びゅーていふる ふぁいたー(3)

対決Ⅰ―Ⅱ

 再び、画面越しに、ゲーマーを見る。ぶさいくだ。どうせ女に相手にされない男だから、若いOLに興味が湧くのか。そう言えば、あたしが身につけている服は会社の制服のようだ。大男によって、ブラウスが引き裂かれて、下着が見えている。白い肌も見えるスカートはミニ。キックする度に、太もももが露わになり、パンティが見える。
 この変態やろう。ゲーマーの顔をキッと睨むが、あたしの怒った顔がたまらなく好きそうに顔をほころばせている。ますます変態野郎だ。だが、この時点では、ハイヒールは正解だった。ハイヒールのとがった先が、相手の顔に、目に突き刺さる。
「うえお」
 大男の咆哮だ。愛はないらしい。あたしの左足首から手を離し、目を押さえる大男。あたしはさっと立ち上がる。何か武器は?もたもたしてられない。あたしのエネルギーは残り十パーセント。相手も残り十パーセント。残り時間は三分。互いにカラータイマーが点滅しだした。何だ、この設定は。あたしたちは、ウルトラマンか?著作権違反じゃないのか?
とにかく、このままでは互いに、ジ・エンドだ。そうなれば、また、一からのやり直し。あたしのエネルギーも百パーセント、相手のエネルギーも百パーセント。全てが最初から始まる。ただし、時間だけが浪費された。
 以前はそれでもよかった。だが、ここ何回か、戦闘しているうちに、あたしの心の中で、負けたくない、死にたくない気持ちが湧き起こってきた。これもマザーによって作られた感情なのかもしれない。どちらにせよ、あたしは人形だ。人形遣いにはなれない。だから、人形の意思のもとで、今を生きる、今を戦うしかないのだ。
 大男が立ち上がった。目を押さえている。「このやろう」と叫ぶ。あたしは女だ。野郎じゃない。だが、互いが生きるか死ぬかの緊迫した状況では、そんな冗談は通じない。あたしはハイヒールを脱いで走る。素足だ。ハイヒールでは転ぶ可能性が高い。転んだ先は、死のみ。だが、ハイヒールが先ほどのように、役に立つこともある。捨てるわけにはいかない。素手では相手に叶わない。ハイヒールを持つことで、相手への牽制にもなる。戦闘員はどのような状況でも、自分が生き残ることを第一に考える。
「待たんかい」
 大男が叫ぶ。待てと言われて待つほど馬鹿じゃない。それに、もう少し、洒落た会話ができないのか。機会があれば、一度、マザーにゲームの内容について意見したい。もっと、上品に、華麗に、おしとやかに、だ。だが、マザーはこう言うだろう。「全ては、顧客の思うがままに」
ビルの屋上で生死をかけた鬼ごっこが始まった。何か武器にならないものか、屋上を駆け巡りながら探すものの、何もない。
「それ」「それ」
 二回振り返って、ハイヒールを投げつける。大男は、一個は避けるものの、一個は当たる。当たっても、何の効果もない。大男があたしのハイヒールを四十センチ以上もあるような足で踏みつぶす。これも、織り込み済みのゲーム進行だ。^
 張り巡らされた空調や上下水道の配管をぶちきって棒にすればいいのだが、ゲーマーの選択で、あたしは可愛く、ひよわな戦士(?)に設定されているから、無理だ。
試しに、パイプを握ってみる。力を入れる。血管は浮き出ている。うっすら青い。静脈が浮き出ている。妙なところは、リアルだ。注射を打つのが苦手な医者には喜ばれそうだが、この戦闘では役に立たない。筋肉の盛り上がりはない。パイプを引きちぎるどころか、あたしの手が引きちぎられそうだ。やっぱり、力がないあたし。
 あたしを操作しているゲーマーは、全く何を考えているのか?やっぱりあたしが負けることを期待しているのか?だが、あたしは負けない。迫りくる大男。屋上の隅に追い詰められたあたし。
前方は空だ。下はアスファルトの道路。ここは、三十階建ての高層ビル。下に落ちたら助からない。多分、落ちた瞬間、エネルギーが切れて、ゲーム終了だ。後ろを振り向く。
 大男の勝ち誇った顔。あたしは恐怖のせいか、相手の顔が畳一畳ほどの大きさに見える。ゲーマーの顔を見る。さっきと同じ顔だ。えへら、えへらしている。いつのまのか、いや、ゲームが始まってから、ゲーマーもあたしの敵だったんだ。
 二人を敵に回して、あたしは戦ってきたんだ。だからこそ、負けたくない。大男が叫ぶ。「お前に怨みがないが、死ね」大男はあたしの肩を掴まえ、そのまま垂直に持ち上げ、ビルの下に落とすつもりなのだ。あたしも、あんたに怨みはない。だからと言って、死ぬわけにはいかない。ゲーマーの意思よりも、あたしの意思の方が強い。
 ゲーマーが何度か怪訝そうな顔をしている。自分が動かしてもいないのに、あたしが勝手に動いているからだ。だが、勝手なのは、ゲーマーの方だ。暇つぶしに、ゲームの主人公の命を粗末にしやがって。ゲームが始まった以上、あたしの人生だ、あたしの命だ。ゲーマーの思うようにはさせない。
 だが、事態は最悪。後ろは地獄。大男があたしの肩に手を伸ばした。そんなことはわかっている。今だ。あたしは大男の誇間をくぐった。後ろに回る。大男が振り返る。配管に足が当たった。バランスが崩れた。あたしは全身に力を込めて、アメリカンフットボールの選手のように体当たりをする。あたしの体重は軽いが、スピードは速い。力は質量×速度の二乗だ。
 計算どおり、大男はフェンスに倒れた。大男の身長はフェンスの二倍以上もある。フェンスは太ももまでの高さしかない。くの字に折れ曲がった。留めの一発。あたしは、手を伸ばし相手の胸を突く。人間シーソーは頭が重いのか、あたしの一撃が効いたのか、そのまま下に落ちていく。
「うおおおおおお」
 だんだんと小さくなっていく声。あたしから距離が離れていく証拠だ。どんどん遠ざかれ、この野郎。少し、下品か。周囲の高層ビルに断末魔の声が響き、「うおおおおおお」という声が、あちらこちらでこだましている。
 あたしは画面の右隅を見る。大男のエネルギーがゼロとなった。今度は、左隅を見る。代わりに、あたしのエネルギーが百パーセントに充填された。これで、また、戦える。ビルの屋上から下を見つめる。目の前で二メートル以上の大きな男だったのに、屋上から見ると、小指の爪よりも小さい。道路の上に落ちたようだ。
 バスが向こうからやってくる。これもゲームのストーリーか。バスは男の体を避けようとしない。そのまま轢いていく。男の体が飛び上がる。もう死んでいる、エネルギーがゼロになっているだのだから、そこまでゲームにリアリティを求めないでもいいと思う。それとも、負ければああなるぞとのあたしへの警告なのか。画面が消えていく。あたしも消える。次のステージでの戦いが待っている。

びゅーていふる ふぁいたー(3)

びゅーていふる ふぁいたー(3)

対決Ⅰ―Ⅱ

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-03-09

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