無人島の話
無人島の少女
この星のどこかの無人島に少女はいた。
少女は島の浜辺から海をただただぼうっと眺めていた。
「・・・そろそろ帰ったほうがいいかな・・・」
少女はつぶやき、浜辺のそばの密林へ入っていった。
漂着
ザザ・・・ザ・・・
「・・・・・・。」
波の音が聞こえる。僕は・・・浜辺にいるのか?
うつぶせの状態から体を起こし、僕はあたりを見回した。
「僕は・・・船・・・船に乗っていたような・・・ここはどこだ・・・無人島?」
体が重い。とにかく体力を取り戻さなくては。
何か飲み食いできそうなものはないかと、近くの密林の方へよろよろと進んでいると、
「大丈夫ですか?」
目の前には群青色のドレスの裾。あぁ、人がいる・・・。
僕は視線を上へ向けた。
少女がいた。儚げな雰囲気が漂っている。
「・・・あ、はい・・・。」
「・・・大丈夫ではなさそうですね・・・ついてきてください。」
僕は言われるがままに彼女のあとをついて行った。
「君はここで何を?」
僕がそう問いかけると彼女は少し戸惑って
「ここに・・・住んでるんです・・・。」と小さな声で自信がなさそうに言った。
しかし、こんな華奢な少女が一体どうやってこんな所で暮らしているのだろう。
見た感じ、僕と同じ14歳ほどのような気がするが。
「さぁ、着きました。この泉の水は飲んでも大丈夫ですし、泉の周りの植物は食べても大丈夫です----味は微妙ですけど。」
僕がありがとうと礼を言うと、
「・・・私はそろそろ用事があるので行きます。また来るのでここにいておいて・・・。」
と言い残してどこかへ行ってしまった。
謎の多い少女だ。僕はこんなに尽くしてもらったのに、彼女の名も知らない(彼女も僕の名を知らない)。
とにかく水を飲み、木になった実をかじった。渋かった。
僕は腹を下すのではないかと心配したが、そんなことも無かった。
そうしているうちに僕はうとうとし始め、寝てしまった。
それが僕の無人島(?)での第一日だった。
一緒に
ふっと目が覚めた。
体を起こすと服が泥だらけだった。
人の気配を感じ、横を見ると、僕を助けてくれたあの少女がいた。
「おはようございます。・・・て言っても、もうお昼頃なんですけどね。」
僕は何時間寝ていたんだろう。
「えっと・・・私、今日からあなたがこの島から抜け出すまであなたと一緒にいようと思うんですけど・・・いいですか?」
えっ
「・・・その前に、君のことを聞かせてくれ。」
「できないです」
「なら、名前は教えてくれる?」
「はい、ココナです。あなたの名前は?」
「僕はエイド。よろしく。」
僕はそう言って手を差し出した。
「・・・・・・っ!」
何故かココナは突然怯えた表情を浮かべた。
「どうかした?」
「あっ、すみません・・・。理由は話せないけど、私は他人と触れ合ってはいけないの・・・!」
彼女は言い切ってからふーっと息を吐いた。辛そうだ。
そういえば、まだ同行の目的を聞いていない。
「どうして君は僕と一緒にいようと思ったんだい?ここで暮らしていると思っていたんだけど」
「それもあまり詳しくは話せませんが、私はここで生まれたのではないのです。私は長い間、ここにいました。この島から抜け出す術も見つけられないまま。そこにあなたが来たのです。私はあなたとならこの島から抜け出せそうな気がするんです。」
なるほど。僕は自分とココナ、二人分の命を任されているのか。
「そうか、なら一緒に行こう。絶対この島から抜け出してやる・・・!」
脱出するなら、何か船のようなものを作らなければいけない気がする。小説を読んでも、脱出ゲームでも、主人公は皆そうしていた。
・・・それが本当に正しいことなのかは知らないけど。
「ココナ!イカダを作ろう!それが無理なら丸太でもなんとかして切り出して、あそこに見える島まで行こう。」
木々のあいだからわずかに見える海、その向こうに小さく見える島があった。
街のようなものが見えるし、距離もそこまで遠くなさそうだ。
しかし彼女はかぶりを振って言った。
「あなたには出来るかもしれませんが、私にはそれができない。」
なんで、と口にしようとしてやめた。彼女には彼女の秘密がたくさんあるのだろうし、体力もあまりなさそうだ。
「そうか。なら、地道に脱出方法を考えていこう。」
言ってから僕は、なんだか面倒なことが増えたな、と呟いた。
僕とココナが出会ってから1ヶ月ほど経った。
あれから、まだ脱出の方法は見つかっていない。
進展があった事といえば、僕が以前よりココナの事を少し知るようになったということぐらいだ。
僕もいい加減くたびれてきた。早く帰りたい。
その日も何事も無かったーーその日の夜までは。
夜。僕は川で頑張って獲った魚を焼いていた。火の起こし方はココナに教わった(彼女は手本を見せてくれなかったので苦労した。彼女は物に触れることすらできないのだろうか)。
「私、あなたにまだ言ってないことがあるの」
「何?」
ここで、ココナの口調が変わっているのは、僕らが1ヶ月ずっと一緒に過ごしていたからだ。
「私・・・・・・私、幽霊なの。前にあなたが行こうって言った島があるでしょ?あそこに住んでいたの。私が14歳の頃、無人島の神が島へやってきて、イケニエを出せ、さもなくばお前らの島を消してやる、って言ったの。条件は少女であることだけ。そして私はイケニエに選ばれ、この島へ連れられ、餓死した。」
「・・・・・・!」
そんな・・・・・・・・・!
「それ以来、私はこの島の神の下僕として、長いあいだここにいたの。ほら、時々、私たち以外にも人影があったでしょ?あれもイケニエ。私より前にイケニエに選ばれた少女達の霊。きっと私のことを探しているんでしょうね・・・。」
「逃げられなかったのか?」
「逃げることができるなら、私はもうここにはいないわ。島の神---ジャネオンは私達を永遠にここに縛り付けておくのよ・・・。」
驚いた。ココナの秘密はこんなにも大きいものだったのだ。
突然、ココナは地面に伏せた。真剣な顔だ。何をしているのだろう。
「・・・ありがとう。でも・・・いいの?・・・・・・・わかった。言ってみます。」
そしてココナは僕の方を向き、言った。
「今ね、この島の最も古い樹が私に話しかけてきたみたい。こんなこと初めてだから、よくわからないけど・・・。その樹はジャネオンがこの島の神になる前からこの島にいて、この島の要だったけど、数百年前にジャネオンが来てから樹の力が弱まって、もうすぐその樹の力もなくなってしまうんだって。それで、樹から力がなくなってしまう前に、樹から短剣のようなものを掘り出すのよ。尖っていればなんでもいいわ。樹に残された力とその鋭さでジャネオンの体を突いてやれば、きっと・・・。」
「ちょっと待って。それに成功したら、ココナ達はどうなるんだ?」
「きっと、ジャネオンの力が失くなるから私達の魂はこの世ではない、別の場所に解放されると思う。」
そんな・・・。僕は、ココナにまだ・・・。
こんなこと、あまり他人には言いたくないことだけど、僕は彼女と一緒にいたこの一ヶ月間、本当に楽しかった。そりゃあもちろんここは無人島だから辛い場所なんだけど、ココナがいるだけで安心できた。彼女はそんな雰囲気を出しているのだ。
僕は、ココナを特別に思うようになってしまった・・・本人には言えない。
無人島の話