ホットケーキ

 男って情けないものですから。

    ホットケーキ    

「飯は食ってきたから」と、オレはマンションに帰るなり性懲りもなく玄関に出迎えにきた敬子に言ってやった。
「あ…」と敬子は何か言いかけたが、「そう…」と力なくつぶやきうつむいた。オレはそれを見届けてから靴を脱ぐ。敬子はまだおどおどとしている。きっとオレの鞄を持とうとしているのだろう。でもオレは鞄をしっかりと脇に抱え、あえてゆっくりと靴を脱ぐ。
「お風呂も用意できてるから…」と敬子はそそくさと廊下を歩く俺の背中に声をかけた。
「いや、入らない。朝にシャワー入るから」

 風呂くらい入ればよかったかなと、階段を昇りながらちらっと思った。今日は汗をかいたから風呂に入りたい。いや、これでいいんだ。風呂に入りたくなったら、自分で用意して入る。これでいいんだと、自分に言い聞かせた。
 和室の襖をそうっと明け、布団に大の字になって転がる、息子の彰人の寝顔を遠くから見た。最近の日課だ。毎日帰宅は深夜十二時半を過ぎている。よく眠っている。一週間前まで親子三人で川の字になって眠っていた。帰りはやはり遅い方だったが、十時くらいに帰ると、彰人もまだ起きていることがあり、少しだけ遊んだり、幼稚園の出来事を聞いてやったりした。思い出すだけで微笑ましい光景だ。でももう二度と、そんな微笑ましい光景の一枠に、自分が組み込まれることはないかもしれない。先週の週末は、休みの土日まで何かと用事を作って家にいないように努めた。敬子は日、一日と弱ってきているのが見て取れる。元から体の弱い女だ。そろそろ音を上げるだろう。

 一週間前のことだ。オレは表参道で接待がらみの飲み会があり、そこで愛想笑いをたっぷり浮かべ、旨くもない酒をグラスに注がれるだけ飲み、なんとか二次会のカラオケを逃れ、くたくたになって同僚の一人と飲み直しという事で、渋谷のバーに行くことになった。
 バーは道玄坂を上がったところにある。一歩小道に入ると、ライブハウスなんかもあるが、ラブホテルばかりのいかがわしい場所だ。だがそこは同僚の行きつけの店らしく、道玄坂もそこまで上がると平日の夜なら店も比較的空いていて、静かに酒を飲めるからと言うので、表参道からタクシーで乗りつけた。タクシー代は二つ年上の俺の奢りだ。道が込んでいたから、思ってた以上に料金がかさみ、素直に電車で来ればよかったと後悔した。
 渋谷のこんな所を歩くのは学生の頃以来だ。一度目はただ単に好奇心で友人数名と馬鹿騒ぎしながら酔っ払って練り歩いたこと。カップルをひやかしたりからかったりした。二度目はサークルの友人二人と酒を飲んでいて、居酒屋で隣の席の女の子二人組をナンパし、酔った勢いでこのホテル街まで引っ張ってきたのだった。だがその日は土曜の夜という事で、どのホテルも満室。オレと友人は今思うと哀れなくらい必死だったが、彼女等は勢いに負けてついてきただけで、完全に拍子抜けしていた。そして朝の光が街をほのかに色づける頃に、男二人もようやくあきらめた。
 静かな店だった。静かに音楽がかかり、静かにバーテンのいらっしゃいませという声がかかり、店内にいる少数の客は、皆静かに話をしていた。あまりこういう店には詳しくはないが、きっと本格的なバーなのだろうと思った。オレはすぐにその店が気に入ったが、カウンターに座ってジン・トニックを注文すると、そこで携帯電話が鳴った。
「うわぁ。坂崎さんだよ」オレはうんざりした。坂崎というのは、さっきまで一緒に酒を飲んでいた取引先の部長だ。図々しく、厚かましく、横柄なわりに、妙に人懐っこくてお節介焼きという、オレの上司もほとほと手を焼いているお得意さんだ。
 無視するわけにもいかず、「もしもし」と俺はその場で小声で電話に出た。だが店は明らかに電話なんかするのは場違いな雰囲気だったので、オレはすぐに恥じ入る思いで一旦店を出た。カウンターの奥にいた、若い女を連れた中年の男は怪訝な顔をしていた。立ち上がった頃にバーテンがオレのジントニックにライムを搾るのが目に入り、ノドがなった。
 どうでもよい話だった。今度はキャバクラがいいだの、今日の飯はあれがよかったが、何がイマイチだったの、常務によろしくだの。オレは電話なのに愛想笑いを浮かべながら必死に相槌を打った。
 電話を切り、ふうっと一息ついた。なんだかどっと疲れた。オレはノドが乾いていたが、とりあえずタバコを吸った。煙を吐き出すと、ほっと一息つけた感じだった。ずっと誰か彼かと一緒だったので、一人になりたかったのかもしれない。
 深く煙を吸い込み、それを何度か吐き出した頃、目の前のラブホテルの階段から、一組のカップルが下りてきた。この時間に出てくるということは、宿泊でなく、終電までに帰らなければならない事情があるカップルなのだろう。
 中年に見えたが、男の声は若かった。いかにもスポーツか何かをやっていたというような肩幅と胸板の厚さが自慢のようなマッチョ男だ。五月の肌寒い夜だというのに、妙にぴちぴちしたTシャツを着ている。こういう輩は常に肉体を周囲にアピールする。オレの一番嫌いなタイプだ。
 女の方は階段の途中で立ち止まり、小さい声で男と会話している。ここからだと女の姿は光の加減で足しか見えない。ベージュのストッキングに包まれた、そこそこ形の良い細い足。ヒールのほとんどないようなローファー。だが服装全体としても、なんとなく地味な感じがした。マッチョ男とは何か不釣合いな印象を受けた。
 オレが店に戻ろうとした時に、女がゆっくりと階段を降りてきた。オレは指で挟んでいたタバコを落とした。向こうも真正面にいるオレの顔を見た。今思うと、安っぽい昼の連ドラのワン・シーンのようだが、それはオレの目の前に現実として訪れた。
 マッチョ男が何か敬子に話し掛けた。敬子はもう何年も着ている綿のカーディガンを羽織っていた。男の声は不必要に大きかったが、気が動転していて何を話しかけたのかは、オレには理解できなかった。
 敬子は怯えたような顔をしたまま肩にかけていたバックが腕をずるずると滑り落ち、肘からぶら下がった。そのバッグもやはり、見慣れた物だった。
「どうした?」と男が敬子の肩に手を置きながら言い、敬子の目線の先を追った。
「知り合い?」
オレも敬子も何も言わなかった。
「まさか…」マッチョ男は敬子とオレの顔を見比べ。「あちゃー、マジで?」と言って手を額に置いた。
「なんだよ、旦那が渋谷にいるんならこんなトコに来なけれりゃよかったんじゃねえか?」とマッチョ男は敬子に言った。何がおかしいのか、へらへらと笑っていた。
「今日は、渋谷まで来たんだよ」とオレは敬子を見据えたまま口を開いた。声そのものが固く硬直している。自分が喋っているとは思えなかった。「お前、こんな所で、何をしているんだ?」
 敬子は何も言わず首を振った。そしてすかさずマッチョ男が馴れ馴れしく手を肩から背中に置き、オレに向かって話しかけた。
「どうも、始めまして、近藤って言います。敬子ちゃんとは高校の頃の同級生なんです」マッチョ男は軽快に喋り出した。無駄にでかい声で。「まあこんなところ見られたんじゃ、言い訳も申し開きもありません」男は堂々と言った。「二ヶ月くらい前かな。同窓会があって、そこで会ってから、こう、お互いね」
「二ヶ月前?」そうだ、確かに同窓会があると言って敬子は出かけた。オレは彰人と留守番をした。よく覚えている。
「僕も妻がいます。子供もいます。ですから僕も敬子ももちろん良くない事をしているってことくらい分かってますよ。大人ですからね」
オレは何も考えれなかった。もう頭の中の回線が、二、三本ショートしている。復旧にはしばらくかかりそうだ。
「でもこういった事が起こるのは、事情があるんですよ。事情が」何故かマッチョ男の口調は、少しずつ怒りを含んだものに変わっていった。「敬子だって寂しかったんですよ?知ってました?いつも帰りが遅いそうですね?それに敬子のヤツ、最近体調もあまり良くないって…」そこまで言った時に敬子がマッチョの腕を掴んで言った。「やめて、近藤君、お願いだからやめて」もう泣いていた。
「お前のためだよ、敬子。お前のためにきちんと言ってやってんだよ」そういって男はゴツイ腕で敬子を後ろに押しやった。「いつも帰り遅いんだろ?酒ばっか飲んでんだろ?オレはさ、酒なんか飲まないぜ。タバコも吸わない。仕事で遅くなる日もあるけど、まっとうに家に帰って子供の面倒見たりするぜ」マッチョ男はまるで酒を飲まないことと、タバコを吸わないことを手柄話のように話す。そう、酒タバコをやらない人間は、何故かそれを材料に、酒タバコをやる人間より優位に立っていると思っている。
「お前、オレのことそんな風に見てたのか?」オレは敬子に言った。「酒ばかり飲んで、遊んでいるとでも思ってたのか?」何歩が前に出てマッチョ男の後ろにいる敬子をにらみつけた。
「違うの。そんなこと言ってない」敬子は言うが、すぐにマッチョが口を挟む。
「だぁかぁら。見苦しいよ、本当のこと言われてムキになるのは」
「お前に言ってんじゃねえよ」
「敬子は気が弱いから、オレが変わりに答えてやってんの」マッチョ男も前に進み出た。俺の目の前にくると、オレよりも十センチ以上身長は高いと思われた。オレは男を見上げ、何か言葉を探した。思い切り何か言ってやりたかったし、拳は堅く握られ、すぐに殴りつける準備は出来ていた。マトモにやりあったら負けるかもしれないが、とりあえず一発だけでもぶん殴ってやりたかった。
「まあまあ、そう怖い顔しないで」マッチョ男はオレを見下しながら言った。どうやらオレが黙っている事を、ビビッて何も言えないでいると受け止めたようだ。
「大人なんだからさぁ、ね、怪我したくもないでしょ?お互いね」とオレの両肩を強く掴み、押し下げるようにした。太い指が肩に食い込み、オレは膝を踏ん張らないと立っていられないほど、男の力は強かった。
「大丈夫、僕も敬子もほんの『遊び』ですから、ね?穏便に済ませましょうよ?今回一回だけですよ」男はオレの肩から手を放し、手のひらをこちらに向けながら言った。
「それで納得するとでも思ってんのか!」オレはそう言うなり男の向う脛を、思いっ切りつま先で狙い済まして蹴っ飛ばした。これでも元サッカー部だ。それにこの革靴はかなり先が尖っている。
 男は「ぐわっ」と痛々しい声を上げて、うずくまった。そこで今度は顔面を蹴り上げてやろうと、足を後ろに振り上げた。だがその時、オレは相手の顔面を思い切り蹴り上げる事に一瞬躊躇してしまった。そして緩い蹴りをマッチョ男のごつい肩口に入れただけだった。マッチョ男の図体は揺らぎもしなかった。オレのその甘さが完全に命取りになった。一瞬の隙を突いてマッチョ男はオレの太ももの辺りに体を投げ出すようにタックルをし、オレはそのまま尻餅をつかされた。すかさず男はオレを組し抱き、ヘッドロックの体勢に入った。こういうマッチョ男には、掴まれてしまうとケンカはまず勝てない。痩せぎすのオレはそれをよく知っていた。それなのに鼻面目がけて蹴りをぶち込む事ができなかった。
「いやあ、参ったな。いきなり蹴り喰らうなんて。嫉妬に駆られて暴力ですか?え?暴力ですか?」マッチョ男がそんな言葉を一言発するとごとに、オレの首をねじ上げる力も強くなった。
「アンタだってどうせ浮気の一つくらいしてんだろ?それをなんだい?敬子がオレと火遊びするのも、アンタに不満があるからだろ?敬子のヤツ、ずいぶんストレス溜まっていたようだぜ」オレは何か言い返したかったが、首を締め上げられているので、言葉などもちろん出せない。本気で苦しかった。必死に自分の首と、マッチョ男の腕の間に自分の指を入れようとするのだが、マッチョ男の腕の筋肉には、蟻一匹は入る隙間もない。ちなみに確かにオレは一度だけ浮気したことがある。だが交際に発展するという事もなく、自然にお互いフェードアウトした。あとは上司に連れられ、二回ほど風俗店にも行った事がある。男社会において、そんな付き合いは普通の事だと思っている。だけど些細な浮気にしろ、風俗にしろ、少なくない罪悪感と、どっちつかずの後悔を胸に残し、それから一層家族を大事にしようと思えた。
「お願い、やめて!近藤君。死んじゃう、もうやめて!」と敬子が泣き叫びながら近藤の腕を掴む。オレは頚動脈を締め上げられる苦しさで、頭に血が溜まり、脳みそが破裂するような感覚を覚え、意識がぼんやりとしてきた。
「アンタが先に手出したんだからな」とマッチョ男はさらにオレをねじ上げる。オレは足を出したが手を出してない、などとそんなくだらない事を失神寸前の頭で考えてしまった。
「ちょっと、吉岡さん、オイ、お前なにやってんだよ!」と、見たことのある顔の男が、マッチョ男の腕を掴みねじ上げた。オレはやっとの思いでマッチョ男の腕から逃れ、地面に突っ伏しながら咳き込んだ。涎が溢れ、アスファルトの上にさらさらと水のように流れた。オレの涎の横には誰かのゲロの後のようなものが乾燥してへばり付いていた。
「やめろよ、もう終わったよ」と、マッチョ男は止めに入ったオレの同僚の岸田を振り払った。そうか、岸田があまりにオレの帰りが遅いから、店から出て様子を見に来たのか。岸田は元柔道部だ。あのマッチョ男の腕をねじ上げることくらいできるだろう。オレはうつろな意識でそれを理解した。
「まあ、相手になるってんなら僕はいつでもいいですよ」マッチョ男は息を切らしながらも大声で、地面に這い蹲るオレを見下ろしながら言った。そして小声で敬子に二,三言なにかを言った。それは上手く聞き取れなかった。岸田がオレの耳元で「ダイジョブっすか?、吉岡さん?大ジョブっすか?」と肩を揺すりながら言うからだ。
 オレはやっと意識がまともになってきたので、何か言おうとしたが、今度は激しく咳込んでしまい、結局声は出せなかった。でも何を言おうとしたか自分でもよく分からなかった。完全にこのマッチョ男、そう、オレの一番嫌いなタイプの筋肉男への敗北感から来る情けさのせいで、敬子への怒りがさらに激しくなっていった。
「じゃあ、この場はオレが黙って帰りますよ。まあアンタもこれに懲りたら少しは敬子を大事にするんですね」男はそうオレの咳が落ち着いてからそう言った。それから急に目じりをさげ、だらしなく口元をニヤつかせた。「それにしても敬子のヤツ、ホントに溜まってましたよ」オレは一瞬何を言っているのか分からなかった。だがそれを理解すると。殺意さえ覚えるほど怒りが込み上げたが、足腰がまったく言う事を利かなかった。
「もうやめて、お願い」敬子はさっきから泣きながらそればかりだ。
「まあ、敬子ちゃんもだいぶストレス解消できたでしょ」マッチョ男は敬子に同じような表情を見せながら言った。「たまには発散しないと体に毒だよ」オレはその男を睨みつけたが、男は完全に勝ち誇った顔で俺を見下し、そして最後にダメを押すように、オレに聞かせるように敬子に言った。
「スッキリしたくなったらまた連絡してね」

 マッチョ男が悠然と歩き去ると、何が起こったのかなんとなく分かりかけているだろう岸田と、まだ座って肩で息をしているオレと、呆然と立ち尽くす敬子が、渋谷のホテル街の路地に取り残された。真上にある街灯がなおさらその侘しさを演出し、見上げたホテル街の派手で下品なネオンが、オレ達を余計に滑稽にさせた。
 彰人のことがふと頭によぎった。彰人は家にいるのか?そうだ、今日は敬子は息子を連れて、二子玉川の敬子の実家に外泊していた。息子を実家に預け、自分は楽しんだって訳だ。
「さっさと帰れよ」オレはとにかく、職場の同僚の岸田に、これ以上自分の恥を見せたくなかった。岸田もいい加減状況が飲み込めただろうが、この場の空気をどう収めてよいのか困り果てているようだった。
「でも…」と敬子が何か言いかけたので、「帰れ!」とオレは怒鳴りつけた。そしてようやく敬子は覚束ない足取りでオレの目の前から消えた。
 オレは岸田に礼を言い、すぐ道玄坂に戻りタクシーを拾った。誰かと酒なんか飲む気になれない。そして敬子がいないのは分かっていたが、家にも帰りたくなかった。だからオレは新宿でタクシーを降り、何度か泊まった事のあるサウナに行った。
 一人になると、様々な感情が沸きあがった。もちろん怒り、そして情けなさ。そしてあの男に完全に負けてしまった事の悔しさ。それは色んな意味での敗北を意味していた。「敬子は溜まっていた」とマッチョ男が言っていた。「ストレス解消できたでしょ」と言っていた。オレに勝ち誇っていた。腕っぷしでも、男としても。オレを完全に見下していた。だが、それは事実だった。
 敬子との夜の生活は、いいトコふた月に一度あればいい方だ。オレも帰りが遅いし、疲れている。敬子も半年前から家計を助けるため、パートタイマーで働き出した。そして子供の面倒を見て、その合間を縫って家事をこなし、いつも疲れきっていた。むしろ敬子の方がそういう事を何度か拒んだことがあったくらいだ。「ごめんね、今日は疲れているの」と。
 あのマッチョ男と敬子が交わっている姿が嫌が否にも脳裏に浮かぶ。太い腕に敬子の細い腰を抱きしめられ、あの分厚い胸板に敬子が頬を寄せ、ゴツゴツした手で敬子の細い足を開き、オレが知り尽くしているはずの、体の奥を太い指で探り、敬子はそれに答える。二人が様々な体位で交わる姿が、いくら頭を振り払っても浮かんでくる。あのホテルで、あの男に、敬子はオレには見せないような姿を見せ、オレが聞いた事のないような声を上げて喜ぶ。

 翌日、オレはサウナから仕事に行き、ロクに手につかない仕事をこなし、夜十一時くらいに自宅に戻った。彰人が確実に寝ている時間に帰りたかった。
「判を押してもらう。言い訳はないな?」と、オレは帰るなり敬子の顔も見ないで、リビングのテーブルに離婚届を叩きつけるように置いた。離婚届は昼間の空いた時間に役所に行って貰ってきた。
「ごめんなさい」敬子は突然オレの目の前で、リビングのフローリングの床の上で土下座した。オレは土下座する敬子の額のすぐ横に落ちている、彰人が食べこぼしたのだろうか、米粒とか、黒ずんだシミのようなものにふと目線が落ちた。
「ごめんなさい。本当に、ごめんなさい」敬子は額を床にこすりつけるようにしながら話した。
「もういい。済んだ事はいい。お前もあの男もぶっ殺してやりたいが、とにかく状況をすっきりさせよう。これ以上お前とは暮らせない」
「お願いします。今更許してなんていえないけど、もう少し考えて下さい。お願いします」と、敬子は泣きじゃくっていた。今なら顔面を鼻面めがけて蹴り飛ばせるかもしれないと思った。「彰人もまだ子供です。彰人のためにも、もう少し考えて下さい」敬子は必死で懇願するが、取ってつけたような敬語が、余計にオレの怒りを注いだ。
「おい、どういうことだ?酒ばかり飲んでいるだぁ?浮気でもしてるだ?どういう事だ?オレが家の事を何もしてないだと?」
「そんなこと言ってない」
「あの男にそんな愚痴ばっか言ったんだろが?」オレはテーブルを平手で思い切り打った。静かなマンションの一室に、その音は響き渡った。彰人が起きてしまうかもしれないが、構うものか。オレは昨夜からずっと考えていた事を、怒鳴りながらまくしたてた。
 オレは確かに仕事人間かもしれない。酒を飲んで帰る事は多い。だがそれは仕事での付き合いがほとんどだ。女には分からないだろうし、まして酒の飲まない敬子にはなおさら分からないだろうが、そういった付き合いの中でしか生まれないものもあるし、広がらないものもある。遊ぶために酒を飲んでいるわけではない。そして休みの日は必ずと言っていいほど家族サービスをしていたつもりだ。疲れた体に鞭打ち、彰人と遊び、車で遠出したり、家の掃除だってした。今でも早く帰れたら、彰人と遊ぶし、風呂にも入れる。遅い時間に洗濯物を干すのを手伝ったりもしている。最低月に一度は必ず敬子のお出かけデーを作り、羽を伸ばせるようにと、彰人と留守番をしてる。そのオレが酒ばかり飲んで何もしてないだと?オレの会社の同僚など、もっともっと何もしない連中がたくさんいるぞ。
 オレは早口で頭の中にある不満を並べ立てながら、気が付くと泣いていた。そんな事を言い訳がましく並べる自分自身が、情けなくてたまらなくなったのかもしれない。
言ってやろうと考えていた事は山ほどあったのだが、もう何か言う気力を失くしていた。そもそも今口に出した内容も、言うべき必要があったのか分からなくなった。
 結局その日の話し合いは平行線のまま終わった。敬子は涙ながらも、最後まで離婚を承認しなかった。そして全面的に自分が悪いと認め、あなたはよくやっていると言った。ただ彰人のためにももう少し考えてくれと、懇願するばかりだった。
 とにかく、オレは必ず離婚するつもりだと言った。その気は変わらないとだけ言って、洋間に引っ込んだ。
「もう今日は話すことはない。オレはここで寝る」
 それ以来オレは一人で洋間に座布団を並べ、それを布団代わりに寝ている。朝、六時に起きて彰人の顔を一瞥してから布団を出る日々は終わった。
 次の朝。彰人はいつもどおり六時半頃起きてきた。敬子はどうやらとっくに起きて朝食を用意していたようだった。オレはその気配で目が覚めた。そしてすぐに着替えてドアを開き、リビングに出た。
「おはよう」と敬子はぎこちなく言った。オレは聞こえないフリをして洗面所に言った。
「お父さんおはよう」とテーブルに着いている彰人が大きな声で言ったので、オレも「おう、おはよう」と洗面所から大きな声で答えた。
オレはさっさと会社に行くつもりだったが、テーブルの前を通ると、彰人が無邪気な顔をしてこう言った。
「オトーサンもたべよー」テーブルには彰人の大好きなホットケーキと、サラダ、目玉焼き。チーズとバナナ。コーヒーの準備も出来ていた。ここ最近ではかなりしっかりとした朝食が準備されていた。だがオレはそれを目にした瞬間に、(食いたくない)と、生理的に感じてしまった。敬子の作った食事が、まるで汚らしいものに見えて仕方なかった。そもそもこういう事態になって突然しっかりと朝食を作りだすこと自体に腹が立つ。いつもは菓子パンとコーヒーだけだ。
「彰人、お父さん今日は会社に早く行かないとならないんだ。だから、お前と一緒には食べれない」
「ええー」彰人はふくれっつらをしながら言った。「オトーサンの好きなホットケーキだよ」
違う。それはオレの「好きだった」ホットケーキだと、敬子にも聞こえるよう言ってやりたかった。
「ごめんな。もう行かないとならない。それに今日はおなかが痛いんだ」と言って、彰人の頭を撫でた。次にこの頭を撫でるのは、いつになるだろうか、もうひょっとしてこうして触れ合うことはないかもしれないと、少し腹をくくりながら撫でた。彰人は不安そうな顔をしたままオレに何か言おうとしたが、少し考えてから口をつぐんだ。オレは胸が痛んだが、恨むなら母親を恨めよと、そう自分にも言い聞かせるように、彰人に聞こえないように呟いた。
「食べないの?」と、敬子は遠慮がちに言った。オレはまた聞こえないフリをしてさっさと鞄を抱えて出て行った。お前の作ったものなど、もう二度と口にする気はない。今度は口には出さなかったが、胸の中で強く誓った。
 オレは悪い父親だと思う。バス停に向かう間、彰人の無邪気な顔を思い出すとまた胸が苦しくなった。彰人を傷つけただろうし、きっと彰人はこれからもっと傷つくことになるだろう。だが、それは悪い母親のせいだ。可哀想に。オレはそう思うと余計に彰人がかわいそうになった。
 敬子はいつもどおりの日常を必死に取り戻そうとしている。毎日俺の分の食事を用意して待っている。夜はオレがどんなに遅くなっても必ず起きて待っている。朝も必ず早く起きて何かしらオレのためにサンドイッチやらオニギリやらを作っている。だがオレは朝も夜も、それらに一切手をつけない。
 正直腹が減っていることもある。生理的に受け付けないと感じたのは始めの三日間程度で、その後は敬子の用意した食事を見ると、腹が鳴るようになった。実際敬子は料理が上手だった。だがオレは食べない。まるでガキくさい根気比べをしているようなものかもしれないが、オレは敬子が音を上げるまで待つ。離婚する気は変わらない。水になんて流せない。時間の解決なんて求めない。あの恥辱を忘れるつもりはない。俺を裏切った。それも酷いやり方で。そんな人間と一緒に暮らせない。そんな女を許せないし、もしそれを許そう己がいるとしたら、それこそもっとも許せない。オレはこれからも毎晩離婚届を叩きつけてやる。それでも納得できないなら、法的手段に訴えてもいい。慰謝料払うのはお前の方だ。
 職場でももう充分オレの情けない噂は広がっているようだった。皆オレにたいして妙なよそよそしさがある。特に家族とか夫婦とか、そういった話題を極力避けているような気がする。どうせ影では笑っているのだろう。まあ岸田を責める気は起きない。オレが逆の立場だったら、おそらく誰かに話すと思う。こんな情けない笑い話、なかなかお目にかかれない。
 
 病院に行くべきが迷った。医師からは早く来てあげて下さいと言われたが、「はあ」と返事を濁すしかなかった。
 敬子が倒れた。急性の胃潰瘍で、パート帰りの買い物途中に、荷物をもったまま道で血を吐いて倒れ、救急車で運ばれたらしい。オレはその光景を想像した。お気に入りの「マイ・バック」を抱え、野菜やら、魚やらが道路に転がり、うずくまる敬子の姿を。オレは本当にショックを受けていたし、純粋に敬子の身を案じながら、心のどこかで「ざまあみろ」とも思ってしまった。本気でそんなことを思ってしまった自分が、信じられないと共に、恨みの深さを改めて自覚した。
 連絡してきた医師の話では、悪性の腫瘍などではなかったが、痛みと出血が激しいので、今日にでも手術をした方が良いとのことだった。家族は励みになるので、できるだけ側にいてください。
励み?胃潰瘍の原因はオレなのに、オレが行ってどうなる?それにここで優しい顔をしてしまったら、それは敬子を許すという事になる。
 オレは電話を切った後、会社の喫煙所でもう一本タバコに火を点けた。そしてどうするか考える間もなく、また携帯電話が鳴った。「○▽幼稚園」。彰人の幼稚園からだ。
 オレはその電話に出るかかなり迷ったが、結局電話に出た。彰人は、親の都合と言う、いわば本人とは何も関係ない事に巻き込まれている被害者なのだ。
「彰人くんのお父さんですか?」若い女の声だ。担任の先生だろう。オレは丁寧に「はい、吉岡彰人の父です」と答えた。
「今■△病院から電話があって…」この先生もかなり慌てているようだ。
「はい、たった今こちらの方にも連絡がきました」
「そうですか。私たちが彰人くんを病院まで連れて行ってもいいのですが、彰人君はお父さんと行くと言っていますので、こちらはすぐに出れるようにしておきます。お父さんは後どれくらいで園に来れそうですか?」この先生の中では、もうオレが彰人を迎えに行って、そのまま病院に駆けつけるということになっているようだ。来ないという可能性はまったく皆無のようだ。まあそりゃそうだろう。海外出張にでも出てない限り、絶対駆けつける。
「えーと」オレはなんと言うべきが迷った。実際のところ今から会社を出てすぐ電車に飛び乗れば、彰人の幼稚園まで一時間半で着く。
「オトーサン」電話に急に彰人が出た。「オトーサン、早く着て。オカーサン、どうしちゃったの?」彰人は今まで聞いたこともないような不安そうな声色で話した。受話器越しにも十分伝わった。オレはそんな彰人の声を聞いて目が覚める思いだった。
「大丈夫だ、お父さんがすぐ行く。心配するな。たいしたことじゃない」
「ホント?」
「ああ、お父さんは今お医者さんと電話で話したんだ。そんな怖い病気じゃないって」
「うん。わかった。待っている」
「よしいい子で待ってなさい」
 
 明るい内に新宿から下り電車に乗り込むのは、酷く違和感があった。現実離れしていると言ってもいいくらいだ。ポツリポツリと席が空いていて、年寄りが多くて。車掌のアナウンスもやけにはっきりと聞こえる。いつもはもっと混んでいて、空気が重苦しくて、車掌の声はくぐもっていて。そしてアルコールの臭いが立ち込めていて、皆疲れた顔をしていて、ふと顔を上げると、暗い背景の窓に写る自分の顔も、どこかくたびれている。終電なんてそんなものだ。
 なんとか彰人だけを敬子の下に残して、自分はすぐ仕事に戻れないだろうか。オレは電車の中でその算段を練った。医師と話があるとかなんとか言えば、上手くいくかもしれない。
 電車の中から見る景色は、毎朝見慣れているはずなのに、午後二時の一番日差しの強い時間で見ると、まるで初めて乗り込んだ路線のようだった。でも別に新鮮さがあるとか、何か心躍る発見があるとか、そういう事はまるでなかった。ただ現実感の欠如した、京王線の車両は、落ち着かない気分のオレを運んでいった。途中で何度も自分がどこにいるのか分からなくなり、慌てて停車中の駅の名前を確認したりした。
 彰人に会うのはずい分久しぶりな気がした。こうしてまともに向き合うのは、一週間前にホットケーキを一緒に食べようと言われた朝以来だ。
 彰人はオレに会うなり飛びついてきた。泣かないで待っていたらしいが、オレの姿を見て安心したのか、涙がぼろぼろとこぼれた。不安だったのだろう。オレが来るまでの約一時間の間、とても長く感じたに違いない。よく頑張ったと、オレも彰人の小さな体を抱きしめた。
 病院に着いた。受付で名前を述べると、建物の三階に向かうように言われた。彰人はオレの手を強く握りながら、酷く不安そうに歩いた。でもオレは彰人には悪いが、病室に入らないつもりでいた。だがオレの計画はまったく上手くいかなかった。ナースセンターで病室を聞いたときに、偶然そこにいた医師が敬子の担当医で、「お話は後でけっこうです」と、ハッキリと言ってしまったからだ。彰人はオレを急かすように、「はやく行こうよ、お父さん、はやく行こうよ」と、オレのズボンの裾をゆする。オレは半分やけくそ気分で、どうにでもなれと病室に向かった。
 病室は個室だった。手術後に様子を見て四人部屋に移ると、電話で話した印象よりもずい分若い医師は案内する間に話してくれた。手術はあと二時間後に内視鏡で行われる。難しくない手術だそうだ。
 敬子は青い顔をしてベッドで寝ていた。眉間に皺が寄っていた。痛みがあるのかもしれない。
 彰人はすぐに駆けつけるかと思いきや、真っ白なベッドと、真っ白なシーツにくるまり、クリーム色の見慣れないパジャマを着た敬子を前に、不安そうな面持ちでオレを見上げた。どうしていいのか分からないようだ。だがそんな無垢な瞳で見つめられても困る。オレもどうしていいのかわからないのだ。
「痛みに耐えるというのは、とても体力がいるのです。吐血もありました。だから疲れたのでしょう。やっと薬が利いて、少し楽になったようですね」若い医師はそう言った。「これから内視鏡とはいえ手術があります。また体力を使います。ですから今は少しでも休ませてあげましょう」医師はオレと彰人二人に話した。だが今の会話を聞いて起きたのか、元から眠っていなかったのか、敬子が薄く目を開いた。「タカシ、アキト」とオレと彰人の名を弱々しい声で呼んだ。
「吉岡さん、どうですか?」医師は敬子の横に行き様子を尋ねた。「痛みはまだありますか?」
オレと彰人はなんとなく近寄りがたく、入り口で固まったままだった。
「ええ、そうでしょう。…でも大丈夫。すぐに痛みは消えますし、簡単な手術ですぐ切り取れますから。ええ…、安心して下さい。ご家族も来てくれましたよ」医師の大きな声に対し、敬子の声はか細く、相槌を打つ程度だったので、敬子は何を答えたのかはほとんど聞き取れなかった。横を向いて声だけ聞いていると、医師が電話で誰かと話しているようにも聞こえなくもない。
「ごめんね、お母さんごめんね」と、脇にいる彰人の手を握った。「でも大丈夫だって。すぐ治るって。心配しないでね」
うん、うん。と彰人は涙目になりながらうなずいた。それから敬子はオレの顔を見た。
 オレは何か言わないとならないのだろうか?労いの言葉をかけたり、慰めの言葉をかけなければならないのだろうか?ここまで追い詰めたことを謝らないとならないのだろうか?倒れた妻を目の前にして、オレの頭はおかしくなりそうだった。胸の中も張り裂けそうだった。全身がバラバラになってしまうような感覚を覚えた。
 敬子は上半身を腕で支えながら持ち上げ、じっとオレを見上げる。パジャマの襟のところに小さな赤いシミがいくつか散らばっている。胸元には少し大きなシミがある。血の跡だ。オレの視線に彰人も気付いた。そして恐ろしくなったのか、彰人の体は硬直しているようだ。そしてオレも。
オレは血のシミから視線をはずし、敬子の顔を見た。敬子の顔を真正面から見るのは、とても久しぶりだった。一週間ばかりでずいぶんやつれたようだ。黒い前髪がいくつも筋のように、汗で額に張り付いている。オレが何も言わないでいると、敬子も何も言わず、涙をハラハラと流した。
「オトーサン。オトーサン」彰人がオレの太ももの辺りを引っ張り、何かをせっつく。話せといっているのか。許してやれと言っているのか、オレをせっつく。きっと彰人なりにオレたち夫婦の不和を、日々不安に思っていたのだろう。子供にとって、両親が仲たがいしている事悲しい事はない。
 どちらにしろ、二者択一を迫られていた。不貞をはたらいた妻に選択を迫っていたはずが、完璧に今、オレの方が選択を強いられている。そして圧倒的にオレは不利な立場だった。涙を流す病気の妻、不安げに見守る幼い息子。オレに勝ち目はあるのか。

 オレは結局何かに負けたのだと、一階の喫煙所でタバコを吸いながら思った。無性に酒が飲みたかった。浴びるように飲みたかった。だがもちろん病院の売店にそんなものはあるはずなく、仕方なく簡易ドリップコーヒーの、一番苦そうなのを選び、ブラックで飲んだ。
 オレは敬子の手を握り、「分かった。もう何も言うな。心配するな」と言った。ごめんなさいと繰り返す敬子の肩に手を置き、「もういい。もういいから」と言った。敬子はオレの言葉を聞いてほっとした顔になり、うなずいてからゆっくりとベッドに横になった。憑き物が落ちたかのように、強張っていた表情と細い体が、弛緩していくのが見て取れた。ひょっとしてもう潰瘍も無くなったのではないかと思ったくらいだ。
 手術は三十分程度で終わり、それからまた少し病室で過ごした後、医師に呼ばれ今後の経過と費用などの話を聞いた。入院は三日程度で済むらしく、しばらく食事に少し気を使う意外は、特に気をつけることもないそうだ。
オレは医師の話をものの五分で聞き終えると、とりあえず一階に降り、この喫煙所に来たのだった。
 喫煙所の横には四台の公衆電話が並び、真ん中の電話に、敬子と同じ柄のパジャマを着たよぼよぼの老婆が、「帰りたいよぉ、帰りたいのよぉ」と、掠れた声で受話器に向かって声を出していた。しんとした、誰もいないくなった病院の廊下に、その声は不気味に響き、オレは少し背筋が寒くなったが、むしろ今の自分にはそれくらいでちょうどいいと、その不気味さに身を任せた。
「帰りてえ…」と、老婆の声に触発されたのか、ふと呟いてしまった。だが呟いてすぐに思った。「どこに?」と。少し考えたが、答えは出なかった。ただここじゃない何処かに、一人で逃げ出したいだけなんだろう。
 オレは結局、これからもまた毎日敬子と差し向かいで生活をしなければならないのだ。妻の不貞を目の前で知り、その浮気相手に腕力でねじ伏せられた男が、夫として生活を共にしなければならない。そんな自分が息子の前でいい父親でいられる自信も、全くない。でも彰人はオレをオトーサンと呼び、今の所は頼りにしている。
 それにしてもオレの方がよく胃潰瘍にならなかったもんだと思うと、何故か笑えた。そう、完全にコメディだ。これは喜劇だ。浮気がバレて、離縁を迫られ、そのストレスで胃潰瘍になった妻と、それを許すしかない情けない男。笑える。涙が出るほど笑える。体の力も抜ける。笑って、泣いて、その内全部、どうでもよくなってしまえ。
「さて、今日は久しぶりに彰人と一緒に飯でもファミレスでも行くか」オレは自分を奮い立たせるようにそう独り言を言って、ずり落ちそうになっていた椅子から立ち上がり、喫煙所を出た。
 

ホットケーキ

ホットケーキ

渋谷のホテルから出てきた妻とばったりと出くわした主人公。 浮気相手のいかつい男は、一番嫌いなタイプの男だった。 離縁を迫るが、妻はなかなか承諾しない。そうしている内に妻は病気に倒れる。 妻の不貞を知りながら、幼い子供を抱えた主人公は、悩み煩悶する。

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-06-15

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