これから社会人になるひとへの【10箇条】

弟が社会人になるときに、手紙を書いた。

僕が社会人になりたてのころに感じた学生時代とのギャップ、失敗、反省。それからほんの少しの成功。

こういった経験を伝えて、少しでも弟が社会に早く溶け込むようにしてやりたかったから。

学生時代、僕は漠然とした希望を抱き、すんなりとサラリーマンになれるものだと思っていた。

でもね、意外と難しいんだよ。社会人になることは。

僕だって未だ立派な社会人になんてなれていない。

社会人になって5年。

拙い経験だけれど、自分自身の反省の思いも含めて書きます。

あまりに当たり前で、細かく、うるさいと思うかもしれない。


でもね、当たり前なことを当たり前にできることがどんなに難しいか。


いつかきっと分かる日がくると思う。


第1条【朝は誰よりも早く出社するように】

例えば、定時が8時30分だったとする。
であれば、新人の間は、1時間前の7時30分には出社すると良い。
早すぎると思うかもしれないが、誰よりも早く出社することで、先輩は仕事に積極的な後輩だと思ってくれる。
それに、どこの会社にも必ず早く出社する先輩はいるもので、そういった先輩が顔を覚えてくれるし、仕事も教えてくれる。日中は皆自分の業務に追われて君と話をしてるヒマはないよ。
僕の場合は、一番早く出社するのが部長だった。
毎朝、部長と話ができることは本当に貴重だった。


第2条【声は一段大きくハッキリと】

挨拶のことを書こうかと思ったが、挨拶はあまりに当たり前すぎるのでやめた。
おはようございます、お疲れさまです、お先に失礼しますと言えない新人も中にはいるが、そんなヤツは幼稚園からやり直さないとどうしようもない。
足りないのは声量。おはようございます、とちゃんと言っているにも関わらず、「ちゃんと挨拶しろ!」と言われるケースがけっこう多い。
いいね。会社では、普段よりワントーンボリュームを上げて話すこと。なぜだか、大きい声のほうが説得力も増す。


第3条【爪は必ず切ること】

身だしなみの話。シャツは必ずプレスする。髭を毎日剃るのは当たり前。
爪はけっこう忘れがち。
取引先の部長は、まず相手の爪を見るそうだ。
曰く、シャツはオカンがクリーニングに出すかもしれない。髭は風呂のついでに剃るかもしれない。爪は気付いてキチンと切らなきゃならない。
爪が伸びてるヤツは自分に甘いヤツだそうだ。


第4条【会社は結果が全て】

たぶん真面目なお前なら、仕事を一生懸命頑張ると思う。
厳しいことを言うと、頑張ったとしても、会社に貢献できないヤツは必要ない。
頑張らなくても結果が良ければ、それで良かったりする。
それが、お金を貰うこと。プロだということ。
頑張りを評価されなくても腐るな。新人がいきなり結果なんてそうそう出ない。
評価されるために頑張るのではなく、結果を出すために頑張れ。
頑張りが評価されるのは、絶対評価の学生時代にとっくに終わっている。


第5条【上下関係をわきまえよ】

就職したては、実はこれが一番大変。
上座、下座は理解しているか。
上司になれなれしくしていないか。
取引先に失礼はないか。
ビジネスマナーはなるべく早く覚えなさい。
一つだけ忠告。
課長を飛ばして部長に話をするな。
社長にいきなり話なんて絶対にするな。
飛ばされたひとのメンツが丸潰れになる。
僕はこれで大失敗したことがある。


第6条【プライベートな相談はするな】

新人はプライベートな話は極力会社ではしないほうが良い。
なぜか。
会社はお前が思っている以上に狭くて、時に陰湿で噂好き。
バリバリ仕事をやる期待の新人が、「同棲している彼女とうまくいかなくてぇ、弁当を代わりに母親に作って貰ってんすよぉー」と言ってどうなったか。
上司からはマザコン。年輩女性社員からは不潔との最悪の評。
学生時代とは絶対同じに考えるな。
世代感で感覚は驚くほど違う。
社会人は仕事で信頼を勝ち取るもの。
仕事の相談ならガンガンしなさい。


第7条【食事に誘われたら絶対に断るな】

例えば、お前が愛する彼女に弁当を作って貰ったとする。
その日に上司に食事に誘われたらどうするか。
必ず食事に行きなさい。
社内では聞けない貴重な話が聞けるかもしれないし、何より親しくなれる。
絶対に断るな。断った場合、二度と誘われないこともある。
彼女の弁当はどうするか。
その後に残さず全部食べなさい。
それが、社会人であり、大人の男だよ。


第8条【インターネットに逃げるな】

インターネットはホントに便利。
無いともはや生活できない。
言いたいことは一つだけ。
ネットに逃げるな。頼りすぎるな。
仕事が辛いとき、mixiに愚痴の一つも書くかもしれない。それは構わない。
でも、ネットは無責任で排他的。
ネットに書き込まれた情報を鵜呑みにして、「俺の会社はブラック企業なんだ!」といって辞めたヤツを知っている。
有名なブラック企業で、バリバリやりがいを持って働き、年収三千万のヤツも知っている。
ブラックかどうか、会社がいいか悪いかなんて、自分にしか分からないことなんだよ。
迷ったら、まずは信頼できる友人か僕に相談すること。
お前が苦しいときに相談にのれないような兄貴なら、僕はお前の兄貴なんて辞めてやる。


第9条【助けてくれる仲間がいて、はじめて仕事が仕事になる】

カンパニーの語源が仲間の集まりだと聞いたことがあるかもしれない。
仕事は一人ではできない、とよく聞くと思うけど、これはガチンコにマジでマジな話。
一人ではできない、というのは裏を返すと、誰も助けてくれないと、そこで試合終了だということ。
お前が諦めていなくても、そこで試合終了。
まわりへの感謝を絶対に忘れないこと。
まわりに信頼されるように努力すること。


第10条【必ず最後まで自分を信じること】

最後に。
これからお前が働く社会は、辛くて、汚くて、理不尽で、希望も何も無いかもしれない。
逆に、希望に満ち溢れ、幸せな社会人生活かもしれない。そうあって欲しいと望む。
兄貴として、お前に伝えたいこと。
それは誰よりもお前を【信じている】ということ。
そして家族もお前を、【信じている】ということ。
お前が生まれたとき、母ちゃんと父ちゃんは嬉しくて泣いた。
僕はお前との楽しい思い出が山ほどたくさんあるし、お前の兄貴で良かったと思っている。
自分を信じて頑張れ。
新人の一年はとにかく頑張れ。
二年目は驚くほど楽になるから。
お前なら試練を乗り越えられる。
辛いときほど、背筋をぴん、と伸ばしてまっすぐ前を向くように。



以上。



手紙を渡して二年。


弟は、新卒で就職した仕事をすぐに辞め、二つ目の仕事に就いた。馴染めなかったそうだ。
ゆとりはダメだダメだ、と散々罵倒されたとも聞いた。


正社員から契約社員。


今なら兄貴の言ってたことが少しだけ分かる、という。


もう後には引けない、と朝から晩まで必死で働いている弟に、学生時代の面影はない。
五年続けて働いて、正社員になることが今の目標だ。


人生、必ず成功も失敗もして、時に回り道だってする。



久しぶりに弟と飲んだ。会社終わりに六本木で。



僕の手紙は役に立ったかどうかわからないし、正解がなにかもわからないが、パリっとしたシャツにすっきり切り揃えられた爪。ハキハキと、それでいて謙虚に注文をとる弟を見て、お互い社会人になったのだな、と思う。



どうか、頑張る若者に、明るい未来が待っていますように。


頑張る後輩たちのためにも、僕自身、もっともっと仕事を頑張ろうと思う。

これから社会人になるひとへの【10箇条】

これから社会人になるひとへの【10箇条】

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-03-09

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