泣き顔

人の感情を感じとるときに、一番伝わるのは、私は泣き顔ではないかと思う。

ただ泣くと言っても、その泣き方には色々ある。

うれし泣き、悔し泣き、本当は泣きたくないのに涙がこぼれてとまらないときなど本当に色々ある。

私は、人が「泣く」ときの顔が一番美しく思える。

ただ、これは誰でも美しくみえるというわけではなく、いつも自分自身と向き合って人との関係に悩み、考え、自分の人生について本気で逃げずに向き合っている。

そんな、人がこぼす涙が美しいと私は思う。

泣き顔

彼は人間にという生き物を嫌っていた。

子供のときに、いじめられたということもあったが、

それ以上に人間の嫌いなところは、他人のことを悪く言って、「私はその人よりはマシないい人間よ。」みたいなことを遠まわしにいっているようにして、必死に自分の周囲の評価を上げようとする人間がもっとも嫌いであった。

そして、自分にもそんな気持ちが潜んでいるのに気づいたときには、本当に怖いと思ったりもした。

彼はそのときに知った。人間は誰しも妬み、恨みなどの感情を持ち合わせており、愛や慈悲などといったものは、その醜くも魅力てきなものを隠すために、いや、目を背けるために、人間がおこなう一種の抵抗とでもいったものなのだろう。

だからこそ、彼は自分を含めた人間といった存在が嫌いだった。

そんな、彼の前に一人の女性が現れた。

その人との出会いは、突然だった。

それは、夜も深い、深夜に河川敷に腰掛けてただ川を眺めていた、私に彼女は声をかけた。

「こんな、夜更けになにしてるんですか?。」と私から言わせれば、こんな深夜に女性がなにしてるのと聞き返したいところではあったが、面倒くさくなりやめた。

「隣座ってもいいですか?。」と彼女が続けて話してきたので、「別にいいよ。」とぶっきらぼうに私は答えた。

私はどうせ、社会生活で辛いことがあって、愚痴でも人に聞いてもらいたいだけだろう。と思っていた。

しかし、それから彼女は一言も喋らすしばらく、静寂した時間が流れた。

しばらくすると、彼女は「ありがとう。じゃあ、またね。」と言って、私の前から去っていった。

彼女の奇妙な行動になんとも驚かされた私だったが、また次の日も、その次の深夜の夜にも彼女は現れては同じことを繰り返した。

時は流れ、3ヶ月ほど経ったとき何時しか彼女が隣に来てくれることを私は楽しみにしていた。

会話など、ほとんどしていないのにただ、彼女が隣に居るそれだけで、自分の居場所ができたような気がして居心地が良かったのだ。

あるとき、隣の彼女の顔をなんとなく見たときに、彼女は泣いていた。

それは、声をあげてでもなく、表情を歪めてでもなく、真顔で微動だにせずにただ目から涙を流して泣いていた。

その彼女の泣き顔が本当に美しく、しばらく私は見蕩れていた。

何時しか私も、彼女の隣に座って彼女と同じく、声をあげてでもなく、表情を歪めてでもなく、真顔で微動だにせずにただ目から涙を流して泣いていた。

互いのことを気にせずに、気兼ねなく涙を見せる人ができた。

こんなに嬉しいことはないと私は思った。

世間の人はこんな私たちのことを頭のおかしな変わり者と思うだろう。

ただ、私たちは辛いから泣いているわけではない、悲しいから泣いているわけではない、ただ、安らぐから泣いているのだ。

ただそれだけ・・・。

泣き顔

泣き顔

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-03-06

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