びゅーてぃふる ふぁいたー(2)

対決Ⅰ―Ⅰ

 あたしは目覚めた。体を触る。どこにも異常はない。きれいな体だ。前回の戦いのことを思い出す。かすかな記憶が甦る。
そう、目の前に大男がいた。あたしの首を絞めている。あたしの長い髪が首に巻きついている。だから、厭だと思ったんだ。長い髪なんか、戦いには不利だ。激しく動くたびに、髪が顔にかかってくる。うっとおしいだけでなく、目に覆いかぶさると、一瞬だが、相手の動きが見えなくなる。致命的な瞬間になるときもある。急いで、手で顔から髪を払う。それだけで、敵を攻撃できなくなるし、敵から攻撃を受ける。
 だが、自分で自分を決めることはできない。何故なら、あたしは、インターネットゲームの戦闘美女だからだ。あたしを動かすゲームプレイヤーは、パソコンか携帯電話かのインターネットを通じて、このゲームに参加している。
 このゲーム、つまり、あたしを作りだすソフトのことは知らない。あたしは、男か女か知らないけれど、マザーと呼んでいる。マザーがどういう目的で、なんのために、このゲームを動かしているのかは知らない。お金儲け?このゲームの使用料はいらない。無料だ。暇つぶしの輩たちが、このゲームを楽しんでいるわけだ。
 ゲームの内容はいたって簡単。あたしが主人公。美少女だ。さっき言ったように、髪の毛の長さも、形も、顔の輪郭も、目や唇、耳の大きさも、頭の形、手足の長さ、身長、体重など、全てが、ゲームプレイヤー(長ったらしいため、今後はゲーマーと呼ぶ)によって決められる。ゲーマーたちは、自分の好きなパーツを選び、自分の憧れの美女にあたしを作り替えるわけだ。だから、あたしは、本当の自分がどういうものかはわからない。毎回、姿形が異なるわけだ。だけど、ゲームが終了し、新しいあたしが作られても、意識だけはずっと続いている。体は変わっても、心は同じだ。それは、生まれ変わっていること?なのか。
 だが、この意識も、マザーが作ったものだ。マザーは、あたしの心を読んでいるはずだし、あたしが思ったり、考えたりしていることも、マザーが思ったり、考えたりしていることなのだ。でも、あたしには、そんなことは関係ない。どうでもいいことだ。
 ゲームのスイッチが入れば、あたしは戦うだけ。髪形がどうであれ、武器がどうであれ(そう、あたしの武器もゲーマーが決める)今回のように、素手の場合もあるし、銃が使われることもある。また、鉛筆だって、十分な武器だ。これも、ゲーマーの趣味だ。趣味と言えば、戦う相手もゲーマーが決める。大男からちびまで、年寄りから子どもまで、時には、ライオンやトラなど動物や、麒麟や龍など、空想上の怪物と闘うこともある。これも、全てゲーマーが決める。
 く、く、苦しい。あたしの喉が締められる。目が大きく開く。鼻の穴も開く、口も開く。喉から呼吸ができないため、体中の毛穴が開く。せっかくの美少女が台無しだ。
 何をじっとしているんだ、あたしのゲーマーは。このままだとあたしは死んでしまう。つまり、ゲーム終了だ。あたしは、あたしの首を絞めている大男の両手首を掴む。引き離そうとする。だが、力ならば向こうが上だ。そう設定されているからだ。首につめが喰い込んでくる。目が出目金状態だ。意識が遠のく。くそっ。あたしは右足を思い切り蹴りあげた。足の甲が相手の誇間に的中する。ぐほ。大男が声を上げた。思わず、しゃがみこむ大男。大男でもあそこは急所らしい。
 マザーは、男の弱点は作っていてくれたのだ。ありがたい話だ。以前なら、このまま終わっていた。つまりあたしは死んでいたのだ。ゲームを終えていたあたしだが、何回か死を迎え、あたしは、ゲーマーの操作じゃなくても、動けることを知った。これもマザーの力なのかもしれない。でも、何故、あたしがゲーマーの操作なしでも動けるのだろう。マザーは何を考えているのだろう。
 しかし、今は、そんなことはどうでもいい。とろとろしているゲーマーにあたしの命はまかせられない。しゃがみこむ大男にキックをかます。右、左。右、左。全てが後頭部、延髄部分に当たる。連続キックだ。ワンツー、ワンツー。リズムよく、蹴り続ける。
 もたもたしていられない。画面の隅を見る。相手のエネルギーが減少している。そう、あたしが意思を持った時から、このゲームの外部を見られるようになった。これも、マザーの意思なのか。あたしは、戦闘員であり、ゲーマーでもあるのだ。おかげで、あたしのエネルギー残量も、相手のエネルギー残量もわかる。それ、もうすぐだ。相手のエネルギーはゼロ近くまで減少している。だが、キックだけでは相手を倒せない。
 周りを見る。何か武器になるようなものはないか。ここ、戦闘場所は、ビルの屋上。空調の配管が、機能美を映し出している。本当に、そんなもの美しいのか。しまった。左足を掴まれた。余計な事を考えていたからだ。さっきまで後頭部を抑え、膝まづいていた大男が手を伸ばした。あたしは地面に叩きつけられた。
 ちぇ。もたもたしているからだ。あたしを操作している奴をみる。おっさんだ。こんなおっさんに戦闘ゲームができるのか。あんたの敏捷性テストにつきあっている暇はない。何か興奮している。涎を垂らしやがって。
 そう、全てのゲーマーがあたしの勝利を望んでいるわけではない。それなら、ゲームなんかやるな。中には、Mの性格なのか、あたしが嬲り殺されるのを喜ぶゲーマーもいる。だが、あたしは負けない。こんな大男にも、変態のゲーマーにも。
 倒されながらも、右足のハイヒールのかかとで、相手の顔を蹴る。蹴った後で思う。おいおい、何で、ハイヒールなんだよ。あたしは、これでも戦闘員だろう?戦いのプロだろう?なんで、ハイヒールをはかなくちゃならないんだ。少しでも背を高くして、スタイルをよく見せたいのかもしれないが、ここは、ミスコンテスト会場じゃない。ハイヒールでは動きづらく、バランスがとりにくい。ハイヒールを選択することだけでも、今回のゲーマーがあたしの敵であることを示している。

びゅーてぃふる ふぁいたー(2)

びゅーてぃふる ふぁいたー(2)

対決Ⅰ―Ⅰ

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-03-07

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