奇跡
周りは乾いた焦げた匂いで充満し
ている。
夢中で何かを掘っている
しかも素手で……手の皮はめくれ
爪は剥がれかけている
もともと綺麗な手ではないが、泥と溢
れる血のせいで、どす黒い色に変わ
っている
それでもなお…狂ったように掘り続け
る。
腕も、踏ん張る足も腰も砕けそうにな
る。
焦燥感から滴る汗もそのままに
Chapter1~薄昏
「主文
被告人 橘 祐助を懲役2年6月に処す」
罪状及び罰状……」
裁判官の無機質な声だけが法廷内で響いていた。
予想はしていた。
逮捕されてから、自由を奪う施設の名前が
留置場から拘置所と変わり、それがまた「刑務所」
に変わるだけ、それ以上でもそれ以下でもない。
*通常逮捕されると警察署で取り調べを受け、
検察に起訴される迄の間を警察署内の留置場で
過ごす。
その後、起訴されると判決が有罪で確定する迄の
間は拘置所という施設に収容される。
判決が有罪で確定すると、刑務所に移送されるこ
とになる。
そういえば……
祐助がいるのは雑居房だ。
20畳ほどの広さに12人の被告人が過ごす
拘置所でも判決が近づくと、にわか弁護士が溢れ
他人の判決の予想をあーでもないこーでもないと
賑やかなことこの上ない。
拘置所に帰れば、予想が当たった奴らはしたり顔
でこういうだろう。
「トンマのケースでは、この位の量刑が妥当やと思
ってたんや」
心の中では、
「お前は裁判官か?」
と突っ込むけど、他に何もすることの無い
自由を奪う施設の中では、些細なことが娯楽代わり
になる。
何日かすれば「下獄」やろう。
しばらく娑婆の生活とはさよならや
chapter2~慕情~
~~~2004年 夏~~~
保護司と呼ばれる人と何度か面会して、仮釈放される事が決まった。
仮釈放を羨む他の受刑者から喧嘩などを吹っかけられると喧嘩両成
敗となり、外に出るチャンスが無くなるからか仮釈放前2週間は別の
処遇を受け部屋も移動し、同じ仮釈放前のメンツと同じ釜の飯を喰う。
出られる事が決まったものばかりが集まる部屋では一種独特の空気
が漂う。
「あ~早く娑婆に出たい~~~~~」
声に出して言ってみる。
こんな普通の事ではあるが、以前は口に出しては言えない不文律があ
った。
長期刑の人間からすれば、目ざわりな言動で、こんな些細な事でも喧嘩
になる可能性があるからだ。
不思議な事に、普段意識しないようにしていた娑婆への憧れは仮釈放の
日が近くなればなるほど募っていく。
他にすることも無いので、TVに目を移す
丁度北京オリンピックが始まった所だが、観ているようでも一向に内容は
入ってこない。
なんとなく競技が進み、日本人が活躍するとTVが騒がしくなる。
まだ髪が伸び切らず、
奇跡