アトランティス一人旅

 連休を利用して、アトランティスに行くことにした。
 ネットでアトランティス国際ホテル3泊4日の予約を入れたのだ。朝食夕食往復運賃込みで19万9千8百円である。
 最近のアトランティスは、オリハルコン鉱の輸出で巨万の富を得て、豪華絢爛なリゾート施設も建設されているらしい。また、世界遺産のポセイドン神殿には、毎年多くの観光客が訪れているとのこと。
 いやあ楽しみだ、とりあえずプールサイドでハーブティーを嗜みたいな、そんな期待を胸においらは旅立ったわけだ。
 日本からアトランティスのメトロポリス国際空港までは、乗り継ぎを含めて20時間もかかる。直行便が出ていないので、ロンドン経由になるのだ。だから3泊4日といっても、滞在は実質2日間くらいしかない。時差はちょうど12時間なので、朝8時の飛行機で出発したおいらは、夕方のメトロポリスに降り立った。
 いやあ、すごいね、イルミネーションが。
 メトロポリスは、歴史的建造物の多い旧市街に隣接して、近代的な新市街が建設されている。
 新市街は旧市街に似せて環状に造られているので、上空から見ると2つの円が並んでいるように見えるのだ。
 チェックインまで少し時間があったので、最近できたショッピングセンターに行ってみた。
 世界各国のブランドショップが立ち並ぶ中、金銀プラチナ、そしてオリハルコン製のアクセサリを売っている店が目に付く。それと、オリハルコンは精密機械への利用も進んでいるので、高級時計店なんかも多いみたいだ。日本製のデジカメや携帯電話なんかにも、使われている。
 まあ、おいらには関係ない世界さ、ホテル代だけで精一杯……。そんなわけで、さっさとホテルに向かうことにした。
 チェックインプリーズ。
 公用語はアトランティス語だけど、ホテルでは英語も普通に通じる。おいらは部屋に荷物を置くと、食事の前に一風呂浴びようと、温泉に向かった。
 アトランティスには、ポセイドンが湧かせたと言われる温泉が至る所にあり、大抵のホテルには大小様々な温泉が完備されている。さっそくおいらは、ホテルの売りである屋上の巨大露天風呂に向かった。
 ぷはー、極楽極楽。
 でも、アトランティス美女と混浴だ、と息巻いていたのに、水着着用の上、おばさんしかいなかった。まあそれでもいいさ、でかい露天風呂だし眺めも最高だ。
 目下には夕暮れの中、摩天楼と石造りの神殿が新旧のコントラストを作り出していて、明日からの観光への期待がいっそう高まった。
 いやー、いい湯だったー。
 そろそろおなかも空いてきたということで、食事をするためレストランへと向かった。アトランティス料理は、豊かな自然から生み出された肉・魚・野菜・香草・香辛料などをふんだんに使用し、ゴージャスかつエレガントな雰囲気を持った、質の高いものだ。変わったところでは、日本と同じようにウナギを食べることでも知られている。今日のディナーでも、子羊の香草焼きの後に、ウナギが出てきた。調理方法は、日本の白焼きに似た感じだ。いやあ、うまいねぇ、ワインもうまいし、デザートのマンドラゴラをふんだんに使ったケーキは、まさに絶品だったよ。満腹になったおいらは、腹ごなしに夜の繁華街に繰り出した。
 アトランティスの治安は比較的よく、繁華街は夜中まで賑わっている。最近は観光に力を入れているので、客引きなどはなく、至る所に観光客用の案内所が設置されている。でも、おいらはそれを利用することもなく、ぶらぶらと街を歩き回った。そして、満を持してネオンサインの煌くカジノに足を踏み入れたのだ。
 まあ、予定通りというわけだ。
 ふふ、ふふふ、半笑いで、お金をコインに替える。ちなみに、アトランティスの通貨は、ポセイドンだ。おいらは、2000ポセイドンほど両替した。1ポセイドンは、30円くらいである。
 はやる心を抑え、コインをスロットマシーンに入れ、レバーを引いた。
 まったく揃わない、まあ、最初から揃うわきゃあないよ、まったく、せっかちなんだから、と思いながら、次から次へとコインを投入していった。
 そして、ものの20分で3000ポセイドンほどに増やしたのだ、はは、ははは、これだよこれ、これなんだよ、ギャンブルってやつは。調子に乗ったおいらは、ブラックジャックに挑戦することにした。
 ああ、スタンド、スタンド、ヒット、スタンド、ヒット、ヒット、スタンド、バスト、スタンド。
 そんな感じで、ディーラーと五分に渡り合っていた。
 1時間ほど経過し、ここだ! と思ったおいらは、全額を賭け勝負に出た。
 次はブラックジャック、そんな気がしたからだ。
 配られたカードは、ディーラーがキング、おいらはジャックと5であった。
 余談だが、アトランティスのトランプは、10の王家の紋章毎にカードがあり、ジョーカーが海神ポセイドンになっている。だから、枚数が半端じゃないのだ。
 おいらは、ヒットを宣言した。
 その3分後、おいらはカジノを後にした。
 次のカードは何だったか、そんな事はどうだっていいじゃないか。ただ1つ言えることは、おいらはちょっぴり涙目だったって事だ。
 そんな感じで、1日目の夜は過ぎて行った。

 翌朝、おいらは気を取り直し、ビュッフェで朝食をとった後、旧市街へと向かった。
 2日目は、遺跡巡りと決めていたからだ。旧市街は環境保護のため、電気自動車以外は禁止されている。地下鉄で近くまで行って、後は電気バスになる。色々乗り継いで、どうにかこうにか、旧市街の入り口に辿り着いた。
 入り口には、石造りの巨大な門があり、何やら荘厳な彫刻が施されている。
 まあ、とりあえず王宮だろ、ということで、中央島の王宮に向かうことにした。
 中央島に行くには、船に乗って水路を進まなければならない。遺跡保護の観点から、橋などは架けられていないのだ。
 おいらが船着場に着くと、ちょうど巡航船が帰ってきたところだった。巡航船も、排ガスを出さないクリーン仕様となっている。
 まだ時間的に早いのか、乗客はおいらのほかは2~3人といったところだ。
 おいらが乗り込んでしばらくすると、船は静かに出航した。
 いやあ、のどかなもんだねぇ。
 両岸の遺跡群を眺めながら、おいらはぼんやりと思っていた。
 天気もいいし、いかに戦闘国家の古代アトランティス人でも、こんな日は昼寝でもしていただろう、そんな気がした。
 ポカポカ陽気にうとうとしていたら、王宮に着いていた。
 船長に、ウェイクアッププリーズ、と言われたのだ。おいらは「オーサンキュー」と言って、栗毛のマッチョな船長に別れを告げた。
 王宮は小高い丘の上に、厳然と聳え立っている。
 王宮の中央にはポセイドンの神殿があり、そのさらに中央には黄金のポセイドン像とクレイト像の二体があるのだ。クレイトはポセイドンの奥さんである。
 いやあ、すごいよ、神殿内部は。金銀オリハルコンできらびやかに装飾されて、もうこりゃあ、とても1万年以上前に建てられたとは思えない。と言っても、実際には最近修復されたんだけどね。
 一通り神殿を見て回ったところで、再び船着場に戻ってきた。そして巡航船に乗り、内側の環状島、外側の環状島と神殿やら運動場やらを見て回った。このへんは結構倒壊などもしていたけど、当時の面影を偲ばせるには十分な感じだ。
 島を一周する戦車競技場をひた走ったら、かなりの勢いでお腹が減ってきた。
 んじゃあまあ、飯にするかな、ということで、環状島から外側の陸地に戻ることにした。内側には店が無いからだ。
 陸地に着いたおいらは、一目散に近くのレストランに飛び込んだ。もう、他の店を探している余裕が無いほど、腹ペコだったもので。
 おいらは席に着くなり、メニューの一番上のものを注文した。なぜなら、アトランティス語が読めないからだ。一番上が一番お勧めに違いないという読みもあった。
 しばらくすると、おいらの席に海鮮サラダが運ばれてきた。
 うーん、そういうことか、これじゃあ、おなかが一杯にならないなぁ、と思ったおいらは、2ページ目の一番上のを追加した。大体この辺だろ、という単なる勘だ。
 すると、しばらくして、肉と野菜を煮込んだ料理が出てきた。
 だろ、この辺だろ、うまいねぇ、何の肉かはわからないけど、という事でおいらは満腹になり、まったりとしたひと時を過ごした。
 午後はどこに行こう、と思案していると、近くにアトランティス歴史博物館が見えているのがわかった。
 じゃあ、あそこにするか、手っ取り早く、ということで、おいらはお勘定を済ませ、博物館に向かった。
 博物館は非常に近代的な佇まいでありながら、不思議と周りの景色にうまく溶け込んでいるように感じられた。
 入場料の50ポセイドンを払い、中に入ると、数々の財宝が目に飛び込んできた。
 豪華なオリハルコンの王冠と、金と象牙で飾られた巨大な剣が一番目立つところに置かれている。
 その他にも、1万年近く昔の遺跡から出てきたものから、古代、中世、近代、現代と、数多くの展示品が所狭しと並べられている。
 いやあ、これじゃあ、一日かけても見切れないんじゃああるまいか、そんな気がした。そして、どうにかこうにか廻り終えた。
 もう、なんか、途中のところはよく覚えていないけれども、古代から近代に至るまで、兵器類が目立っているような感じがした。
 アトランティスは、大戦中も強力な軍事力を持ちながら中立を決め込み、本土の防衛に専念していたわけだけど、なるほど、これなら他国も手出しができないよなあ、と思った。
 あとは王室関係だろうか、王室は今は旧市街の王宮ではなく、北部の元別邸が本宅になっている。資産の方はかなりのもので、多くの財宝類が展示されていた。
 政治の方は議会が行っており、国王は主に祭事などをしているだけだけど、国民の支持はかなりのものなようだ。この間、皇太子の結婚が世界的な話題になったのが記憶に新しい。
 結局、閉館時間の6時ぎりぎりまでかかってしまったので、急いでホテルに戻った。
 おいらはもうへろへろで、夕食を食べ、温泉に入って部屋に戻ると、いつの間にか寝てしまっていた。

 翌朝、モーニングコールで目を覚ましたら、服も着替えてないし、ベッドの掛け布団の上に横たわっていた。
 ふう、もう今日一杯でおしまいか。
 そんな切ない気持ちで朝食をとり、当初の目的を果たすべく、プールへと向かった。
 プールサイドで、ハーブティーを飲むためだ。
 ハーブも、アトランティスの特産品である。
 そして、ついに実現したのだ。
 ああ、これだ、プールサイドでハーブティー。
 まだ午前中なので、プールは人もまばらで、いい感じのまったり感を醸し出していた。
 ハーブティーを飲み干すと、少しうつらうつらしてしまった。

 はあ!
 気がついたときには、お昼前になっていた。
 当初の目的通りとはいえ、もう時間を無駄にはできない。おいらは最後の目的地であるテーマパーク、『シーパークオブポセイドン』へと向かった。
 ここは、水をふんだんに取り入れたアトラクションが売り物で、絶叫マシンなども取り揃えられている。やはり勇敢なお国柄ということだろうか。
 おいらは怖いのは苦手だが、せっかくだしと思い、メインアトラクションである絶叫コースター『ゼウスの怒り』に乗り込んだ。
 数分後、おいらは20分ほどの休憩を余儀なくされたのだった。好きな人は好きだと思われる、これは個人の反応ですので。でも昼飯を食べる前でよかった、もし食べた後だったら大変なことになるところだった。
 どうにか体調を整えたおいらは、昼食を白身魚のフライをはさんだホットドッグのような食べ物で済まし、外洋クルーズに向かった。これは、船で外洋に出て、海上からアトランティスの旧市街、新市街を一望できるものだ。海上に出ると、イルカの群れが出迎えてくれた。波は結構高かったけど、船酔いもなく、海風が心地よかった。眺めもよかったし、なかなか楽しめた。
 他にもいくつかのアトラクションを楽しんだ。絶叫系は避け、まったり系を中心に回ったけど、それでも全部回りきるのはあと2日くらい必要そうだった。
 そんなわけで、おいらは2日連続でへろへろになり、再びホテルで夕食を食べ、温泉に入り、寝た。
 ちなみに夕食は毎日異なり、それぞれ香草をふんだんに使った山海の珍味のフルコースであった。細かい材料などはよくわからないが、うまかったことは確かだ。

 次の日の朝、目を覚ましたおいらは、帰り支度を何もしていなかったことに気がついた。
 ああ、やばい、午前9時の飛行機で帰らなければならないのだ。焦ったおいらは急いで支度をし、チェックアウトを済ませ、空港に向かった。
 そして、どうにか搭乗時間に間に合い、日本へと帰ってきたのだ。
 そんなわけで、お土産を買うことができなかったので、成田の免税店で、アトランティス印のマカダミアンナッツを購入した。
 パッケージに火山が印刷されているものだ。
 そんな感じで、6時過ぎに自宅に辿り着き、アトランティス旅行は終わった。
 いやあ、やっぱり家が一番だね。

アトランティス一人旅

アトランティス一人旅

連休にアトランティスに旅行したときの記録です。

  • 随筆・エッセイ
  • 短編
  • ファンタジー
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-03-14

CC BY-NC
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CC BY-NC