ーアカバルー

プロローグ. 何もない平凡な毎日、そんな毎日に退屈はしていないだろうか?時には現実とはかけ離れたことをやってみたい、と思うのは人間として自然な事である。北森中学に通う1年生の岡本賢一(おかもとけんいち)はそんな毎日に退屈していた。そしていつものインターネットに没頭している途中、現実とはかけ離れた世界ってどんな感じの世界だろう、と思い「現実とかけ離れた世界」と打ち込んでみた。すると該当するページが1つ浮かび上がった・・・

1.「あぁ、クソだりぃ」楽しくない数学の授業中、目を閉じながらイライラしている岡本賢一。「なんで皆は数学を楽しく思えるんだろう、なんで勉強を楽しんでやるんだろう」岡本は疑問に思っていた。「どうせ人間は死ぬんだから」それは彼の口癖だった。キーンコーンカーンコーン、数学の授業が終わり、帰りの学活、寝ながら帰るのを待っていた。そして気付くと皆立ち上がり、最後の礼をしようとしていた。岡本は慌てて立ち上がり、礼をした。「あぁ、何でこんなにつまんないんだろう」中学校生活を満喫したいのは事実である。だが、帰宅部、これが現実。好意などはあるが、この人好き、と思う人はいない。家に帰ると誰もいなかった。フラフラと歩きながらデスクトップの前に座った。カタカタ、と慣れたさばきでブラインドタッチをし、ネットゲームに没頭している。これは彼の日課である。ネットゲームに没頭している途中、急に背筋を伸ばした。「ちょっと調べてみようかな。もしかして俺と同じ思いの人間がいるかも知れない」彼は「現実とかけ離れた世界」と打ち込んだ。すると1つのページがヒットした。それをクリックすると、背景は黒、そして文字は白、と不気味な感じだった。「我は時魔道士アカバル、時を司る神だ」彼は吹いた。「プッ、厨二病にも程があるぜ」だが文字を読み続けた。「人間と言うものは平凡で平和な毎日を恨む。平和に慣れすぎている。そしてこのページを見ているお前もその人間の1人だろう。我は平和に慣れているお前らに衝撃なひと時を送ってやろう。下の空欄に学校名、住所、クラス、名前を打ち込めば、我がお前らのところに参る」岡本は指示通りにうち、そして送信ボタンをクリックした。「勇気あるものだ。明日の午前7時45分、お前が書いたところで待て」「どうせどこかの厨二病がやっているものだろう、別にいいや」。

2. 次の日、7時30分に家を出た。45分にはクラスにいなければならない。学校に着くと42分だった。そしてクラスには4人の人が居た。秋元要(あきもとかなめ)、松原叶夢(まつばらとうむ)、池田亜理沙(いけだありさ)、上山有紀(かみやまゆき)の4人だった。秋元はクラスの中心的人物には及ばないが大概クラスを引率している人だ。髪は女子のショートカット程度あり、俗に言う「サラサラヘアー」でイケメンである。松原は学年はおろか、地域全体で可愛いと評判で、逆チョコは合計で100個以上貰った、と噂になっている。岡本は可愛いと思っているが、好きではない。セミロングが特徴的だが、時にポニーテールの時もある。池田はクラスで見ると可愛いほうだが、常に松原と一緒にいる為、評判にはなっていない。松原のメールアドレスを知りたくて最初に池田と接触する人は多いらしい。常にポニーテールである。上山も常に松原と一緒で松原、池田を纏(まと)めている役だ。彼女も十分可愛いが、松原と一緒のせいか、評判にはならない。だが先輩からは結構気に入られ、何回かアタックされた、と噂だ。髪の毛は結ばないのが彼女スタイル。実はこの4人とは同じ小学校出身で、時に話すことがある。岡本を含む5人は小学校4年生の時は結構仲がよかった。5人とも相手の事を名前で呼んでいる。

3. 「あれ?賢一早くね?」秋元は珍しがって寄って来た。「別に、ってか要はいつもこんな時間帯にいるのか?」「まぁな、家じゃ退屈だしここで皆と話してるんだ」「そうなんだ」「で、何でこんなに早いんだ?もしかして宿題やってないのか?」「お前じゃないんだから」「なんだそれ!!」「お前静かにしていたらモテるんだから黙れば?顔は悪くないんだからさ」「いや、お前に言われたくないよ」それから松原、池田、上山も話しに加わり、賑(にぎ)やかに話していた。岡本は入学当初かなり評判だったらしい、クールで物静かで頭が良く運動も出来る、と。「いや、だって俺家じゃゲームばっかしてるぜ?」気付くと45分になっていた。「あっ45分だ」「45分だと何かあるの?」「いや、叶夢には関係ないな」「なぁにそれ!!」その時、急に机が揺れ始めた。「何だ!!?地震か!?」アバウトであるが、震度5弱であるだろう。窓もガタガタとゆれている。そして教室中央に黒い靄(もや)のようなものが掛かった。「約束の時だ」黒い靄は中央に集まり、ブラックホールみたいな感じになった。「教室から出ろ!!」岡本は咄嗟(とっさ)に指示を出したが、ブラックホールに吸い込まれ誰も教室から出れないまま飲み込まれてしまった。

4. 「う・・うーん・・・こ・・・ここは・・・・・・っ!!!ここはどこだ!!?」岡本は目を覚ますと辺りを見渡した。辺りには机が散乱している。まるで廃校舎みたいだ。岡本は4人を起こし、教室の中央に丸くなった。「ここどこ?」池田が言った。「どこだろうね」上山は辺りを見渡した。「ご・・・ごめん・・・全て俺のせいなんだ・・・」「え?」それから岡本は全て話した。「そんな・・・」松原は残念そうな声で言った。「ごめん」「いや、お前は悪くないだろ?騙される事だってあるさ」秋元は必死で説得した。「いや、別に俺はそんなに落ち込んじゃいないぜ?真に受けんなよ」「え、ちょっ責任持てよ」「さっきといってること違うぞ」3秒間くらいの笑いが生まれた。そしてどこからか声が聞こえる。「これからゲームをしてもらう。ルールは簡単、ここから脱出することだけだ。だが、敵がいるので注意。5人にはそれぞれ特殊能力を持った職業になってもらう。職業は全てで4つある。1ソードマスター、2拳闘士、3治癒士、4、魔法王、以上だ。お前らにどれかの職業になってもらおう。また、複数の職業になることも可能だ。例えばソードマスターと治癒士の場合、振込みが出来る。1人が持っているのは100だ。ソードマスターに70、治癒士に30だと、剣の扱いは多少得意で治癒は多少苦手、と振り込んだ数に応じて能力が変わってくる。以上だ。決まったら職業の名前が書いているボタンを押してくれ。また、ここで過ごした時間は現実世界では加算されないので安心しろ」「え?何これ?ファンタジーゲーム?」相変らず秋元はボケをかましまくってくる。「いや、ちょっと違うな」ツッコミは岡本の役だ。疲れる。「いや、ちょっとどころじゃないでしょ」池田はツッコミにツッコんだ。「よし!!善は急げ、俺はもう決まったぜ」「ちょ、善は急げって違うような」「細かい事気にすると早死にするぞ。おーれーはーソードマスター!!!」勢いよくボタンを押すと、秋元の周囲に黒い靄が掛かり、秋元の姿が見えなくなった。そして靄が消えると服装が変わっていた。いかにもソードマスターって感じだ。そして刀を持っている。「すげぇ!!あっじゃあ俺は魔法王も」とボタンを押した。黒い靄が掛かったが、服装に変わりはなかった。「そうか、最初に押した職業の服装が優先されるのか」そして皆の職業が決まった。岡本はソードマスターと拳闘士。ソードマスター70、拳闘士30。秋元はソードマスターと魔法王。ソードマスター40、魔法王60。松原は治癒士。池田と上山は魔法王。以上の職業になった。そして黒い靄がかかった。「職業が決まったようだな。先ほど言い忘れていた事だが、お前らの体は職業問わずパワーアップしている。力も普段よりはるかに上回っている。そしてここで死んでしまった場合、現実世界に二度と戻れないので注意。万が一ここで怪我をしてクリアしても、現実世界では怪我はしていない事になっている。また、ここでも痛覚はあるので注意。以上だ。健闘を祈る」

5. 「おい、どうするよ?」秋元が聞いてきた。「いや、俺に聞かれても・・・」「取り敢えず移動しようよ」池田が言うが、皆は立ち尽くした。「敵がいる、といっていたな。どんな敵だろうか?」考えている途中、教室の扉が勢いよく開いた。そこには敵らしき者が居た。外見では判断できないが、人間の体格をしている。だが人間とは思えない皮膚である。真っ赤に染まっている。かなりグロテスクである。「うわっあれがかよ!!」「取り敢えず落ち着け!!」敵は合計で3人、そして一斉に襲ってきた。秋元は4人の前に立っていたが、刀を抜く事は出来なかった。素早く岡本が刀を抜き、襲ってくる1人を斬ろうとしたが、手から刀のような鋭利な物体が出てきて刀と鋭利な物体がぶつかり合った。「うわっ!!」だがその隙をついて足で前蹴りをした。敵は異常なほど飛んだ。残り2体は池田と上山が倒した。「うわっ女子で倒せたのかよ」「魔法王結構強いよ」上山は笑顔で言う。「えぇそうなの?俺も魔法王になればよかったな」「お前は魔法王も持ってるだろ!!刀抜けなかったよねぇ?要く~ん?」「いや、あれは・・・」「はいはい、言い訳は死んでから。取り敢えず、この教室から出よう」「けどどこに行くの?」松原は聞いてきた。「そりゃもちろん保健室だけど?」「なんで?」「万が一怪我をしたときに保健室だと治療しやすいだろ?」「けど私が治療するよ?」「叶夢が怪我をしたときだよ」「あっそうなんだ、ありがとう」5人は黙々と保健室へ目指した。敵に3回遭遇したが、あっさりと倒した。「ここに来るまで超疲れた」秋元は保健室のベットに倒れこんだ。「おい!!貴重な憩いの場がっ!!」「えっへへ~」「相変らず要は暢気だね」「叶夢には言われたくない」「じゃっ冗談はこの辺にして、これからどうする?」それから今後の方針を説きあった。

6. 結局保健室に待機する係りと探索係りに分かれた。待機係りは岡本と松原、待機係は他の3人。廊下をゆっくり歩く岡本と松原、笑顔で話し合っていた。「けど賢一はゲームばっかやってるのに勉強できるなんて凄いねぇ」「まぁテスト前にガリ勉してるだけだからなぁ」だが楽しい時間も束(つか)の間、目の前に今までの敵とは違う体格の敵が現れた。人とは同じ大きさの犬のようだった。「な・・何だあれ?」「襲ってくるよ」敵はありえないスピードで襲ってきた。「うわっ逃げ」敵は岡本のタックルをした。岡本は吐血した。「ぐはっ」賢一と敵はその勢いで教室の中に入った。「賢一!!」「っく!!おらぁ!!!」岡本は左手で敵の腹を殴った。敵は後ろの黒板に背中を強打したが、再び襲ってくる。そして岡本の右腕に噛み付いた。「うわぁぁ!!」岡本は左手で敵の頭を掴んだ。暫(しばら)くその体制で睨み合っていたが、岡本が全力で握ると敵は噛むのをやめた。そして岡本は敵を黒板目掛けて投げた。だが依然として敵は襲ってくる。かなり速い。そしてもう1発タックルを喰らってしまった。そして黒板に強打した。「っぐ!!」運良く頭を撃たなかったが、背中を強打した事により、呼吸するのが苦しくなってしまった。「賢一!!」「駄目だ!!来るな」岡本は刀を杖にして立ち上がった。「はぁーはぁー」腕の出血が止まらない。激痛だ。「クソがっ。調子に乗るなよ」刀を敵の方に向けた。敵は勢いよく飛び掛ってきたが、それをギリギリで避けて後ろから背中を斬った。敵は「がぁぁぁ!!」と唸(うな)り、また襲ってきた。「クソッ致命傷を与えたんじゃないのかよ!!」ギリギリで避けては蹴り、斬り、だがそれでも敵は襲い掛かってくる。ギリギリで避けていたせいか、疲れが溜まってきた。そして噛まれたり引っ掛かれたりした。「調子に乗るな・・・」俯いたまま岡本が言った。体に力を入れているのが分かる。周りの空気が一変した。回りの机がガタガタと揺れている。窓も今にも割れそうだ。「クソがっ!!」岡本は敵に向かって走った。敵は飛んできたが、頭を刀で突き刺し、黒板に叩き付けた。最初は暴れていたが、動かなくなった。「はぁーはぁー」息が荒ぶっている。黒板に刺さった刀を抜こうとしたが、中々抜けず、力を振り絞ったら後ろに倒れてしまった。「うぐっ」「だ・・大丈夫?」「あ・・・あぁ」「怪我してる・・・治せるかな?」「アカバル?居るか?」「なんだ?」どこかからか声が聞こえる。「治癒士ってどうやって治すんだ?」それからアカバルの説明を受けた。部分治療をするのなら、右手、または左手で治療する部分を押さえ力を入れる。体全体を治療するのなら、右手、または左手の人差し指と中指をくっ付け、振ると鎖が出てくるから患者のどこでもいいからその鎖を刺す。そして力を込める。そうすると体全体が治療される。「やってみるよ」と松原は人差し指と中指をくっ付けた。そして勢いよく岡本目掛けて指を振った。すると先がとがっている鎖が飛んできた。「うぐっ!!」鎖は胸に辺り、岡本の周りは黄緑色の靄がかかった。傷が癒えていく、傷口がふさがる、痛みが引いていく。効果は凄い物だった。「やった、出来た」「ありがとう。だけど鎖は痛いな」「あっごめんね」「いや、ありがとう、叶夢」「う・・うん」松原は顔を赤めて言った。それから保健室に戻り、皆に今までの出来事を話した。

7. 「そうか。そんな目に遭ったのか」「あぁ、まぁな」「けど無事だったんだろ?」「まぁ、今一よく覚えていないけど」松原は秋元に耳打ちで何かを話した。「ふ~ん。で、賢一の傷を叶夢が直した、と。ところで叶夢は自分自身を癒す事は出来るのか?」「ん~、どうだろう。怪我していないからわ分かんないや」「俺の予想は・・・無理だろう」岡本は言った。「何で?」「だって治癒士はチートすぎるだろ?自分も治療できたら・・・」「まぁ、確かにそうだな」「やっぱり、治癒士は最低でも2人は必要だったんだ」「じゃあ部屋に戻るか?」「さっき探索していたけど俺等が最初スタートした部屋は鍵が掛かっていて入れなかった」「まじかよ。じゃあ叶夢が怪我したら大変じゃないか」「それを俺等2人で頑張るんだろ?」「いや、私達もいるよ」上山が言ってきた。「私達魔法王だよ?賢一や要より強いよ」「確かにそうだけど・・・何か申し訳ないな・・・」「今はそんな事言ってる場合じゃないでしょ?」池田に言われた。「まぁ」「とにかく!!私達4人は命よりも叶夢を守る事!!良いね!!?」「あぁ!!」こうして岡本、秋元、池田、上山は松原の護衛に当たった。「何か守られてばっかじゃ申し訳ないなぁ」松原は申し訳なさそうに言った。「任せろって!!」「要は何もしないだろ?」「するさ!!だって俺・・・」秋元は口を手で塞ぎ、しまった、と呟いた。「あぁ?」「いや、なんでもない」「ん?」「取り敢えず、今は探索優先でしょ?」上山が挟んできた。「今の所ここは襲われていない。恐らくここは襲われることはないでしょ」池田が付け足した。「いや、今までの出来事であってここは必ず教われない、と言うわけではない。これからの行動だが、5人で行動すると敵にばれる危険性がある。かといって2分割すると叶夢がいないチームが出てしまう。だからどうしようか、って考えているんだけど・・・」「う~ん、取り敢えず今は5人行動しようぜ。そうすればたとえ襲われたりしても戦力はこっちの方が上だし」「そうだな、じゃ、移動しよう」そういって5人は保健室を出た。

8. 「だけど今ところ敵は・・・」秋元が話している途中、敵と遭遇した。普通の敵12体位、そして犬は4匹、そしてその後ろから巨人が現れた。「あ・・・あぁ」身長は3メートルを超えている。天井に頭が付きそうだ。一目見れば分かる。あの手に殴られたら骨折ではすまない。「く・・・くそっ。一戦交えるぞ!!」先手を打ったのは上山だった。右手を前に出し、「ハッ」と声を出すと目で確認できる黄色の粒が勢いよくでた。その粒に当たった敵は倒れた。だが再び立ち上がった。「何で?」次は池田だった。右手と左手を胸の前に重ね、勢いよく弾いた。すると円盤みたいな物が3つ飛び出した。その円盤は敵の腕に当たった。すると敵の腕はちぎれ落ちた。「うわっ強っ!!」だがそれに見とれていた秋元は犬のタックルを処理できず、まともに喰らってしまった。「うわっ!!!」「要!!」後ろを向き、素早く前を見るが、間に合わなかった。犬のタックルを喰らってしまった。だが、ギリギリのところで刀を犬に向けた為、向こうが自滅してくれた。こめかみを貫いたが、全然襲ってくる。「何だコイツ!!?さっきより生命力が増しているぞ」岡本は刀を振り払い、勢いよく刀を振った。すると犬の首は飛んだ。その間に秋元は犬に至る所を噛まれ、重傷を負ってしまった。それを見た岡本は助けに行った。その間に上山と池田が敵を全員倒し、残りは犬2匹、巨人1体だ。巨人は冷静さを保っており、依然として襲ってこない。上山と池田は右手から光の粒を放出し、犬を2匹倒した。これで残りはあの巨人。「よしっ!!5対1ならいけるぞ!!」だが、岡本はそのせいで油断をしてしまった。「あっ!!」巨人の右ストレートを喰らってしまった。ギリギリのところで右手でガードしたが、右手は恐らく粉砕骨折してしまっただろう。壁に叩きつけられ、激痛に嘆いた。「うわぁぁぁぁっぁぁぁ!!!!!!!」岡本は左手で右手を押さえ、堪えている。目の前に巨人。一瞬上山が助けてくれそうだったが、秋元が止めた。「待て、間違ったら賢一に当たるぞ!!」秋元は後ろから攻撃しようとしたが、巨人の後ろ蹴りをまともに喰らってしまった。「あがぁっ!!」秋元は廊下を滑った。そしてうつ伏せで起き上がらなかった。気絶してしまったようだ。「っぐ!!」岡本の目は揺るがなかった。巨人に殺される。そう思っていても弱いところは見せられなかった。抵抗しようとしても右手はもう使い物にならない。巨人は手を伸ばし、岡本を持ち上げた。そして力強く握った。「ぐあぁぁ!!」吐血し、肋骨が折れたのが分かる。骨が肺を傷つけてしまう恐れがある。「くそがっ!!」巨人は岡本を廊下に叩き付けた。「だぁぁあっ!!!」体中が痛い。激痛がするのは胸、右腕、そして足である。恐らく折れたりヒビが入っているのだろう。足はかなり腫れている。巨人は岡本を睨んだ。そしてまた持ち上げた。「うううぅぅぅ・・・・」パパパパン、巨人の背後から上山と池田が光の粒を放った。その衝撃で巨人は岡本を離した。廊下に落ちた岡本は暫く放心状態で居た。泣きたいくらいだ、けどアイツらの前では泣けない、いや、アイツらの前じゃなくても泣けない、と必死で自分に言い聞かせていた。岡本は廊下を這い蹲(つくば)り、壁に寄りかかった。自分の血が目の前に広がる。そして腫れ上がった足や胸、アザも至るところにある。ビューーン、光の円盤が巨人の首を斬った。そして大きな顔は廊下に落ちた。「あはぁーはぁー」2人は力を使い切ったのか、倒れこんでしまった。松原は岡本の方へ駆け寄った。「だ・・・大丈夫?」体の至るところを見て驚いている。そして血の水溜りを踏んでいる事に気付き、跳ね上がった。「はぁ、大丈夫?」「あ・・・あぁ、ただちょっと肋骨折れたみたいで・・・あはぁー。喋るの辛い、呼吸するの辛い」「分かった。もう喋らないで良いよ」いや、呼吸するのも辛いって言っただろ、岡本は心の中で言った。松原は一回深呼吸し、そして今度は左手の中指と人差し指をくっ付け、鎖を岡本目掛けて放った。鎖は岡本の肩に刺さった。そして傷が癒えている。だが完治するまで10秒位掛かった。「あぁ・・・ありがとう。もう死ぬかと思った」「よかったぁ。あっそうだ、亜理沙!!有紀!!大丈夫!!?」松原は急いで駆け寄った。岡本は必死だな、と呟いた。池田と上山はすぐ立ち上がった。「うん、大丈夫。ちょっと疲れただけ」池田は答えた。「賢一、大丈夫?」上山が聞いてきた。「あぁ、叶夢の助けてくれたからさ」それから保健室に行くまで軽いトークで盛り上がったが、岡本はあの激痛を思い出すと喋る気力すら無くなり全然会話に参加しなかった。「あっ!!しまった!!」岡本は大声を上げた。それに反応した3人はビクッ、と肩をあげた。「あっごめん。あのさぁ、何か忘れ物してない?」「・・・?あっ!!」3人はほぼ同時に気がついた。「要!!!」4人は急いで巨人と戦ったところに向かった。幸い敵は出現しなかったらしく、秋元は無事だった。そしてその後松原が全て直し、岡本がおんぶして保健室に運んだ。「全く、体力無いなぁ。カルシウム足りないんじゃないのか?あいつ」岡本は愚痴を込めて言った。「まぁまぁ」上山は抑えた。「俺らも寝ない?」「そうだね。もう眠くなっちゃったよ・・・」松原は目を指で擦りながら言った。「俺も眠い、よし!!寝よう。ただ寝る場所だよ。ベットは3つ、今秋元が寝ているからベットは2つ。さぁ、誰がベットで寝る?」岡本は聞いた。すると池田からこんな提案があった。「じゃあ私は叶夢と一緒にベットで寝る!!で、もう1つのベットは有紀が1人で寝る」「ん・・・ん?え!!?それって俺がベットで寝れないって事じゃん!!」「いいでしょ別に・・・」池田は言った。「えぇ、じゃあ俺どこで寝るんだよ」「別に適当なところでいいんじゃない?」松原に言われてしまった岡本は口を噤んだ。「分かった、だけど敵が襲ってきたらどうする?」「その時はその時で、今は寝よう」と3人はベットに入ってしまった。そしてカーテンを閉められた。ハァー、岡本は溜息を付き、壁に寄りかかり座った。そして目を閉じた。あの時、力の差を感じてしまった。ネットゲームに没頭しているから剣術は知っている。アクションゲームは得意中の得意だ。誰にも負けない、そう思っていた。だが結果があれだ。大怪我を負ってしまった。その上よりによって女子に助けられてしまった。恥ずかしいにも程がある。あの時は激痛でなんとも思わなかったが今は恥ずかしく思えてきた。だが、そんなことを思っていると自然と瞼(まぶた)が重くなってきた。そして深い眠りについた。

9. そして寝ている間、夢を見た。とてもすばらしい夢だった。だが内容を今一覚えていない。「おい、起きろ。ん~あぁ・・・あっおはよ」最初に秋元を起こした。そして池田と松原のベットのカーテンを勢いよく開けた。岡本は一瞬顔を赤めたが、即座に気持ちを切り替えた。「おい、起きろ」「ん・・あぁ・・・ふあぁ・・・・」そして2人はおきてもベットから出ようとしなかった。そして上山を起こそうとしたが、手が止まった。秋元、松原、池田が笑っている。「ん?どうかしたのか?」「いや、何でも。早く起こせよ」「別に俺いやらしいこととか考えてないからな」「分かったから早く起こせ」岡本は上山のカーテンを開けた。上山は寝ている。岡本は上山の肩を揺さ振った。だが上山は起きない。「お・・・おい。起きろって!」耳元で言ったが上山は起きない。「どんだけ深い眠りに付いたんだよ」岡本はボソッ、と呟いた。そして上山の耳に大声を出そうとして顔を近づけた。そして「起きろ!!」と叫んだ。そしてやっと上山は目を覚めた。「やっと起きたぐっ・・・」岡本は何が起きたのか理解出来なかった。上山に殴られた。「出てってよ!!!」「えっちょっと、そんなに怒らなくても」「早く出てって!!!」後ろの3人はゲラゲラと笑っている。「分かった。出て行くから」と素早く出てカーテンを閉めた。「はぁー」3人はまだ笑っている。「お前ら知ってたのかよ。何だよあの・・あれ・・・・」「あぁあれね。有紀の悪い癖だよ。寝起きは自分で制御できないとか。私も有紀の家に泊まった時殴られたよ」池田は細かく説明した。「私も殴られた事ある」どうやら松原も経験があるようだ。「けどさぁ、何で要は知ってるわけ?」「俺?俺は・・・なんで知ってるんだっけ?」「あれじゃん。私が教えたんじゃん」「あぁそうか。あの時は笑ったよ」そして岡本はスルーされてしまった。「ったく!!右の頬が凄い痛い」そしてその後上山がベットから出てきた。そして何度も謝られた。岡本は奥歯が折れてしまった。だがそれも松原が直してくれた。「全く、叶夢を困らすなよ」「まっ有紀の癖を知らない賢一も悪いけどね」松原は言ってきた。「何でだよ。流石(さすが)に俺は悪くないだろ」そして4人は勢いよく保健室を出た。

10. 「今度こそ負けない。今度こそ」岡本は燃えていた。別であろうとあの巨人を俺の手で倒す、岡本は心の中でそう繰り返していた。ドシッ、ドシッ、巨人の足音が聞こえてくる。右の階段を見た。すると上から巨人が降りてくる。「来た」岡本は鞘から刀を抜いた。巨人は階段を降りた。「おい、お前らは手を出さないでくれ」「え・・」「いいから」岡本は歯を食いしばって巨人に挑んだ。岡本は飛び、刀を振り下ろした。だが巨人は手から鋭利な物体を出し、刀を抑えた。飛んだため、岡本は落ちてしまった。巨人はその隙を突いて足で岡本を蹴り飛ばした。「あぐっ」教室の壁を貫き、窓に強打した。窓は割れ、ガラスが岡本を切って行く。「賢一!!」岡本はぬくっと立ち上がり、刀を構えた。「負けねぇ」岡本は再度挑んだ。だが鋭利な物体の攻撃を受けきれず、最後にはパンチを受けてしまった。「あがっ」岡本はさっきの教室に逆戻りだった。すぐ立ち上がろうとしたが、何かに足や腕を絡み、逃がそうとしない。その何かとはツルみたいなものだった。だが真っ赤だった。それに捕まり、うまく立てない。それどころかうつ伏せで巨人のことをしたから見ることくらいしか出来ない。「賢一!!」「駄目だ!!逃げろ」その隙に秋元、上山は吹き飛ばされてしまった。それからは教室の壁で見えないが、恐らくツルに捕まってしまっただろう。「亜理沙!!逃げろ」だが池田は右手を前に出し、光の粒を放とうとした。だが巨人のキックを喰らい、岡本のいる教室のロッカーに背中を強打した。「んっ!!」そしてツルに捕まってしまった。最後に残ったのは・・・松原だった。

11. 「叶夢!!逃げろ!!死ぬぞ!!」松原は逃げようとしたが、巨人に掴まれ捕らわれてしまった。そして巨人は松原のことを力強く握った。「あああぁぁぁっぁぁ!!!!!!!!」松原は叫んだ。激痛に耐え切れないだろう。それも見ている岡本も耐え切れなかった。目の前の状況をただ見ていることしか出来ない。「叶夢!!」そして巨人は地面に叩き付けた。「うあぅっ!!!」そして再度持ち上げた。松原の目は死んでいた。もう嫌になっているような目だった。そして巨人は松原を水道のガラス目掛けて思いっきり投げた。ガラスは割れたが松原はガラスの奥に行かなかった。だがガラスが松原を切って行く。そして巨人は近づき、松原を見下ろした。いつの間にか敵が3体いる。「あっ・・・・あぁ・・・・」敵は鋭利な物体で松原を斬って行く。「ああああぁ・・・あああぁぁ」岡本は敵を睨んでいた。ツルが邪魔で動けない。そして俺が動かないと叶夢が死んでしまう!!どうする!!?自分に問いかけていた。敵は最後の一撃、と鋭利な物体を松原の心臓に刺そうと腕を振り上げた。「やめろ・・・」岡本は言った。ゴゴゴゴゴゴ、教室全体が叫んでいるようだった。岡本の力の大きさが音となって轟(とど)いている。池田はそれをただ見ていた。教室のガラス、そして机などは砕けちり、教室には何も無くなった。ツルも消滅した。その力に敵は気付き、岡本の方を見た。「やめろって言ってるだろ」小さな声で呟いているようだった。部屋の叫びはまだ轟いている。そして岡本は尋常な速さで敵に向かった。池田はそのスピードに追いつく事が出来なかった。

12. 岡本は一瞬で巨人の背後に立った。そして敵の首は吹き飛んだ。巨人は素早く振り向いた。そこには怒りにより覚醒した岡本の姿があった。巨人は吹き飛んだ。階段を下から転がり上った。巨人が立ち上がると目の前には岡本がいた。巨人に隙を与えない。斬って斬って斬っていく。岡本は何も考えていなかった。暗闇の中にただ一人、そのような状況に置かれていた。岡本は気付くと体中が痛んだ。制服がボロボロだ。だが制服がボロボロな理由は満身創痍だからだ。制服が血で汚れている。そして斬られたところは穴が開いている。その激痛にしゃがみこんだ。そして気付いた。自分の周りに敵が倒れている。それも一桁ではない。50~60と倒れている。そして巨人は5対倒れていた。犬は30匹くらいだろう。右手、左手、右足、左足、首、顔、腹、胸、全てのところに傷がある。それも擦り傷程度ではすまない傷だ。恐らくあの鋭利なもので斬られたのだろう。左手の指が折れていることに気付く。そして右肩は脱臼している。体のいたるところに鋭利なものが貫いた後もある。自分が立っていた場所はもう血の湖だった。その激痛に嘆く。「あっ・・あぁ」岡本は声のあるほうを向いた。上山、池田、秋元は目を見開いてこちらを見ていた。恐らく覚醒した姿を見て驚いたのだろう。岡本はツルを切り、話し合った。「お前・・・」「・・・・・」何も言い返せなかった。自分が何をしたのか分からないからだ。「取り敢えず叶夢を・・・」松原は水道に嵌っていた。そこから引っ張りあげた。「う・・うううぅうぅうぅ」松原は泣いていた。「もういや・・・もうやだよ・・・」岡本は外見で判断する限り、左肩脱臼、右腕骨折、左足罅割れ、肋骨損傷、切り傷、ガラスは体のいたるところに刺さっている。もしくはそれ以上、って感じだろう。岡本の体よりは軽い方だが常人だったら泣くのもままならない。その痛みを絶望と感じ、必死で嘆いていた。「大丈夫、もう喋るな」岡本は必死に説得する。「ど・・・どうするの?」上山は聞いてきた。「取り敢えず、保健室に運ぼう」「え?どうやって?」池田が聞いてきた。「亜理沙が運べば?」「やだよ、血が付きそう。賢一が運んでよ」「無茶よせ。俺は叶夢より重傷だ。要、運んでくれよ」「あぁ、しかたないな」秋元は松原をおんぶし、ゆっくりと歩いた。「賢一、痛い?」池田が聞いてきた。「激痛だ」「けど冷静だね」上山が挟んできた。「別に暴れるほどじゃないだろ。ただ痛いだけ。お前らに迷惑とか掛けたくないし」岡本は未だに血が流れている。頭から垂れてきた血が右目に入り、右目を擦った。「あ・・あぁ・・・け・・けんい・・ち・・・なお・・す・・よ・・・」松原が必死に声を出した。「喋るな。俺は大丈夫だ」岡本は遠慮がちに言った。実際岡本も心の中で嘆いていた、叫んでいた。痛い、痛い、心の中ではその2文字しか思い浮かばない。だが、弱いところは見せられない。岡本は重大な秘密を抱えていたからだ。

13. 岡本の父親は実は連続殺人魔だ。そのせいか小さい頃からは暴力に暮れた日々だった。そして父親は岡本が7歳の時に捕まった。母親は1人で岡本を育てた。だが、唯一の母親も3年前、この世を去ってしまった。それからは祖母の家に住んでいる。母親の死因は病死だ。ベットの上で岡本は泣いた。涙が尽きるほど涙を流した。そして母親に言った。「お願い、死なないで」その言葉に母親は怒鳴った。「何言ってるの!!?私が死ぬわけないでしょ!!男が泣くなんてありえないよ!!さぁ、涙の拭って!!」そして次の日、容態が急変し、あっけなくなくなってしまった。岡本は最後の母親の叱りを座右の銘にし、涙を見せなくなった。

14. 松原を保健室のベットに寝かし、岡本は母親から習った治療法を生かした。取り敢えず左肩の脱臼は楽々直した。右腕は保健室にあった添え木で支えた。もう添え木はないので足は冷やし、包帯を巻いた。ガラスは強引に抜いた。「あぁぁぁ!!」抜くたびに松原は叫んだ。岡本はごめん、ごめん、と繰り返していた。そしてガラスを全部抜き、傷口は塞いだ。これで治療完了。だが、松原は自分の足ではもう歩けないだろう。そして松原以外の人を集め、会議をした。「俺、分かったんだ。脱出口が」「え?どこ?」3人は食いついてきた。「水道の窓か教室の窓だよだよ」「え?」「叶夢が水道の窓に投げられた時、穴が開いていたんだ。あとは俺が飛ばされた時も教室のガラスが割れた。そこが恐らく脱出口」「おぉ」「だが、問題は叶夢の事だ」「え?」「恐らく肋骨は損傷しているだろう。骨が肺を突き破るのは時間の問題だ。ここで叶夢が死んだら・・・」「・・・」皆黙った。「とにかく、早く脱出するぞ」岡本は全ての事情を松原に話してきた。秋元は松原をおんぶし、5人は保健室を出た。

15. 保健室から出て10分くらい経った。ゆっくり歩きすぎたか。「ここだ」水道の窓を選んだ。確かにぽっかりと穴が開いている。「俺は行く」岡本はガラスに向かって飛んだ。すると岡本は窓から落ちた。「賢一!!」「早く来い!!!」それから続々と窓から飛び降りた。そして最後に秋元が飛んだ。4人はスカイダイビングをしている感じだった。そして強い光に包まれ、気を失った。

エピローグ. 目を覚めるといつもの教室。岡本は窓から外を見た。白い雲はゆっくりと青い空を泳いでいる。全てが終わった。それから4人も目を覚まし、岡本の周りに集まった。「今思うと結構楽しかったね」池田は言った。「私は・・・辛かった」松原は小さい声で言った。「ごめん、俺のせいで」それからいつもの学校生活。授業は相変らず岡本は寝ていた。そして家に戻り、デスクトップの前に座った。カタカタカタ、岡本は「現実とかけ離れた世界」と打ち込んだ。しかし「『現実とかけ離れた世界』に一致するウェブページは見つかりませんでした」と画面に現れた。

おまけ. 2月14日、5人が現実とかけ離れた世界に行ってから1ヶ月が経った頃だった。秋元は緊張していた。そして岡本に「早く学校終わらないかな?」と何度も言っていた。そして帰りの学活。さようなら、と礼をし、秋元はどこかへ走り去ってしまった。岡本はその姿に首を傾(かし)げた。そして10分後、秋元は帰って来た。「何したんだ?」「ふふーん、今日が何の日か知ってるか?」「何の日って、バレンタインデーだろ?」「そうだ。俺は叶夢に逆チョコをしたのさ!!」「は?」「俺叶夢の事が好きなんだ!!」「まじで!!?」「そして1ヵ月後にチョコを返してくれれば・・・恋は実る・・・」「何妄想してるんだよ」「してねぇよ!!」そして2人は昇降口から出ようとした。「待って」2人は後ろを振り返った。振り返るとそこには松原が居た。秋元は顔を赤らめた。「あの・・・賢一・・・ちょっと来て」「え?」「なっ!!」「あっ、要、どんまい」「なんだとーーー!!!」そして松原に連れて行かれて図書室に入った。中には誰もいない。「あ・・・あの・・・これ・・・受け取ってください!!」ピンク色の箱を金色のリボンで止め、ハートが背景にある。「あっありがとう」「わ・・・私ね・・・賢一の事・・・好きだよ・・・だから・・・その・・・・・付き合ってください・・・・・」岡本はその言葉に吃驚(びっくり)したが、冷静に考え、返事をした。それから昇降口に戻った。「どうだった!!?」秋元は心配そうに聞いてきた。「なーに、チョコじゃなかったよ」「まじで!!よっしゃーーー!!!」秋元は腕を上げて喜んだ。岡本はその姿に笑った。

ーアカバルー

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更新日
登録日
2013-03-15

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