巡りゆく時節

狭められた時間の中で
わたしはいつものマントラを唱えた
「どうか心が健やかでありますように」
行き着くところはどこだろう
方向感覚を見失ったままで
僕は手を伸ばして
掌(てのひら)を開いて
救いの輝きが降り注ぐことを期待する
肌寒さが身に沁(し)みて
声で寒いと言ってみると
心に氷の弾丸が突き刺さる
冷え冷えとしたその氷が体の芯まで冷やし
脳をツンと叩き
心臓の収縮を早めると
呼吸が忙しそうに繰り返した
愛することを止めようとすると
誰かが語りだした
それは耳の奥から聞こえだしたのだった
「ねえ、もっと愛して。諦めてはだめ、愛し続けるのよ」
わたしは辛かった
これ以上愛するなんて心が破裂しそうだ
ねえ、電車が通るこの駅に立って
わたしは誰に救いを求めればよいのだろう
至高者がいない
愛する人がいない
わたしには目をつぶって語りかける人がいないのだ
ねえ、と話しかける人が傍にいなかった
でも、もう一度、過去の愛する人の名前を叫ぼうか
君が遠くにいることはわかっている
気づきもしないだろうことも
でも僕には君しかいないのだ
君の名しか知らないのだ
救いを求めよう
過去に愛した君へ

巡りゆく時節

巡りゆく時節

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-03-10

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