散歩道。
君といつもの様に散歩していつもの曲がり角を曲がるまでは何も変わらなかった様に思うのは、何処からか何かが微妙に変化した事への自分なりの言い訳だったのかも知れないが、何も思い当たる節がないので取り合えずいつもの曲がり角を曲がった時点から何かが微妙に変化したと自分なりに納得せざるを得なかったのかも知れない。
やばいなぁ。
僕はそうつぶやいた。
やばいなぁ。
僕はまたそうつぶやいた。
君といつもの様に散歩していつもの曲がり角を曲がるまでは何も変わらなかった様に思うのは、何処からか何かが微妙に変化した事への自分なりの言い訳だったのかも知れないが、何も思い当たる節がないので取り合えずいつもの曲がり角を曲がった時点から何かが微妙に変化したと自分なりに納得せざるを得なかったのかも知れない。
何がやばいの?
いや、何がやばいって・・・その・・・。君には分からないか?
僕には分からない。
そうだよな・・・。
僕は自分自身にも上手く説明出来ないこの状況の微妙な変化に少し苛立ち少し戸惑い少し興奮していたのかも知れない。僕自身はきっと僕自身であり、何も変わってはいないのだろうと思うのだが、それはあくまで僕自身の主観であり、周りから見れば僕自身が微妙に変化し、この世界が通常のままなのかも知れない。そしてこの状況があまり良い状況ではないという事を僕自身が勝手に思い込んでいるだけなのかも知れない。僕自身にしろ、もしくは僕自身以外の世界にしろ、それが良い方向か悪い方向かに微妙に変化した事が僕自身感じ取れた事が厄介なのである。
やばいなぁ。
僕はそんな事ばかり誰にいう訳でもなくささやき続けていた。
君はいつもの様にマイペースで散歩を楽しみ、そして時折僕の顔を覗き込み僕が感じている微妙な変化を探る様な表情を見せる。
僕は大丈夫だと思うけど・・・。
君は独り言の様につぶやく。
多分、大丈夫なのだろうと僕にも分かってはいるのだがこのいつもと微妙に違う感覚が僕の中で芽生えてからは、それを取り払おうにも影の様に僕の一部にいつもぶら下がり、切っても切れない存在になってしまっていた。
君には僕の見えない物が見えるのかい?
???
君には僕の聞こえない物が聞こえるのかい?
???
君は僕の感じない物を感じるのかい?
???
ごめん。難しい質問だったのかも知れないね。
僕には貴方の見ている物が全て見えている訳ではないし、貴方の聞いている全てが聞こえる訳でもないし、貴方が感じている全てを感じているわけではないと思うよ。だって僕は貴方ではないからね。
そうだね。君は僕じゃない。そして僕も君じゃない。
それならこう聞こう。何かいつもと違う気がしないかい?
君は不思議そうに僕を覗き込んだ。あたかも僕の顔がいつもと違うのではないかと僕の顔の変化を読み取ろうとしているかの様に。
一緒だと思うけど。一緒だよ。
君はそう言って興味なさそうに僕との会話を打ち切り、いつも通る散歩道に咲く紫色の小さな花の匂いをかぎ少し溜め息を付いた。
そうなのかな。いつもと一緒なのかな。
僕はいつもの散歩道をいつもと違う感覚の中で散歩し続け、そして君はいつもの散歩道をいつも散歩するみたいに散歩している。
そしていつもの曲がり角を曲がれば散歩は終了するのである。僕は散歩に出た時この曲がり角を曲がった時から何かが微妙に変化した様に感じたのである。そうであればこの曲がり角を曲がればこの何かが微妙に変化した感覚からもとに戻るのではないかと、ふっと思ったのである。何となく何処かで見た映画みたいに。僕は期待感と不安感を抱きつつもいつもの曲がり角を曲がる事に期待し躊躇った。そしていつもの曲がり角に辿り着いた時僕は君にこう言っていた。
君と話が出来て良かった。
いつもの曲がり角を曲がるとやはりもとに戻っていた、何かが微妙に変化した感覚はなくなり、僕には君の言っている事が分からなくなっていた。
君は僕を覗き込みおもむろに吠えた。
散歩道。
一応告知しておくが、もちろん村上春樹風に書いてみた事は説明がなくても分かってもらえると思う。