Ⅴ January

January:1

今年も宜しくお願い致します。

コルナゴの調子はいかがですか?

またお店にも遊びに来て下さいね。

BIKESHOP 真木



いつもと変わりなく、のんびりと実家で迎えた新年。
真冬だというのに、穏やかな日の光がリビングに差し込んでいる。
家族揃って食卓を囲み、正月料理を頂いた後のこと、新年早々とても嬉しいことがあった。
テーブルを離れ、さてさてとこたつに入って年賀状のチェックを始めてすぐに、
真木くんの年賀状を見つけたのだ。ショップの年賀状に直筆でメッセージが添えてあった。

私にしてみれば、思いがけない事。とても驚いてしまった。
ショップの年賀状だけど…でも、直筆メッセージつき。
この年賀状、特別かなぁ。みんなにメッセージ書いたりするのかなぁ。
そう思いながらもとても嬉しくなって、新年早々だし、
なんだか幸先いいかもなんて思ったのだった。




年が明けて考えたこと…

今年三十代最後の年になるということに気がついた。
来年はとうとう四十代を迎えることになる。
誕生日までまーだあと一年半と思っていたが、よく考えたらね。

だから、これから先のことを考えて、今年は今やれるだけのことを頑張ってやってみよう。
後々悔いが残らないように。
だって、なんだかんだで日々流されて結局満足のいく結果を残せていないから。

一番は、真木くんのこと。少し自信をなくしちゃったり、なんとなくテンション下がってたけど。
やっぱり少し頑張ってみよう。真木くんのことまだ知らないこといっぱいあるけど。
こんなに興味を惹かれる人ってそうそういない。
人柄とか表情とか言動とか感性的なところセンスとか、とってもしっくりくる。
内面的なところが大きいけど、外見的なところもとっても好きだったり。
真木くんを見ているだけで、楽しい。
年も明けたし、観察期間終了。
定期的に顔を合わせるようにしたり、なにかしら行動していくことにしようっと。
今年の占いによると、十二年に一度の幸せな年って出てたしね。少し期待してしまう。



土曜日の昼下がり。
休日出勤の帰りに、BIKESHOPの姉妹店の方へ立ち寄った。
ロード購入にあたって、年末年始に色々とカタログをチェックし、候補をしぼったのだ。
メーカーからどこにしようかと考えだしてチェックを入れていたのだが、
結局あっさりBIKESHOPで取扱のあるメーカーに決めた。

海外のトップブランドを取り扱ってあるし、このメーカーの取扱がある店というのは限られていて、
どこででも適当に手に入るものではないらしい。
せっかくなら、ここのにするべきよねと割と早くにメーカーは決まった。
問題は、その中からどういったものを選び出すかという話。

なんといっても初めて購入するわけだし、詳しいことになってくるとよくわからない。
私がバイクを選ぶ基準…
予算、デザイン、軽さ等を目安にして絞り込むという考え方だった。
そう考えてカタログから選びだしたものが、二・三あった。
真木くんのショップの方には、このメーカー以外にも色々と取扱があるので、
このメーカー専門の姉妹店の方へいけば、実車を店頭で見ることができるだろう
と考えたのだった。

自動ドアが開き店内に入って行くと、スタッフが数人集まってお喋りしている姿が目に入る。
客が殆どおらず、余裕のある時間帯のようだ。
そんなところへやってきたので、店に入った瞬間にその数人のスタッフの視線を一斉に感じた。
なんとなくその視線を避けて入口近くの商品棚へ向かう。

ロードに乗るならヘルメットもいるよねと少しヘルメットをチェックし、
さてロードを見ようと店の奥の方へ向きをかえると…
またしてもスタッフの視線を一斉に感じ、今度は思い切り目が合った。
私が店内に入ってから、ずっと視線を向けられていたらしい。

ヒールのある靴を履いて、まるで本屋にでも入るように女性一人
店内にさりげなく入ってきたのが、珍しかったのかもしれない。
客の殆どが男性で、女性が一人で入ってくるなんてことが、少ないのだろう。
女性の大半は人と連れ立って行動することが多いと思うが、
一人でサクサク行動するような私は、どちらかと言えば、
少し珍しくて人の興味を引くように見えるのかもしれない。

振り向きざまに数人の視線を正面から受けて少し驚いたのだが、
一瞬の間の後、その中の一人が「いらっしゃいませ。」と私に声をかけた。
そのスタッフの男性は、以前BIKESHOPで見た事のある顔だった。
真木くんが私を見かけてすぐに駆け寄ってきた時に、一瞬対応してくれた人だ。
「ああ。」とちょっと笑顔をつくって会釈をしてその場を通りすぎる。

奥に行くと、候補として考えていたロードがふたつとも置いてあった。
二十万程で高すぎず安すぎずの価格帯、スペックもまぁまぁ。
割と買いやすいクラスのものだろう。出たばかりの新しいモデルということもあり、
目立つ場所にディスプレイされていた。

「なにかお探しですか?」

ロードを見始めて暫くすると、後ろから声が聞こえた。
振り向くと、さっき声をかけてくれたスタッフの男性だった。
少し離れたところから、こちらの様子を見つつ声をかけてきたようだ。
BIKESHOPの方で購入を検討しており、
こちらで実物が見られるかと思って来店した旨を話すと
詳しく説明をしながら、親切にやりとりしてくれる。

クロスバイクに乗るようになって数年。
元々フットワークは軽い方であるが、思い立つとすぐに
クロスバイクで出かけて行き、サクッと用件を済ませることは
ごくごく普通の私の行動パターンだった。
そして、よく知らない人にでも聞きたいことは聞くし、
笑顔を交えながらコミュニケーションをとることも普通。
いつものようにそんな感じでやりとりしていると、彼からも気持ち良く感じのよい反応が返ってきた。
「よく考えてまたきます。ありがとうございました。」
軽く楽しくやりとりした後、礼を言って店を出た。

その足で、今度はBIKESHOPへ向かう。
年末に真木くんに調整してもらったクロスバイクが、
また少し調子が悪くなっていた。前のバイクでもこういう事はあり、
よくある事でもう気にしなければいいのだろうとも思うのだが。
「調子が悪かったらいつでも持ってきてください。」
と言ってくれていたしと持っていくことにしたのだ。
それと、BIKESHOPで行われているインドアサイクリングの
レッスンを受けてみようとその予約も兼ねて。

本当に天気がよく、冬なのに穏やかな日差し。
BIKESHOPに着くと今井さんが、私の姿を見て今年もよろしくお願いしますと挨拶してくれた。
この店に来るようになって4ヵ月が過ぎたものの、今井さんとはほんの数回やりとりしたくらい。
常連の客は沢山いるようだが、私はフラリと時々やってくるくらいで、
真木くんはともかく他のスタッフの人にはそこまで認識されている客とは思っていなかった。

そんな私に新年の挨拶をしてくれた今井さん、なんとなく好感を覚えた。
すぐに花田さんも現れたので、クロスバイクのことを話しながら
朗らかに三人でやりとりをする。彼女が私からバイクを受け取り、テックスペースへ持って行く。
花田さんが真木くんに説明して手渡そうとしているところへ一緒について行き、横から笑顔を見せた。
しかし、何故か真木くんの反応はうすかった。
花田さんが真木くんにクロスバイクのことを説明してくれたので、
タイミングもあり、私から声をかけることはしなかったのだが。

待ち時間、花田さんにインドアレッスンの予約をお願いしたり、ロード購入について色々話を訊いたり。
レッスンに友人も連れてくる旨伝えると、予約を入れた日は昼から
新年会をする予定との事で、是非参加されませんかと誘われた。
餅つきをするのだが、参加費のかわりにそれぞれが一品ずつ何か食べ物を持ち寄るスタイルだという。

「去年はこのショップがオープンする前のお披露目会みたいなかたちの
餅つき新年会だったんですけど、私も去年が初参加だったんです。
ちなみに一品持ち寄りは、茹でタマゴにしました~。なんでもいいので、気軽にご参加ください。」
それなら是非とレッスン前のこの新年会に、参加させてもらうことにした。

バイクの調整はまだ少し時間がかかりそうだったので、
ニ階へディスプレイされているロードレーサーを見に行った。



あ、できた。
暫くすると調整が終わったバイクを、真木くんがレジ前まで持ってきてくれたのが見えた。
急いで降りて行く。
「すみませーん。」
二階から降りてきた私の方に彼が目を向けた。
「お年賀状ありがとうございました。」
笑顔で声をかけると、彼の顔がこぼれそうな笑顔になった。
「今年もよろしくお願いします。」
すぐに彼がそう言って私に軽く頭をさげたので、
慌ててこちらも同じくよろしくお願いしますと頭をさげた。

「今日は寒いですね~。」
「いや、でも、今日はちょっとまだ少しあったかいみたいでいいですよ。」
自転車調整の説明を聞いてなんだかんだと言いながら、出入口の方へ向かう。
出入口を出たところで、ロードレーサーが沢山おいてあるかなと思って
姉妹店の方へ見に行ってきたという話をした。

どのモデルにしようと思っているかとか、
女性用バイクと普通のバイクの違いのこととか、
ハワイの大会で走る距離百六十キロってどのくらいだろう、
一番遠くて浅倉市まで行った、
こないだは晴海半島まで行ったけど、往復で七十キロくらいだった。
そんなことを言いながら、店の外に出たところで二人きりで話す。
暖かい日差しの午後、よい時間が流れていた。
気持ちのよい穏やかな時間、二人で話をした。

晴海に行った話ができてよかった。
晴海は、彼が以前ショップのブログにアップしていたお気に入りの場所。
晴海半島を大周りで行ったら、百キロくらい走ることになると教えてくれた。
「今度インドアサイクリングのレッスンを受けにくるようにしたので、
また来ます。明後日くらい。」
軽く礼を言って店を後にした。

彼から年賀状をもらっていたというのに、
タイミングがなくすぐには新年の挨拶等声をかけられなかったから、
最初に顔を合わせた時はなんとなく彼の反応が悪かったのだろうか。

後から、お年賀状ありがとうございましたと言った時の彼の表情。
一瞬でこぼれるような笑顔になった。
少し照れたようなかわいい笑顔だった。
いつも外まで出てきて私がクロスバイクで走りだすまで
見送ってくれるのだが、その時に二人で話していると、
なんとなく独特の雰囲気を感じるのは私だけだろうか。

彼が優しい顔で私のことを見つめているように思える。
その空間に二人の存在しか感じないような気になる。
スラリとしているからあまり大きなイメージがなかったのだが、
傍で顔を見ながら話していると、彼の背が結構高いことに気がついた。
彼の顔を見ようとすると、少し見上げるようなかたちになる。
そして、見上げた時の彼の目は、いつも優しげに私を見つめているように見えた。

January:2

一口サイズの丸いモッツァレラチーズ

プチトマト

グレープフルーツ

オリーブオイルをまわしかけて塩胡椒

イタリアンパセリをちらしてでーきあーがりー

そんな簡単な一品を持ち、かおりちゃんともう一人友人を連れてBIKESHOPの新年会に参加した。
ショップ併設のカフェのテーブルには、持ち寄り料理が沢山並んでいた。
ミートローフにサンドイッチ、稲荷寿司に唐揚げ、ケーキにスープ、
エトセトラエトセトラ。昼食も兼ねているようで、持ち寄り料理の内容は様々だった。
新年会が始まる前にショップの方へ行き、真木くんに挨拶をした。声をかける程度の簡単な挨拶。
花田さんにも声をかけ、ロードを始めるにあたって揃えるような小物のことを商品を見ながら話しこむ。

「花田ー餅つき始めるから正面きてってー。」
真木くんがこちらへ餅つき開始を知らせようと声をかけてくれた。
餅つきなんて小さな子供の頃に両親の田舎で何回か経験したくらいなのだが、
昔ながらの餅つきを体験することなんて今時なかなかないだろう。
カフェの入口で餅米を蒸してあり、臼と杵がちゃんと準備されていた。
餅つきが始まり、陽気に掛け声を出しながら、新年会に集まった常連客と思える人達が勢いよく餅をつく。小さな子供から老人まで色んな人がいたのだが、周囲を皆が取り囲み、楽しげにその様子を見ていた。

何回か餅つきを繰り返し、スタートから一時間も経つと、
それぞれが好きなように談笑したり、食事をしたり、自由きままな時間となった。
カフェの空いてる席に腰を落ち着け、かおりちゃん達と料理を口にしていると、
不意に私に声をかけてきた人がいた。
「あれ。」
と目を丸くして声をかけられた。
「あら。先日はどうも。前にこちらでお見かけしたなと思ったんですよ。」
咄嗟に椅子から腰をあげて、笑いながら会釈をした。
二日前に姉妹店の方で接客してくれた男性が、今日は新年会の手伝いでこちらの店に来ていたらしい。ウロウロしていてたまたま私を見かけ、声をかけてくれたようだ。
この店に縁のある様々な人の集まり。参加しているそれぞれは知らないもの同士でも
なんだかんだと和やかにコミュニケーションがとれているようだった。
カフェのソファに座っていると、入口から今井さんが入ってきた。
「もうすぐ餅つき終わりますけど~まだついてない方~。どうぞ~。」
私にも声がかかったのだが、餅つきなんてできないなぁと腰が引けてしまっていた。
「へっぴり腰だから、私はいいですよ。ヘタヘタ。」
「いいですよ。ちょっとやってみたら。」
真木くんがそう声をかけてくれた。
私としたことが気がつかなかった。彼はいつの間にかすぐ目の前で料理をつまんでいた。
「う~ん。え~。」
と言いながら、表へ行ってみる。

杵を持った二人が交互に餅をつくのだが、今井さんが器用にその合間に餅に手を加えていた。
生まれて初めて餅なんてつく。力がないからイマイチだろうけど、まぁ餅をつくくらいはなんともないだろうと杵を構えてつこうとすると、
「あー!足が違う。足。足。」
「あしぃ~??お餅つくのに足なんてなんか決まってるの?えぇ~~???」
「右が前。右足を前にして踏み込むから。」
「えーそうなんだ!」
今井さんにつっこまれ、周囲にも笑われながら餅をつく。非力でへっぴり腰。なんとも様になっていないように思え、ほんの何回かついたあたりで、笑いながらもういいです~と早々に餅つきを終了させた。

餅つきのあとをスタッフが綺麗に片づけ、後は本当に気ままな時間となっていた。
ショップ前には見晴らしのよい芝生の公園が広がっており、テストライドできる新しいバイクを数台、乗りまわして遊んでいる人達がいた。気がつくとかおりちゃんもまぜてもらってマウンテンバイクで遊んでいる。彼女は本当に元気である。
芝生にでてきた私を見つけ、かおりちゃんが私のところまでやってきた。
「高島さーん。おもしろーい。楽しいですよ。マウンテンバイク。乗ってみません?」
そう言って目の前でマウンテンバイクから降りて、私に差し出そうとした。クロスバイクやロードレーサーのような軽くて楽に乗れるバイクはとても好みなのだが、マウンテンバイクとなるとちょっと手強そうで気がすすまない。
それにたぶん私が乗っても様にならない。カッコ悪いくらいかも。
「私はいいよ。もっと乗っておいで。」
「えー、楽しいから乗ってみた方がいいですよ。高島さんも。絶対。」
そのやりとりを見ていた若い男性二人が
「うん。乗ってみたらいいですよ。是非是非。」
とこれまた私にすすめ始めた。その様子を近くで見ていた真木くんまで、その場にやってきた。
若い男性二人がさぁさぁと私の目の前にマウンテンバイクを差し出そうとする。
「いや~私チビだから!乗れないこのサイズ!足短いから!」
咄嗟にうまいこといって断ろうとしたというのに、まぁ手際のよい若者で、サササッとサドルの位置を一番低くして私が乗れるようにしてしまった。
仕方ないなぁとバイクを受け取ってちょっと乗ってみたところ、ペダルを踏んだ感じ、
すごく軽いというかなんというかなんとも感覚がつかめず、うまく走れない。
「えーなんか乗り心地がへん。ムリ!ムリ!」
十メートルも走らず、転ぶ前に降りた。歩いて元のところまで戻ってきて、笑いながら若者二人に手渡した。

あーもうと思いながら一息ついたところ、その一部始終を真木くんが見ていたことに気がついた。
少し笑っている風。ま、いいやと真木くんの隣りに立ち、彼に話しかけてみた。
「昨日、なにかレースに参加されてたんでしょう?さっき他のスタッフの方がそんな事言ってたから。レースとかすごいですね。結果は?」
「結果は、まぁ上位には届かなかったけど。」
「へーそっか。」
すると、サッとスマホをポケットから取り出して触ったかと思ったら、横に並んで立っている私に見えるように差し出した。なんだろうと見てみると、マウンテンバイクのレースが行われた場所の写真のようだった。
木々が立ち並ぶものすごい山道。
「えーこんなとこでレース?転んだりしたら、大変そう。転びそう。」
「一応、転んでもいいように色々保護するやつつけるから。」
「へーそうなんだ。そうですよね。なら、まだいいですね。」
この日、ほんの少し二人でやりとりした瞬間だった。
もっと気のきいたお喋りができればよかったのだが、なんとなくうまく話がでてこなくて
本当にほんのちょっとのやりとりだった。でも、ほんの少しでも嬉しい瞬間だった。

昼前からスタートした新年会だったが、終了時間は決まっていないらしい。入れ替わり立ち替わり人が出入りし、思い思いの時間を過ごしているようだった。
私と友人達は十五時から花田さんにお願いしていたインドアサイクリングのレッスンの予定だったので、ウェアに着替えてトレーニングルームにこもり、レッスンを受けた。レッスンが終了するともう夕方になろうとしていた。
ロードレーサーの購入やハワイの大会に出てみたいと思っているという話を、かおりちゃんが常連客の人達に話していたらしく、新年会ももう片付けモードだというのに、私達に話しかけてくる人達がいた。ショップの方でこのバイクがいいとかあのバイクがいいとかハワイの大会に出るならうんぬんかんぬんなど数人の人達が色々とアドバイスをしてくれる。その中に姉妹店で接客してくれた気のいい男性スタッフの彼もいた。陽気な人物のようで、穏やかな口調ながら面白げに話してくれる。

だいぶ人の数も減っており、いい加減そろそろ引き揚げようかということになった。
最後に真木くんの姿を探すと、仕事に戻り、テックスペースでバイクを触っている彼が目に止まった。真木くんの方を見ていると、私達が帰ろうとしている雰囲気に気付いたのか彼がこちらを向いた。彼と目が合い、笑顔で軽く頭を下げた。
姉妹店の彼がなんだかんだと話しながら、外まで見送ってくれる。ロード購入の件、本当に親切に色んな話をしてくれた。店の敷地を出る時に少し振り向くと、まだこちらを見送ってくれていたので、「なるべく近いうちにロードレーサー手に入れにきますねー。」と軽く手をあげて挨拶をして帰路に就いた。




BIKESHOPのブログやツイッターを見るのは、いつの間にか日課になっていた。
元々ネット好きで、テレビがわりにいつもPCを触っているくらい。新年会の翌日、BIKESHOPのHPを見ていると早速昨日のことが色々とアップされていた。何かイベントをする度に写真をとってHPにアップしているらしいのだが、その中に私の姿もチラホラ写っていた。
新年会面白かった~と思いながら、今度はツイッターをチェックすると、

今年の餅つきも無事終了!皆さんありがとうございました。

とアップされている。画像もアップされているようなので、クリックしてみる。

「ぶ。」

思わず噴き出しそうになった。ヘッピリ腰で餅をついている私の写真だった。向きの関係で顔は写ってなかったが。
BIKESHOPのサイトはユニークで軽く笑えるので、何気に毎日チェックするようになったのだが、ツイッターに関しては何か感じるところがあった。何かね。どうもね。
誰がアップしているんだろう。ユニークなオーナーさんのような気もするけど…。

数日後、仕事帰りにバッタリ。かおりちゃんを見かけたので、声をかけてお茶に誘った。
ロード購入プランでも少し話そうと。
すると、話は自然に新年会のことになった。そして、私が真木くんのことを気にしている
ことを知っている彼女は、この前はなんだかいい感じだったなぁと言いだした。
「マウンテンバイクうまく乗れなかった高島さん、かわいかった~。なんか。すごく。ふふふ。」
「えぇー。そぉー。カッコわる~って思ってたんだけど。慣れないこととかカッコつかないことはしないようにしてるのよねぇ。ほんとは。カッコつけマンだからね~私~。」
「あの時さぁ、後からまた高島さんのところにマウンテンバイクで走って行こうとしたら、
なんか二人でいい雰囲気で話してたの見ちゃって。あー今いったらダメダメと思って、そっとしときましたよ~。なんかとってもいい雰囲気だった。」
「え、そう見えた?ふーん。」
HPやツイッターに色々と写真が出ていた話をしながら、ツイッターの私の写真には驚いたとスマホでその写真をかおりちゃんに見せた。
「あー!これ!この写真!これ、真木くんが撮ってた写真ですよ!私この時、真木くんの横にいたもん。しかもショップのカメラとかじゃなくて自分のスマホで撮ってました!」
「え。そうなんだ。」
いや、実は新年会の時、真木くんがスマホをこちら向きに構えてるのをチラリとみかけた時があったのだが、新年会の様子をスマホにおさめている人は沢山いたし、私だってその一人だった。
ただ、私は真木くんの写真を撮りたくてもなんとなくうまくできそうになくて撮らずじまいだったけど。ま、BIKESHOPのHPを見たら、真木くんの写真はいつでも見ることができるからいいんだけど。

とそんなことはどうでもよくて…
ということは?
餅つきの写真は真木くんがアップしたってことだろうね。
ということは?
真木くんがやっぱり時々ツイッターアップしてるってこと?
ということは?
なにやら今まで気になる文章があったのは、やっぱりってこと?
そして今回この写真をアップしたということは?
真木くんの意志表示?
もしかして?

january:3

新年会から数日経ったある晩、思いがけず花田さんから電話がかかってきた。
この前インドアサイクリングのレッスンに参加した件のお礼と、また是非どうぞというお誘い。
丁度良いタイミングだった。ちょっと相談したい事があったのだ。
ロードレーサー購入を思い立ってから二カ月、購入するロードをやっと決めたのだが、
なんと、かおりちゃんが私と全く同じものが欲しいと言い出した。

初心者のかおりちゃんは、やる気はあるもののまだ自転車のことをよく知らない。
どういう理由で私がこのモデルを選んだかを話したところ、
それを聞いて自分もそれがいいと言いだしたのだ。
自分で選ぶには自転車に関しての知識があまりなく、
私がそれなりの理由で選び出した話をきいて自分もそれがいいと思いこんでしまったようだ。

お揃いのロードレーサー…全く同じものを一緒に乗るなんて、
なんとも気恥しい気がする。そう言ってみるのだが、彼女は気にならないらしい。
私がえぇ~と言うのもあまり気にしていない様子。
簡単に買い替えるようなものではなく、これから暫く大事に長く使い続ける
自分だけのロードレーサー。私にしてみると、ちょっとしたものをお揃いにするのとは
話が違うのだが。同じものを購入するというのは、どうも避けたかった。
せっかく色々と考えて実車もチェックし、時間をかけて選びだしたというのに、
また別のものを検討せざるを得ないかなぁと思っていたところだった。

最初に選び出したものよりランクを上にするか下にするか、
他に候補として考えていたバイクのこと等花田さんに少し尋ねてみたかったのだ。
そんな話を彼女にすると、快く私の依頼を引き受けてくれた。
素材が違うものを乗り比べて実際の乗り心地なんかも是非試してみたらいいですよと。
「テストライド用のもありますけど、サイズが限られてるから、
自分が乗っているバイクも乗ってみられて結構ですよ。」
とまで言ってくれる。そんな訳で、またショップへ行くことになった。
もちろん彼女からのお誘い、レッスンの予約も入れた。

日曜日の午後、BIKESHOPへ足を運んだ。
レッスンとロードレーサーのテストライドの為だったので、
自宅からウェアを着たままショップを訪れた。
店内に入っていくとレジカウンターにいる花田さんがすぐ目に入ったので、
そのまま花田さんのところへ行き、カウンターで話し始める。

彼女とやりとりしながら不意に後ろを振り返った時、テックスペースにいた真木くんが
パッとこちらに背を向けて向きをかえた様子がわかった。こっちを見ていたらしい。
向きをかえる必要はないと思うのだが、そういう行動をとったということは、
見ていたのを気付かれないようにしたということだろう。
そう言えば、この前も似たようなことがあった。
何気に真木くんがいる方に視線を向けていたら、彼が私の方に顔を向けたのだが、
その瞬間に目が合い、すぐに視線を元に戻してしまった。
この時は、私が見ているのを知らずに私に視線を向けようとしたというような印象。

ふーん。そっか。そっかそっか。なるほどね。真木くん、私がいると気になるのかな。
単純に、嬉しいな。ま、誰でもそうでしょう。

早速ショップ前の駐車場で、花田さんに手ほどきを受け、
ロードを乗り比べてみることにした。真木くんがサドルを調整して
テストライド用のロードを持ってきてくれたり、うまく乗れなくて
ちょっとバランス崩したり、花田さんから説明やアドバイスを受けたり。
とりあえず数台試し乗りした後は、インドアサイクリングのレッスン。
レッスンを始めると今度はそれに夢中になって、いい汗をかいた。
結構ハードでよい運動なのである。

レッスン終了後、最後に花田さんのロードを借りて試し乗りさせてもらうことになっていた。
花田さんがロードを奥に取りに行っている間、
トレーニングルーム前のベンチのようなところに腰掛けて待っていると、
いつも無口でシャイな印象のスタッフの男性が歩いてきた。
無口でシャイ、職人気質であんまり女性が好きじゃなさそうな、男っぽい印象の彼…
だったのだが、新年会の時に話す機会があり、ガラッと印象が変わった。
意外とよく喋るし、女性にもとても親切なのだ。新年会では、結構なんだかんだと
笑いながら楽しくお喋りをした。彼の名は、確か結城さん。

歩いてきた彼と目が合い、腰掛けていたところからぱっと立ちあがった。
「こんばんは。ここ座っちゃってよかったですか?なんかベンチっぽいなと思って
勝手に座ってたけど。違ってたらすみません。」
トレーニングで結構疲れていて、テキトーなところに腰掛けていたのだった。
笑いながらごまかすように彼に話しかけた。

「ああ、いいですよ。いいですよ。どうぞ座ってください。」
結城さんも笑顔である。すると、そこに花田さんがバイクを持って登場。
「お、花田の虎の子。」
彼がそう言うと、花田さんが少し照れたようなかわいい顔をした。
虎の子?若いのに、古風な言い回しするなぁ。やっぱりすごく男っぽい感じ。
そんなことを思いながら、へぇ~と花田さんのバイクに目を移し、花田さんの話を聞く。
彼女はインドアサイクリングのインストラクターであるし、
スタッフとして客へいいものを勧められるようにという考えで、
ハイグレードなモデルを使用しているというような話をしていた。

無粋ながら価格を尋ねてみると、へぇ~高級車だ~と感動してしまった。
三人で話していると意外と話が盛り上がった。会話が弾み、店内に少し笑い声が響く程だった。
外はすっかり暗くなっていたが、花田さんの高級車に試し乗りさせてもらい、
やっぱりカーボン素材がいいかなぁそうなるとお値段高くなるねぇ
なんて話になった。最後に店内で花田さんとそんなことを話していたのだが、
なんだかんだで店にきてから三時間近く経っており、そろそろ引き揚げることにした。

テックスペースにいる真木くん達に「ありがとうございました。」と
声をかけると、この日まともに話す機会が全くなかった真木くんが、
パッと奥からでてきてくれた。出入口をもう出かかっていた。
花田さんが見送りに出てくれようとしていたのだが、わざわさ彼も
走って出てきてくれた。店の入口に停めていたクロスバイクのカギを
外していると、二人が私のバイクをすごく褒めてくれる。
このクロスバイク本当にすごくかっこいい、
コルナゴのクロスバイクに乗ってる人なんていないと。
昼間に友人と食事をしたのだが、その際もすごく褒められたので、
ちょっと嬉しくなって調子にのって今日は別の友人にも
クロスバイク褒められちゃったんですというような話を子供みたいに
してしまった。

この日は機会がなく、殆ど真木くんとはやりとりをしなかったのだが、
最後に走って見送りにでてきてくれたことに、
またしても特別な印象を受けた私だった。
彼の一挙手一投足をものすごく敏感に感じるようになっていた。



この日は、テストライドにとても夢中になっていたらしい。
レッスンの支払いをするのをすっかり忘れていたことに気がついたのは、
何故か帰宅してからすぐのことだった。
長々と店に居て散々世話になっておきながら、自分の用件に満足すると
そのままサッサと帰ってきていたとは…私としたことが、本当に
うっかりしていた。とりあえずすぐに詫びの電話を入れておいたのだが、
後日仕事帰りにまたショップへ立ち寄った。簡単な手土産を持って。

遅くなってしまい、店に着いた時はもう閉店の十五分前になっていた。
そんな時間だったにもかかわらず、意外にもまだ客が沢山入っている。
おかげで真木くんがいるのかどうかよくわからない。
ショップに来て一番に気にするのは、真木くんの姿だった。
用件は極力真木くんにお願いするようにして、彼とやりとりがしたかったのだ。

しかし、こんな時に限ってレジカウンターに客がおらず、他の人がすぐつかまったり。
ちぇ。
仕方ないので、支払いを済ませ、詫び言い、手土産を渡し、
姿が見当たらない花田さんにどうぞよろしくと伝言してもらうことにして、店を出ようとした。
出入口で振り返って扉を閉めようとすると、いつの間にか
テックスペースに真木くんが居た。彼は、こちらを見ていた。目が合った。
咄嗟のことですぐに小さく会釈をしたのだが、わかったかな。

帰り際、クロスバイクに乗ってもう走り出した時に後ろからこちらに声をかける人がいた。
「ありがとうございましたー!」
後ろを振り向いたけれど、体勢にちょっとムリがあったし、
もう暗くなっていたので、誰なのかはよくわからない。一応会釈をしたけど。

この店の人達は、本当に皆気さくでいい人ばかりだった。
帰りも大抵皆が笑顔で見送ってくれる。見送り方はそれぞれだが。
ただね、バイクで走りだすともう一声かけて見送ってくれるのだが、
前を向いて走り出したところにうまく振り向くことが私はできない。

いつも振り向くのに少しバランスを崩してしまい、なんとも困ったもの
だった。我ながら、その様子がなんだか間抜けな感じなんじゃないかな
と思えて。
でも、真木くんは必ずこの見送り方で最後の最後まできちんと見送ってくれていた。

今日は、本当に暗くてよく見えなかったけど、オーナーさんだったのだろうか。
今井さんに「皆さんでどうぞ召し上がってください。」とお菓子を渡し、
用件を済ませてササッとでてきちゃったから、礼を言いにわざわざ出てきてくれたのかも。

閉店間際だったし、今日は本当にちょっと立ち寄っただけだったのだが、
少しでも真木くんの顔を見ることができてちょっと嬉しかったり。
ショップを訪れると、いつも真木くんが私の姿を見つけてくれることも、嬉しく思えた。

january:4

その日は、入口の扉をあけるとすぐに、テックスペースにいた真木くんと目が合った。
店内には数人の客がおり、私が入ってきたのにすぐに気付いたのはたぶん彼だけ。
微笑んで会釈をすると、バイクを触っていた彼も笑顔を見せてくれた。
そして、私はそのまま一人で二階へ続く階段の方へ歩いていった。

いよいよ購入するロードレーサを決め、その注文にやってきたのだった。
色々と検討してみたのだが、身長があまり高くない私にはサイズの壁があり、
購入できるモデルが限られていた。検討するも何も選択肢があまりないのである。
少し大きなサイズのものでも乗れないことはないのだが、やはりジャストなものを選んだ方がいいらしい。テストライドの際に少し大きくてもいいかなというような事を言った時に、真木くんがあまりよい顔をしなかった。そんな訳で、元々考えていたものよりワンランク上のモデルにしようと考えていたのだが、サイズ的に無理。ツーランク上げると価格が倍になる。
仕方なく、かおりちゃんに同じものを購入するのを考え直してほしいと話してみた。彼女は私と違い背が高い。いくらでも選択肢があるのだ。
すると、あっさり「いいですよ~。」という返事。一回りも違うとやはり多少感覚のズレがあるようだ。それならそうと、私が渋った時に最初からそう言ってくれればいいのに。若いってことは、いい年の人間には理解不能なところがある。

しかし、色々と検討しただけあってツーランク上のモデルについても気になるところがあった。
元々このモデルのデザインの方がなんとなく好みなのだ。しかし、価格が倍の四十万。
私みたいな初心者が四十万のバイクに乗ってもいいのかなぁ…と、でも、内容がいい程魅力的にみえるのも確か。ま、はっきり言ってどれだけ使いこなせるかはわからないのだが。
もったいないかなぁ、でも欲しいなぁ、どうしよっかなぁと数日考えていたのだが、やはり分相応に一番最初に選んだモデルに決めたのだった。
私の場合、二月くらいまではたぶん寒がってどうせ乗れないだろうしと、春頃購入しようと考えていたのだが、決まるとすぐ欲しくなった。
かおりちゃんはまた違うものを検討することになったし、職場環境が変わったらしく、どうも日々忙しくしてるようで、彼女を待っていたらいつになるかわからない。

そんな訳で、すぐに注文してしまうことにしたのだった。
決めたにもかかわらず、実はツーランク上のバイクのこともまだ気になったままだった。注文する前にディスプレイされているロードをもう一度よく見たくなって、二階に上がって一人、二台のロードレーサーをマジマジと眺めていた。

「こんにちは。」

振り向くとテックスペースでバイクを触っていたはずの真木くんだった。笑顔でこちらに歩いてきている姿が目に入る。いよいよ注文することになってテンション高めだったこともあり、真木くんの姿を見てすごく笑顔になってしまった。
「今日はロード買いに来ました。」
そういう私を見て、彼もすごくいい笑顔を見せた。
「どれにしたと思います?」
「えぇ~?どれかなぁ?」
真木くんも私の雰囲気につられてか、今日はなんとなくテンション高めな感じ。いつものなんとなくクールな顔つきとは違い、少しはしゃいでるようなかわいい男の子のような表情を見せる。
「この前花田さんの高級車に乗せてもらったんですけどね…。」
「ああ。」
「もうあんないいのに乗ったらだめですね。高級車が欲しくなっちゃって、これにしようかって本気になりかけちゃって…。」
そう言いながら、四十万のバイクの方をマジマジと眺め、
「でも、コレにしました。」
と向きを変えて、元々考えていた二十万のバイクを指さした。
「あはっ。」
真木くんが噴き出すように笑った。、一瞬四十万のバイクにしたかと思ったらしく、私の言い方に軽くウケタらしい。
「身分が低いので、高級車やめてやっぱりこっちにしました。」
と笑いながら言う私を見て、彼も笑うのだった。軽くなんだかんだ話した後、
「じゃ、注文の手配してきますね。できたら声かけます。」
と真木くんは一階のレジカウンターへ歩いて行った。

彼が注文の手配をしにいってくれた後も、まーだロードレーサーをマジマジと眺めていた。
ロードレーサーは、どれもとても綺麗だった。見れば見るほど、カッコいい。見ていて飽きないのだ。自分が購入するバイクはもう注文したというのに、色々なバイクを暫く眺めていた。

すると、真木くんから私が来ていることを聞いたらしく、花田さんがすぐに私のところへやってきた。また色々と話していると、一緒に走りに行きましょうねと彼女が私に言った。
「花田さんと走りに行くなら、店休日に合わせてお休みとるか、ホリデーライドに行かなきゃ。」
と彼女に笑顔で返した。ホリデーライドというのは、初心者向けに軽くライドに連れて行ってくれるという店側のサービス的なもので、申込があれば日曜日に無料で連れていってくれるようだった。店内にお知らせとしてそんな貼り紙がしてあったのを見ていたので、軽くジョークを言うようにそう言ったのだった。
「ホリデーライドは、自分はまだ引率ができなくて。年内には行けるように頑張りたいんですけどね。担当が真木なんです。」
彼女が私にそう言った。へ?唐突な話にほんの一瞬私の動きが止まった。
なんかすごくラッキー??真木くんにホリデーライドつれていってもらわなきゃ。
そんなことを思うのだった。
「引率するのにも何か資格的なものが必要なの?結構大変なんだね。」
そんなことを言っていると、階段の方からヒョコッと真木くんが顔をだした。
「準備できましたよ~。メーカーに在庫あったから、すぐに取り寄せできます。」
花田さんと一緒に真木くんの方へ歩いていった。
「寒くて乗れないし、全然急がないから大丈夫ですよ。前みたいに催促しませんから。」
笑って言うと、彼も笑っていた。

レジカウンターで支払いのやりとりをしていると、結城さんもやってきて話しかけてきた。
「やっとロードレーサー決まりました。三ヵ月くらい考えちゃった。
一応決めてきたのに、上に行ってまーだ迷ったりして。」
私の言う事に皆が笑っていた。
真木くんが納期のことを説明してくれたので、本当に全然急がないからと話してみた。
「全然急がないから二週間くらい先でもいいし、大体の日にち聞いてたらそれくらいに
取りにきますよ。」
「いや、もう来週の週末にはお渡しできますよ。一応お電話しますし。」
「そうですか、じゃ、来週土曜…か日曜に取りに来ますね。」

注文手配完了。
真木くんが、見送りに出てきてくれた。そして、さっき花田さんから聞いたことを、彼が自分から私に言いだした。
「ホリデーライドも毎週日曜日にやってますから、是非利用してください。自分が担当ですから。」
「そうそう、さっき花田さんにホリデーライドの話を聞いてたらそんな話になって。
坂とか上ったりしませんよね。」
笑いながら二人でやりとりをする。
「九時にここに集合して往復で三十キロくらい走るかな。君島町のわたり公園とかわかります?それとか海方面、八田の方とか。わたり公園はホタルとかでるとこなんですけど。」
「あ、川沿いですか?なんか行ったことあるかも。上の方でしょう?」
「そうです。」
「君島町って行こうと思わないとなかなか行かないところですもんね。近いようでなんか遠いし。
でも、あっちの方、広くて新しい道ができたから走りやすそうですよね。」
「ああ、でも裏道とか行くんですよ。裏道結構いいんですよ。」
そんな話を、しばらく店の外でしていた。
「じゃ、よろしくお願いします。ありがとうございました。失礼します。」
最後に彼に笑顔を見せて、そう言って帰ってきた。

真木くんといっぱい話して、さりげなくホリデーライドの約束までしちゃった。

Ⅴ January

Ⅴ January

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-03-17

Copyrighted
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