散歩道の猫

 夕方になると必ず散歩に出かける。我が家から十分も歩けば、風が心地いい田園風景が
広がっていて、散歩にはちょうどいいのだ。
つい数か月前は、どの草木も若い葉っぱを可愛げに広げていたが、初夏のこの時期とも
なると我先に太陽の光を浴びようと、貪欲なほどに、葉を伸ばし、春の頃の可愛らしい葉
っぱの姿はまるでない。そこにあるのは、植物独特の力強さだけだ。
そんなことを考えながら、ぶらぶら用水沿いの道を歩いていると、二匹の猫を見つけた。
二匹の猫は、茶トラと白キジで、二匹はぴったりと寄り添っていた。僕が近づいても、逃
げようとはしなかった。二匹は、お世辞にも毛並みがいいとは言えない猫だった。
 なんとなく茶トラの方に手を差し出してみると、「ニャー」とないて伸びをした。伸び
をし終えるのを待って僕は、頭を撫でてみた。どうやら人間には、慣れているようで嫌がり
はしなかった。
白キジはというと、僕のほにお尻を向けて動かないでいた。茶トラの背中を撫でている
と、白キジは僕の方に体を向けてきた。その体は、左の耳が少し裂け、左の前足は大きく
傷つきうまく動かせないでいた。
その姿を見て、僕は、「病院に連れていった方がいいのか、それとも、放っておくか・・・」
と考えた。僕はこの時、後者を選んで、二匹の猫から離れた。
猫たちから離れた後、僕は浮かばれない思いで、ただ歩いた。
 大学を卒業して就職をしている友人たちのように、自分に稼ぎがあったなら前者を選択し
ただろう。しかし、現実は、ろくな収入は無いく、猫を家に連れて帰ってきたところで、
家族を説得させる自信もない。そんなことを考えながら歩いていると、何とも自分が不甲
斐なく感じた。

散歩道の猫

散歩道の猫

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-06-15

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