屋上の朝
屋上。
柵にもたれ、足下の校門をみつめる少年と少女。
「看板立ってますなぁ」
「そうですなぁ」
「浮き足立ってますなぁ」
「そうですなぁ」
「あらあらスカート膝下ですぜ」
「そうですなぁ」
「なんか、卒業式っぽいなぁ」
「卒業式だからなぁ」
「じゃあなんで君はここにいるんだい?」
「そういうあなたもなんでここにいるんだい?」
「卒業式何時から?」
「10時」
「よく覚えてんね」
「送辞読みますから」
「じゃあここにいちゃ駄目じゃん」
「そういうあなたもここにいちゃ駄目じゃん」
「あぁ、答辞読むんだった」
「しっかりしてよ、元生徒会長」
「うるさいよ、現生徒会長」
「きっと今頃、副会長が血眼になって君を探してるよ」
「そういうあなたも探されてますよ」
「リハーサルなら昨日したじゃんね。読む前に戻りゃいい話だっつの」
「それもそうですねぇ」
「さて、君は私を探しにきたのかい?それとも一緒にサボりにきたのかい?どっちなんだい?」
「なんかきんにくんみたいですよ」
「言い回しだけだ、気にすんな」
「先輩、ほんとに卒業するんですか?」
「するねぇ」
「実感沸かないです」
「失敬な。内部試験なんかよゆーだっての」
「あんなん、落ちる人がいたら見てみたいですよ」
「秀才め、むかつく発言だな」
「話ずらさないで下さい」
「…なんか、前にもこんな会話したよね」
「そうでしたっけ」
「あ、それは前の会長としたんだ」
「前の会長ってどんな人でしたか?」
「数mしか離れてない大学にいるのに1年も顔出さない薄情な人、かな」
「じゃあ先輩は、卒業してもちゃんと顔出して下さいね」
「どうかなー。担任にさ、思いやりが欠如してるってよく言われるんだわ」
「それ人として最悪ですね」
「ほんとね。こんな人が生徒会長やってたとか茶番でしかないわ」
「たしかにずいぶん無茶なことやってくれましたよね」
「……」
「挨拶が書けないって入学式逃げ出したり、体育祭サボって昼寝してたり、ホットプレート持ってきて焼肉はじめたり、後夜祭の花火みたいからって屋上の鍵盗んだり。そのたび俺が先輩探しまわって、代わりに副会長が後始末ですよ」
「多分、全校生徒が思ってるよ、宮田くんが生徒会長だったって」
「先輩が仕事しなさすぎるからですよ」
「みんな驚くだろうねー。答辞読むの、私だもん」
「そこはちゃんとやるんですね」
「元、生徒会長ですから」
「宮田先輩が聞いたら泣きますよ」
「昨日のリハでもう半泣きだった」
「じゃあ今日は号泣でしょうね」
「そうかもね」
「そろそろ行きません?」
「もうそんな時間?」
「さっきからケータイが震えてるんです」
「副会長さんからの呼び出しか」
「おそらく」
「そかー。答辞かまずに読めるかしらー」
「先輩でも緊張するんですか」
「表舞台に立つのは生徒会総選挙以来だわ」
「…卒業式終わったら、宮田先輩を労う会しましょうか」
「私の事も労えよ」
「答辞かまずに読めたら考えます」
「よーしがんばるぞー」
屋上を去る二人。
誰もいない屋上に、チャイムの音が響く・・・
屋上の朝