とある少女の夢想遊戯

とある少女の夢想遊戯

とある魔術の禁書目録に関するSSを書いてみようという計画の元、書き始めてみたものです。作者の独断でとあるゲームのキャラやらオリキャラやらが出てきます。

注意!この物語はツイッターでの仲良しさんと、オリジナル設定を使う二次創作物です。

【序章】  現実


2013年4月某日。学園都市第2位の超能力者である垣根帝督と集まった4人(一方通行、結標、打ち止め、上条)は暇を持て余していた。
本来の彼は暗部組織、スクールに身を置くれっきとした悪人...なのだが、最近の彼はその闇に染まりきった生活に疑問を持ち始めている。

実は、垣根帝督に新たな能力が備わったのはご存知だろうか。

想世元移(イマディメールド・ムーヴ)。この世に同時に存在している世界の境界線、正確には枝状分岐右端末点のフィルタを高速で識別し素粒子セルの書き換えを行うことで、自分たちの生きている世界とは全く世界観の違う世界へと渡り歩けるようになったのだ。

現に彼はその能力を使ってこれまでにキノコ王国や幻想郷など様々な世界を旅してきた。度重なるアクシデント、壮絶な戦い、いろいろなことを経験しつつも彼は様々な世界を見ることで、確実に成長していった。

「行ってみたい世界ってのはみつけようとすると見つからないもんだな。」

垣根は独り言のようにつぶやく。一方通行や結標淡希、打ち止めや上条など周りの人物の手も借りて面白い世界をさがそうとしてはいるのだが、そうそう見つかるはずもなく5人でだらけている状態が続いた。

「つかよォ...なンで俺たちまでお前の趣味に付き合わされなきゃならねェンだ!?」

一方通行は当たり前のことを吐き出す。当然だ。今日この4人はこの垣根の趣味の為だけに集められたのだから。

「正直もう思いつかないわよ...もう相当な数の世界を回ったんだし、この辺で抑えておいてもいいんじゃない?」

冷静な判断をくだしてきたのは結標だ。彼女はこの5人の中で一番の常識人であるかもしれない。

「てゆーかミサカもいろんな世界にいってみたいんだけど!って、ミサカはミサカは上目遣いでだだをこねてみる!」

あどけない表情でそう言ってくるのは打ち止め(ラストオーダー)。その視線が垣根に向けられた瞬間、首元の電極に手を伸ばした一方通行を止めたのはいつも不幸なあの少年。

「ま、まあまあ!落ち着きましょうよ第1位さん!?そうカッカしててもあとに残るのは黒歴史だけでしょう!?」
上条当麻。幻想殺しを持つ無能力者。

この5人はとある出来事を境に、行動を共にすることになったのだが、果たしてこの5人にどんな出来事があったのか。
舞台は2ヶ月ほど前まで遡ることになる。


不思議な少女達と繰り広げられた、あの戦いの記録を。



【第一章】 8人目の超能力者


2013年2月某日。学園都市第2学区にて極秘能力についての実験が進められていた。
目立たない第2学区の中でも特に目立たない、路地裏にポツリと異様な外見を放つ一つの建物。
通称、紅いマンション。
何年も前から住んでいる人がおらず、廃屋同然のこのマンションに、ただ1人でもう何年も篭りっぱなしの少女がいた。
外見10歳くらいの、髪を三つ編みに結った普通の女の子。ただ、一つだけ普通の女の子と比べて違うところは、その顔があまりにも暗いということだろうか。
この少女こそ、極秘実験の対象人物なのである。
以下、実験に関わる研究者たちの会話記録である。

「....今日はなかなか眠らないな。」
「珍しいこともあるもんだ、あんなに長時間起きていたことなんて今までなかったんじゃないか?」
「全くだな、どうしたんだろうな。」
「いつもならご自慢の能力ですぐに夢の中に行っちまうのになwww」
「おい、監視中に笑うなよwww俺まで............................................」


ザザッというノイズと共にこの記録はここで途絶えている。彼らに何があったのか、今では知る由もない。
機材の故障か、ジャミングにあったか、殺されたか。考えられる選択肢といえばそれぐらいのものだ。

そして、こんな資料も転がってきた。


実験名称
~人を信じられなくなった者の哀れなる妄想~

対象人物;窓付 夢遊 (まどつき むゆう) 10歳

使用する演算はx=aにおける連続。
相手の精神に対して直接攻撃をしかける狂気じみた能力者。
相手のもっとも理想とする世界を幻覚によって作り出し、その精神世界の中でゆっくりと幸せな一生を過ごさせ、精神世界の中で命を絶たせることで現実の相手を殺すのが主流。
創り出す仮想空間の中では時間の流れが思いのままであり、現実にとっての1秒の間に最大1万年を経過させることも可能。
この超能力の恐ろしいところは自分が幻覚を見ていると気づかないところだ。ただ、もし幻覚を打ち破れた場合、もうほかの攻撃手段は残されていない。
つまり、幻覚を破られればそれまで、ということである。
学校には幼い頃からほとんど行けていないらしい。
見た目は髪を二つに結ってあるどこにでもいそうな女の子なのだが、その心の闇は誰にも計り知れない深さをほこる。能力者の中で一番人格が破綻している非常に危険な人物。
彼女自身、能力をうまく使いこなしきれていない。
言葉を滅多に話さず、普段は自身の家にこもりっきりで、布団によく入る姿が目撃されている。
以上の者を8人目の超能力者、幻覚夢想【リミラージュイマジン】として極秘裡に拘束。能力の実態の確認を急ぐ。



時は過ぎ2日後、第7学区の中心で、沢山の人が同時に眠るように息絶えるという事案が発生した。
そして、その死体の山の中心で、少女はこう呟いた。

「......幸せに死ねて、よかったね?............アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」


【第二章】 新組織行動開始(前編)

2月20日。学園都市中は大パニックに陥っていた。理由は他でもない、窓付夢遊の起こした大量殺戮によるものである。
当然、学生の親も黙っていない。学園都市の外からは
「娘を返して!」
「こんなことを起こして何がしたいんだ学園都市は!息子を早く返してくれ!」
といった抗議の声がとどまるところを知らない。
当然、この非常事態は暗部にも知れ渡っていた。すぐに解析班や下部組織の交戦班が窓付に対して動きを見せた。
が、ものの4~5分で壊滅。その誰もが笑顔で、眠るように息絶えているのだから不思議なものである。


そしてついに、新組織に行動命令が出された。
具体的な指示はない。ただ、市民の救出を急ぎ、事件の現況を掴めと。

新生アイテム
ハイスクール
NEWグループ
Lm

この四大組織が、今回の事件を解決する上ではなくてはならない存在になる。



新生アイテムのリーダーである結標淡希とその構成員である上条当麻、八咫通行(ミルセラレータ)の3人は行動を開始した。
3人は必死に考えた。この状況を打開するにはどうすればいいのか。
学園都市中が大騒ぎしている中だ、下手に暴れれば余計に混乱を起こして状況が悪化する。
出た結論は意外にも単純なものだった。

とにかく、余計な犠牲は出さないようにしよう。
満場一致で3人は動き出した。

「みなさんとにかく落ち着いて!私たちの言うとおりに行動すれば絶対安全だから!」
結標は座標移動(ムーヴポイント)でたくさんの学生を第7学区外へ。

「ひどい有様だな...でもな、そうやって心を閉じてまわりを拒絶しているようじゃ、死んだコイツも悲しむだろ!アンタはこの悲しみを乗り越えて死んだコイツの分まで生きていかなきゃいけないんだ!」
上条は耐え難い現実に遭遇し、精神崩壊した人たちを励まし、一緒に外へ。

「どうなってやがンだ?誰がこんな殺戮を引き起こしてるってンだ。......今の俺にできることといったらこれくらいでしかねェよな。」
八咫通行は自慢の足の裏のベクトル操作で遭難者の搜索にあたった。

3人の行動により、大パニックに陥っていた第7学区中の学生はほぼ全員外に出すことに成功。
被害も最小限にまで食い止め、第7学区から学生の姿は消えた。
いつも賑わっている第7学区がここまで静まり返ってしまうなんて皮肉なものだ。
仕事を終えてひとまず安堵したのも束の間、魔の手はすぐそこまで迫ってきていた......。


まるで大災害でもあったのかと思うくらい死体が転がる第7学区の中をNewグループのリーダーである絹旗最愛は単独で行動していた。
好きで単独で行動しているのではない。共に行動する仲間がいないのだ。
構成員はほぼ全滅、唯一の生き残りである打ち止めも少し目を離した隙に見失ってしまったのだ。
打ち止めは絹旗と行動している時に涙目になりながらしきりにこう問いかけてきた。

「あの人は無事だよね!?って、ミサカはミサカは問いかけてみる!」

いくら暗部の仕事を経験しており、精神的な面ではそこらへんの学生に負けない絹旗だが、所詮はまだ幼い少女だ。
この質問にはどう答えていいのか分かり兼ねたが、

「超心配する必要はないでしょう!きっと無事ですよ!」

こう答えてやるのが絹旗なりの精一杯の優しさだった。その言葉を聞いていくらか落ち着いた打ち止めは

「そ、そうだよね!あの人ならすごい能力ももってるしね!ってミサカはミサカは元気いっぱいになって反応してみたり!」

なんと眩しい笑顔なんだろう、と絹旗は素直に感じていた。そして元気いっぱいになった打ち止めを見て絹旗はこんな相談を持ちかけた。

「もし、その人が無事に見つかったら、その人も超一緒に3人でどこかに出かけましょう。今はそれを超目標にして私も頑張りますから!」

「うん!絶対行こうね!ってミサカはミサカは指きりげんまんを申し込んでみる!」

絹旗は笑顔でそれに応じた。打ち止めもいい笑顔であった。
絹旗はその笑顔を見て、決意した。
なにがなんでもこの女の子を守ろう。
もう絶対に友達をなくしたくない。
私が、守ってみせる。

そう決意して行動し始めた結果がこれだ。絹旗は自分の警戒力の無さに呆れていた。

「あぁ...打ち止めちゃんに再会したら超なんて言い訳すればいいんでしょう。早く謝るためにも超動かないと!」

ただ、立ち尽くしていた絹旗は自分を奮い立たせた。ただ考えているだけではなにも始まらない。
人の姿が見えない第7学区の中に、絹旗は1人で入っていくのだった....


この二人が再開するのはだいぶ先のお話。



【第二章】 新組織行動開始(後編)

Lmの2人、滝壺理后と柊元響希はもっぱら第7学区内を偵察中だ。
というのも、事件の元凶である窓付がこの学区内にいるというのだから警戒して進まなければならない。
もう死体は見飽きるほどに見てきた。だが、その死体1つ1つを見ていっても苦しそうな顔で死んでいった人がいないというのはどうなんだろう?

「くきもと、何見てるの?」
滝壺は柊元に話しかけた。この二人はまだ知り合って間もないので、まだまだ話しかけ方がぎこちない。

「ん、この死体の山だよ。なんで...笑顔なんだろう。死ぬんだから、苦しんでもおかしくないはずなのに...」

よくよく考えてみれば変だ。どうして笑顔で死んでいくのだ?
人が死ぬときは身体に強烈なダメージを受けるか、病気で死ぬかのどちらかだろう。
どちらの方法で死んでも、苦しみながら死んでいくはずだ。
それなのにこれはどういうことだ。死体の1つ1つの顔が全て微笑みながら安らかに眠るように死んでいるのだ。

「...こうしている今も、まだ被害者が取り残されてて、助けを待ってるかもしれないよ。いこう?くきもと。」
「うん、わかったよ滝壺さん。」

彼女たちは知らなかった。叫べば聞こえる範囲に新生アイテムと絹旗がいた事に。
彼女たちは知らなかった。すぐ真後ろまで、事件の元凶が近づいてきていたことに。



ハイスクールのリーダーである垣根帝督はこんな状況にもかかわらずスーパーマリオワールドの世界に移動していた。
なので、学園都市中が大騒ぎであることも彼はまだ知らない。

最近の彼は命を軽々しく扱うようになった。学園都市外の生き物なら、なんでも一擊で殺せることに快感を覚えてしまったのだ。
なにせ彼は学園都市第2位の超能力者なのだから、戦闘力は計り知れないものがある。

「この世界もあんまり面白くなかったな。くそっ、学園都市でなんか騒ぎでも起きれば面白いのによ...」

この言葉が冗談ならどんなに良かったか。
そんなことを知る由もない垣根はこの後、本当の地獄を見ることとなる。



グループから一転、ハイスクールの構成員となった一方通行は当然、この異変を察知した。
人が次々と死んでいく。しかも、笑顔で。

噂では、8人目の超能力者とか言われているらしいが、一方通行にとってそんなことはどうでもよかった。
能力を行使して人を大量に殺戮するとはどういう神経の持ち主だ。一方通行の怒りはとどまるところを知らない。

それよりなにより、打ち止めの姿を今日一回も見ていないのが不安で仕方ない。
まさか、打ち止めはもう.....といった最悪な結末が脳裏をよぎったが、すぐに振り払った。

「何がなンでも8人目を見つけ出して潰し、あのガキを助け出す。」

一方通行は首元の電極に手を伸ばし、ビュン!という轟音と共に第7学区に突入した。



これで、垣根帝督を除く役者全員が、学園都市第7学区に集合した。


【第三章】 ★ドリーム★



なにが起こったのか、Lmの二人には理解ができなかった。
彼女たちは死体を眺めながら、考え事をしていただけなのに。

どうして彼女たちは身体から血を流して倒れているのだ?

「学園都市の能力者ってのもこんなもんなんだぁ!?笑っちゃうねぇ!?ウフフフフフ!」


金髪のポニーテールの少女は狂気に満ちた笑顔を2人にばらまきながら、笑っていた。
2人よりもずっと幼いであろうその少女はまだ10歳前後といったところか。

「あ、あなたが......まどつき、なの?」

滝壺は今にも気を失いそうになりながらも、質問を投げかける。が、返ってきたのは予想だにしない答えだった


「アタシが窓付ぃ!?バカ言ってんじゃないわよ!あの子ならこんな汚いマネなんかしっこないいって!」

「や、やっぱり.....窓付の仲間なのね?」
柊元は今にも目を閉じそうになりながらも、情報を集めようとする。大した生命力である。

「ま、そういうことなんだよね。ウフフ!」

妖しい笑顔をまきながら、少女はそう答えた。


「や、やっぱりね....」

柊元は薄々感づいていたようだ。
よくよく考えてみるとおかしい点が存在する。
金髪少女が言っているように、窓付はこんな手荒なマネはしない。
だから、はじめから冷静に状況判断さえできていれば、すぐに本題の質問にはいることもできたハズだ。


「な、なにが......目的なの?」
滝壺はいきなり仕掛けた。さすがに答えは返ってこないかと思ったが、思わぬ答えが帰ってきた。

「私たち4人は、学園都市にいる能力者複数と、超能力者である一方通行の殺害、そしてイレギュラーである幻想殺しの確保の為にやってきたのよ。」


まさかのおおっぴらに発言である。どうしてここまで堂々と喋ることができるのか。答えは、単純だった。
そして言い終えた少女はこう付け加える。

「さて、ここで問題でぇーす!アナタ達はこれからどうなるでしょうかぁ!?」


殺される。2人はとっさにそう感じた。


視点は変わり、絹旗は3人から少し離れた曲がり角から、3人の会話を聞いていた。
いろいろな情報が出すぎて、頭の中がこんがらがっているが、つまりこういうことであろう。

まず1つ目に、窓付一味は4人いること。
2つ目に、一方通行が殺害対象であること。
そして3つ目に、聞きなれぬ能力者が確保対象であること。

3つの情報整理は終わった。

だが、これからどうする。相手は一瞬でLmの二人を行動不能にする能力を持っている。
下手に仕掛ければ、私もやられるかもしれない.....
と、弱気になる絹旗ではなかった。

「その2人から超離れろォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」

窒素装甲を展開しつつ、絹旗は金髪少女にパンチを叩き込んだ。
が、空を切った。

だが、絹旗にとってそれは想定内の出来事。
今は、目の前の2人の救出を急いだ。

急いで連れ帰ろうとしたとき、絹旗はふと気づいた。

あの少女が消えている。どこに行ったのだろう。
まぁ、気にするようなことではないだろう。滝壺の能力を使えばアイツの位置情報は思いのままに知れるのだから。

絹旗は滝壺と柊元をしっかりと支え、NEWグループの拠点へと戻っていった。



その様子を、離れたビルの屋上から見ていた人物がいる。

金髪ポニーテールの少女だ。
彼女はどうやって攻撃を避け、移動したのか。
それはまた別の機会に話すことになるだろう。


少女は笑顔で独り言をつぶやく。
「あの程度の能力で私を退けたとでも?ウフフ。アハハハハハハハ!」

そして凍りついたような表情で、こうつぶやく。
「アタシ達【ドリーム】は、そんな弱っちぃ集団だと思わないことね。」


【第四章】 反射



絹旗達が拠点にたどり着いた頃、一方通行は第7学区に到着。首元の電極のスイッチを通常モードに戻した。

想像できていたとはいえ、やはり酷い光景だ。
いつも賑やかなこの学区が、今じゃ荒廃した街に成り果てるとは.....

「ひでェもンだな。本当に笑って死ンでやがるのか。」

ニュースで見た通りだ。沢山の人間が、笑いながら、眠るように死んでいる。
元凶は分かっている。窓付とかいうイカれたガキだ。

NEWグループの絹旗とかいうガキから連絡があり、俺は大体の情報を得ている。
もちろン、俺が殺害対象であるということも、全てだ。

だからってなンだってンだ?

伊達に学園都市第1位を名乗っちゃいねぇ。見つけ次第、こっちから攻撃を仕掛けてぶっ潰してやる。

そう心の中でつぶやき、前に向かって歩みを一歩進めようとしたのと同タイミングで、一方通行の背後から何かが急速に迫ってきていた。

ギュゥゥゥゥゥン!!!とすごい音をたてる物体のようだが、一方通行は決して振り向くことはない。

ピッ!首元のスイッチを入れた瞬間、

ドガシャァァァァァァァ!!!

一方通行のすぐ真後ろまで迫ってきていた「貨物トラック」は完全に原型を失った。

そこで、一方通行は始めて後ろに振り向いた。
そこにはひしゃげたトラック以外に見当たるものはない。

だが、一方通行は見逃さなかった。
本当にかすかな、チカラの流れを。

足の裏のベクトルを変換し、ギュン!と音を立てながら舞い上がる一方通行。その瞬間、ズドドドッとなにかが地面から突き出した。針山が突き出していたのだ。
ただの針山だけなら、飛び上がる必要もなかったのだが、一方通行は見たのだ。

正面に立つビルの屋上で、2人の人影を。

スタッと音を立てながら、ビルの屋上に降り立った一方通行。
その視線の先にいるのは、白と黒の洋装を纏った2人の少女。

「なンなンですかァ?テメェらは?この街をこンなにしたのもお前らってかァ?」

一方通行は口元を引きつらせながら、怒りを込めてそう言った。


「.......一方通行ね。」
「.......やっと見つけたね。」

2人は息ピッタリと言わんばかりの喋り方だ。姉妹だろうか?
だが、そんなことはどうでもいい。


「お前ら2人揃って........イカレてやがンなァ!!!!いいねェ、いいねェ、最ッ高だねェ!!!とりあえず、テメェら2人揃って死体決定だクソ野郎がァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」


ギュオオオオン!!!という甲高い音を立てながら、一方通行は2人に向かって突撃した。
両腕を突き出し、触れたところを血流操作で殺そうという魂胆だ。

なにを血迷ったのか、白黒姉妹は2人揃って握りこぶしを構えている。

馬鹿かコイツらは。ま、一瞬で楽にしてやるよ!
一方通行がそう思った時、ドガガッ!!という衝撃が彼を襲った。

そしてその2秒後には、彼は地面に叩き落とされた。

まともに攻撃を受けた一方通行は信じられないといった顔を白黒姉妹に見せている。
当然だ。彼は体表面に触れた全てのベクトルを操ることができる。

当然、ヤツらの攻撃も反射できるはずなのだ。
それなのに、姉妹のパンチは一方通行の反射を打ち破ってきたのである。

「ど、どういうことだ......一体ィ!?」

信じられないといった表情を見せる一方通行に対して、姉妹の1人はこう言った。

「一方通行、アナタは向きを操作する時点で私たちに負けているのよ。」


冷酷な目で放つその一言は、重く、深く一方通行の心に突き刺さった........



一方その頃、スーパーマリオワールドの世界にも飽き飽きしていた垣根に一本の電話が。心理定規からだ。
暗部組織「スクール」では良き仕事仲間であり、今でもたまに連絡を取り合う仲だ。垣根は素直に電話に応答した。

「もしもし?なんだよ、心理定規。」

いつも通りに反応した垣根。
だが、向こうの反応はいつもと違う。

「ちょっとアナタ!いまどこにいるのよ!?大7学区で酷い事件が起こってるのは知ってるんでしょ!?」


なに言っているんだ、この女は。表向きにとはいえ、今の学園都市は平和真っ盛りだ。
暗部の仕事でさえ激減してきているのにだ。まさか、ドッキリか!?

そう考えだした垣根は妙に演技じみた声で心理定規にこう叫ぶ。

「大7学区だな!すぐに飛んでくぜ!」

そういうと垣根は即座に携帯の電源を切り、境界線を切り開き、学園都市に戻った。


心理定規は第18学区にいた。事件のあった第7学区の斜め右上の位置に当たるその学区では、逃げてきた学生やら教師やらで溢れ返っている。
当然、今回の事件についての情報を心理定規は耳にしている。
窓付という少女の能力の正体は、精神干渉系のものであることは間違いないと悟った心理定規は、もう何もできない。
ただでさえ、異能力者レベルの能力者である私に何ができる?何もできない。
今私が向かっても、新組織のあしかせになるだけに過ぎない。なら、いっそ........

そんな風に思考を働かせていたとき、目の前に1人の少女が立っているのに気がついた心理定規は俯いていた顔を上げた。

「ねぇ、あの人がどこにいったか知らない?って、ミサカはミサカは聞いてみる!」

この少女には見覚えがある、名前は忘れてしまったが、暗部の奥底にいた頃の記憶とは皮肉なものだ。

「あの、人?」

当然の質問を投げ返す心理定規。確かに、あの人という表現では理解するのはほぼ不可能だ。

「一方通行って呼ばれてる人がどこに行ったか、知らないかな?ってミサカはミサカは訪ねてみたり。」

....思い出した。この少女は、一方通行が暴走して暴れていたとき突如として現れ、見事に暴走を止めてみせたあの少女ではないか。なら、伝えてもいいかもしれないと、心理定規は話し始めた。

「実はね、私この学区まで流れてくる途中に、一方通行を見たの。第7学区の方に高速移動してたわ。すごい表情で。」

「おーっ!ようやく目撃情報キター!って、ミサカはミサカは喜びを身体全体で表してみたりー♪」

どうやら喜んでもらえたらしい。だが、このまま放っておくわけにもいかない。

「アナタ、一方通行を探しに第7学区に行くつもり?

半ば試しに聞いてみたつもりだったのだが

「うん!ってミサカはミサカは反応してみる!」

これだ。この子は命の大切さというものを知らないのだろうか。一方通行の暴走の時といい今回といい、どんな事情があるのかは知れたものではないが、ようやく心理定規にも行動する理由ができた。

「ちょうどいいわ、実は私も探してる人がいてね、そのひとも第7学区にいるのよ。だから、一緒に行きましょう?」

打ち止めは喜んで承諾してくれた。

心理定規と打ち止めは周りの視線を警戒しつつ、静かに第7学区に突入した。



「.......なんだこれは。」
垣根の第一声はそれだった。それ以外に言いようがなかった。
死体の山だと?しかも、笑顔で。
何があったか知ったことじゃねえがかなりヤバイ状況には間違いねえな。
まずは情報収集だ。誰かに会えるかもしれない。

垣根はようやく学園都市での活動を開始。心理定規と打ち止めも無事に侵入に成功。


10人の選ばれし能力者と謎多き集団【ドリーム】が交差した時、物語はようやく動き出す。


【第五章】 それぞれの闘い



一通りの仕事を終えた新生アイテムの結標と上条は一度拠点まで戻ってきていた。
というのも、絹旗から連絡があり、Lmの2人が大怪我をしたという情報が入ったからであった。

実はNEWグループと新生アイテムの拠点はお隣同士なのである。

新生アイテムのメンバーとその他の住人が共同で住んでいるのが、禁目次荘。

NEWグループとLmの拠点はその隣にあるのだ。

滝壺と柊元のケガは見た目は酷いものだったが、実際にはそれほど深い傷は無くすぐに調子を取り戻すことができたようで、体調が整い次第、共に行動を再開する予定らしい。


「犠牲者がでなくて本当によかったわ.....出てからでは遅いもの。」

結標は本当にホッとしたと言わんばかりにそう呟いた。

「そうだな。残っていた人達も全員の生存が確認されたらしいし、本当によかった。」

上条も同感のようだ。
実際にこの2人は今日だけで相当な働きを見せていた。当然、その疲れは眠気となって二人に襲い掛かる。
自分たちの拠点という安心感も重なり、2人はいつの間にか眠り込んでしまった。


その頃、八咫通行は遅れて禁目次荘に向かっていた。
なにしろ、第7学区中の生存者を探し回っていたのだから遅れるのも無理はない。
早く向かわなくては。そう思い立って足の裏のベクトルを変換しようとした時、背後からとてつもないプレッシャーを感じた。

(なンだ.....この気配は.....)

八咫通行が振り返ると、そこには若干10歳ほどの少女が1人立っていた。

どこにでもいそうな、普通の服を着た普通の女の子のようだが、もし本当に普通の女の子なら、こんなプレッシャーは感じないだろう。そして、八咫通行はずっと思っていたことを口に出した。

「オマエ......窓付夢遊だな?」

少女は反応しないが、八咫通行のこの読みは当たっている。この少女こそ、今回の事件の真犯人の窓付夢遊である。
そして八咫通行はこの少女を初めて見た時からずっと頭の中で引っかかっていた。

(コイツ.......確かどこかで会ったことがあるような.....)

そう考えていたとき、窓付は初めて口を開いた。

「そうだよ。私が窓付。そして、この街をこんなにしたのも私。」
そして、彼女は思わぬ言葉を付け加えた。

「久しぶりだね、八咫通行。まさかこの街であなたと再開することになるなんて思いもしなかったよ。」

.
その言葉はスイッチとなり、八咫通行は全てを思い出した。窓付は、過去に一度幻想郷の人里で殺戮を起こし、そこに居合わせた八咫通行と戦ったことがあるのだ。

実はこの記憶は窓付の能力によって封印されていたのだが、窓付はそれを解除したのだ。
よって、知らずのうちに失っていた記憶を取り戻した彼は、怒りに打ち震えだした。
窓付が幻想郷で殺戮をした理由は、単なるストレス解消だったのである。つまり....今回のこの事件も......

八咫通行は冷静さを失っていく。それを見て、窓付は妖しく笑う。怒りを通り越した感情が全身を覆う。
そして、「それ」は現れた。

「ォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」

グオンッ!という音と共に、彼の背中には赤と黒の入り混じったような色の翼が現れたのだ。

「.......え、な、なによこれ!こんな力があるなんて、聞いてないよ!」
案の定、窓付は焦りだした。過去に戦った時の八咫通行はそれほど強くはなかったのだ。だからこそ、この事態は予想外だった。

「くっ!こんなところで使いたくはなかったんだけど、仕方ないか....。」

窓付は懐から何かを取り出した。

「ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

今の八咫通行に、冷静な判断力など存在しない。
彼は、その戦闘本能に従い、窓付に向かって突撃した。

窓付は、彼を恐れなかった。恐れる必要がないのだ。それはなぜか。


強い衝撃が2人を襲った。
八咫通行には、窓付が取り出した包丁が。
窓付は、八咫通行の翼が8方向から突き刺さり、原型をとどめていなかった。

八咫通行はその場に倒れた。翼はスゥッと流れるように消えていった。

窓付は、いや、正確には【窓付だったもの】は、その場からピクリとも動かなかった。



そして、離れたビルの屋上には今死んだはずの窓付が立っていた.........。




一方その頃、謎の白黒姉妹と遭遇した一方通行はありえない現象を目の前にしていた。

反射が効いていない。外からの衝撃をまともに受けている。
避けるという概念に乏しい一方通行は当然まともに喰らってしまう。
反射をもろともせず2発のパンチを連続で喰らい続けた一方通行はすでにボロボロになってしまっている。
一体この姉妹はどんな力を......
そう考えているときにはまたパンチが飛んできた。

一方通行は、ある行動に出た。

(もし、あの木原と同じ戦法を使っているンだとしたら.....当たらねェはずだ!)

ピッ!という音が一方通行の首元から鳴る。

電極を、通常モードに戻したのだ。

もし本当に寸止めの領域で拳の引き戻しをしていたなら、その双拳は一方通行の顔面へは当たらなかっただろう。

だが、そのパンチはためらうことなく正確に一方通行の顔面にダブルヒットした。
バゴォン!!という轟音と共に、数メートル吹っ飛ばされた一方通行は、万策尽き果てたと言わんばかりに顔を歪めた。

「チィッ!クソッタレが.........」

正直言って一方通行はこの戦闘に勝機を感じられなかった。相手がなんの能力を使ってこんなことをしているのか、第一位の頭脳をもってしてもわからないのである。

「拳を引き戻しているとでも思ったの?甘い考えね。」
「この調子なら、簡単に1つの目標を達成できそうだね。」

そして、姉妹は唐突にこんなことを言い出した。

「そういえば、まだ名前も名乗ってなかったわね。私は白世物江。この子の姉よ。」
「私は白世物子。よろしくね?」

やはり。一方通行の勘は正しかった。この2人は姉妹で間違ってなかった。
身長の高いロングヘアーの方が物江、身長の低いツインテールの方が物子というらしい。

「殺す前には名前ぐらい名乗っとかなきゃ失礼だもの。あなたの最期に立ち会えることを光栄に思うわ、一方通行。」
「心配しなくても大丈夫だよ。私たちは身体に全く痛みを感じさせずに殺せるからね。」


初めて見た時から、一方通行は感じていた。この2人は俺を殺す気であると。
あの時から見れば、なんと愚かな姉妹だと思っていたが、状況が逆転した。

愚かなのは自分の方だったではないか。

「.......ヘッ、好きにしろよ。俺みてェなクズ1人殺したところで、誰も悲しむヤツなンている訳ねェンだしよ。」

一方通行は半ば自暴自棄になっていた。正直自分でもどうしてこんな感情が湧き上がってくるのかわからない。でも、もうそんなことどうでもよかった。

「あら、そう?ま、そういうことなら話は早いわ。物子、やりなさい。」

その言葉を合図に、物子は攻撃態勢に入った。


一方通行の意識は朦朧とし始めていた。気のせいだろうか、物子の腕が1、2、3、4.......5本?
幻覚か現実なのか曖昧な情報しか視界に入ってこない。


一方通行は、この姉妹に完全に敗北した。そして、殺されるのだ。
正直今でも信じられない。自分がこんなにあっけなく倒され、そして殺される。
ま、散々殺しをおこなってきた俺だ。所詮人殺しの最期なんてこんなものであろう。

その思いを最後に、一方通行の意識は途切れた。



「「死ねッ、一方通行ァァァァァァァ!!!」」

2人の豪快な一言で、白世物子は【5本の腕】から粒機波形高速砲を放った。


ギュオオオオン!!!と轟音を立てながら放たれたそれは、正確に一方通行のもとに飛んでいった。

ズドォォォォン!!!!!
激しい音を立てながら、それは着弾した。



一方通行ではなく天使の様な色をした翼に。



「ったく、こんなところじゃ死なせねぇぞ、一方通行。お前は俺がぶっ倒すまで生きててもらわなきゃ困るんだからよ!」


宙に浮きながらそう一方通行に言い放ったのは、学園都市第二位の超能力者、垣根帝督だった。


「あ、あのビームをまともに喰らって傷一つなし!?そ、そんな、バカな!?」

姉妹は信じられないという表情を見せている。当然だ。このビームは学園都市のなかでもトップレベルの性能を持っている。2人はそれを知っていた。だからこそ、信じられなかったのだ。目の前の光景が。

「ったく、こんな汚ねぇ遊びではしゃいでんじゃねえよ、お嬢さん方。とりあえず、」

地上に降り立ち、振り返ったところでありったけの殺意を込めてこう言った。



「 死 体 決 定 だ ク ソ 野 郎 共 」



【第六章】 突破口



目が覚めた時、そこは自分たちの拠点であるということに八咫通行は気づいた。
周りを見渡すと、そこには結標と上条が心配そうにこちらを覗き込んでいる。

「よ、よかった!気がついたのね!」
「ったく、パトロールに出かけたら道路の真ん中でいきなり包丁刺されて倒れてるんだからな。上条さんは心配で心配で急いでここまで運んできたんですよ?」


なるほど、俺は回収されてここまでたどり着いたのか。八咫通行は理解した。
途中から暴走状態になったとはいえ、うっすらとだが八咫通行は窓付との戦闘の記憶が頭の中に残っていた。だからこそ、伝えなければならない。
窓付夢遊の、【突破口】を。

「....お前ら、これから俺の言うことをよく聞け。窓付に有効な、ただ一つの突破口だ。」


八咫通行は2人に自分の知っている全ての情報を打ち明けた。
幻想郷で一度闘ったことも、記憶を封印する能力があることも、自分が完全に敗北したことも。

「ちょっと待ってくれよ。」

上条は質問を投げかけた。

「お前の話を聞く限りでは、相打ちで窓付を倒したんじゃないのか?翼で貫いたんだろ?」

八咫通行はこう答える。

「確かに、俺はあの時窓付を翼でブチ抜いた。同時に俺は包丁で刺されたがな。だが、意識がまだあるうちに俺は見たンだ。」

一息入れて、こう付け足す。

「向こうのビルの屋上で、もう1人の窓付夢遊をよォ....」

「え?」
2人は思わず声を揃えてそう言った。
もう1人とはどういう意味だ?瞬間移動と言われれば話は早いが、窓付にそんな能力はないはずだ。
八咫通行はさらに説明を続ける。

「どうやら窓付ってヤツは相当能力の応用性が高いみたいだな。お前らも知っていると思うが、窓付の能力は基本的に【幻覚をみせる】ことにある。もしもだ、この能力を自分にも使えたとしたらどうだ?」


新生アイテムの3人は沈黙した。
もし、自分自身に都合のいい幻覚を作り出せるなら、とんでもないことができてしまうのだ。



例えば、都合の悪くなった箇所は全て幻覚として処理してしまう、とか。



だからこそ、窓付は翼で貫かれても平気でいられたのだ。初めから幻覚だったことにすればいいのだから。
後は記憶のいざこざが起こらないように適当な幻覚を相手に当てはめれば解決する。

今更ながら窓付の恐ろしさを知った3人。だが、そこに1つだけ希望があった。

「窓付には、弱点があったンだよ。それも、すごく簡単なことだ。」
八咫通行は実に簡単そうに言った。

「ヤツは、強烈な負の感情に弱い。だから、普通じゃありえないような方面からの攻撃を仕掛けられればいいンだがな。」

そう言われて、上条の中に一つのひらめきが生まれた。
だが、肉体的にも精神的にもキツイ方法だ。しかも、淡希の協力も必要だな......
だが、この方法なら確実に窓付本体に攻撃を加えられるようになるはずだ。そう思えば俺の腕一本くらい安いもんだ。


上条は、そのひらめきを2人に話した。

「そ、そんなの出来るわけないじゃないッ!だって...そんなことしたらアナタは......」
案の定、結標は否定した。当然だ、この作戦は正直言って結標が一番辛い役目を背負うことになる。それよりなにより、2人は恋人同士だ。心配するのも無理はない。

「俺なら大丈夫さ!過去にも何度か経験あるしな!だから、頼むぞ淡希。お前の能力でこの事件を終わらせるんだ!」
上条は本気だ。彼の純粋に人を助けたいと思う気持ちはどうやら本物らしい。そんな上条の正義感に負けたのか、結標は了承した。

「それしかねェな。上条、俺もやれるだけのことはする。だから、死ぬンじゃねェぞ。」
八咫通行も納得してくれた。

決意を固めた3人は最終決戦に向けての準備を始めるのだった......



傷の手当てを終え、金髪ポニーテールの少女を追い続けている絹旗と滝壺と柊元の3人組は徐々に問題の場所に近づきつつあった。住宅密集地だ。
滝壺の能力である「能力追跡」で金髪少女の位置は完全に把握できるのだ。
一度傷を負った滝壺だからこそできることだ。
どうやらそろそろ目的地らしい。滝壺の歩くペースが弱まる。

「あっ。」

柊元は口ずさんだ。それは、回避しろという合図だった。

その言葉が聞こえた瞬間、3人の足元からは黒い塊が突き出した。柊元の合図がなければ串刺し余裕だっただろう。
もちろんこの合図は事前に3人で打ち合わせておいたものだ。
チカラの流れを微粒子レベルで感じ取れる微細構築の能力が発現したからこそ成せる業だ。3人はお互いをよく理解し合っていた。


「あっれ!?今の避けられちゃったんだ!!すごいねアンタ達!」

いつの間にか3人の背後にいたのは金髪少女。相変わらずカンに障る言いぐさだ。なによりその舐めきった口調がムカついてしょうがない。

「あっ!そういえばまだアンタ達には名前すら名乗ってなかったねぇ!アタシは夢見歩二子っていうんだ。ま、どうせアンタたちはここで死ぬんだし短い付き合いになると思うけどよろしくねッ!」

なるほど、どうやらこの夢見という少女は3人をここで殺す気でいるらしい。
もちろん、気持ちはこちらも同じだ。必ずこの夢見を倒して、窓付の元へと向かう。

(だからこそ.....こんなところでは超足止めなんかしてられないッ!!!)

仕掛けたのは絹旗。
ズァッ!!といういきり立った音とともに放たれた絹旗の拳は当然のことながらかわされる。だが、今回はそこで終わりではない。

「フフッ、ホラホラァ!!避けろ避けろォ!!」

余裕綽々と言わんばかりに攻撃を避けながら黒いなにかを放ってくる夢見。
その黒い何かがなんなのか、今のところ不明ではあるがそんなことはどうでもいい。
今はただ目の前の敵に向かって、放て!放て!放て!

柊元は滝壺を離れたところへ避難させると、夢見への攻撃に参戦した。
念動力に似た能力も扱える柊元はそこら中の空気の粒子の集合率を変更。収束と発散を繰り返すその粒子は形を変え、風刃となって夢見に襲い掛かる。

「喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ!!ちょこまかとそこら中駆け回りやがって、さっさと当たっちゃいなよ!!」

柊元は戦闘に入ると口調が荒くなる。それでいて冷静さは保っているのだからさすがは新組織の人間とでも言っておこう。


壁から壁へと自在に駆け回り、時には宙にも浮き回避する夢見の能力の多様性は異常だ。

まさか、重力を操っているとでも言うのか?いや、それでは例の黒い塊の説明がつかない。
だが、実際に少しの間戦っただけでもちょっとした引っ掛かりが2人の頭の中には芽吹き始めていた。

(........夢見は、決まった範囲内でしか行動していない?)

表情こそ余裕を保ち続けてはいるが、ある特定の場所に向かって攻撃すると、必ず無茶な軌道を使ってでも元いた場所に戻ろうとする。これはどう考えてもおかしい。

どうしてだ?なぜ特定の場所から動こうとしない?
絹旗と柊元は周りの状況を密かに確認していた。
そして、2人は同時に1つの答えにたどり着いた。


(影のある場所でしか、自由に動き回れない!?)


2人は、半信半疑であったが、この2人の予想は見事に的中していた。

【影】

それが夢見への突破口となる。



心理定規と打ち止めは今のところなんの争いにも巻き込まれていない。第7学区中を歩き回ってはいるものの、垣根はおろか人っ子1人見当たりゃしない。

そんな中で、ようやく一つの手がかりが。向こうのビルの上から轟音が聞こえたのだ。何が起こったのかは読み取れなかったが、僅かに見えた白い翼がそこに誰がいるのかを物語っていた。

「見つけたわよ、垣根。まったく、こんな状況で途中までどこほっつき歩いてたのか問いただしてやらなきゃね。」

「探してる人が見つかったの?ってミサカはミサカは訪ねてみたり!」

「えぇ、なんとかね。でも、一方通行がいるかどうかは分からないわよ?先に一方通行を探してからでもいいけど?」
心理定規は当然の如くこう考えていた。垣根が翼を展開しているということは戦闘中だ。第二位がそう簡単に負けるはずがない、つまり心配する必要もないだろう、と。

「うーん、でもミサカはあなたの探してる人にも会ってみたいかも!ってミサカはミサカは頼んでみたり!」

「そう?なら、あのおバカさんの所にちょっと行ってみましょうか。」

「うん!ってミサカはミサカは行動開始!」

心理定規は考えられるはずがなかった。この行動が、垣根帝督をより苦しめることになるとは。




【第七章】 想いの力


第7学区の某ビルの屋上。そこに垣根帝督は降り立った。
背後には、ボロボロに打ちのめされた第一位の超能力者がいる。かつて、自分が殺害を目的としていた人物、一方通行。そして前方にはその一方通行を完膚なきまでに叩きのめした張本人が2人。

かつての垣根帝督なら、この状況を嬉々として傍観していただろう。だが、今の彼は違う。
今の彼からにじみ出ているもの、それは怒りでしかない。

「......お前らって面白いチカラを持ってるんだな。第四位のような攻撃もできれば一方通行の反射を打ち破る攻撃もできる。本当に面白い力だな。」

垣根は歩みを進めつつ続ける。

「お前らがどうやって一方通行の反射を打ち破り攻撃したのか、そんなことはどうだっていいんだよ。ただ、一つだけ理解できねえことがあるんだ。」

垣根は歩みを止めてこう言った。

「お前ら、実態があるくせにベクトルが全く感じられねぇな。どういう原理だか知らねえがよ。」

そう、彼女達は確かに垣根の目の前に存在している。存在しているのだが、彼女たちからはどうしても【向き】を感じ取ることができないのだ。
一体なぜなのか、その理由を、白世物江は話し始めた。

「.......私たちの目的は薄々感づいてるとは思うけど一方通行を殺害することだったの。ありとあらゆるベクトルを操作する彼に勝つには、チカラの向きと反射するタイミングをn単位で感じ取り、なおかつそれを連続でおこわなければならない。そんな神業的な作業は私たちには到底できっこない。だから、一つの答えに達したのよ。」

白世物子は姉の後ろからこう付け加える。

「初めから向きなんて消し去ってしまえば操作のしようがないってね。」


質量を持っている物体が動きを見せたとき、向きというものは100%発生するものである。だが、彼女達はそれを【消し去った】と言い張る。

「.....無茶苦茶な話だな。んなこと出来るはずねえだろうが。」

垣根は当然の反論をする。

「それがね、出来るのよ。あの子なら、窓付ならね。はじめから幻覚なら......存在しないんだから....向きなんて、ね」

「あ?」

実は垣根はまだ学園都市に戻ってきたばかりであり、窓付のことを知らない。故に、この姉妹がこの事件の現況だという垣根の思い込みはここに崩れ去った。

「なんだそいつは、お前らのリーダーか?」

「そうね、私たちドリームのリーダーよ。たった1人の.......」

普通リーダーは1人だろうという当たり前なツッコミは垣根はしない。

「窓付はね、幻覚を自由に創り出せるのよ。それが、どんなに都合のいいものであったとしても、ね」

半ば遮るように、垣根は仕掛ける。

「要はまずお前らをブッ潰せば分かる事なんだろ!?悪りぃがさっさと死んでくれよお2人さんよォ!!!」


翼を展開して突撃しようとした瞬間、

「止まりなさいッ!!!」

白世物江は今までとは比べ物にならないほどの威圧感を放ち、垣根に言い放った。

「下をご覧なさい?あなたが少しでも私たちに攻撃を加えれば、あの女の子達2人はカケラも残さず吹き飛んじゃうわよ!」


女の子達2人とは、もはや説明するまでもない。心理定規と打ち止めだ。2人はまだこちらに気づいていない。
第二位は一般人を巻き込むのを拒むという事前調査を利用した典型的な【人質作戦】だ。

「......テメェら、んなことして後からどうなるのか分かってんのか?」

「助けに行ってもいいのよ?でも、そうしたらどうなるかはわかると思うけど。」

確かに、飛んでいけばものの数秒で2人を助け出すことはできるだろう。ただし、一方通行が吹き飛ばされることになる。

垣根は、その場から動けなくなった。行けども退けども犠牲者が出てしまう。それだけは垣根は認めたくなかったのだ。

「ウフフ......アハハハハハハハハハ!なによそれっ!?さっきまで私たちを殺す気満々だったくせに?一気に動かなくなっちゃって!!!所詮アンタは土壇場での選択に弱いただの雑魚よ!!!」


バキィッ!!という轟音と共に、垣根は殴り飛ばされた。
向きが存在しないとはいえ、その痛みは強烈なものだ。

「........ぐっ、クソッタレ共が、所詮はこんなことしかできねぇクズかよ。アホらしいったらありゃしねぇな!」

「.........」

今度は、ズドンッ!という鈍い音と共に垣根は顔面を蹴り飛ばされた。その間も、粒機波形高速砲をチャージしている物子がいるため、余計な動きは見せられない。

「ぐふッ!ゴホッゴホッ!」

再び吹っ飛ばされた垣根に、白世物江はこう話しかけてきた。

「あぁそうだ!アナタにいい事聞かせてあげるわ。」

痛みに耐えながらも垣根は耳を傾ける。

「.....このままだと、4人仲良く死ねるわよ?どうする?」

「..........」

なにも言えない。なにも言い返せない。ふざけるな。4人死ぬ?俺はともかく、一方通行とあの2人が何をした?
.........犠牲になるのは俺だけで充分だろうが。

「さぁ、なんか答えたらどうなの?どうするってこっちは聞いてんのよ!!」

身体を蹴り上げられた垣根は、自分でもよくわからない感情にイラついていた。

なにもできない自分が悔しい。どうして俺はここまで甘くなっちまったんだ?過去の俺なら1人2人の犠牲は目を瞑れたはずなのに。
右脳と左脳が割れたような気がした。こんな感覚を一方通行も感じていたのだろうか。
そして彼は、垣根帝督は一つの答えに辿り着く。それが正解か不正解かなんて誰にも決めることはできない。


それを決めるのは、垣根帝督自身なのだから。

垣根はそのボロボロの身体にムチを打ち立ち上がる。そして、今までしてきたどんな難関な演算よりも彼には難しかったはずの【人を助けたい】という想いを素直に胸に秘めながら、演算をした。



そして訪れるのは、
一つの奇跡。

「ァ」

「ァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

白世姉妹はその異様な光景に、思わず怯む。

「な、なによこれ........金の.......金の翼!?こんなの......こんなの資料には載っていなかったなず!!」

「お、おねぇちゃん!コイツヤバイよ!逃げよう!」

2人は一目散に逃げ出そうとした。だが、そう考えたときにはもう遅かった。」

「........................待て。」

決して大きくはない垣根帝督のその一言は2人を金縛り状態にするほど重いものだった。あまりの衝撃に、物子は思わずへたりこむ。

「......よぉ、確かさっき答えを聞かせろっつったよな?」

すでに金色の翼で空中まで浮いている垣根は姉妹に向けて、こう言い放つ。



「これが、俺の答えだ。」
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勝負は、一瞬で終結した。


人の想いは、決して幻覚では作り出せない。
垣根はそう頭の中で考えながらその場にばたりと倒れた。




【第八章】 人の為に、自分の為に



影のあるところしか行動しない夢見の異常に気づいた2人は1度合流し、小声で作戦会議をする。

「一度、住宅街の外に超出てみましょう。猛ダッシュで。」

「OK、しくじらないでよ?NEWグループのリーダーさん。」

「そっちこそ超気を抜かないで下さいね、Lmの構成員さん。」


こんなちょっとした会話をしている隙に、夢見は攻撃態勢に入っている。
そして、よくわからない黒い力を回避した後、



絹旗と柊元は、全力で走り出した。
とにかく、住宅街から出る。


影のない広場がある住宅街の先に向かって、走れ、走れ、走れ!!!!


「.......ッ!!気づかれたかぁ。ま、やすやすと逃すわけにもいかないしね。」

そう独り言を呟いた数秒後、

「そ、そんな!?」
「超....信じられませんが、信じるしかありませんね。」



夢見は2人の目の前に現れた。


地面の、正確には影の中から。


「もう分かるよねぇ?私の能力。影の中を行ったり来たりとか、影に質量を持たせて飛ばすこととか思いのままなのさ。」

あのよく分からない黒い力の正体。それは、【影】だったのだ。
住宅街なら無数の家やアパートによって構成されているため、影が多い。

なら、影がないところなら夢見はどう動くのか。気になった2人は早速行動に移したものの、こうなってしまった。

まさかとは思っていたが、影の中に入り込めるなんてどういう理屈なのか。そんな能力これまで聞いたことも見たこともなかった。


「影のあるとこなら自由に動き回れるからさぁ、広場に出られちゃ困るんだよねぇ?だからさぁ、」

今までのような穏やかな表情を捨てた少女は、こう言った。


「さっさと死んでくれないかな?正直アンタらの相手するのもう飽きてきたからさぁ!!!」
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今までとは比べ物にならないくらいの強大な影に質量を叩き込んでくる夢見。

あまりのプレッシャーに押され気味の2人にとって、その攻撃を防ぐのは不可能に近い。


(....打ち止めちゃんには結局超再会できないまま、か。ごめんね、遊びに行く約束守れそうにないです。)

(.....滝壺さん、アンタだけでも逃げてよ?これ以上、余計な犠牲者は出したくないから。)

2人とも最期を悟ったのか、意外なほどに落ち着いていた。


そして、膨大な質量を得た影は、2人に向かって着弾した。

「アッハハハハハハ!!!じゃあねぇ!!バイバーーーイ!!!!」

夢見はその喜びを言葉と笑顔で表現した。
夢見の目的、それは、夢組織ドリームのリーダーである窓付を解放し、その監視記録を破壊し抹消。後は幻想殺しの回収と一方通行の殺害の邪魔をする能力者を殺すことであった。
一方通行なら、すでに白世姉妹が向きのない攻撃を駆使して圧勝し、窓付のもとに向かっているはずだ。

(私もこれから向かおう。そして、例の計画を成功させた上で、自分の世界に帰る。後もう少しだね窓付、必ずこの計画を成功させようね。)

夢見は確実に2人を仕留めたと思っていただろう。



その恐怖の音が鳴り響くまでは。



ギュインッ!!!!!
という響きのいい音が前方から聞こえてきたとき、同時に前方から迫ってきたものがある。

自分で放った、【影】だ。
どうして?どうしてそんなに速いスピードで跳ね返ってきている?

そう考えている時にはもう、夢見の身体は爆散していた。残っているのは、ボロボロになった衣服のみ。
だが、夢見はまだ正常に思考を働かせられている。何故なのか。



「....ッたく、こンなろくでもねェもンで攻撃するとは面白ェな。でもよォ、向きがあるなら勝負は決まってンだよバーッカ!」

立ち上る煙の中から、杖をつきながら歩きでた1人の人間。
学園都市第一位の超能力者。



______一方通行。


「あのクソ姉妹がどうなったのかは知らねェがよ、メルヘン野郎のキズが全てを物語ってたぜ。そンな風にわかりやすく能力を使われるとよォ、嫌でもベクトルの流れに支障が出るってもンだ。見つけンのは簡単だったなァ。」


さて、と一息入れたところで一方通行は地面に向かってこう呼ぶ。


「出てこいよクソポニーテール野郎が。どうせ本体は地面の中だろォ?」

その言葉に反応した夢見は本当の姿を一方通行の前で晒した。

身長も髪型も元通り。強いて違う点を挙げるとすれば......

全身が影であることくらいだろう。

「一方通行......そうか、物江達、やられちゃったんだ。
ねぇ一方通行。アンタはどうして後ろの2人を助けたの?アンタは人の為に力を使えるような善人ではないはずだけど?」

舌打ちをしてから一方通行はめんどくさそうにこう答える。

「善人だろォが悪人だろォが関係ねェンだよ。俺はお前の攻撃からこいつらを守りたくて反射した。ただそれだけの事だろ?この行為は人の為にやったことでもあって、自分の為にやったことでもあるってことだ。そンなことも分からねェようじゃまだまだお前も三下だな。」

一方通行は電極のスイッチをオンにし、こう言う。

「そンじゃァ、もうイイか?
お片付けだ。1分で終わらせてやるよ。」


「ウフフ、窓付、この街は、そんなに甘い場所じゃなかったみたいだね.....」


必然、夢見本体は自らの放つ攻撃によりダメージを受け、敗北した。




「ちょっとアナタ!大丈夫なの!?」

第7学区の中でもあまり目立たないビルの屋上に着いた心理定規と打ち止めはとんでもない光景を目の前にしていた。
学園都市第二位の超能力者ともあろうものがボロボロの状態でフェンスにもたれかかっていた。
そして、辺り一面にはドス黒い色をした液体と金色の羽が撒き散らされている。

垣根が金の翼を展開した時点で、2人はもうビルの中に入ってきていた。離れた場所から見えた状況では確かに白い翼を展開しているのが見えた。じゃあ、この羽はなに?

心理定規は垣根の能力を誰よりもたくさん見てきた。だが、こんなことは初めての体験である。故に、状況がますます理解できなかったのだ。


そして、打ち止めは心理定規の傍らで、こう考えていた。
(あの人は、確かにここにいた。遠くから見えたとき、確かにここには一方通行が倒れかかってた!でも、来てみたら倒れてたのはこの人だった....どこにいっちゃったの?ってミサカはミサカはしょんぼりしてみたり。)


そして、垣根に反応があった。
少しずつ、そのボロボロの身体を起こしながら、目の前にいる2人に気づく。

「ん?心理定規...それに、最終信号?」

起き上がったことに感極まったのか、心理定規は垣根帝督に抱きついていた。

「よかった....生きてて....」

「心配してくれたのか?バカだなお前も。この俺がそんな簡単にやられると思ってたのかよ?ちょっとは俺の力を信用しやがれ。」

「な、なによ!せっかく心配してあげてたのに!」

「ハハハ。ありがとさん、心理定規。それと最終信号もな。悪いな、妙なことに巻き込んじまってよ。」

「ミ、ミサカは大丈夫だよ!それより....」

垣根は会話の一手先を読み、こう言う。

「すまねぇな、お嬢ちゃん。俺は一方通行がどこに行ったのか分からねえんだ。」

垣根は半ば暴走状態で意識が途切れている。その間に目を覚まして行動したのだろう。

「そ、そうだよね、ってミサカはミサカは.....」

「だが、」

垣根は打ち止めの言葉を遮りこう言った。

「今わかったぜ。アイツがどこにいるのかな。」

「どういうこと?一方通行はここに来るまでに一度も見なかったけれど...」

「アレを見てみろよ。」

そう言って垣根が指をさした先で、なんだかよくわからない黒い力が立ち上がっているのが見えた。

「あそこに、あの人がいるの?ってミサカはミサカは訪ねてみたり。」

「あぁ、間違いない。あの不自然な風の動き、ベクトルはアイツによる物だ。そして...」

垣根は一息入れて、こう付け足す。

「どうやら決着がついちまったみてぇだな。」

2人は思わず首をかしげる。当然だ。打ち止めはともかく心理定規に至っては精神系の能力者のため、チカラの流れなどわからない。学園都市第二位だからこそ成せる業と言ってもいいだろう。



「さぁーてと、行こうぜお2人さん。一方通行と合流したら、」




「最終決戦だ。」




【第九章】遭遇、そして開戦

新生アイテムは今まで一度も行動の手を緩めてはいない。

ハイスクールとLm&NEWグループに今まで目線が移っていたのは、窓付を探し歩いていたからである。
基本3人で行動し続けてはいたものの、なかなか見つけられないことに八咫通行がしびれを切らし、分担行動することになり今に至る。


8人目の超能力者に、2人の大能力者と1人の無能力者が立ち向かおうとしているのだ。周りからすれば

なにやってんだコイツらは

状態である。

だが、彼ら3人は何も考えずに挑もうとしているわけではない。決定的な突破口を知った3人だからこそこの行動が取れるのだ。

そして、1人の不幸な少年は怪物の後ろ姿を見つける。
距離にしておよそ20数メートルほどであろう。もしかしたらむこうはもう気づいているのかもしれない。
だからこそ、1人の少年、上条当麻はまっすぐ進む。
もはや隠れる必要もないだろう。
見つけたという合図を2人に送ってから、彼は再び前に進んだ。

そして、上条が後ろに迫ってきていることを感じつつも窓付は包丁を片手にこんなことを考えていた。


この計画は最終段階まで進みつつある。
一方通行の殺害?そんな計画初めからなかったんだよ。幻想殺しの確保?そんなことして何になるの?殺さなきゃ意味がない。

物江も物子も歩二子も全て私の作り出した【幻覚】だ。
オリジナルのみんなはもうとっくに私が殺したんだよ。

みんな大好きだった。この計画にも賛成してくれた。だからこそ、私はみんなを殺したことを後悔はしていない。

そして、私はあの子達のためならなんでもできる。何回だってやり直せる。その為には、私がこの計画を成功させなきゃならない。



最後の標的、それは........





【この世界】だ。


学園都市の科学技術を用いればそう難しいことではないだろう。後は人々に適当な幻覚でも見せ、それを世界に発信すればそれで世界は私のものだ。


そして、もともと私たちが暮らしていた私たちの世界は処分だ。
この世界を私たちがもともと暮らしていた世界にすれば、全ては丸く収まる。
私の能力を使えばそう難しいことではないだろう。


そう、私の計画。4人ではない、私1人でここまで練り上げてきた企画。


それは.......




世界征服だ。


そこまで考えたところで、窓付は振り返る。
同タイミングで、上条当麻は歩みを止める。

「探したぜ...窓付。」


窓付は表情一つ変えない。その冷たい目は何を感じ、何を見てきたのだろうか。

「キミが、幻想殺しの.....ふーん、確かにこれは不幸にもなるね。」

「単刀直入に聞くぜ。どうしてこの街をこんなめちゃくちゃにしやがった!?自分がどんなことをしてるのかぐらい分かるだろ!?」

「もちろん、そんなことは百も承知だよ。でも、これは私の、私たちの計画の為。この計画の為なら私はどんな悪人にだってなれる。」

上条は憤りを感じながらも必死でそれを自分の中に押さえ込み、続ける。

「......結局お前の目的ってのはなんなんだよ。」


「......全ては、私の世界を守るためなんだよ。」


全てを受け流し幻に還す超能力者と全てを幻からたたき起こす無能力者。


自分たちに焦点を合わせた正義と
みんなを思う正義。


2つの異なる正義が相対したとき、最終決戦が始まる。
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最終決戦の始まろうとしている時の同時刻。

隣の学区、第18学区ではアンチスキルとジャッジメントによる交通整備と事件整理は休憩という文字を知らずに続いている。

「お年寄りとお子様を優先して避難してくださいな!!あっ、ちょっとそこのアナタ!トイレはあちらですわよ!」


常盤台中学校の制服に身を包むジャッジメントが1人。
空間移動の能力を持つ大能力者、白井黒子。

「白井さん!そこから500m先の信号で渋滞が発生してます!そこにはもう応援を向かわせていますので白井さんは渋滞の解消へ向かってください!」

そんな白井黒子をデータを頼りにサポートする少女。
頭の花飾りが特徴的な初春飾利。


新組織が戦っている間も、彼女達は休みなく働き続けている。それも休みなしだ。中学1年生とは思えないほど冷静かつ的確な指示により、渋滞もそれほど時間をかけずに解消できそうだ。

元々いつもの4人で18学区にいたものの初春の同級生の佐天涙子は精神的に傷を負った友達の励ましで手がいっぱいいっぱいとなっているらしい。


(そして....お姉さまは....)


学園都市第三位の超能力者、通称超電磁砲。
常盤台中学校2年生、御坂美琴。

一度は避難してきたものの彼女の性格からして、だまって事件を見過ごすことなどできるはずもなかった。

白井たちの反対を押しきり、単身第7学区へと乗り込んでいった御坂とは未だに連絡が取れていない。

お姉さまなら大丈夫。頭の中でわかってはいても身体は正直である。


「初春、やはりわたくし第7学区へ行ってまいりますの。」

「な、何言ってるんですか白井さん!!そんなことして後からバレたらどうするんですか!?」

「どうなろうと構いませんわよ。これは、わたくしの意思ですわ。お姉さまを放っておくなんてわたしには出来ません。」

「でも...ジャッジメントとしての仕事は...」

「ご心配なく。きっちりし終えてから参りますわよ。」

「....なら、私もサポートします!白井さん!」

「いいえ、初春まで巻き込むわけにはいきませんわ。これは、わたくしのわがままですから。」

「し、白井さん....どうしてそこまで....」

白井黒子は一息整え、笑顔でこう言う。

「残業ですわよ!サービス残業!」


白井黒子は、決意を固めた。第7学区へ侵入し、御坂美琴を探し出す。そして、見つけられた暁にはいつものスキンシップを!!!

それぞれの想いを胸に、4人は行動し続ける。
友を思う気持ちは、強力であることを示した瞬間であった。




第7学区の一歩手前、そこに御坂美琴はいた。


「私は....こんな悪夢を早く終わらせたい。それなら、私の命なんて安いものよね。もしかしたら誰かいるかもしれないし....行かなきゃ!!」

前に一歩踏み出そうとした瞬間、後ろから足音がした。美琴は思わず振り返る。そして、そこからは1人の女が歩いてきていた。



「正義と命を天秤にかけたの?感動的だけど現実的じゃないね。」

学園都市第四位の超能力者、麦野沈利が歩いてきていた。
彼女とは前に一悶着あった為、なんとなくいい予感はしなかったが不思議と敵対心は感じられなかった。


「まったく、絹旗も滝壺も新組織の活動で大忙しみたいでさ、1人でまたアイテムを名乗るのもなんかアレだしね。どうしようか迷ってたんだけど...」

「アンタ、この事件の事知ってるの?」

「まぁねー、嫌でも入って来るっつーの。でも、お前は聞かない方がいいよ。学園都市の広告塔まで裏にくる必要はないさ。」


「私だって、すこしは裏について理解しているつもりよ。必要最低限しか知ってないと思うけどね。」

「ま、知りたきゃ教えてやるよ。歩きながらね。」

「手短に頼むわよ?私だって、待たせてる友達がいるんだから。」

「ハッ、第三位らしいな。」

「....どういう意味よ?」

「なんでもないっつーの。ホラ、早く行かねぇと取り返しがつかなくなるかもしれねぇぞ。」


ギクシャクした2人だが、結局は一緒に第7学区に侵入した。
第三位と第四位が侵入したことで、学園都市に存在している超能力者が第五位と第六位を除いてすべて集結。


この2人は、新組織とは別の戦いを経験することになる。



首元の電極のスイッチをオフにした一方通行の背後で、絹旗最愛と柊元響季は目を覚ました。うめき声を上げながらもなんとか立ち上がった2人は目の前の光景を疑った。
目の前には一方通行がいる。最強にして最凶の超能力者。その先にはボロボロに爆散した夢見であったものが転がっている。


「な、なんですかコレ....超、なにがあったんですか!?私たちは殺されたはずじゃあ!?」


2人の記憶は自分たちに影が飛んできたところで終わってしまっている。当然といえば当然なのだが一方通行が2人を助けた事など知る由もない。だからこそ、2人は警戒心を高く持っている。


「さァな?ま、大体の予想はついてンだろ。」

「夢見を倒して、アタシ達まで殺そうってワケなの?」

柊元は半ば挑戦的に言葉をふっかける。まったく命というものをどういう価値観で見ているのだろうかこの少女は。一方通行は杖をつきながら振り返りやる気の無さそうな顔でこう告げる。


「......だったら、どォする?」


2人は双子かと疑うほどに息の合った調子で全身に力を込めて、
「「殺す」」
そう言った。

勝てる勝てないの問題ではない。とにかく目の前の恐怖から逃れたいという気持ちが、2人の身体を動かす原動力となった。
窒素装甲と念動力に似たチカラの強烈なタッグ攻撃。2人は全力で叩き込むつもりであった。だが、


「ストップだよ、きぬはた!!!くきもと!!!」

滝壺のその一言はスイッチとなり2人の動きを止めた。

「あくせられーたは2人を助けてくれたんだよ!建物の影からずっと見てた!!」



「「え?」」


2人は先程までの怒りを忘れ、一方通行の方を振り向く。

「ま、ソイツの言うことを信じるも信じねェもお前ら次第だけどな。ンじゃ、あばよ。」


「ちょ、超待ってください!!!」
「あの、本当にごめんなさい!!!勝手な解釈ばかりして!」

2人はとにかく謝った。これでもかというくらい謝った。


「よせよ気持ち悪ィな。そんなことより俺たちにはまだやらなきゃいけないことがあるンじゃねェのか?こんなとこで頭下げてる余裕があンなら行動したほォがいいぜ。」

その通り。この事件の核心、窓付夢遊の確保はまだ成されていない。

第二位が倒した白世姉妹。

第一位が倒した夢見。

そして、最後の1人である窓付を、倒さなければこの事件は終息せず学園都市の安全も確保されないだろう。


「....行きましょう!私達は超倒れてばかりですが、マーカーぐらいにはなれます!」
「そうだよ。アタシだって少しは能力に自信がある。やれるだけのことはやってやるさ!!!」

気力も精神も回復した絹旗と柊元は準備万端といった感じだ。

「行こう、みんな。平和を取り戻すために。」

滝壺も覚悟を決めているらしい。



「そンじゃァ、行くか。7人揃ったしな。」


「「「7人?」」」

3人は思わず同タイミングで同角度で首を傾げる。ここに居るのは4人だ。あとの3人とは誰なのだ?



「...オィ、そこに3人とも隠れてンだろ?ったく、らしくねえなメルヘン野郎。」


向かいの家の物陰から出てきたのは垣根帝督と打ち止めと心理定規であった。

「心配するな、自覚はある。」

「う、打ち止めちゃん!!超見つけましたよぉおおお!!!」

「あっ、リーダーだぁ!って、ミサカはミサカはリーダーの胸に飛び込んでみたりー♪」



この時、絹旗と打ち止めはようやく再開した。とは言っても、まだ別れてほんの数時間しか経っていなかったのだが、彼らのとってのこの時間はまさに地獄とも呼べるほど長く感じる時間だっただろう。

「再開を喜ぶのもいいけれど、そろそろ動かなくちゃマズイんじゃない?多分、もうそろそろ新生アイテムが交戦を始める時間よ?」

心理定規は結標との情報交換で窓付を見つけたという情報をゲットしていた。だからこそ、こんな助言ができたのだ。


「さァて、そンじゃァ行動始めるか?」

一方通行の一言で場は静寂につつまれ、冷静に行動を開始する。
向かう方角が違えど、目的地は同じ。


新組織は、集合に向かいつつある。


恐怖と混乱が入り乱れる、最終決戦の戦場へ......





【第十章】 座標殺し



ついに相対した、相対してしまった上条当麻と窓付夢遊。両者ともに睨み合う中、2人の人間が高速で上条の両サイドに辿り着く。
もはや説明する必要もないだろう。結標淡希と八咫通行だ。

「ふぅん、なるほど。アナタ達が新生アイテムだったのか。なら、なおさら都合がいいね。八咫通行もこの組織に入っているなんてなんという僥倖。いつも不幸なアナタと違って私は幸運ね。」


「なァ窓付よ、テメェがどンな理由でどンな目的でここにやってきたのかは知らねェ。知りたくもねェ。でもよォ、嫌でもわかっちまうのはテメェは一回ぶっ潰さなきゃ何回もこの悲劇を巻き起こすってことだ!終わりにしてやる...俺が、俺たちが全て終わらせてやるよォ!!!」

八咫通行はしっかりと自我を保っている。前回のような暴走状態に陥ることはない。


「................」

結標はただ、目の前の的に集中している。この突破口を試すチャンスはたった一度きり。絶対に外してはならないのだ。そして、この作戦が終わるまで私はしっかりと自我を保ち続けなくてはならない。私の役目はとても辛いものだけれど、もっと辛いのはすぐ隣にいる上条当麻の方だ。だから、やり遂げる。やり遂げてみせる!!


「どっちが幸運でどっちが不幸か、すぐにお前も分かるだろうよ、窓付。」

上条はこの状況で意外にも一番落ち着いていた。内心、この作戦を行うのはとても怖い。だが、恐れることない。すべてが解決すればどうとでもなることだ。そのためなら激痛の一つや二つどうってことない。



「正直言ってね?まさか私一人になるまで追い詰められるとは思ってなかったのよ。物子も物江も歩二子も、あんなにあっさりやられてしまうなんてね。でも、」

窓付は3人を一通り見回したあとにこう言う。


「私は絶対に倒されることはない。絶対に外からの衝撃なんて受けないよ。だって、元々そんな衝撃がなかったことにすればいいんだしね。だからこそ八咫通行、アナタの翼もまったくもって無力ってことだったのよ。残念でしたね。」


八咫通行に向けて狂気の笑顔を巻きながら言い放つ窓付。
この時、窓付は心の中でこう思っていた。

(この調子で他の2人にも挑戦的な態度をとり続けて怒りのボルテージを上げていけばもうそれで終わり。できれば幻覚夢想で楽に殺してあげたいところだけれど、この3人はそうもいかない。だから、これで殺る。)

そう考え終え懐から取り出した物、それはかつて八咫通行の胸元に突き刺さった包丁だった。

(さぁ、八咫通行、まずはアナタから殺してあげるわ。怒りなさい。存分に翼でもなんでも放出しなさいよ。)


ところが、窓付の考えとは裏腹に八咫通行は全く怒っている様子が感じられない。そして、若干のうすら笑いとともにこんなことを言ってきた。



「.......もしもよォ、お前にダメージを与えられる決定的突破口を俺たちが持っていたとしたら、どうする?」



!?

窓付は一瞬何も考えられなくなった。この状況でこんなことが言えるものなのか?圧倒的不利なこの状況で余裕を保ち続けている!?



「な、なにを言っているのよ。私の幻覚夢想を打ち破ろうとでも言うの?無理に決まってるでしょ!?とうとうおかしくなってきちゃったのかしらね!?」


「もう、そのへんでいいだろ。」

窓付の言葉を遮るように言葉を発したのは上条当麻であった。その瞳はまっすぐ窓付の方を向き、右手は力強く握り締められている。


「お前もこんなに人を殺して疲れただろう?目的なんかどうだっていいんだよ。お前は俺たちが止める。お前は俺たちが開放してやる。だから、」

上条は一瞬だけ瞳を閉じ、覚悟を決めてこう言った。




「終わりにしようぜ、窓付」
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言い終えた上条は窓付に向かって全力疾走する。
結標と八咫通行も、その動きに連れて行動する。

結標は近くのビルの物陰へ。

八咫通行は今立っている鉄橋の真上まで高く高く舞い上がった。




第7学区の往来を堂々と歩く2人組、御坂美琴と麦野沈利は警戒しつつ行動中だ。
周囲に気を配りながらも、麦野沈利は御坂美琴に現在学園都市で起こっている異変について淡々と説明し続けている。通常、一度聞いただけでは理解しがたいような話でも、超能力者の頭脳をもってすれば話はスムーズに進むものだ。

超能力者の頭脳は言語能力、計算力、記憶力、応用力どれをとってもハッキリ言って人の限界を超えているといってもいいレベルだ。
いや、正確には現時点でここにそのレベルに達している人間が2人いるわけだが、まぁそう言っても大げさではないほどにすごいということだ。


「...つまり、アンタの説明を聞いた限りでまとめると、ドリームと呼ばれる謎の4人組が突然学園都市に現れて、大量殺人を引き起こした。目的は不明。新組織はこの騒動の収束を目標として現在も活動中ってことか......。」

「もっとも、そのうちの3人は倒せたみたいよ。後は親玉をブチのめすだけみたいね。」

「で?もうすぐ事件も解決しそうって分かっててどうしてここに来たのよ。私はてっきりなにも事件は解決に向かっちゃいないと思ってたから来たんだけど。」

「んー、なんつーかなぁ、女の勘ってヤツ?」

「へぇ....アンタにもそういう女の人っぽいところあるんだ。」

「ブチ抜くぞ第三位。」

「じょ、冗談よ。そんな本気にしなくても...」

「冗談言ってる暇があったら警戒を続けろ。私達だって無敵ってワケじゃないんだからさ。」


若干の火花を散らしながらも2人はそれなりに早く状況整理を終えることができた。バッサリ言ってしまえばこの2人の頭脳は学園都市外のコンピューターぐらい容易で上回るほどの性能なのだ。流石としか言えない。



2人が再び歩きだしてから約5分。御坂は麦野に素早くこう伝える。


「何かが近づいてくるわ!そこに身を潜めて!」

麦野としてはそのまま正面から衝突して自慢の高速砲でブチ抜く方がよかったのだが、この騒ぎをさらに大きくしてしまうのも嫌なので、素直に従って身を潜めた。

ちなみに、どうして御坂が何かが近づいてくるのが分かったのかというと、それはご自慢の能力、電撃使い(エレクトロマスター)ならではの【電磁レーダー】のおかげだ。
常に電磁波を放っている御坂は僅かな電磁波の乱れも逃すことがないのだ。

「この流れ....人じゃないわね....動物?」

2人は隠れている建物の影から少しだけ顔を出し周囲の状況を確認する。そこには、最高峰の頭脳をもってしても今まで見たことも聞いたこともない生物が一体、徘徊していた。


その生物はなんと例えるべきか....



刃のように鋭利な翼で飛び回る茶色の怪物。



【刃茶竜】
pic.twitter.com/WOdEyxBd48


そんな言葉が頭の中に浮かんできた。

「なんだよ...ありゃ。」

「アンタも何も知らないの?」

「あんな怪物がいるなんて聞いてねぇぞ。」

本当だった。絹旗から聞いた情報では人以外の何かがいるなんて項目は一切なかったはずだ。
そもそもなんだアレは。まるでアニメやゲームの中に出てくるモンスターのような姿だ。一体どこから出てきたというのか。



「なんだか分かんないけれど、アイツをこのまま放っておくわけにはいかないわよね....」

「やるか?第三位。」

御坂は真っ直ぐなその瞳を麦野に向けてまるでどこかに誘うかのようにこう言う。


「あったりまえじゃない!アイツがなんなのかは厳密にはわからないけど、放っておいていいことなんてないでしょ?私は早くまた活気のある第7学区を見たいのよ。それは、アンタも同じでしょ?」


同じ超能力者でも、環境が違うだけでここまで違うとは。
この瞳は私には眩しすぎる。私たちの域を知らない真っ直ぐな瞳。
この瞳は汚してはならない。濁らせてはならない。


「そうね....そんじゃ、やれるだけのことをやってみるか。邪魔したら容赦なくブチ抜くからな。」

「アンタこそ、私の邪魔したら電撃で痺れさせて動けなくしてやるからね!覚悟してなさいよ!」


2人は、お互いに自信たっぷりといった表情を見せ合い、そして、刃茶竜に向かって飛び出した。




勝負というものは長く続くものもあれば一瞬で決着してしまうものなど様々な種に分かれるものであるが、おそらくこの戦いは後者寄りであろう。
この戦いではほんの一瞬のミスも許されない。窓付を倒すにはより鮮明に迅速に遂行する覚悟が必要だ。


「...なにをするつもり?アナタ達がどんなことをしたって私にとってはなかった事になる。つまり、何をしても無駄だということをそろそろ理解して欲しいんだけどな。」

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

窓付のすぐそこまで迫ってきている上条当麻。彼は窓付に向かってその幻想殺しを突き出した。
が、その動きはひどく大振りだ。余裕でかわされた。
そして、その反撃として窓付は手に持っているその包丁を上条当麻に向かって突き出す。
間一髪のところでそれを交わす。そんな状況が1分ほど続いた。見ている側にとってはたったの1分でも、上条当麻にとっては学校で残ってやらされる補修の時間よりも長く長く感じたことだろう。



そして、その時は来た。


窓付の方から、こちらに向かって攻撃を仕掛けようと走り出したのだ。



仕掛けるなら、ここしかない。


「今だ淡希!!!俺も右腕をぶった斬れえええええええええええ!!!!!!!」

結標淡希は、その瞬間まで、迷っていた。この瞬間は自分にとって更なるトラウマとなってしまうかもしれない。愛する人の右腕を、私の能力によってぶった斬る。常識では計り知れない痛みを彼は経験することになるのだろう。
そんな風に悪い考えばかり張り巡らせていた時に頭に浮かんだのは、上条当麻からの願い。


(お前がこの作戦の要なんだ。大丈夫、これくらいじゃ俺は死なねぇ。絶対にだ。約束する。無事にこの作戦が成功して学園都市も穏やかになったら、またどこかへ遊びに行こうぜ?)


「うぅ.......当麻ああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


結標淡希は、その右腕に向かって、振り下ろした。
有に腕一本切断できるほどの、ギロチンを。



バシュゥッ!!!!という音の後、

「ガァァアァァァァァァァァアァァァああああああァァァ!!!!!!!!!!!!!!!」

上条当麻は吠えた。喉がかれるほどに。
そして、その右腕はなくなっていた。正確には消えたわけではない。ならどこにいったのか。


「ぇ......あ....ぅあ.........」

恐怖に声を詰まらせていたのは上条でも結標でももちろんのこと八咫通行でもない。



窓付夢遊。全速力で上条に向かって走ってきていた彼女の姿はもう見る影もない。包丁を地面に放り出し、泣きそうな表情でこちらを見ている。
窓付は、予想外の事態というものに強烈なトラウマがあった。
オリジナルの白世姉妹と夢見歩二子は、窓付自身の能力の暴走によって死んだ。当時の自分は能力を使って記憶を誤魔化していたらしい。

なのに、どうしてこのトラウマを思い出すことになったのか。


窓付夢遊の頭上から降ってきたもの。



幻想殺し。


窓付にとって、外からの衝撃をそのまま受け続けるという状況そのもの事態恐怖であった。

自分の座標が定められない。
自分に能力を使えない。


自分に悪い夢がそのまま残ってしまう。

そして、自分にとって都合のいい幻覚は全て打ち消された。
これにより、窓付夢遊の頭の中から良い夢が消え去り、悪い夢(現実)ばかりが流れ込んできた。


「ゃ....やめてッ!!!これ以上私を覗かないでッ!!壊さないでよぉぉぉぉぉ!!!!!!」

「心配すンな。」

過去にも聞き覚えのある声。窓付は上を見上げた。
その上空には、八咫通行が急速に迫ってきているのが嫌でも分かってしまう。

「なんで....なんでこうなるのよ...私はただこの計画をッ!!!復讐をするためにこの街にッ...」

「黙れ。」

窓付はとうとう泣き出した。ここまで来ると本当にただの子供だ。超能力者として人々を殺していたあの窓付夢遊の面影はない。


「なァ窓付よ、テメェがどンな理由でどンな目的でここにやってきたのかは知らねェ。知りたくもねェ。でもよォ、嫌でもわかっちまうのはテメェは一回ぶっ潰さなきゃ何回もこの悲劇を巻き起こすってことだァ!終わりにしてやる...俺が、俺たちが全て終わらせてやるよォ!!!!!」

そう言って八咫通行は重力加速度も含めたその強烈なパンチを、恐怖と混乱の主に振り下ろした。

バゴォッという嫌な音と共に窓付はぶっ飛ばされた。
数十メートルにわたって地面を転がり続けた窓付は、それでも幻覚夢想を使って記憶を修復しようとする。


「ぁ...あれ?な、なんでよ.....幻覚が創れない....なんで...どうして!?」


「結局......お前を止めたのはお前自身って...ことなんじゃねえのかよ。」

自分の右腕を拾い上げながらそう言った上条当麻。
彼の意識はもう途切れる寸前だ。

「私....自身?」

「よく考えてみろ...お前は能力を使えばいつでも俺たち3人を瞬殺できたんだ。なのにどうして包丁にこだわった?それは、お前の中にほんの少しでも残っていた良心なんじゃねえのかよ!?」


窓付は、はっとしたような表情を浮かべた。


「お前は...まだやり直せる...自分の中に全部溜め込んでんじゃねぇ!!!!もっと吐き出しちまえよ!!お前だって好きで人を殺していたワケじゃねぇんだろうが!!」

言い切った上条は遂に気を失った。結標は上条を連れて急いで病院へ座標移動していった。


「まだやり直せる...か、」

「なンだァ?まだ何かしようってのかよ?」

「上条くん...だっけ、彼に殴られて思い出したんだ。」

「何をだよ?」

「私をこんな殺人人形にした....赤の王を.....」



窓付夢遊は、そう言って、ある行動をして気を失った。




御坂美琴と麦野沈利は刃茶竜に向かって攻撃をおこなった。
どうやらダメージは普通に通るらしい。

というより、拍子抜けだ。思いのほかこの怪物は弱い。
強そうなのは見た目だけか、と思った麦野は高威力の原子崩しを放った。

爆散する刃茶竜。その残骸の中に、御坂美琴は気になるものを見つけた。


【.flow】


と書かれたパーツ。これが何を意味するのか超能力者2人の頭脳をもってしても分かることはなく、特に重要そうでもないとそのパーツは捨ててしまった。


しばらくして、御坂美琴の頭上に、例のアレが飛んできた。

「おねぇ様ぁぁぁぁ~!!!!」

反射的に御坂美琴は軽い電撃を放つ。

「おおっふ....ってそれどころではありませんのおねぇ様!ビッグニュースですの!!!」

その言葉に、呆れた視線を放っていた麦野も真剣な表情になる。




「笑顔で亡くなられていた人達が次々と目を覚まして....全員の無事が確認されたんですの!!!!もう外の学区はこの話題でもちきりですのよ!!!」

「え!ほ、本当なの!?」

「あいつら...やってくれたってことか。」

こころなしか麦野も少しホッとしたようだ。

「さぁさぁ戻りますわよ!こんな場所からはさっさとおさらばですの。さ、お2人とも捕まって。」


もう少し調べたいという気持ちも2人の中にはあったが、ここはおとなしく引き下がることにしたのであった。





窓付夢遊の元に向かっていた垣根帝督らや一方通行、絹旗たちの元に同時に一本の電話が。

学園都市統括理事会からの退却命令。
学園都市の全てを握っている人間達からの命令だ。その一言はとても重く、とても逆らいようがない。

彼らは当然困惑する。だが、言葉の全容で彼らは安心してめ依頼を実行に移した。



「新生アイテムが、窓付夢遊の撃破に成功した。死んだ学生たちもどういう原理かは不明だが次々と息を吹き返しつつある。今は一刻も早く撤退しろ。」


【終章】 取り戻した現実


2013年3月某日。

時間はそこまで進む。


先月起きた能力による大事件はまるで無かったかのように平和な学園都市。正確には、一部の人間を除き全学園都市の住人の記憶からその記憶は消されている。

窓付夢遊が気を失う寸前にとった行動。


それは、能力の解除。


彼女は自ら幻覚夢想を放棄し、一切の殺戮能力と自分に対する甘えを消し去ったのだ。その瞬間、当然に能力の影響を受けていた死体は次々と息を吹き返す。
そして完全に幻覚夢想が使えなくなる前に人々の記憶を修正し、自体を収束させた。


少女は、もう自分は助からないと感じていた。
だからこそ、最期に自分らしさというものを勝ち取ってみたかったのだ。

赤の王に頼らずに、私一人の独断でもここまでの行動ができる。
そう窓付は満足して、目を閉じたのだった。その目はもう開くはずがないはずだった。



だが、少女は目を覚ました。
あまりの驚きに窓付はその場から勢いよく起き上がった。
見たところ、病院の一室だろうか。部屋の外では忙しく動き回る看護師の姿がちらりと見える。


そして、部屋には1人の真っ白な人間が立っていた。

「よゥ....お目覚めか?」

八咫通行だった。

「....どうして...私を助けたの!?殺せばよかった話じゃない!!仮にも私は学園都市を乗っ取ろうとしたのよ!?その私を」

「確かに、」
八咫通行は会話をさえぎりこう言う。


「理由を知らなかった頃の俺なら容赦なくブッ殺してただろォが...上条の言葉を聞いた時のお前の目、あれを見た瞬間思ったのさ。まだ本当のお前は死にきっちゃいねェってな。」


「...本当に良かったの?幻想郷であった時も、私は私を見失っていたとはいえアナタにとてつもない殺意を抱かせたのよ。」


「過去なんてきにしたって、なにも生まれねぇってことだろ。」

八咫通行とは違う声。この青年には見覚えがある。学園都市第二位の超能力者、垣根帝督だ。

「...ふふ、物江と物子をあそこまであっさり倒されちゃうなんてね、驚いたよ...本当にね。」

「ったく、ベクトルを捨てるだなんて、むちゃくちゃな事しやがるなお前も。下手すりゃやられてたぜ。」


「もっとも、今の私はこの街で言う無能力者。元の世界に帰る方法も復讐をする手立ても失っちゃったか。」


「なァ窓付よ、」

八咫通行はずっと聞きたかったことを尋ねる。


「赤の王ってのはなンなンだ?」



「..................」

窓付は黙り込む。どうやらその表情を見たところ、話すか否か悩んでいるようだ。

垣根は窓付に向かって言った。

「もし言いたいことがあるなら言っちまえよ。今までお前は全てを自分の中に抱え込んできたんだ。ちったぁ周りに頼るってことを知りな。」

窓付は決心した。


「赤の王はね................私の精神をいいように操って世界破壊を企ててきた史上最悪の怪物だよ.....当然、こんなふうに捨てられたまま終わりたくないッ!!アイツの前で言ってやりたいよッ!!!もう私は1人でなんでもできるって!!いつまでもお前のおもちゃになんかならないって!!!!」


垣根と八咫通行は顔を見合わせ、頷く。


「そんじゃ、実現させようぜ」

「え?」

垣根の意外な言葉に窓付は面食らったような声を出す。

「俺達も頭にきてるんだよ。表向きには解決したとは言え、お前と俺達はまだ全然解決なんかしちゃいない。だから、やるぞ。」

「ちょっと待って!赤の王はこの世界にはいないのよ!?私達が住んでいた世界にいるの!世界移動なんて、それこそ私の能力ぐらいでしか....」


「ナメてもらっちゃ困るぜ、窓付よ。想世元移(イマディメールド・ムーヴ)を使うのさ。」


「...驚いた。本当にいたんだ、世界移動できる人なんて。」

「ぶっちゃけ信じられねェとは思うが、マジだ。」

窓付は、若干の笑顔を浮かべる。会話が楽しいと感じたのはいつぶりだろうか。それこそ赤の王と遭遇する前まで遡るかもしれない。



「赤の王は、私の再起不能を確認してまた学園都市に刺客を送り込もうとしているに違いないよ。だから、その前にこっちから行ってやろうよ!」

「「ダメだ。」」

被った。垣根と八咫通行は同じことを考えながら顔をまた見合わせる。考えてることがここまでシンクロするのも珍しい。

「まずは体調を治しな。仮にその刺客とやらが来たとしてもすぐに俺らが追い返してやる。」

「....ま、そういうこったなァ。カエルの医者によると、体調が良くなるまで最低1週間だとよ。ククッ、せいぜい安静にしてな。」

「わ、わかったよ...休んでればいいんでしょう?」

「ちなみに、日替わりで新組織のヤツらがお見舞いに来るからな。」
垣根のその一言に、窓付は尋常ではない反応をした。


「はぁっ!!??なにそれ!!!どんな顔して会えって言うのよ!!!めちゃめちゃ気まずいじゃん!!!」


「ヘッ、心配しなくても全員お前が前のお前とは違うってこたァ伝えてあっから心配すンな。」


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!どうすればいいんだ私ッ!!まともに相手の顔見れるのかな私ッ!!!」


緊張感の解けた病室は、微笑ましい光景に包まれた。



......一方、その隣の病室では。


右腕に思いっきり包帯をグルグル巻きにされ、固定された高校生が1人。
上条当麻。
彼は窓付との壮絶な戦いの後ここに運ばれ、カエル顔の医者によってなんとか右腕を付け直すことができたのだ。

「もう3度目になるかね、やっぱり君ナース属性?」

「そんな属性は持ち合わせてませんよ!!!大体、今回のこれに至ってはちょっとワケありでして.....」

「ふむ...まぁ詳しくは聞かないよ。僕の使命はあくまで、どんな怪我も病気も生きてさえいれば必ず治すからね。」

「本当に、ありがとうございました。」

カエル顔の医者こと、冥土返し(ヘヴンキャンセラー)は僅かに微笑み、片手を上げて部屋から出て行った。


どれと同タイミングで、2人の女性が入ってきた。

「とうまーーーーーー!!!また私に秘密で変なことに巻き込まれてたんだね!?おかげで食べるものがなくてはらぺこになっちゃったんだよ!!!!!」

1人目は、禁書目録(インデックス)。10万3000冊の魔道書を一言一句見逃さずに記憶している完全記憶能力をもつ腹ペコシスター。

「あぁ....インデックスさん....入ってきていきなりその言葉はどうかと思いますよ.....」


「当麻!調子はどう!?右腕に違和感とかは!?」

2人目は結標淡希。上条当麻をこんな状態にしてしまった人物だ。だからこそ、上条には人一倍気を遣っているのだ。

「ん?あぁ、大丈夫さ!!もう1週間もすれば動かせるぐらいにはなるらしいからな!」

「そ、そぅ....よかった....本当に良かったわ!!!!!」

結標は上条に抱きついた。恋人関係にあるので、別に見ていて不審ではないのだが、【彼女】の前でそれをするとどうなるか、上条は簡単にに想像できた。できてしまった。


「と~~~~~う~~~~~~~ま~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!」

そう言い終えたとき、腹ペコシスターは上条の頭上にいた。音速を超えていたのではないか。そして、割れるような痛みが頭上から走り抜けた。


「ぎゃあああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!不幸ーーーーだーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!」


それは、たったひと時の平和。



なお、Lmは解散し、NEWグループの新構成員として合同措置を取ることになったらしい。

「さぁ皆さん!!!今日はとことん映画館を超ハシゴしますよ!!オススメはこの【ゾンビバスターズ】!!!B級を超えた超C級作品で前から超気になってました!!!」

「わーー!!楽しみっーー!って、ミサカはミサカはお祭り騒ぎーーー!」
そこら中を飛び跳ねて喜びまくってるのは、打ち止め。

「....北北西から信号が来てる.....いいことでもあったのかな」
どんな状況でもマイペース。AIM拡散力場浴をする滝壺。

「ハァ....ま、たまにはいいよね映画を観るなんてのも。」
半ば呆れ気味になりながらも状況を楽しむ柊元。


4人が観たこのC級映画。観終えたあとの4人のテンションは言うまでもない。全体的にどよ~んとした空気が感じられた。そんなところにやってきた1人の少女。

「なにNEWグループの4人が揃いに揃ってそんな顔してるのよ?」

心理定規。彼女は結局新組織には配属されず、未だにスクールとしての活動を続けている。

「いやぁ....私は超見慣れてましたからいいとして....みんなは.....ねぇ?」

3人揃って頷く。相当ひどい映画だったのだろう。気持ちを察した心理定規はこんな提案をする。

「そうだ!これからみんなでご飯でも食べに行かない?美味しいところ、見つけたのよー。」

「おぉ!!ごはんだー!!ってミサカはミサカははしゃいでみる!」

「うん、いいんじゃない?アタシもお腹空いてきたし。」

「.....おなかへった」

「超満場一致です!!!案内をよろしくお願いします!心理定規さん!!!」

「えぇ、それじゃ行きましょうか。」




かくして、窓付夢遊による大量殺戮事件は幕を下ろした。


だが、本当の戦いはこれからである。

窓付を殺戮人形にした【赤の王】

御坂美琴と麦野沈利が見つけた【.flow】と書かれたパーツ

窓付の元居た【別世界】

彼らにはまだまだやるべきことが残っているのだ。

人に頼りきりにはせず自分で何とかする力。
窓付はそれを見事に勝ち取った。


窓付という新たな新戦力の加わった学園都市暗部新組織と赤の王と呼ばれる謎の存在が交差するとき、新たな物語は始まる。




【エピローグ】 そしてヤツらは動き出した




異世界

それは、自分たちの住んでいる世界とは異なる次元に存在する世界。同じ場所に同時に展開されているにもかかわらず、決してたどり着くことはできない世界。


学園都市に平和が戻っている頃に、そんな数ある異世界の一角、全体的に赤黒くよどんだ悪夢を具現化したような世界、毎日争いが絶えない世界ではこんな話が展開されていた。


「あーぁ(笑)、夢遊もまだまだ子供だったって事かなぁ。アンタの洗脳力ならいくらあの子でも自我を取り戻すことはない思ったんだけどね~。なぁ、赤の王さんよ!!」

そう話しているのは白髪に紫のノースリーブと白いスカートを身にまとった若干中学生くらいの少女。その右手には鉄パイプがしっかりと握られている。

「......正直、私も予想外だった。窓付ほどの子が...あれほど壮絶な過去を持っていながら私の洗脳力から外れ、自我を取り戻すとはな。」

赤の王と呼ばれるものはそう答えた。

「結局アタシの出番ってことか。アタシも大分アンタからの命令をこなしてきたけど今回ばかりはちと難しそうだね。」

「......学園都市とやらの能力者がそんなに怖いのか?...それとも、妹を元に戻してしまったこの街が怖いの」


「チッ!!!!!!」

女は舌打ちを一度した後、自分のすぐ背後まで迫ってきていた人間に対しておもいっきり、鉄パイプを振り下ろした。

ドガッ!!!という嫌な音と嫌な感触とともに聞こえてくるのはもちろん、悲鳴。
だが、女は何も感じない。なぜなら、この世界でまともに自我を保っているのは自分たちだけ。


そう、この世界は既に、【征服された世界】なのだ。

赤の王と呼ばれる黒幕の最強の手駒にして、窓付夢遊の姉。


【錆付 紅蠅】(さびつき こうよう)に。



殴られたのは、精神崩壊した中年の男性だった。うめき声を上げながらしばらく苦しそうにしていた姿が気に入らなかったのか、



錆付はもう一度、その頭に鉄パイプを振り下ろす。


今度の一撃には、確信があった。


苦しそうにするまもなく死んでいった男を上から見上げ、鉄パイプを肩に回して彼女は言う。



「邪魔しないで、今のアタシは超絶機嫌が悪いんだよ。」
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そう言い終えた直後、赤の王はこう言ってきた。


「.....君は、学園都市に行って何をする?」

「決まってんじゃん、当然窓付を取り戻す。そして.....」

一息据えて、振り返りながら、


「ぶっ壊してやんよ。学園都市も、その世界も。」

その声には重圧感があった。立場的に上である赤の王でさえ冷や汗が出てしまうほどであった。それを聞いた赤の王は間髪を入れず尋ねる。


「...1人でかい?」

「は?」

どこからともなく、錆付の目の前に2人の人影が近づいてきた。
そのうちの1人は、この場に合わぬ明るい雰囲気の声でこう話しかけてきた。


「やぁ!さび姉!!!噂はかねがね聞いてるよっ!!!ウチは白猿 蕉崔(はくえん しょうさ)さっ!!学園都市に行くんだろう!?窓ちゃんには小さい頃よく遊んでもらったし、ウチもついてくよっ!!!!」


なんだか騒がしいのが来た。錆付はそう心の中で思っていたが、口の外には出さなかった。

そしてもう1人。

「ええと....弦月 御連稀(げんげつ みづき)といいます。私達2人は錆付さんと同じ、赤の王の手駒です。学園都市に窓付様を連れ戻しに行くと聞いて、我々も何か力になれればと思いまして....えと、そのっ、よろしくお願いします!」


なんだかしどろもどろだな、使い物になるのかコイツら....

そう考えていた錆付に、赤の王は言う。


「....1人ではなにかと不便も多いだろう。その2人を連れていくといい。雑用程度にはなる。」


ま、それもそうかと錆付は納得し、

「オーケー、分かったよ。一緒に行こう。」

それを聞いた白猿と弦月は飛び上がって喜んだ。そんなに嬉しかったのだろうか。

「....こちらからはまた追って連絡することもあるだろう。まずはしっかりと準備を整えてから出発することだ。それでは、また会おう。」

そこで、赤の王との会話は途切れた。


女3人組はこれからの計画を相談しつつ、ひとまずは闇の中に消えていくのであった.......



この出来事は、学園都市で起きていた一時の平和と全く同じ時系列で起きていたこと。
彼らの戦いはまだ終わらない。



学園都市と窓付夢遊を巡る戦いは、すぐそこまで迫ってきているのだ。




とある少女の夢想遊戯 ー完ー


次回作、新約とある少女の夢想遊戯に続く
(slib.net/18784)

とある少女の夢想遊戯

初めて書いてみたSSだったが、楽しみながらかけたのが1番よかったな。
挿絵を書いてくれた方にはお礼を。ありがとよ。
次回作、新約 とある少女の夢想遊戯もよろしくな。

2kakiness@gmail.com
意見感想等あればぜひメールしてくれ。大切に読ませてもらうからよ。

とある少女の夢想遊戯

禁書目録×ゆめにっき、クロスオーバーという異色作品です。 設定はかなりオリジナルな部分が入っています。 バトルシーンは多めに入っていると思います。 続編 (slib.net/18784)

  • 小説
  • 中編
  • ファンタジー
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-03-04

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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