、なんかふとした時に、ものすごく寂しそうな顔をするんだよ。その顔を見るたびに、どうしたの?って、話しかけたい気持ちになってたんだ……」そこまで言うと水沢は、ハッとした顔をする。「なんてね。とにかくさ、私に出来ることあるなら手を貸すから、お弁当が迷惑じゃ無いなら、もらってくれると嬉しいなっ!」

「そっか。じゃあ、とりあえず明日はお願いするよ」

「うん。了解っ!」太陽に照らされながら、元気に笑う水沢を見ていると楽しい気持ちになってくる。明日のお昼休みがまた楽しみだな……。

いつかまたどこかで

いつかまたどこかで

篠崎祐輝は成績優秀な男子中学生。順風満帆な人生は母親が心臓に疾患を抱え倒れてしまい、あっさりと終わりを告げる。母親の看病に1年近くの時間を費やし、校内でも上位だった成績はみる影もなく、ひどいものになっていた。母親を失い、頼りにしていた成績も下がり、もう人生を投げ出しそうになっていた。それでも何とか、偏差値の低い高校ではあったが、滑り込みで入学を果たす。そこで、親友の近野や恋人の美桜に恵まれながらも、その幸せは長くは続かないものだった。なんども別れを繰り返しそれでも頑張っていく、祐輝。そしてそれを支えていく仲間たち。最後に彼が知るのは、失ったものの真実の姿。いつかまたどこかで会える日を想いながら……。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-03-21

Copyrighted
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  1. プロローグ
  2. 第1章 動き出した運命 (1)
  3. 第1章 動き出した運命 (2)
  4. 第1章 動き出した運命 (3)