リアルバタ○さん
第一話
~愛と勇気だけが友達だった…あの頃のわたし~
※第二話の予定はありません。
くる日もくる日も会社と自宅との往復の毎日…。
代わり映えのしない色褪せた日常。
昨日は、部長に、「お茶があつい!」と罵倒され、今朝は「お茶がぬるい!」と罵倒された。
お茶汲みなのに、終電は当たり前。しかもタイムカードは15時には勝手に切られる始末。
社会保険なんて、そもそも概念すらない。
というより、保険料ならぬ“保育料”が社員全員から月々3万ほど引かれている。
部長の怒鳴り声が私に浴びせられる。
「だから、お茶が、ぬるいって言ってんだろバカヤロー!」
なぜ…。
今朝よりだいぶ熱く入れたのに。
新人の田中君はこれで舌をヤケドしたのに。
昼休みに気をきかせて、部長の健康スリッパをふところで温めたのがいけなかったのかしら。きっとそうだわ。それで部長の体感温度が上がって相対的にお茶がぬるく…
「もういい!お前は廊下でスクワットでもしてろ!」
泣きながらスクワットをする私。
「この会社、漆黒だわ…」
家に帰ると、2LDK、家賃7万5千円の狭い我が家がやけに広く感じる。
最近化粧のノリがすこぶる悪い。
なんだかひとりになると無性に切なくなる。
こんなときはチャゲアス。
田舎から出てきたのが15年前。
トレンディドラマのような素敵なOL生活なんてもはや夢の片隅。
大都会の真ん中でひとりセイエス。
同期は皆、結婚して辞めていった。
私だってチャンスがなかったわけじゃない。
昔はディスコに繰り出しては男を漁った。
三高とはよくいったものね。
くだらない男どもにちやほやされてたあの頃が懐かしい…
課長と不倫していた二年間は辛かった。
みんなは不毛の恋だといったけれど、彼は優しかった。
結局、まわりの意見に流されて、別れを切り出した私。
今なら本当に大事なものがなにか分かる気がする。
私、彼を愛してた…
そんなやさぐれた毎日を送っていたある日のこと。
ふらりとランチに立ち寄った赤羽一番商店街。
やけにファンシーな求人案内に目が止まった。
『生首に抵抗のない若い女性。自然に囲まれた小高い丘の上で、みんなの夢を守るために働きませんか。
注※二本足で歩く犬の世話もあり。
ジャムおじ』
衝撃だった。
自然に囲まれた小高い丘の上で晒し首…。
なんてブラックジョーク。
みんなの夢を守るとかいう、超アバウトな目標。
そして、自らをおじと呼ぶダンディぶり。
人生をやり直せる気がした。
今日のランチは、「ン、アーッ!」でお馴染みの、大好きなイケメンシェフの“気まぐれボルチーノ茸のシシリー風パスタ風、一番街アレンジチャーハン(大盛り)”だったが、もはやどうでもよかった。
着の身着のまま、街を飛び出すと、高原行きの特急列車に飛び乗った。
目の前に広がる美しい自然。
私は走った。
「ジャムさん!ここで、働かせてください!」
履歴書も持たず、化粧は浮きに浮いていたが、私は必死だった。
注※目の前のナイスミドルは思った。
(コイツ、なんて形相してやがるんだ…
断ったら刺されそうじゃないか…
確か、若い女性を募集したはずだが…
まぁ…ぱっと見、性別は怪しいが、たぶん女性のようだしまぁいいか。)
ナイスミドルは、襟をただしながら、にこやかに言った。
「はい。」
私は、涙が止まらなかった。
都会の喧騒を離れてやり直せる。
そう確信した。
ナイスミドルは続けてこういった。
「ただし、ジャムさんは止めてください。“ジャムおじさん”と呼ぶように。誰もキャンドル・ジュンさんのことを“キャンドルさん”とは呼ばないでしょう。」
涙がとめどなく溢れ出た。
「私、バ○子でいいんだわ…」
名字なんていらない。
そうして私は、ジャムおじさんと暮らしはじめた。
関係はまるで無関係だけれど。
※アン○ンマンの公式ホームページによると、1つ屋根の下に暮らす男女の関係は、無関係だそうです。
リアルバタ○さん