変なおじさん(乾龍の巻)
(乾雲の巻)
1、教会堂
讃美歌が道路まできこえる。
2、同 内
真面目な顔して説教を聴く丹波伊作と森多津魔
3、同
これで礼拝終わりますの牧師の声で、それぞれ椅子から立ち、帰るもの、居間へ行ってお茶を飲むもの,話し合うものがあ
るが、
丹波伊作
さっさと帰ろうとして外に出る。
タツマ「丹波チャン、ちょっとまってよ。」
追っかける所をストップ・ザ・シーン
タイトル
再びシーンは動き出して早足であるく丹波を追っかけるタツマ
突然走りだす丹波、肥ったタツマ、フウフウいって追っかける。丹波、通りの喫茶店に飛び込む。続いてタツマも飛び込
む。
4、喫茶店
席に座っている丹波の前に息をはずませて、どたっと腰をおろすタツマ
タツマ「水臭いなあ、そんなに急いだらついていけへん。」
丹 波「ほんでも考えてみい、あんたがパチンコで負け過ぎて、なんでおれが、あんたのカミさんにいわれんならんのや。
あまり誘わないでくださいって。
あほらしなってきた。」
タツマ「すまん、えらい迷惑かけた。
うちの女房は、きついさかいなあ。」
丹 波「きつくてもなんでも、悪いのはあんたや。」
タツマ「申し訳ない。
それでな、ちょっとええ話持ってきたんや。」
5、同
競走シーン、競走馬の走るのが、右から、左から何回も繰り返す。
タツマ「おれな、退職してから退職金一度も使うとれへんのや。
それでかみさんに競馬旅行行かせてくれゆうたんや。
はじめ、きつう怒られてな、わややったけど、丹波チャンと一緒ならええということになったんや。
丹 波「おれと一緒ならいいという事は、おれが見張れということやないか。
でも、おれも毎日、なんかあるわけでもないし、ええで。」
タツマ「そうすると、どこからいこう。」
丹 波「そりゃ京都や。
まず、中央競馬会からや。
ただし日曜はダメよ。
礼拝やで。」
タツマ「わかってる。
それで丹波チャン、大体のコース決めてくれれば、おれ、時間を書いたピチッとしたコースをつくるよ。」
6、教会堂
牧師と丹波話している。
丹 波「?というわけで一ヶ月、タツマと出掛けたいんですが。」
牧 師「この世の義務を果たされたんで、ゆっくりされるのもいいでしょう。
ただ、お金の事はタツマさんの奥さんが心配していますのでー」
丹 波「それはまかせて下さい。
悪いくせが出たら、すぐ帰るという話やからな。」
タツマ「(笑いながら)しゃーないなあ。
そんなら、今日もらった予定表を完全にして電話するよ。」
7、丹波の家
タツマから電話がかかってくる。
丹 波「(じっと聞いていて)よし、なんかの帰りにでも、家へほり込んでんか。」
8、新聞印刷機
烈しくまわっている。
”ビワハヤヒデ敗戦
セキテイリュウオーに盾”
9、同 (ズームダウン)
”ビワハヤヒデ、ウイニングチケット
同時引退”
10、JR名古屋駅
大阪方面のホーム
タツマ「京都ヘ行くのにコダマに乗るって、丹波チャンしぶいね。」
丹 波「止まる駅は二つ多いだけ。
あとは待避だけや。」
タツマ「ホテルも丹波チャンの顔で一割引いてもろて、ありがたかったわ。」
丹 波「京都は新阪急ホテルもあるけど、タワーホテルにはかなわんわ。
それに手配カウンターの女の子を昔とったキネヅカで顔を知ってたからな。」
こだま大阪行入ってくる。
丹 波「スポーツ新聞四種類買うてあるか。」
タツマ「ここにあるよ。」
車内、すいている。
座席を対面にして四人分占領し、座る。
タツマ「さあ、ギャンブル旅行出発やな。」
といって発車し、名古屋から離れていく列車の窓を見ていてふいに、
タツマ「丹波チャン、聖書には姦淫するなと、女の事は厳しいけど、なんでギャンブルのことは書いてないんやろう。」
丹 波「うーん、おれもわからん。
それでもおれ達は別にして、普通ギャンブルやるやつって教会来んわな。」
タツマ「姦淫、姦淫いうけど、どうすることが姦淫なんやろ。
奥さんだけ大事にしろいうことやろか。」
丹 波「おれもわからん。だけどな、おれも、二十四才から信者やけど、姦淫とはなにかといって話した人は一人もいないぞ。
わからんことは心に留めておくんだ。
あの聖書のはじめから終わりまで解説するということは、スラスラとできたら神様やもんな。」
タツマじっと窓の外を眺めている。
タツマ「あ、もう止まるよ。
どこだ、ここは。」
丹 波「岐阜羽島だ。
だから近いのよ。
ここでは待避が無理だからすぐでるやろう。」
若い女性が一人乗ってきて、席がないので、丹波に、
若い女性「おとなりよろしいですか?」
丹 波「ああどうぞ。」
若い女性「どちらまで?」
タツマ「京都へ行きますねん。」
若い女性「私は豊中市へ帰る所です。」
丹 波「私と彼は関西生まれのためですか、二人でいると関西なまりがとれません。」
タツマ「関西の人間のいい所は、人に声かけて知り合いになりますね。
こういう所は、私は好きですわ。」
若い女性「私もそういう所が好きですわ。
ところでスポーツの新聞を沢山お持ちだということはギャンブルがお好きなん
ですか?」
タツマ「ええ、競馬ですけどね。
定年が済んだので、二人で競馬旅行ですわ。」
(WIPE)
若い女性「もう京都ですね。
私、日本キリスト教団豊中教会にいます。
遊びに来てください。」
タツマ「あ、あなたもクリスチャン?」
若い女性「あなたがたもでしょう。
話の内容でわかりました。
私、大島博子といいます。
教会でお待ちしています。」
丹 波「よろしゅうお願いします。
じゃ、ご無礼するか。」
タツマに声をかけ、乗降口へ。
タツマ「世の中広いようで狭いなあ。
それにしても、いくつになっても若い女性と話すのはたのしいね。」
丹波は、早足で歩きながら
丹 波「ちょうど昼時だな。
JRの食堂街で、なんか食べよう。」
タツマ「折角京都へきたんだ。
精進料理を食べよう。」
11、食堂
精進料理を食べる二人。
(WIPE)
12、京都タワーホテルのロビー
丹波、タツマ、二人で新聞のギャンブル欄を見ている。
タツマ「丹波チャン、今からどうするね。」
丹 波「金曜日だから向日町競輪の二日目をやっている。
そっちへ行こう。」
13、タクシーの中
丹波、タツマ乗っている。
競輪場の前でとまり、二人降りる。
14、競輪場の中
アナウンス「ただ今、第八レースの投票をしめきりました。
ご投票ありがとうございました。」
15、同
第八レースのゴール前。
(WIPE)
第九レースのゴール前
(WIPE)
16、同
最終レースの車券を買うため、ぞろぞろと人が車券売り場へ移っていく。
丹波、タツマ、食堂の近くを通って行く。
タツマ「丹波チャン、あそこを見ろ。
子どもが殴られてるぜ。」
子どもを殴る店の主人。
タツマ「とめようか。」
丹 波「その筋のことじゃないようだ。
止めてやれよ。」
タツマ「(主人をなだめるように)やめなさいよ。
どうしたの?」
店の主人「こいつはしょっちゅうなんだよ。
今も餅を盗んで逃げようとした。」
子どもは小学校三年位、うつむいているが、餅はしっかり握っている。
タツマ「餅代は私が払いましょう。
子どもは私たちがつれていきます。
なあ丹波チャン。」
丹 波「そうだな。」
店の主人「それなら、おれは何も言うことはない。」
タツマ、餅代を払って、子どもに、
タツマ「おい、一緒に行こう。」
子どもついてくる。
タツマ「餅食べていいよ。
金払ったんだから。」
子どもまるで飲み込むような勢いで食べる。
丹 波「余程腹減らしてるな。
十レースが済んだら食べに行こう。
何が食べたい。」
子ども「メシ」
丹 波「メシか、わかった、わかった。」
17、同
第十レースのゴール前
(WIPE)
18、競輪場近くの大衆食堂
すごい勢いで、ラーメンとライスを食べる子ども。
丹 波「よっぽど腹がへっていたんだなあ。」
タツマ「坊、名前なんというんだ?」
子ども「(食べながら)松本たけし。」
タツマ「お父さんや、お母さんは?」
子ども「死んじゃった。
おじさんの家にあづけられたけど、いやだから逃げ出した。」
丹波・タツマ、、ラーメン食べながら聞いている。
たけし「おじさん達、神様みたいだね。
おれ、こんなに親切にされたの、はじめてだ。」
丹 波「どうしておじさんの家を飛び出したんだ。
実のおじさんだろ。」
たけし「おじさんの家は、コワい人が多くて、おじさんには、すぐ折檻されるから。」
タツマ「そんなにひどいのか。
それでも、この子の家だもんな。
丹波チャン、ここ出たら行ってみようか。」
19、市街地
たけし、二人を案内してくる。
たけし「ここだよ。」
二人、よく見ると松本興業とドアに書いてあり、いかにも暴力団事務所風
タツマ「なんだかこわそうだな。」
丹 波「生命をとるとはいわないだろう。」
ドアを開ける。
一階にはあんちゃんが5,6人、ごろごろしている。
あんちゃんA「なんや、お前ら。」
丹 波「この坊が、いじめられてるのを助けて連れてきたんですわ。」
あんちゃんB「なんや、組長の坊主やないか。
なにしに帰ってきたんや。」
タツマ、突っ掛かるように
タツマ「自分の家に帰ってきて、何しになんて言い方はないやないか。」
あんちゃんA「なんやて、お前こそ人の家に来てなに偉そうにいってるんや。
くそじじい。」
タツマ「くそじじいで悪かったな。
おれ達がくそじじいなら、お前らはくそがきや。」
あんちゃんB「なにい、もう一度いってみい。」
近づいて来る。
丹波、それを押し止めて、
丹 波「すんまへん、すんまへん。こいつもすぐ頭に来る男ですよってかんにんして下さ
い
それにしても、なんで組長はんは、この子を嫌いはるんですか。」
あんちゃんA「こいつが組長の言うことを聞かんからや。
あっちから、こっちから苦情ばっかり。
ただでも、俺達は白い目で見られるやろ、組長も頭に来て、どついたら家
出しよったんや。」
丹 波「そうでっか。
でも、折角来たんですさかい、組長さんに合わせてもらえんでしょうか。」
あんちゃんA「よしちょっと待っとれ。」
電話を取り上げ
あんちゃんA「あ、組長でっか。
今、けったいな爺さんが二人、坊主つれて組長に会いたいいってますがー。
え、会う気ない。
坊主はほうりだせ。
わかりました。」
あんちゃんA,近寄ってきて、
「というようなわけや。
はよ、出てってくれ。」
丹 波「そうでっか。
よし、タツマ、たけし連れて行こう。
えろうおじゃまさんでした。」
三人外へ出る。
タツマ「(入り口をふりかえって)しかし、ひどい奴らやなあ。
実のおいを追い出して、知らん顔してる。
任侠道なんてないとは聞いてたが、ひどいもんやなあ。
たけし、俺たちと一緒に行こう。
ええやろ。」
たけし「ふん。」
丹 波「きょうは、ホテルへ帰ろう。
飲みたけりゃあ、ホテルで飲んだらええ。
たけしがこういう扱いされるのは、神がこの子に臨まれるためなんや。
俺たち二人で考えてやろう。」
タツマ「そうや。
これも神様のおぼしめしや。
祈っていれば、神様が考えて下さる。
たけし、あした、競馬場へ連れてったる。
盗んだらあかんで。」
たけし「うん。」
二人とたけし、ホテルへ入って行く。
たけし、そのきれいさに驚き、キョロキョロしている。
丹 波「子どもが飛び入りするんで、小さいベット作ってやってください。」
といって鍵を受け取る。
20、ホテルの部屋
たけし、喜んで飛び跳ねる。
タツマ「たけし、ここが風呂とトイレや。
いま風呂に湯入れたる。
先に入れ。」
たけしを風呂に入れ、タツマと丹波はベットにひっくり返る。
タツマ「丹波チャン、たけし、これからどうしよう。」
丹 波「ともかく連れて行こう。
なんかいい方法あるやろ。」
タツマ「そうやな。
我ら、主と共にありだからな。」
(F・O)
21、京都競馬場
無風快晴
タツマ「絶好の競馬日和やな。
気分がいいねえ。」
丹 波「最高やな。」
タツマ「丹波チャン、この四レース新馬戦なにから買うたらええと思う?」
丹 波「新馬戦は印とタイムや。
これという馬から流すんや。
それで来なけりゃ運が悪い。」
となりで聞いていたたけしが、
たけし「ちょっと見せて。」
予想表をじっと見る。
たけし「この四レース、五番と八番で来るよ。」
タツマ「そんな印のない馬が来る。
どうしてわかるんや。」
たけし「そんな気がする。」
タツマ「気がするなんていったら皆来るような気がするやないか。
なにをいうとる。」
丹 波「ちょっと待て。
五番八番の気がするんやな。
わかった。一枚買うてみよう。」
締め切り近くなり、正面スタンドの前へ大勢が移動する。
22、正面スタンドの前
大勢の中で、タツマに肩車されているたけし。
出走合図の旗があがる。
馬がゲートに入り、1200メートルダート戦がスタートする。
あっという間に四コーナーへ来るが、一団となって直線に向かう。
抜け出してきたのは五番。
丹 波「五番がぬけた。
八番くるか。」
抜けてくる八番。
五番とせる。
丹 波「来たぜ、タツマよ、来たぜ五―八が。」
八番―五番でゴールを通過。
丹 波「やった!たけしすごいなあ。」
タツマ「これはつくで。」
一斉に窓口の方向に移動するフアン。
確定となり、払い戻しの発表
「馬番連勝、八三五〇円。」
丹 波「オー!」
こぶしを突き上げる。
丹 波「タツマ、たけし、金受け取ってうまいもん食おう。」
23、食堂
まだすいているため、三人ゆっくりすわれる。
丹 波「まず、ビール二本やな。
たけしはなんや。」
たけし「ラーメン大盛!」
丹 波「ラーメン好きやなあ。じゃあ、チャーシューメンの大盛にせい。」
タツマ「ところでたけし、どうしてわかったんだ。」
たけし「なんとなく、そんな気がした。
前からおじさんにせっかん受けると競馬場に逃げてきて、レースを見ているうち
に、わかるようになって来た。」
タツマ「どのレースでもわかるのか。」
たけし「いや、レースの締め切り前に時々わかるだけや。」
丹 波「時々でもすごいよ。
別に無理しなくてもいいから、わかったら教えてくれ。」
チャーシューメンを食べるたけし。
丹 波「まあ、ゆっくり休憩して、勝負は六レースからや。」
パドックへむかう三人。
周回する馬。
丹 波「これはあれそうやなあ。」
タツマ「たけし、わからんか。」
丹 波「たけしに頼る前に自分で考えろ。」
じっと、パドックと予想表を見る。
丹 波「どうも、七枠十四番やな。
これは、枠連流しでけっこうつくやろ。」
たけし「丹波のおじちゃん。
十二番や、十二番―十四番や。」
タツマ「わかったのか、お前。」
丹 波「まずい、出よう。」
正面スタンドの入り口で、
丹 波」「五分後にここへ来よう。
たけしを連れていっていいよ。
タツマよ。
あまり買うんじゃないぞ。」
三人別れる。
丹波、窓口へ金を渡す。
窓口で、
丹 波「十四番流しと、十二番―十四番五枚。」
混み合う窓口
一方タツマ、少し離れたところで、
タツマ「十二番ー十四番五枚。」
(O・R)
24 正面スタンド
たけしを肩車するタツマ。
タツマ「さあ、十二―十四よく見ててくれよ。
たけし。」
丹 波「1,200Mのスプリント戦、おまけにこの頭数だ。
よく見てないとわからなくなるぞ。」
スターターが台に上がって旗をふる。
馬はそれぞれゲートイン。
完了してゲートが開く。
1200Mの電撃戦、烈しい先陣争い。
かなりのハイペースで進む。
十二番、十四番は真ん中あたりにいる。
三、四コーナーで一団となって直線にむく。
その中から四頭抜け出す。
その中に十二番、十四番がいる。
激しく競り合ってゴールにむかうが、十四番が抜け出して、十二番は、もう一頭
の馬と競り合う。
タツマ「十二番来い、十二番。」
十四番が駆け抜け、十二番は三番と競り合ったままゴールへ。
タツマ「(興奮して)丹波チャン、どっちやろ。」
丹 波「ウーン、ちょっとわからんな。」
タツマ「頼む、十二番になってくれ。」
タツマ両手を合わせる。
ターフビジョンを見て歓声が上がる。
同着にしかみえない。
肩車をおりたたけしは、それにかまわず、まわりをキョロキョロ見ている。
カメラパンして人の姿を写しているが、それにオーバーラップして着順が上がる。
二着三番三着ハナ差十二番。
タツマ馬券を破って捨てる。
丹 波「どれだけ買ったんだ。」
タツマ「五万円。
これでまた女房にコテンパンにいわれる。」
配当が出て場内がどっと沸く。
丹 波「タッチャン、これで埋めろ。」
タツマ見ると百円の当たり券。
タツマ「エー当てたの。」
丹 波「十四番から一枚ずつ流したからな。
十二番―十四番は五百円買っただけだ。」
タツマ「ありがたい。
丹波チャン恩にきるぜ。」
丹 波「折角とったんだ。
コーヒーを飲みに行こう。」
三人歩きだす。
25 場内の喫茶店
クリームソーダーをおいしそうに食べるたけし。
コーヒーを飲む丹波とタツマ。
タツマ「丹波チャン、どうして分ったんだい。
外れることが。」
丹 波「うん、前は見事に的中した。
が、たけしは予想屋ではない。
持ってる能力を超能力としても、当たる保証はない。
だから、最初考えたように十四番から流して、たけしのいったのを五百円買った
んだよ。」
タツマ「うまいなあ。
やはり年季か。」
丹 波「ま、そんな所だな。」
話を聞いていて、隣に座っていたおばさんが声をかける。
おばさんでもちょっと小ぎれいな人。
おばさん「七レース、なにがいいでしょうね。」
タツマ「このレースの◎印の軸は堅そうだから、どの馬をひもへ持ってくるかじゃないで
すか。」
おばさん「やっぱり八番強いですか。」
丹波、たけしに新聞見せて
丹 波「どうや、たけし、八番か?」
たけし、じっと見ていて
たけし「10番だよ。」
丹波、フーと考え込む。
タツマ「どうしたんや丹波チャン。」
おばさん「この子、競馬分かるんですか。」
丹 波「なんやしらん、よく当たるんですよ。
確かにこのレースは八番がずっこけると、十番だものな。」
おばさん「十番ですかー。」
といって予想表を見る。
丹 波「もし決めてないんなら、十番から流したらどうですか。
ひょっとして当たるかもしれませんよ。」
場内あと五分の締め切り合図。
タツマ「さあ、行こう。
集まるのは正面スタンドの入り口。
ねえさんも良かったら来て下さい。」
喫茶店から皆が出て、五分後締め切りのアナウンス。
皆、ゾロゾロと正面スタンドへ向かう。
おばさん「十番からは売れてませんね。」
丹 波「ええ、二千メートルで八番の単騎逃げスローにおとして、逃げ切りと思ってるん
じゃないですか。
ただ、もしほかの先行馬が八番にからんだ時は、ペースが早くなって、追い込み
馬十番のチャンスですね。」
といった後、おばさんの胸を見る。
十字架のネックレス。
丹 波「十字架いうことはクリスチャン?」
おばさん「(はずかしそうに)ええ。」
丹 波「私たちもそうです。」
おばさん「そうですか!よろしくお願いします。」
丹 波「なに買いました?」
おばさん「たけし君を信じて十番流し。」
丹 波「私は十番流しと八番から三点。」
ファンファーレがなってゲートが開いて八番の先行
二頭の馬が八番の馬にからむ。
ハイペースとなる。
丹 波「からんだか。」
向こう流しから三コーナー・四コーナーから直線にかかる。
抜け出してくるのは十番、場内騒然となる。
十番の足色は衰えず、一直線。
外から無印の十四番伸びてくる。
正面スタンド大声援。
ゴールと共に、タツマ、丹波、おばさん三人飛び上がって手を上げる。
たけし、つぶされそうになって苦しいと叫ぶ。
(F.O)
26、広いキリスト教会
礼拝に参加している丹波、タツマ、たけし。
中年の男性、信徒の一人の話がつづく。
奨 励「マルコによる福音書第五章のゲラサの人は、レギオンという悪霊が豚の中に入っ
ていて、二千匹の豚と一緒に海へ落ちて行きました。
この人は、日本でいえば、狐つきというような扱いを受けていたのでしょう。
鎖につながれても引きちぎる位ですから、レギオンという悪霊はすごい力の持ち
主だったのでしょう。
イエス・キリストを見て、レギオンは、そのゲラサの人に、近寄らないでくれと
言わせています。私たちも、教会の仕事で疲れた時、そのような人がぐずぐず行
って来たら、逃げたくなるでしょう。
私たちも悪霊の誘惑はいつもあります。
それだのになんとか守られているのは、聖霊をしたって、イエスの後を歩いてい
るからです。
今は薬が良くなって、監獄みたいな所へ閉じ込められる人は少なくなっておりま
すが、幻視、幻聴に苦しむそううつ病患者はたくさんおります。」
カメラは、丹波等三人に向けられ、パンして教会全体を写す。
奨 励「私の知り合いの人で、うつ病になり、悟りを求め、病院の中を暴れまわり、電気
ショックを頭に当てられる中で、聖霊を受け、今は教会活動をしている人がいま
す。
このゲラサの人は正気になっただけで、社会に適応し、皆から良かった、良かっ
たといわれたのではないでしょう。
豚二千匹を失い、怒った人たちはイエスにゲラサ人を置いていきます。
恐らく、教えを広めようという事でしょう。
しかし、この人は正気になり、茨の中で二倍、三倍の努力で道を伝えたのでしょ
う。
私たちは、世の中に適応しようと努力していますが、世の中も病んでいる事を知
らねばなりません。」
話は続いていく。
27、教会の入り口
礼拝が終わって、どっと人が出てくる。
丹波、受付の人に名刺を出して、
丹 波「名古屋から用事で来て、礼拝に参加させていただきました。」
タツマも名刺を出す。
タツマ「これは少ないですが、献金をさせてください。」
たけし、横から、
たけし「おじちゃん競馬場で儲けたお金なんだよ。」
あわてて
タツマ「余計な事いうな。」
といってげんこつでなぐる。
たけし泣き出す。
受付の人「(笑って)はい、先生や役員によくいっておきます。
旅行中でも礼拝に参加される姿勢は、ご立派だと思います。」
28、市街地
三人、ブラブラ歩いていく。
タツマ「さあ、これからどうしよう。」
丹 波「一度ホテルに戻って考えよう。
たけしの事もな。」
ホテルの方へ歩いていく。
29、ホテルのフロント
ホテルのフロントマンが丹波に、
フロント「丹波さん、お電話が入っております。」
丹波見ると松本興業の松本と書いてある。
丹 波「タツマチャン、松本興業ゆうたら、たけしのおじさんの所じゃなかったか。」
タツマ「そうだよ、甥を連れてってやったのに玄関払いをくわせた奴だよ。」
丹 波「なんだろな。
電話して見よう。」
丹波、ホテルのテレフォンボックスから電話する。
30、松本興業社長室
足を応接セットに投げ出して、電話を受ける。
松本「ああ、丹波はんでっか。
実は、たけしは超能力の持ち主だという事を若いものから聞きましてな。
たけしを返してほしいんですわ。」
31、ホテルの電話ボックス
画面が二つに割れ、丹波と松本が半々にうつる。
丹 波「たけしを返せって、私たちが行ったとき、顔を出さなんだじゃないですか。」
松 本「なんといわれようとたけしは、おれの甥だ。
あんたにとやかくいわれる筋合いはない。」
丹 波「なんや納得いかん。
明日の十時に事務所へ伺いましょう。」
松 本「うちは若いもんがゴロゴロしてるさかい、けがせんようにな。」
丹 波「お手やわらかに。」
電話を切る。
32、松本興業の社長室
画面は前と同様、二つに割れて、右側に丹波、左側に松本うつっている。
丹 波「そりゃ、返してあたりまえですわ。
しかし、組長はん、それならなんで最初の時ひきとらんかったんですか。」
松 本「そりゃ、おれの勝手や。」
丹波の首に刃物があてられる。
松 本「あんまり分からん事いうとおだぶつやで。」
丹 波「(ニヤリと笑って)松本はん、わいは今はしがないおっさんや。
若いときは、これでもいろんな所でならしたのんや。
別に死んでも惜しい命ではない。
だけどな、わいも今はクリスチャンや。
たけしのことは見ておれんかった。
わいが帰らんと、警察へ駆け込むことになってるんや。
幼児虐待、しろうとに対する恐喝、それに痛くない腹をさぐられんならん。
それでもええのんか。」
松 本「ほなら、たけしを大切にすれば気がすむんやな。
大切にするから返してくれ。」
丹 波「実の甥を大切にするのは当たり前やないか。
超能力が当たらんと、またどずくんやないのか。」
画面ワンシーンとなり、応接セットに向かい合っている二人。
松 本「あんた、超能力がどうしてわかったんだ。」
丹 波「組長さん、あんたまだ若いし、この道でも伸びるやろう。
だけど、どんな組織でも人の使い方や。
まして自分の甥となると血縁やろ。
将来あんたを守るかもしれん。
人は皆、神様からもらった賜物がある。
実の甥のいい所がわからんて、おじさんの資格ないで。」
松 本「あんたは珍しい人や。
わしを怖がらんし、馬鹿にしてない。
そして人の子どもの面倒みよる。
わしらはいつも人間のくづやという気持ちもってるためか、なんか馬鹿にされて
る気がする。」
丹 波「組長さん、おれ、神様の前では人間平等やと思う。
人間生まれた環境が違うと、やりたくないこともやらなきゃならん。
かたぎの人間にひどいことせんかったら、なんにも馬鹿にする理由がない。」
松 本「わかった。
もうたけしはどづけへん。
あんたに誓ういうより、あんたの信じる神様に誓う。」
丹 波「ありがとうございました。
じゃあ、明日連れてくる。
やっぱり伯父さんやなあ。」
(F・O)
33、新幹線緑の窓口
タツマ、時計を見ながら待っている。
丹波来る。
タツマ「丹波チャン、ご苦労さま。
うまくいったか。」
丹 波「うん、たけしには、また松本が悪い癖出すといかんから、おれの電話番号教えて
きたよ。」
タツマ「もう、そろそろコダマが来よる。
改札入ろう。」
改札に入って、ホームに上がると同時にコダマが入ってくる。
乗り込んで、指定の場所へ二人座る。
タツマ「面白い週末やったな。
来週はなにがあるんだろう。」
丹 波「それよりも一週間、自分のペースを守ることや。
教会の方は一ヶ月といってあるから、連絡しない方がいい。
あとのことは、神様が決めてくださるよ。」
(F.O)
34、丹波の家
三DKのマンションずまい。
娘は結婚し、就職はしているが独身である息子 哲、妻との三人住まい。
月曜の朝食の場。
哲 「お父さん、今月九万円のノルマすんだの。」
丹 波「もう二回位いってな。」
哲 「九万円越えると税金がかかるの。」
丹 波「税金じゃないよ。
年金がおりなくなるんだ。」
哲 「お父さんはいいな。
教会もあるし、九万円の仕事はあるし、競馬は腕がいいから負けないし、まあい
まの所悩みはないようだね。」
丹 波「悩みは、あんたがいい奥さんを迎えることだよ。(笑い)
ただ、世の中では、親が気に入らないなんて事が残ってるが、親が結婚するん
じゃないから、お父さんは気に入る、気に入らないなんて事はいわない。二人
仲良く暮らせばいいんだ。
クリスチャンどうのこうのもいわない。
神は、その人が必要なときに、必要な試練を与える人だからな。」
妻 紀子「お父さんはね、確かに極端な所のある人、だけど責任感は強い。
哲君も、若い間にいろんな事を経験してみる事ね。」
哲 「お母さんは、僕をクリスチャンにしたくないの。」
紀 子「そりゃしたいよ。
だけど、それは神様が決められる事だから。」
丹 波「人間は、いつも神の領域まで入り込み、その傲慢さに気がつかない。
それが、その人にも回りの人にも、面倒をかけることになる。」
哲 「おお難しい、いってきます。」
哲、出ていく。
紀 子「ところでお父さん。
シナリオの進み具合は?」
丹 波「まあまあだね。」
紀 子「ホテルの一室で書きたいんじゃないの?」
丹 波「あれはシナリオの中に登場するだけだよ。」
といって自分の部屋に入る。
丹波の部屋は、紀子さんのお陰で、うじはわかないが、机の上は書類の山。
デスクを整理して原稿用紙を取り出す。
35、回想(現役の時の会社の帰り)
丹波、頭を下げながら、話をする。
丹 波「私のシナリオ古いから、一度通信講座を受けなければなりません。」
偉い人「うん、君のいうように、今はテレビドラマの脚本が払底している。
これは安易な放送を続けた結果、ドラマの作家不在となっている。」
丹 波「私の気持ちは賞を取ろうとか、名をあげたいというものではなく、一人でも多く
の人に観てほしいという事です。」
丹波お供して繁華街の方へ足を向ける。
オーバーラップして新聞の記事がうつる。
「大江健三郎、ノーベル文学賞決定」
「広島、長崎の原爆が落ちたという原点に帰って話し合っていきたい旨語る。」
36、丹波の部屋
ペンを動かし、書いていく丹波
丹 波「秀吉のキリシタン禁止令により、領土を去る高山右近。
道の両側に平伏して、別れを惜しむ農民。
領主様お元気でと口々に叫び、右近の目にも、農民の眼にも涙がしたたり落ちる。
右近は、この後マニラに逃れ、六十六歳まで生き続けた。」
そこへ、こんにちはといってタツマがやってくる。
紀 子「あ、タツマさんいらっしゃい。
お父さん、タツマさんですよ。」
丹 波「上がってもらえよ。」
部屋に入ってきて
タツマ「あいかわらずシナリオを書いているな。
ところで、あと三週のギャンブル旅行の計画は出来たんか。」
丹 波「うん、昔の顔を利用して、京都の”かんぽの宿”を水曜日から日曜日までの五日
間押さえた。
一ヶ月の長旅の予定だったが、金がかかり過ぎる。
土、日が済んだら、一度帰ってきた方がいいと思った。」
タツマ「京都にしたのは、たけしが気にかかるからか。」
丹 波「うん、それもあるし、この間こだまで一緒になった女の人の教会も訪ねてみたい
し、豊中にはクリスチャンのいとこもいるよ。」
37、新幹線のホーム
朝十時頃、丹波、タツマを待っている。
タツマ「お待ちどうさん、遅れそうで走ってきた。」
丹 波「大島博子さんに電話したよ。
そうしたら、今晩食事に誘われた。」
タツマ「豊中やったら、大阪の梅田から宝塚の方へ行くんやろ。
豊中まで行くんか。」
丹 波「いや、大阪まで来てくれるらしい。
駅前の新阪急ホテルのロビーや。」
新幹線こだま入ってくる。
二人乗り込んで指定の席に座る。
タツマ「たけし、元気にしてるかな。」
丹 波「超能力が当たるといいけどな。」
タツマ「今朝は丹波チャン、少し元気ないな。
夜よく寝てないのか?」
丹 波「そんな事ないけどな。
今少し反省してるんは、勝負事に片寄り過ぎてないかなあという事や。」
タツマ「やり過ぎるという事か。」
丹 波「ちがうんや。我々キリスト者は、イエス・キリストを見てるんやが、勝負事をや
っている時は横向いてるという事や。」
タツマ「また丹波チャン考え過ぎてるな。
おれみたいにもう少し馬鹿になれよ。」
話し合っているうちに京都に着く。
ホームへ降りて改札を出る二人。
タツマ「どこへいくんや。」
丹 波「まず、たけしのところへいってみよう。」
二人、タクシーに乗る。
38、松本興業事務所の前
タクシー降りて、事務所のドアをあける。
タツマ「今日は。」
若い者「なんや、おのれは?」
タツマ「おのれは、はごあいさつやな。
組長さん、いはりますか。」
若い者「いや出掛けてるけどなんや。」
若い者の後ろに腰掛けている兄貴分が声かける。
兄貴分「あんたら、組長のところへたけ坊つれてきた人と違いますか。」
タツマ「そうどす。
たけし君元気ですか。」
兄貴分「今連れてきます。
そちらへどうぞ。」
応接セットヲ指さす。
座って待っていると
たけし「あ、おじちゃん。」
といって、とんでくる。
丹 波「元気そうやな。」
たけし「ぼく、けんか強うなった。」
丹 波「それはいい。
男の子だからな。
だけど、弱いものいじめはだめだぞ。」
若い衆達、こっちを見て顔をしかめる。
タツマ「どうや、組長のおじさんよくしてくれるか?」
たけし「やさしゅうなった。
今週の競馬から、予想やらないかん。」
丹 波「しっかり頑張れよ。
天には、神様と一緒に、お父さん、お母さんがいて、たけしを見ているよ。」
(F.O)
39、同事務所
丹波、タツマ、兄貴分に頭を下げ
二人「ほな、よろしゅうに。」
兄貴分「組長がもどりましたら、よく伝えておきます。」
二人出ていく。
40、市街地
歩く二人
タツマ「ああ腹減ったな。」
丹 波「あそこで寿司つまもか。」
タツマ「ええなあ。」
寿司屋ののれんをくぐる。
41、寿司屋の中
二人のほか客はいない。
タツマ「ビール飲んでもええかいな。」
丹 波「うん、この後、サウナで寝てたらさめるよ。」
タツマ「それにしても、ちょっと丹波チャン元気ないな。」
丹 波「いや自然に頭へ浮かんでくるんや。
イエスがさかんにわれに来よといっているようでな。
おれ、定年と一緒に、イエスに対する姿勢も変わったんじゃないかと思うんや。」
タツマ「また丹波チャンの考えすぎとちがうのか。」
丹 波「おれね、今人にどんな生活しているんかと聞かれると、イエスの前にいた富める
青年のように、あれもやってる、これもやってるっていうやろう。
しかし、富める青年が財産を分けろとイエスに言われて去っていった。
そんなところがいまの俺にあるような気がする。」
タツマ「そうすると、競馬やめるのか?」
丹 波「いや、やめない。
もう少しのめり込むのをやめて、大まかに楽しんで見ようと思う。」
タツマ「ま、いいさ。考えすぎにならんようにな。
それだけが心配や。」
42、寿司屋
勘定をすまして出る二人
(WIPE)
43、 京都駅
阪急電車大阪行に乗る二人
(WIPE)
44、車内
いねむりしている二人
(WIPE)
45、大阪駅
阪急のビルから出る二人。
タツマ「丹波チャン、サウナ探そか。」
丹 波「そうやな、
新地の通り歩いてだれかに聞いてみよう。」
(WIPE)
46、サウナの休憩室
いすに寝転んで、眠っている二人。
(WIPE)
47、サウナの入り口
サウナから出る二人。
丹 波「ああ、よく寝た。」
タツマ「さっぱりしたな。
ビール気も抜けたし、新阪急ホテル行こか。」
丹 波「歩いてすぐや。」
新地の通りを出て、JRの駅の方へ歩いていく二人。
夕方の太陽が二人を照らす。
48、新阪急ホテルのロビー
タツマ「まだのようやね。」
水を持ってくるウエイトレスにコーヒーを頼む。
しばらくして大島博子さんが入って来る。
博子「どうもお待たせしてすみません。」
丹 波「いえ、私たちも今来たところです。」
博子「競馬の調子はどうですか?」
丹 波「ええ、まあまあです。」
博子もコーヒーを頼む。
博子「お二人とも、定年すぎですか?」
タツマ「ええ、六〇歳過ぎたばかりです。」
博子「教会では働きざかりでしょうに。」
丹 波「エッ」
といってびっくりする。
顔を上げて博子の顔を見ると、博子の顔が光っているようにみえる。
光が斜めに入り込み、博子の顔を照らす。
丹 波「(小声で)主だ!」
博子「は!」
丹 波「いえ、別に。」
ホテルの喫茶室が大きく写されて少しずつカメラパンする。
大島博子の声だけが聞こえる。
博 子「先週、青年会の人達と、映画の議論をしましたの。
ほら、今上映されている”インタビューウイズ・バンパイア”なんです。」
丹 波「(辛うじていいかえす。)若い人に人気がありますね。」
博 子「ホホホ、私も青年会の人にすすめられて、私も観てきましたの。
迫力も中身も素晴らしいものでした。」
タツマ「バンパイアというと吸血鬼だから、怪奇映画じゃないんですか?」
大島博子の顔のアップ。
49、映画館の前
バンパイアの迫力のあるポスター
(O.R)
50、ホテルの喫茶店
大島博子の唇のアップ
博 子「一言でいって、映画革命か革命映画というんですか、過去のマイナス面を滅ぼし
て、新しい人間の心を持ったバンパイアが新しく生活していくんです。」
丹波、タツマに走る驚愕の表情。
博 子「私たちも、教団教区で働く人も皆老いていき、動脈硬化していきます。
だから、新しい映画を観て、若い人と話をして若くなっていかないとあらゆる面
で遅れていくと思います。」
丹 波「私は映画のシナリオを書いているんですがー
ご指摘どおり遅れています。」
博 子「しばらくはきついでしょうね。
でも、“求めよ、さらば与えられん。”でしょうね。」
丹 波「今、ちょうど,主の呼び声が聞こえるから帰るといっていた時なんです。」
喫茶店全体が映し出され、三人に筋のような光が当たっている。
(F・O)
51、新幹線のりば
丹波の帰名を見送るタツマと大島博子。
丹 波「タッチャン、無理するな。」
といって、十万円を出して、タツマに渡す。
丹 波「我慢出来なくなったら、使え。
でも、奥さんに渡す金だと思って出来るだけ手をつけるな。」
タツマ、何度も頭を下げて受け取る。
博 子「“王妃マルゴ”観られたら、手紙で感想送ってください。」
新幹線が到着し、丹波乗る。
去っていく新幹線。
ずっと見送っているタツマと大島博子
(「乾雲の巻」エンドマーク)
画面うす暗くなって、“アクセス”の歌が、ゆっくりと流れて一分位経過させる
変なおじさん(乾龍の巻)