天然水と炭酸水

天然水と炭酸水

最後までお付き合いどうぞよろしくお願い致します!

プロローグ

桜の舞うこの季節。外を見ると親子で入学式に出ている人や、お花見を楽しんでいる人たちの姿がよく見える。
っと、そんな余裕はなかった。早く学校に行かなきゃ遅刻しちゃう!
その場にあった牛乳を手に取り、焼かれたパンを口へと運ぶ。その動作を素早く繰り返し、最後のパンを一口、飲み込む。
パタパタと音を響かせながら向かったのは玄関先。急いでスリッパを脱ぎ、用意してあった鞄を無雑作に掴む。
「それじゃ、行ってきま~す!」
「ちょっと沙耶、そんなに焦ってると転ぶわよ!」
「大丈夫だって。あとは何とか突っ走るだけだし」
「それが危ないって言ってるんじゃないの、もう」
お母さんとの最終の会話を終え、スタート地点に着く。
今日は入学式。私は今日から高校生で無事に入学式を終わらせなければならない。
これは、私にとって家に帰るまでの重要な任務一つのである。
今まで天然ボケとして扱われてきた私だからこそわかる、この感情。
もう今日からは天然だなんて、誰にも言わせない!
遅刻寸前の猛ダッシュで鍛え上げられたこの体。決して運動神経がいいとは言えないが、走れる自信だけはある。
遅刻魔の力を甘く見ると痛い目みるんだからね!
ふいにスタートを切る。
ふわっと風を追い抜くこの瞬間がたまらなく気持ちいい。まだ慣れない新しい制服を着て走り抜く感覚は少しぎこちないけど、これから慣れていくものかと思うとワクワクがとまらない。どんな生徒達が私を待っててくれるんだろう?
胸のドキドキを押さえつつ、学校へと走っていった…。




…………………………どうして、どうして私は見慣れた中学校の前にいるんだろうか。
つい、いつものクセで中学校に突っ走って来た?そんなバカな話があるわけない、と信じたい。信じたいのだが、目の前にある年季を感じる建造物が私に現実を見ろと訴えて来る。もう、嫌だ。どうしてこんなにバカなんだろう。物事考えないんだろう。はは、自分の要領の悪さになんか泣けて来ちゃった。
仕方なく、もう一度だけ走る覚悟を決める。ここで青ざめてたって何もはじまらないのはわかってる。なら、行動に移すのみだこんにゃろー!!フラフラな体をどうにか持たせつつ、駅の改札駅まで猛ダッシュで突っ走った。






で。


あのあと散々まわりに笑われたあげく担任に怒られて、それでも無事に入学式を終わらせられたわけですが。
「ここ、どこなのおおおおおおおぉぉぉ!!!!!!!!!!!」
そう。帰りに学校内を捜索してみたにもかかわらず、戻り方が分からない。
つまり、ただいま絶賛迷子中なわけです………。
まわりに見えるのは窓と痛んで軋んでいる床と、目の前にある『音楽室』の看板だけ。
すぐに幽霊でも出てきそうな空間だ。
「あの、誰かいませんかぁっ?」
今にも途切れそうなか細い声が廊下に反響する。
しかし誰かがいそうな雰囲気でもなく、自然と気分が重くなって行く。
そして残された手段は、視線の先にとまる音楽室のドア扉を開けてみること。
いや、本当ならいないと思う方が普通だろう。だが人間はピンチになってテンパってしまうと過度な妄想をしてしまうことが度々ある。そんなこんなで本日3度目の覚悟を決める。
じわり、と汗がにじむ。手のひらが扉の金属部分に触れた、その瞬間。ガチャリと音がして、音楽室の扉がひらく。当然何が起こったのか分からない私は、その場にぺたんと座り込んでしまう。え?なに、なんなのよぉ……。
向こうからは、ギシギシと床が軋む音が聞こえる。ま、まさかこれって!!
「お、おば、おばばばば、おばけええぇぇっっっっ!!!!!!!!」
足音が徐々に近づいてくるのがわかる。もうだめだ。私、殺される!!せっかく頑張って受かった高校だったのにぃっ!!!
目の前にいるのはオバケだと信じ切って目を強く瞑る。
「へっ?!」
しかし、帰って来たのは私の想像していたものとはまったく反対の声。
あれ?私、死ぬんじゃないの?恐る恐る顔を上に向ける。
「橋本さん、だっけ?なに、やってるの?」
唖然としている私の目の前にあるのは、白衣の裾。
ふわっと風に舞った短い黒髪は、どこか怪しげな雰囲気を醸し出している。
この人、どこかでみたような。しっかりと顔を見つめてみる。
「あ」
「だ、大丈夫?」
この人、私のクラスの担任だ……。
理解に時間がかかったのは、朝の大遅刻で顔をあまりみなかったせいだろう。
本当に今日は散々な日だ、と思う。

天然水と炭酸水

天然水と炭酸水

とある高校の入学式。私は遅刻寸前の猛ダッシュをしていた。 高校に向かったはずが、目の前に広がっていた光景は、見慣れたはずの中学校だった………。 そんなドジッ娘が繰り広げる青春ハートフルラブコメディ……です、たぶん。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 青年向け
更新日
登録日
2013-03-14

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