透明 ―序章―

透明とは・・・?
と考えたことがあるだろうか。
透明を作った人間は誰一人としていないだろう。
だが、人には「透明な心」が存在する
汚れを知らない純粋な心・・・。
・・・ある橋にて、自殺した人間がいた
いじめによる自殺だった
その関係者の「俺」は、この出来事で、心が灰色に染まっていた。
心の隅において忘れてしまい、三年経った「少年」の頃。
であった彼女によって、「俺」のときの心を呼び覚ましてしまう・・・。

透き通った少年の話―

透明はない
これが透明だと思ったものはどこから見ても透明なのか
あるところから見れば透明じゃないかもしれない
だが、「透明」を見つけることができれば
自分の素直な心の表しなのであろう――

少年は恋をした。
その子を思うだけで胸が痛くなった
その子と喋ってるだけで自分も楽しくなった
「ありがとう」といってくれるその子だけが心の支えになた
少年はよく、その子のことを思う
でも、自分のなかに弱い心があった
「もし、告白したらどう答えてくれるだろう」
「もし、フラれたら俺はどうやって生きていこう」
「実は嫌いなのかも」
「もし」のやまが積み重なって
今にも押しつぶされそうだ
「ああ、俺は恋をしているんだな・・・。」
それだけで満足な自分もあった。

俺は人をいじめてしまっていた。
ノリでやったのがエスカレートしてしまっていた。
ある日の夏
そのいじめられていた生徒は橋から飛び降りて自殺した。
葬式に出た俺は泣いた
悔しくて泣いた
隅っこに座っていたら誰かが来て、消え入りそうな声で
「お前は悪くないんだ、もう気にするな」と言ってくれた
その優しい言葉に悔しくて泣いた。
その出来事がまだ心のどこかに残っていた。

ついに少年は告白することに決心した。
もう告白するんだ、後戻りはできない。
緊張に潰されてしまいそうだ。
少年はその子の前で消えそうな声で告白した
「好きだ」
一言で十分だった。
恥ずかしくて顔を俯ける
自分の浅はかな心をどうにかしてやりたい
その子は「私も」と言ってくれたが、
恥ずかしくて気絶しそうだった。

俺は葬式の後、生徒の家に行った
何度も謝っている親を見て
俯いていることしかできなかった。
「謝る人が違うんじゃないか?」
と俺は心の隅で思っていた。

付き合い始めてもう2ヶ月が過ぎた。
少年はまだ嬉しかった
学校で話をするだけで嬉しかった
些細なことでも「ありがとう」と言ってくれる
彼女が好きだった
暑くなりはじめた6月の頃だった

俺はもう気付いていた
自分の透明な心はもうすでに色が変わってきているということを
心の変化が自分でも感じていられるほどに
俺は、透明な心の色が変わると、人の性格も変わってしまう
白や黒、人によって様々だ
俺はまだ透明だ、と言い聞かせてきた
だが、俺は、紙に色を塗るように、人が変わっていった
「自立」という言葉を知らない、中2の透明な心・・・。

少年は彼女に相談してみた
「心の色は変わったら落ちないのかな」と
すると彼女は「変わったら拭けばいい、いくらでも落ちるから」と言ってくれた。
中2の「俺」の頃の灰色な心が
高1の「少年」になり、透明に変わっていく気がした。
せみの声が響く、7月の消え入るような空だった。

俺はあの橋へと足を運んでいた。
あいつが落ちた場所にはいつも花が供えられている
毎日誰かが花を手向けてやっているのだ
風が吹いて、花が橋から落ちてしまった
俺はなぜか嫌な気分になり、走って去っていった。

少年は彼女と橋にいる
今日は「あいつ」の命日だ
少年は橋に花を置いて、ただ見つめているだけだった。
彼女が話しかけても、何も答えずに・・・
そのとき、少年は違和感を覚えた
「あいつは俺が殺したんだ」
中2の頃の灰色な心が蘇ってきた
「俺が死んだら、せめてもの償いになるんじゃないのか・・・?」
考えたときにはもう遅かった
彼女の言葉は耳にせず橋の欄干に手をかけた
「嘘・・・やめて!」という彼女の声
その瞬間、少年は橋から落ちた
「ああ、落ちたのか・・・もうイイヤ・・・十分だ」
灰色な心は、透明へと変わっていく様な気がした。
―序章―
彼女は呆然と立っていた。
今あったことをなかったことにするように、もういない少年に話しかける
「危ないから落ちないでね・・・」と
彼女・・・いや、少女の心は、透明から少し色が変わったような気がした。

橋カラ落チタ人間・・・2人目・・・。

透明 ―序章―

「透明」はない・・・
「少年」の心は透明で澄みきっていた
「俺」の心は灰色で淀んでいた・・・
「彼女」の心は、白く、時折黒かった・・・
「俺」のころの灰色の心は
「彼女」の白によって変わってきていた
「黒」を見せなければ・・・。
灰色で塗りつぶしたキャンパスに
白の絵の具で上から塗っても、残るのは「白」のみ。
決して「透明」にはならないが、大きく心を動かしてくれる。
だが、「黒」は強い。
「白」になった心を「黒」で塗りつぶしたらどうなるか?
「黒」一色。なにもない
何を塗っても効かない。
「彼女」は「少年」に
白を塗ってあげていると思ったら
黒を塗りつぶしてしまっていたのだ。

透明 ―序章―

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-03-03

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted