君と僕を繋ぐ刻印 第2話「翼の少女」
登場人物
雪見瑠都 ゆきみ ると
スピア
ヴォル
風戸錬 かざと れん
翼の少女
さて、スピアとヴォルが突然瑠都の家に来てから3週間ほどが過ぎた、世間はいわゆるゴールデンウィークでニュースでは連日観光地の特集や、渋滞のニュースなど様々やっていた。そんな中今年のGWは近年まれにみる猛暑らしく、どうやら都心部では30℃を超えたそうで。ちなみに瑠都は東京の都心から少し(てヵかなり)離れた場所に住んでいる、いわゆる住宅街というやつだ。
「これも地球温暖化のせいですかね」
俺の隣でヴォルがつぶやく、いつものスーツ姿ではなく何ともラフな格好をしている。右手にはコーラ缶、左手にはうちわ、どこぞのオッサンや、おまえは!!
「霊でもそんなこと気にすんのか」
「あたりまえですよ、この地球がおかしくなれば、当然我々だって被害を被りますからね」
「なるほど。で、どんな被害があるんだよ」
おれはアイス片手に尋ねる。ちなみに食べているアイスはザクザク君という、ガ○ガリ君のパクリ商品だ。味はハワイアンブルー味らしいが、どう見てもソーダ味だ、てヵソーダの味もしない。
「そうですね、例えば体内の冥力のバランスがおかしくなったりとか、長年かけられ続けてきた術式に影響もでますし」
「へぇ、いろいろあるんだな」
「でも一番ヤバいのは自然界のバランスが崩れることです」
急にヴォルの声が強くなる、
「どーヤバいんだ?」
相変わらず、話をふっておいて興味ゼロのおれ。
「自然界には"自然界の冥力"があります」
「は、自然界の冥力?」
「そうです、ご存じありませんでしたか?」
「ないわボケェ!!普通一般市民はそんなこと、知らずに住んでるんだよ、暮らしてるんだよ、生きてるんだよ!!!」
「そうでしたね」
「そうだよ」
「では話を元に戻して。そもそも冥力と言うのは造語なんですよ、もともとは自然界に備わる不思議な力の事なんです。ほら知ってるでしょ、中国の気功とかいうやつ」
「あぁ、あの超能力みたいなやつね」
テレビで一度見たことがある。チャイナ服着たおねーさんを、変な格好をした(一応中国の服らしい)おじいさんが操るみたいなことだ。つまらないから途中でチャンネルを変えてしまったが、確かに昔そんなものが流行っていた気がする。
「その超能力みたいなやつがスピア様のようなオリアスの体内にあり、そしてその力は自然界の冥力のバランスが大きく関わっているのです」
「なんかスゲー難しい話だな」
「はい、実際のところ私にもよくわからんのです、何しろスピア様を生み出されたのは"イヴ"という一人の人間で、もうそのお方は生きてはおりませんからね」
スピアが実年齢で言うと優に700歳は超えている、と言うことを聞いたのはつい一昨日の話だった。どうやらスピアのようなオリアスは700年くらい前に実在した「イヴ」と名乗る不思議な人間に生み出されたらしく、もちろんイヴ自身はとうの昔に死んでいるし、イヴの子孫は潰えたらしい。つまりはイヴの手掛かりは何もないということらしいのだが、ぶっちゃけおれには関係ないな。いや、関係あるか、俺あと7カ月ちょっとで死ぬんだし。
鎖骨にできたスピアの刻印。それは少しずつだが、確実に大きくなっていた。
「お、そろそろ昼飯の時間だな」
「本日は洋風ですか?」
「おうよ、この間タイムセールスで買ったパスタがあるからな、今日はペペロンチーノってところか」
「では私はスピア様を公園まで迎えに行きます」
スピアの最近の楽しみ、それは家の近くにある児童公園の砂場に居ることらしい。おかげで朝飯を食べ終わった後速攻で公園に行く始末、掃除とか洗濯とかはしやすいけど一人にしておくのはなんか心配だ。
「ま、いいけどな」
おれはエプロンを装着し台所と言う名の戦場へ向かう、言うならば・・・・・・なんでもない。
「さてと作るか!!」
瑠都は勢いよくペペロンチーノを作り始めたがしょっぱなでパスタをこぼした。
「・・・・・・・」
サラサラとした砂、日光を浴びて焼けた砂だ。それを手に取る、そして落とす、また手にとって、また落とす。そんな動作をもう何十回、何百回と続けている。放っておけば一生こうしていそうな勢いだ。スピア、瑠都の身体に刻印を刻み、瑠都の命を寿命を吸うオリアスだ。実は彼女は有る理由で記憶を失っている、そのためこんな砂のサラサラとした感触も、スピアにとっては初めての経験となる。
「あ、いたいた、スピア様」
「・・・・・・ヴォル」
「さ、スピア様昼食のお時間ですよ」
「・・・・・・わかった」
スピアはそっとヴォルの手を握る、ヴォルはそんなスピアに微笑みながら家に向かった。
スピアには記憶が無いためヴォルが何者かはわかっていない、前にヴォルが説明したらしいが、自分がオリアスであること自体を忘れてしまっているため守護霊と言ってもちんぷんかんぷんだった。だからヴォルはそれ以来自分の事は「スピアに使えるもの」と言うことで、ある種の執事的ポジションを獲得しているのだ。
数分後、家に着く。ちなみに、スピアには瑠都がレヴァムだと言うこともいってはいない、先述のとおりスピアはオリアスであることを忘れている、だからヴォルは瑠都の事は「義理の兄」という何ともファンタスティックな言い訳をしていた。
「ただいま戻りました、瑠都様」
「・・・・・・・」
「おっ、お帰りー二人とも」
台所からエプロン姿の瑠都が出てくる。すると突然スピアの顔が少し緩む、
「お帰り、スピア」
「・・・・・・・ただいま」
「ただいまはもう完璧だな、スピア」
そう言って瑠都はスピアの頭をなでる。実はスピアは記憶と共に言葉も忘れてしまっていた、だから瑠都とヴォルは位置からスピアに言葉を教えていた。必要最低限、生活に必要な言葉を瑠都とヴォルは教えてきた。そして瑠都はスピアが今のように「ただいま」と言ったりすると頭をなでてくれる、それがスピアにとってはとてもうれしい事だった。
「もうパスタ出来てるぞ、手を洗ってうがいをしてな」
「はい、わかりました」
ヴォルはまたスピアの手を握る、そして洗面所へと向かう。手洗い、うがい、それを終えてリビングに入るとペペロンチーノのいい匂いがした。
「おお、これはまた美味しそうですね」
「なんのアレンジもしてないけどな、そこにあった料理本に書かれていた通りに作ってみた、一応初ペペロンチーノだからな」
「ではいただきます」
「・・・・・・いただきます」
二人は同時に手を合わせ、そして同時にペペロンチーノを口に運ぶ。
パクリ。
もぐもぐ。
「お、美味しい・・・・・・」
先に感想を言ったのはヴォルだった。
「そ、そうか?」
「はい、味加減も絶妙で、とてもおいしいです」
「そうかそうか、よかった、これでまた料理のレパートリーが増えたな」
瑠都はとても満足げな顔を浮かべる。
一方スピアは無言でパスタを口に運んでいた。別に「美味しい」とか「まずい」とかの感想を言うわけでもなく、ただ黙ってパスタを食べていた。そして瑠都はそんなスピアを見ながら自分もパスタを食べた。
パスタをそれぞれ食べ終わると瑠都は部屋に戻り宿題を、スピアは食後のお昼寝を、ヴォルは昼食の後片付けを始める。平和な日常、別に変りはない、朝起きてご飯を食べて遊んで寝て。こんな普通の光景をいつまで見続けれるのだろう?最近になって瑠都は小さな恐怖を感じていた、表面からは分かりにくい小さな恐怖を。
さて瑠都の通っている竜ヶ原高校、そこから10kmほど離れた場所にある私立桜崎学園。毎年成績優秀者が全国から集まりこの学校を受験する、全寮制の学校で海外からの留学生もいる。また毎年様々な国の貴族や裕福な家庭の子が入学し、全国的にも有名な学園である。さて今日はGW3日目である、桜崎学園も部活動を終えた生徒がそれぞれ帰路についていた。そんななかテニスバックと柔道着を手にした学生が自転車をこぎながら学園を後にした。
彼の名は風戸錬。ここ桜崎学園の奨学金制度で入学した生徒、つまりはエリートだ。顔はそれほど悪くはなく、どちらかと言うとイケメンの部類である。実は彼、瑠都の親友である。幼いころより瑠都と一緒に遊んでいて、有ることをきっかけに二人は友情を深めたのである。さて今日、錬は瑠都の家に夕食に招かれていた。錬の母は正直に言うとあまり料理が得意ではないらしい、元レディースの総長だったらしく、今でもその時の名残として錬の家には数十台ものバイクが並んでいる(全部動かないが)。てなわけで錬は瑠都の家へと直行したのであった、するとある公園を通りかかった。いつもなら通り過ぎてしまうような公園だが、なぜかその日は公園に立ち寄ることにした。昔よく瑠都と遊んだ公園、当時とまったく変わっていない遊具達。すべり台に鉄棒、砂場にジャングルジム、そしてこの公園の名物(?)である100Mすべり台。どれもこれもが懐かしく感じた。
「懐かしいな・・・・・・」
思わずつぶやいてしまう、すると後ろから声がかけられた。
「思い出、ですか?」
「えっ?」
思わず振り返る錬、振り返るとそこにはベンチに腰かけた見た目自分よりチョイ年上くらいの女性が座っていた。蒼い髪が深めにかぶった白い帽子から見えるところを見るとどうやら外人らしい、
「思い出はいいですよね」
「えっと・・・・・・」
「私にも思い出があるんですよ」
「は、はぁ・・・・・・」
シャキッとしろ、錬!!とツッコミたいところだが、なにせ錬は女性とあまり話す機会が無い。クラスでも何故か友達は男友達ばかりで、女友達は皆無と言ってもいい。そのためか錬は女性に対する接し方をこの片あまり学んではいなかった、親友の瑠都は女友達いっぱいいるのに・・・・・・。
「あなたはお友達はいるの?」
「えぇ、まぁ。瑠都っていうやつが一番の友達ですね」
「そう、瑠都っていうの」
「ええ、あいつどこか抜けてるっていうか、頭のネジが一本抜けてるみたいなやつなんですよ。自分のことはテキトーなくせして、他人の事になるとスゲー真剣になって・・・・・・、ってアレ?」
一瞬の出来事だった。さっきまで錬の前で話をしていた女性は、錬が少し目をそらした瞬間どこかへ消え去ってしまったのだ。
「もう帰ったのかな?」
あたりを見回してみる、時刻はすでに5時を回っていた。今日は雲ひとつない快晴で、風もあり心地よい一日だった。夕陽が公園の遊具を暁に染めている。
「あ、やっべ瑠都ん家いかないと」
錬は急いで自転車をこぎ瑠都の家へと向かった。
一方瑠都は、ある問題・・・・・・を抱えていた。むろんこれは思春期によくある悩みや、問題などではない。というかヴォルとスピアにとってもある意味問題であった。
「どうするか・・・・・・」
本気で頭が痛くなってきた瑠都。
「どうしましょう」
真剣に悩むヴォル。
「・・・・・・ごはん」
本気でお腹が空いたスピア。
それぞれに本気で悩みを、問題を抱えていた。
「とりあえず、これはまずいだろ」
「はい、とてもまずいです」
「どのくらいまずい?」
「瑠都様がいきなり女装趣味に目覚めるくらいまずいです」
「そうか、それはすごくまずいな」
「はい、言うならば瑠都様がいきなり料理が下手になるくらいです」
「なるほど・・・・・・、どうすればいい?」
「と、言いますと?」
「これをどうすればいい?」
「そうですね・・・・・・」
「うん」
「う?ん・・・・・」
「はやく」
「まってくださいね」
「いそげ」
「まってまって、いまでるから」
「はやく」
「もうすこし・・・・・・」
「・・・・・・でた!!」
「おおお!!!!!で、で。どうすればいい?」
ヴォルは一瞬間を開ける。じらすのが何気に得意だぞ、ヴォル。
「ここに住まわ・・・・・ブホッ!!!!」
突如ヴォルの顔に茶碗が飛んできた。飛距離にして2mほど、威力にして象の2倍、損害にして茶碗一個分。大災害だ、
「冗談もたいがいにしろよ、なぁヴォル」
「ちょ、冗談ですよ冗談」
「冗談に聞こえるかよ!!!だってこれ・・・・・・」
瑠都はさっきから悩みの種となっているアレを指差した。
「完全に人間じゃないだろッ!!!!!!!!!!!!!!!」
そうである。瑠都達がさっきから悩んでいたのはこれである。
話はさかのぼること30分前。
瑠都は夕食に正体した錬をもてなすため夕食を作っていた。別に豪華な料理ではないが、全部錬の好きな料理を用意したのである。こうみえても錬は好き嫌いが激しく、瑠都はそんな錬の好みをほぼ完璧に理解していた。いつだか中学の友達に錬と瑠都が夫婦みたいだと言われたが、そうならば絶対に瑠都が奥さんである。余談だからスルー必須。
「さてと、あとは」
瑠都は玄関に向かう、ちょうど錬の練習用にと探しておいたテニスボールが見つかったため物置にとりにいくところだった。
ガチャッ
瑠都は玄関のドアを開ける。そして何気なく横を向く、するとそこには「少女」が横たわっていた。
「えっ?」
おもわず固まる瑠都。無理もない、このパターン、いつだか経験した覚えがあるような気がする。状況は違うけど、あの時と同じ感じがする。
「どうかしましたか瑠都様」
ヴォルが玄関から現れる、そして瑠都と同じく横を向き固まった。
「ヴォル、これってさ人間か?」
「いえ、少なくとも人間ではないでしょう」
「そうだよな、だって」
ゴクリとつばをのみ心を整理、
「羽、生えてるし」
そうである、というか羽にしか見えない。
玄関の横に横たわっていた少女は蒼い髪と透き通るような白い肌を持ち、そして背中からは2対の翼が生えていた。服装はスピアと同じようなゴスロリ風の服装、どこからどうみてもスピアと同類、つまりオリアスにしか思えなかった。
「と、とりあえず家の中に運ぶか」
「そうですね」
「よっと」
瑠都は生き物に触れないヴォルに変わり少女を抱える、
「・・・・・・手伝う?」
「ん、スピアか。別にいいよ、結構軽いし」
いつの間にか外に出ていたスピアが瑠都を手伝おうとする。だが、意外と少女は軽い。これならば一人でも十分だった。
とりあえず少女をソファに寝かせた瑠都。錬が来るまで予測して約10分程度、つまりその10分間でこの少女をどうにかしなければいけなかったのだ。
そこでさきほどの会話が生まれた。
「やばいぞ、まじで。錬が来たらどう説明するんだよ!!」
実は今日は錬に瑠都の本当の事をはなすつもりでいた。もちろん錬はスピアとヴォルの事は全く知らない、まずはそこから説明を、と思っていたのだが。
「完全に計画が狂ったぁ!!」
頭を抱え悩む瑠都。錬へこの事を話すにしてもまずは瑠都の身体の事、いやまずはオリアスのことから話さねばと思っていた。そのために瑠都は3日も前からこの夕食の会話のシュミレーションをしていた、ヴォルと繰り広げたありとあらゆるシュミレーション。もし錬が自体を上手く飲み込めず冗談だととらえた場合、もし錬が全てを信じ込み倒れてしまった場合。そのすべてが水の泡と消え去った。
「なんでこう次から次へと厄介事がやってくるんだよ」
「そういう体質なんだろ」
「どういう体質だよ錬。え、錬・・・・・・?」
瑠都は後ろを向く、するとそこにはほかでもない親友である風戸錬ご本人が立っていた。
「ん、なんだ?」
「えっと、いつお着きに?」
「いまさっき」
「もしかしてさっきの聞いてた?」
「瑠都がそこの人にお皿投げたあたりから」
「そ、それからずっと・・・・・?」
「うん、ずっと」
「GAME OVER」完全に手詰まりである。
「それより、その子いったい誰なんだ?」
完全に終わった、ベルリンの壁崩壊。ヤケになった瑠都は全てを錬にぶちまけようとした。
「あのな錬、実は・・・・・・」
「アッ、この子!!!さっき公園に居た人にそっくりだ!!」
錬が叫ぶ、
「え?」
瑠都は自体がつかめずにしばらく瞬きすら忘れていた。
「そうだったんだ・・・・・・」
「うん、おれは公園で見ただけだけどね」
「あれは十中八九オリアスです」
「だよなぁ」
一旦話を整理するためにテーブルにつき食事を始めた4人、ものすごい勢いで料理を平らげていくスピアを除き、3人は食事をするような気分ではなかった。
話はまず瑠都の身体の事、そしてスピアたちオリアスの話から始まった。以外にも錬はすぐに自体を飲み込み理解した、瑠都の寿命のこと、オリアスのこと。次に錬はさきほどの公園での出来事を瑠都にはなした、これでお互い全ての話を理解したというわけだ。
「その刻印とかだけどさ、消す方法はないの?たとえばスピアさんが瑠都の元から離れるとか」
「無理ですね、レヴァムとオリアスは"刻印"によって強制的につながっています。たとえ瑠都様がどこかに逃げようとも、われわれは吸い寄せられるように瑠都様のもとへ行くでしょう、その逆も同じです」
「そっか」
すこし顔を暗くさせ錬はうつむいた。そんな錬を瑠都は見ていられなかった。
「べ、べつに俺は困ってないからさ。それよりいまはこの子をなんとかしないと」
瑠都は話題を2対の翼をもつオリアスの少女の話へと変更させた。
「そうですね、みたところこの方はレヴァムをもっていらっしゃらないようですし」
おっと爆弾発言。瑠都は聞き逃したりはしませんよ。
「ちょ、ちょっと待てよ!!じゃあもしかして錬がこの子のレヴァムになるってのか!?」
「え」
「いえ、それはありません」
ヴォルは落ち着いた声で答える。
「錬様は"キャンセラー"ですから、レヴァムになることはまずあり得ません」
「キャンセラー?」
「キャンセラーとはオリアスの刻印を受け付けない特別な体質を持つ者の事です。キャンセラーは独特の"感じ"を発していますからね、私のような霊にはすぐにわかるんですよ」
「な、なるほど・・・・・」
なんか複雑だなオリアスって、いやオリアスだけじゃないか。まぁ、なんにしても錬に刻印が刻まれなかったから、良しとするか。
「じゃあ、もしこの子にこのままレヴァムが出来なかったら一体どうなるんだ?」
「おそらく"死ぬ"でしょうね」
「そんな・・・・・・」
そうである。オリアスはレヴァムがあることによって自らの冥力を極力消費せずに生きながらえている、つまりもしこのままレヴァムがいなければ、必然的に彼女の死は免れないのである。
「それともうひとつ厄介なことがあります」
ヴォルはさっきとは違い、深刻な顔をする。
「な、なんだよ厄介なことって」
瑠都もそんなヴォルにつられ、少々声色が変わる。
「このオリアスに2対の翼がありますよね、これはオリアスの中でも特に冥力の高いものしかない特徴なんです。それで翼の生えているオリアスは他のオリアスに狙われるんですよ。オリアス同士ある儀式を行えば冥力を共有できますからね、もしかしたらもう彼女他のオリアスに狙われているかもしれませんね」
「・・・・・・そうだったのか」
やっぱり複雑すぎるよ、オリアスっていったい何なんだ?
瑠都は頭の中がごちゃごちゃしてしまい頭痛が走る。
そんな中、錬が口を開く。
「なあ瑠都、この子これからどうするつもりなんだ?」
「どうするって、このまま放っておくわけにもいかないだろ」
「じゃあここに住まわせるのか?」
「それは・・・・・・」
瑠都は言葉が詰まる。
「このままだとお前、絶対面倒なことになるぞ」
いや、もう刻印刻まれた時点でメッチャ面倒なことになってるんですけど。
「でもこのままここに住んでもらった方が何かと便利ですよ」
「どういう意味だ、ヴォル?」
瑠都と錬がヴォルの方を向く。
「ここに居れば私がこの家の周りに結界を張って、他のオリアスの探知を妨害することはできますし。スピア様はあれで昔は「鬼神」とまで呼ばれたほどのオリアス、いざとなればスピア様がやってくれますよ」
あのおとなしいスピアが鬼神・・・・・・。人は、いやオリアスは見かけによらないな。
「でもそんなことあいつに出来るのか?」
「・・・・・・できる」
「うわ、スピア!!」
さっきまで夕食を食べていたと思っていたスピア、だがいつの間にか瑠都の隣に座り話を聞いていたようだ。
「本当にできるのか?出来れば俺は、お前にはそんなことして欲しくないんだが」
「・・・・・・大丈夫、できる」
スピアの意志は固いようだ。瑠都は「ふぅ」とため息をつきヴォルに向き直った。
「まぁ、お前たちがそういうなら、な」
「ありがとうございます、瑠都様」
「錬、そういうわけだわるいな」
「はいはい。全くお前はお人好しなんだから」
錬は呆れた顔をする、そんな錬を瑠都は苦笑しながら見ていた。
一方その頃。
イギリスのとある村を一人の男が訪れた。深くフードをかぶり顔はわからないこの男は傍目からは旅人にしか見えない格好をしていた、ボロボロになったフード付きマントに薄汚れた手提げ袋。
その村に男は5日ほど滞在した。そして男が村を去った日の次、忽然と村は跡形もなく姿を消した。
まるで初めからそこには存在しなかったかのように____________________
君と僕を繋ぐ刻印 第2話「翼の少女」
刻印、第2話やっと完成しました。
テストがあったので若干完成が遅れましたが、なんとヵ完成しました。
第3話ではちょっと展開をバトルにしたいと思います。