海から上がってきた傷、別の空に降る雨
もたつく 秘密を含んで閉じたくちもとから
君が 喪われる
雨が降る そこに違うよどんだ空がある
それが君の別の空で
乾いて軽かった砂浜が 温かなあの雨を受けて じんわりと潤っていく
浜辺に掘りこまれた穴の中には 行き場を喪ったまま
ゾウガメがぽつんとうずくまるもので
曇った空など彼は仰いだりしない
昼過ぎにはにわか雨
ビーチからは人がいなくなりそう
午後になれば 君は帰ってきて
僕に 海から上がってきたその傷をみせびらかす
岩場に打ちつける潮の水で洗うなら
手ひどい 擦り傷も ちょっとした 刺し傷も
はっきり 見違えるほど その姿を刻みつけられるものだ
鮮やかな肉の赤らみ
君はその事実を知っているし
形どおりにそれが 自分のものにならないことを知っている
それはただ お互いの誤解の中で
絶えず 実現させていけばいいのだとも
粘膜をすり合わせ 泳ぎ着いた場所につかまり
君は平気だという
ひっそりと欲望は 口をふさがれ
感情を表す言葉は その無粋さになりをひそめた
いつだろう と 僕はふと思う
肌の上を這った痕跡を
君が信頼しなくなったのは
じゃあ あなたにとって? と君は言う
傷を求めるなら そこには温かな体温が感じられてしかるべきなのに
その肌の下には何も 流れていないみたい
だから確かめるの
それから僕は ますます 何も言えなくなった
そうして相変わらず 君の別の空には別の
ささやくような雨が降り続けている
海から上がってきた傷、別の空に降る雨
イメージの描き方として散文詩風。と考えて、2作目を書いてみました。いかがでしたでしょうか。ある一つの設定を描いてはいるのですが、それをはっきりと表すことは避け、二人の間に流れる空気の不穏な感じだけを表そうと試みてみました。それが成功して・・・・いると、小説の方も書きやすいのですが。毎度のことながらここまで読んでいただいた方、本当にありがとうございます。これに懲りず、これからも色々とお付き合い下されば幸いです。