宇宙の旅人

空を見上げていた。
なんて、高く澄んでいるんだろう。
美しい!

炎くん

振り向くと、美しいとはお世辞にも言えない女が立っていた。
俺の幼なじみの、恋だった。いつも気付かれまいとしているのか、気づくとそばに立っている。

帰ろう

俺の方を見ずに言い放った。多分、俺がついて行く事を前提にしているんだろう。

俺、よるとこあるから、先帰れよ

そう言って恋と反対の方向に歩いて行きたかったが、あいにく河原の一本道。引き返す訳にもいかず、先に歩きだした。

待ってよ

すぐに追いつかれる。腕を組まれるのではと思い、反射的に万歳をする。

そんなに空が好き?

周りを気にしながら、万歳のまま歩いていく。
どこでまこうか。この先はずっと真っ直ぐ橋まで続いている。橋まで行くと、俺たちの家はすぐそばになる。逃げ切れない。

どこ行くつもりなの?

恋の質問はもっともだった。
言葉に詰まりそうになり、また、上げたままの腕が辛くなったので、思いつきで言った。

空へ

言った途端、俺と恋の体が空へ吸い込まれた。実際には、浮き上がり真上に飛んで行った。

きゃー

思わず叫んでしまった。横を見ると恋がヘラヘラと笑っている。
しばらく飛んでいるうちに、スピードに慣れてきた。周りを見る余裕が出てきた。
上を見上げると、すでに空ではなくなっている事に気づいた。
おかしい!息が出来る。
隣で恋が笑っている。

体の自由がきくうちにと、手足を動かしてみたが移動する事はおろか、向きを変える事すら出来ない。
だんだん寒くなってきた。
隣で恋が笑っている。

太陽の光がすっぱり切れる所まで来ると、諦めの気持ちが湧いてきた。
俺の人生、いい事あったかな。走馬灯のように思い出したかったが、恋の笑いが気になって仕方ない。

恋、大丈夫か?

すでに二時間笑っている彼女は、返事すら出来ないようだ。
このままでは、俺たち死んじまう!
嫌だ、恋と二人、宇宙の藻屑と化してしまうのは。何世紀か後で発見される自分を思うと哀れになった。

あはは

ついに恋が壊れた。やはりヒロイン向きではなかったようだ。このままでは、ヒーロー向きじゃない俺も、あははだ。
どうする?俺。
考えろ!俺。
考えたいが、恋の笑いが邪魔をする。

やがて、暗闇を抜けて、緑色の星が見えてきた。さては、あの星で恋と二人、アダムとイブをやる運命なのか?
しかし、あっさりスルーして、ひたすら暗黒の宇宙空間を飛んでいく。
何故、俺と恋なんだ。俺が何をした。確かに恋には日頃から冷たかった。
だが、神を敵に回すほどの事は何もしていない。一体どんな力が、俺たちを連れて行くのだろう。
流石に笑い疲れたのか、だらしなく口を開けて飛んでいく恋。

そうだ。彗星のように回ってまた地球に向かっているのかも知れない。
俺は飛んできた方向を見た。
やはり、そうだ。頭上にあったはずの星座が、足元に見える。
助かる。

恋、しっかりしろ!

俺は思いっきりグーで殴った。

炎くん

大丈夫か?

痛い

見ると鼻から血が出てる。
その血が、見る見る宇宙空間に広がり、まるでスケートをするように、綺麗に俺たちは向きを変えた。
頭上には、綺麗な星座。

あはは

まただ。俺はまた、声を出して笑ってしまった。
いつ終わるとも知れない宇宙の旅に、恋という女を与えてくれて、ありがとう。
見ると、恋が優しく微笑んでいた。

あはは

あはは

あはははは

宇宙の旅人

宇宙の旅人

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-03-07

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