妻に恋して

1章 最後の行為

最後にしたのは、暑い盛りの7月頃だった。一人娘の綾香が塾にいっている間だ。
 
普段は11時頃にしか帰れない高志が、水曜日は綾香の帰りが10時半過ぎになることを見越して、会社には戻らず、
7時過ぎに帰宅した。そんな高志の行動に妻の友里恵も何となく感じていたのだろう、帰宅早々にお風呂に入り、出てきた高志がちょっかいを出すと、それ程嫌がる仕草はない。
 「 入れさせて。 」 
といつも通りストレートに云うと「 えー、忙しい 」とこちらも決まった言い方だ。
 そして、「 入れるだけだからね。 」と友里恵は、リビングに置いてあるローソファーに四つん這いになった。
高志は友里恵の気が変わらない内にと慌てて、棚の奥に隠してあるコンドームを取り出し、自分で装着すると友里恵のスカートを
勢い良くたくし上げ、下着をずらし、ペニスを押し込んだ。すでにそれなりに濡れておりペニスはすんなりと奥まで入っていく。
3分程の簡単な行為だった。
 ここ数年は、こんな簡単なSEXが多かった。いわば、高志の精処理のためだけの行為。当然、友里恵はイクこともできず、
義務として苦痛を感じながら付き合っていたのだろう。実際、それ以前からも拒否したり、不満を口にしていた。
 その大きな理由の一つが、娘の綾香が中学3年生になり、受験勉強もあって、夜遅くまで起きていることが多く、気になって集中できないからだ。そのため、時間をかけた、
お互いを確かめ合うような行為は、ほとんど無くなってしまっていた。

 高志と友里恵は結婚をして18年ほどになり、もう少しで、お互い40歳を迎えようとしていた。大学時代の同級生だった二人は、
3年生から付き合いだし、卒業して1年たった頃に、綾香の妊娠が発覚をきっかけに結婚したのだ。
そういった意味において、結婚生活は必ずしも順調だったとはいえなかった。まだ、社会人になって間もない高志は、日々の
仕事が精一杯で家のことや育児まであまり手が回らなかったし、友里恵自身も社会に出て仕事をしたいという思いが、たった一年で
家庭に入らねばならなくなり、生活の端々に不満を募らせていた。
 そんな生活の中で、SEXでお互いを感じることは重要だった。少なくとも高志にとっては、きわめて重要な行為だった。

 それが、あの簡単な行為から、全くなくなってしまったのだ。あのSEXの後、しばらくして友里恵の体調が少し悪くなった。
軽い膀胱炎のようなもので、当然、SEXは自重せざる得なかった。しかし、それは、薬の効果もあり、1ヵ月ほどで良くなっていた。
そのため、高志は、それとなく機会を伺っていた。高志からしてみれば、随分と我慢してきたつもりだったのだ。
だが、高志のそんな行動に友里恵は露骨に不満の態度を示していた。
 
 8月、お盆休みなり、4日間の連休の2日目の夜、11時過ぎだった。
綾香はすでに寝てくるといって、歯磨きを済ませ、2階の自分の部屋に上がった。夫婦の寝室も2階にあるため、普段から、
行為はリビングですることが多かった。
 「 まだ、痛いの? 」
 「 もう、良くなったでしょ。 」とあからさまな態度で迫る高志に、友里恵は
 「 まだ、起きてる。 降りてくるかもしれないじゃん。 」と軽く拒否の態度を示すが、これは、良くあることだ。
 「 だいじょうぶだって、もう寝たって!! ね、少しだけ 」
 「 いやだっていってるじゃんか。 」と強い拒否。そして。
 「 もう、いやなんだって、あなたのそういうのが、すごくストレスなの、わかる!! 」
露骨な言い方に、素直にあきらめればいいやと思う気持ちと裏腹に、
 「 いいじゃん、ずっと我慢してたのに!! 」と云わなくてもいいこと云ってしまう。
 友里恵の表情はすでに怒っている。怒った時の友里恵は、すぐに黙り込んでしまう。それは、おそらく、口喧嘩になれば論理的で
狡猾的な高志に過去何度もいやな思いをしてきたことの防衛手段なのだろう。
 しかし、友里恵のそんな態度は高志に一層の不快感を与える。
 「 じゃあ、もういい。 」気持ちが抑えられず口から言葉が勝手に溢れてしまう。
 友里恵の悲しそうな表情を見た時、高志の心は怒りと後悔が混ざり合っていた。その場に居たたまれなくなり、1人で寝室に逃げるように上がっていった。
悶々とした気持ちで、なかなか寝つけずに2時頃まで起きていたが、結局、友里恵は寝室に上がってこず、無理にでも眠ることにした。

妻に恋して

妻に恋して

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-03-04

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