次に一緒に働くことになる後輩へ【すんごい真面目な日記】

半年前に入社したばかりの新人が辞めた。



部長が呟く。


だから、ゆとり世代はダメなんだ。


辞めた経緯はこう。

入社当日。

課長→君には期待している。早く一人前になってくれ。

新人→わかりました。早く自分を成長させたいです。



1ヶ月後の面談

課長→どうかな?会社にはもう慣れたかな?

新人→すっかり慣れました。仕事もできるようになりました。



3ヶ月後の面談

課長→最近、君の処理した業務にミスが多い。仕事にいくらか慣れてきたかと思うが、ミスを減らして欲しい。

新人→自分の中では確実にレベルアップしています。

課長→上司や同僚とはコミュニケーションをとっているか?

新人→いえ、指導係の先輩以外はほとんど話しません。話しかけてくれませんので。

課長→わかった。今日は君の話を私が聞こう。定時にあがるから、軽く飲みにいこう。

新人→今日は友人と遊ぶ約束がありまして…。

課長→そうか…。



5ヶ月後の面談

課長→最近、君が元気がないように見える。大丈夫か。

新人→大丈夫です。

課長→なら、いいが…。気を悪くしないで聞いて欲しい。定時にあがりたいのはわかるが、もう少し貪欲に業務を吸収していって欲しい。先輩は遅くまで残業しているだろう。君の先輩は今の時期にはもう少し…

新人→やめてください。誰かと比べられるのが一番嫌なんです。言われた仕事を僕は一生懸命やっています。



6ヶ月後の面談

新人→すいません。今日でもう辞めさせて貰います。

課長→これはまた急な話だな…。引き継ぎもあるし、今月一杯は続けてくれないか。

新人→それは会社の都合です。僕にだって都合があります。そもそも、僕にはここの仕事は全く合っていませんでした。

課長→君はまだ何もやっていないに等しいよ。

新人→僕は自分なりに一生懸命やりました。

課長→厳しいと思われるかもしれないが、一生懸命やるのと、会社のために貢献できるかどうかは全く別問題なんだよ。君はもう社会人なんだから。

新人母→息子は一生懸命頑張ったんです。人格否定じゃないですか。鬱になったら会社は責任とってくれるんですか。

課長→あのですね…。息子さんはもうハタチを越えた大人ですよ。お母様のご心配もわかりますが…。

新人母→大学を出たばかりのひよっこを、ちゃんと立派な社会人に育てるのも会社の責任でしょう。違いますか。


部長→違います。今日付けで退職で結構。帰ってよろしい。



顔を真っ赤にして怒る部長と、困り果てた顔の課長に申し訳なく思いながら、僕は二人に謝罪した。


僕が指導係だったのである。


部長に応接室に残るように言われ、僕は下座のソファに腰掛けた。そういえば、新人と新人母は上座に座っていたな、と今更ながら思った。


部長「今回の件は気にしなくていい。あのテのタイプは組織では働けないよ」

僕「大変申し訳ありませんでした」

部長「最近、新人がすぐに辞めるな。君はどうしてだと思う」

僕「率直に、私の指導力不足です。自分の業務に時間をとられて、あまり指導できないこともありました」

部長「彼はほったらかしにされたと思ったのかな」

僕「そう思います」

部長「しかし、残業は拒否するし、自分から聞くこともないのだろう?」

僕「まぁ、そうですが…」

部長「それじゃあ、親鳥からのエサを口を開けて待っている雛鳥と何ら変わりないじゃないか」

僕「…。」

僕「会社は、どこまで社員に対して責任を持つべきでしょうか」

部長「教育に関して、社員を成長させる責任はある。会社を社会の公器だと考えるなら尚更そうだ。しかし、成長の見込みがない社員を置いておくことはできない。それは全体にとって、マイナスになるだろう」

僕「彼に見込みはなかったのでしょうか」

部長「ないね。全くない。戦わずに白旗をあげるなんて、私たちの世代からは考えられんよ。しかも母親からいまだに独立もしてないだなんて。最近の学生はあんなにも酷いのかと思う」



僕は、彼とは五歳しか変わらない。
部長とは、三十歳差だ。


僕は当然ながら、圧倒的に新人に近い世代である。

彼の気持ちもわからなくない。


そもそも、だからゆとりは、といった一括りは、彼らにとって本意ではないだろう。

ゆとりだろうか何だろうが、優秀なやつは優秀だし、頑張るやつは頑張る。

ゆとりの本質は、習熟度別に学習を進めることにあったので、究極的には、できるやつはどこまでも先にいくし、できないヤツは最低限度のレベルで学習していけばよい、といったもので、これは過度の受験競争により大量に落ちこぼれを生んでしまったことへの反省だったと聞いている。

教育の一番の問題は、むしろ評価体制にあって、これはゆとり以前の僕らのころには既にそうであったが、相対評価が、絶対評価に移行したことによると思う。

関心・意欲・態度、といったよくわからない評価項目のせいで、クラスで一番成績の良いヤツは5、一番頑張ったヤツも同じく5、みたいなわけのわからない成績表となってしまった。

こうなってくると、能力に対する評価が曖昧で意味をなさないものになってしまう。
運動会でも順位をつけない、といった学校も多いそうで、極めつけは、足の早いヤツが足の遅いやつを待って、全員で手を繋いで一緒にゴール、といったグロテスクなことをする学校も表れる始末である。


オリンピックで、頑張った全員に金メダルをあげてみなさいよ。誰も喜ばないから。


しかし、子ども時代の影響というのは絶大なため、こういった教育を受けて育つと、これはもう競争だとか、誰かと比べられる、だとかそう言うことが大嫌いな大人になるのは至極当然のことである。


新人が、僕なりには頑張った、というのはそれはそれで彼なりの言い分だろうし、もしかしたら彼は、このスタンスで学生時代、それなりの評価を受けてきたのかもしれない。

こうなると、母親もある種の被害者で、「今まで学校でそれなりの評価を受けてきたボクちゃんが、会社勤めでなんでこんなことに!」と、ヒステリーを起こしたのかもしれない。


でもね、こういったことを同世代の僕らはある程度理解するが、社会人のマジョリティーである三十代、四十代、五十代には到底理解できないんだよ。



五十代の団塊の世代は、とにかく学生運動だの何だのと闘いまくってきた。自己主張が激しい。声もデカイから、僕らみたいな仲良しこよし世代じゃ、怒鳴られたりしたらびっくりしちゃうんだろう。

四十代は、バブル世代。飲み会は好きだし消費欲が半端ない。テンションだってついていけないし、僕らみたいな引きこもりネット世代じゃ趣味なんて合うわけがない。

三十代は、就職氷河期世代。競争に勝てなきゃ食えないんだよ。僕らみたいに、進んで自宅警備員世代とは根本的に違うんだよ。



もっとこういった話をする時間を、彼に割いてやれば良かったと思った。
自分の業務が、忙しいなんて言い訳である。


僕も彼と同じような世代で、同じ感覚を持っているのだから。


彼はその後、ニートである。



携帯の連絡先は知らないが、たまたま彼の呟きを見てしまった。


辞めた当日である。


今日、ついに仕事辞めるっていったったー♪
団塊涙目、ざまぁwww

今日から、しっかり自宅警備員として働きますお。(ビシッ!)


そして、この呟きに対して、よくやったw、だのガンガレだのと友人たちからの書き込みがあった。


僕はこれを見て、少し悲しくなった。

きっと彼は、職場でいじめられ、ほったらかしにされた、といった思いがあったのかもしれない。

事実僕も何もしてやれなかった。


でも、同世代の人間として、mixiでこうして日記を書いてみて思うのである。


団塊ざまぁwww


と呟いたところで、それは陰口以外の何者でもなく、基本的にはmixiなんかに興味を持たない団塊世代には一向になにも伝わらないのだ。



僕もそうだが、ネットでコミュニケーションをとることは今ではあまりに当たり前だ。
しかし、それはあまりに排他的で、僕らはその世界がネットユーザーだけの特別な世界であると認識していないのかもしれない。


大多数の社会人は、今後暫く会社に通い、価値観の違う相手と直接対峙し、協力し、時に競争して勝ち抜かなくてはならない。

ネットで現実逃避もいいけれど、必ず真正面から向き合わなくてはいけないのだ。


少子高齢化社会に生きる僕たちは、マイノリティで、大多数の年輩世代ときちんと向き合い、理解し合わないことには未来なんてないのである。


政治を見ればわかるでしょう。

圧倒的多数の(僕らからみると)老人が国を牛耳り、それを支持する有権者も大多数が高齢者なのである。まさに、シルバーデモクラシー。

僕らがネットで、フヒヒwwサーセンwwwとか呟いてる間にも、どんどん僕たちの立場は悪く、弱くなっていくのである。


団塊やらじじぃとは馴染めないからコミュニケーションもとりたくない、というのは通用しないのである。


僕たちは社会人として、どんなに辛くても、先輩に理解されるように努力するか、さもなくば、戦わないことには未来がないんだよ。


コミュニケーション不足だった自身の反省も含めて、そんな話を、次に入る後輩にはしようと思う。

次に一緒に働くことになる後輩へ【すんごい真面目な日記】

次に一緒に働くことになる後輩へ【すんごい真面目な日記】

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-03-09

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