身近な人

不遜にも地元の小さな文学賞に投稿しようと思っています。

よろしく、批評お願いします。

初投稿作品です。よろしくお願いします。

 居間で二人の男がテレビを見ていた。二人の会話は途切れがちで、何処かぎこちなかった。一人は美鈴の父親で、もう一人はこれから“お義理兄さん”と呼ぶことになる姉美穂の婚約者だった。
「姉さん、」と美鈴が二人の男のためにコーヒーを用意している姉の美穂に言った。「どうしてあの人と結婚することにしたの? 半年程前にドライブに誘いに来た人の方がイケメンだし、背も高かった。 
 私ならあっちの人にしていたけれど……」
「私、」と美穂が答えた。「あのドライブで私が好きなのはこの人じゃない。やっぱりあの人だと思った」
「どうして? 」
「伊藤さん、半年前の人ね。伊藤さんは確かにイケメンだし背も高いし、気も利く。でも、一緒にいても少しも楽しくない」
「あの人は楽しい? 」
「気は利かないというか、鈍いのね。でも、楽しい。何時もこの人と一緒にいたいと思った。 
 そうだあの人、隣の健司君に似ている。美鈴、付き合っている人いないでしょう? 美鈴と健司君、お似合いよ」
「そうね、」と二人の娘の話を黙って聞いていた母親の美咲が言った。「山崎さんの奥さんがこの間言っていた。『美鈴さんが健司のお嫁さんになってくれたら、最高に幸せだけれど』と。
 私もそれもありかなと思う」
「冗談じゃないわ、母さんまで。
私と健司とは単なる幼馴染。ただ、それだけよ。
健司と結婚なんて、隣のおばさんには悪いけれどありえない」
「そんなに、顔を赤くして否定しなくてもいいわよ」と美穂が笑いながら言った。
「知らない」と美鈴は言うと、二階に自分の部屋に駆け上がった。
“冗談じゃないわ”と美鈴はベッドの身を投げ出すと思った。“確かに付き合っている人はいない。でも、それはこの人だと思える人がいないから。
 しかし、それが健司なんてあり得ない”

 次の金曜日朝七時、雨が降っていた。夕方から明日朝にかけて大雨になるとの天気予報だった。
美鈴は窓を開けて隣の窓に向かって言った。「健司、いる? 」
 健司が窓を開け眩しそうに言った。「美鈴さん、なんですか?」
 同い年? 同級生? しかし、美鈴は五月生まれ、健司は二月生まれ。何時の頃からか、片方は呼び捨て、もう片方が呼ぶ時は眩しそうに見つめ“さん”づけで呼んでいた。
「夕方、私の職場まで迎えに来てくれない?      
 六時でいいわ。
女子会をやる店まで送って欲しいの」
「……」健司の顔に困惑が広がった。
「都合でも悪いの? 」
「分かった、六時だね? 」
「そう。頼むわ」
 雨が天気予報通り激しく降り始めた夕方六時、約束通り健司は美鈴が勤める街を代表する本社工場の玄関に車を付けた。美鈴は気がつかなかったが、健司はその場にいた若い男達の鋭い視線を感じた。
「十時頃になると思うけれど、迎えに来てほしい」助手席に座ると同時に当然のことの様に美鈴は言った。
「悪いけれど、帰りは迎えに行けない」と健司。
「どうして? 」
「この雨で今晩は泊りになった」と健司。「七時までには会社に戻らないといけないんだ」
「えっ? 」美鈴は運転席の健司を見た。朝、健司が一瞬戸惑った顔をした訳が分かった。
「泊まりになることが分かっていたのなら、そう言ってくれればよかったのに。そしたら、母に頼んだのに」
「いいんだよ。僕が美鈴さんのために出来ることと言ったらこれくらいだから」健司が美鈴を眩しそうに見つめ言った。

 折角の久しぶりの高校時代の同級生の女子会も、健司のことが気になって半分上の空だった。そんな美鈴のことに気づいた親友が「ついに美鈴にも春が来たかな? 」と笑いながら言った。「そんなんじゃないわ」美鈴は自分でもびっくりする程強く否定したが、顔が赤くなったのが分かった。お蔭でそれから女子会の話題は“美鈴の初めての恋”が話題の中心になった。
“泊りなら泊りと言ってくれればいいのに!馬鹿な健司!”
散々女子会の酒の肴になった後午後十時半、ようやく女子会から解放され、母親に迎えに来てもらった。(「あら、彼氏に迎えに来てもらうのではないの? 」と最後にもう一回皆にからかわれた。)

“同じ学年と言っても、私がほぼ一歳年上。私が健司に勉強を教えた。それは二人が高校生になっても同じだった。でも、中学生になってショッピングセンターや本屋に行く時、私は健司の自転車の荷台に腰掛て行くのが何時もだった。それは二人が運転免許を取ってからも同じことで、ちょっと遠方に行く時私は健司をタクシー替りに使ってきた。その上、昼食・夕食も健司のおごりを当たり前にしてきた”
 美鈴は母親が運転する車の助手席で、そんなことを考えた。家に帰っても自分の部屋に入り、着替えもせずにベッドの身を投出した。
“私は何時も健司を体良く利用してきた。
 健司って私に取って何? 単に隣に住む幼馴染? 姉さんは二人をお似合いだと言った。確かに私、健司のことは嫌いじゃない。それは確か。でも、恋人とか結婚の相手とかいうとちょっと違うような……。
違う? 本当に違う?”
美鈴はベッドから起き上がりパジャマに着替え、パソコンの電源を入れた。
お気に入りのブログが更新されているかも知れない。昨日はみそこなった。風景写真(建物や木々の頭と空の写真が多い)が良いし、ショート・ショートもなかなか面白い。写真が何処かで見たことがあるような気がするのは気のせいだろう。時々、近くに住んでいるらしい幼馴染への思いが書かれている。ブロガーの若い男は気が小さく自分の思いを幼馴染に伝えられない。でも、この幼馴染も馬鹿だと思う。幼馴染にこんなに思われているのに、全然気がつかないなんて、本当にこの女馬鹿な女だ。

デスクトップのアイコンをダブル・クリックして、お気に入りのブログが表示された時、美鈴は思わず「あっ」と声を上げた。
この写真!
N公園の県道にかかったつり橋だ。間違いない! これで他の写真も何処かで見たことがあるような写真な訳が分かった。
このブログの写真は市内で取られたもの、中には極近所で取られたものもある。そうでないものは健司とドライブに言った先の写真だ。間違いない!
このブログのブロガーは健司で、その馬鹿な幼馴染は私なのだ!
何故、こんなことに今まで気づかなかったのだろう?
なんて馬鹿な私!
幼いころのアルバムにはまだ一つになるかならないころの健司と私が、水遊びをしている写真がある。二人ともスッポンポンだ。今までどうってことなかったあの写真で、顔が赤くなったのが自分でも分かった。
小学校の頃、いじめっ子から私を守ってくれたのは健司。かないっこないと分かっている年上のいじめっ子からでも、私を守ってくれた。
中学生から後は、健司を足代わりに使ってきた。私はこれまで健司を利用するだけだった。
そうだ、私は健司といるとホッとする。素の自分でいられる。健司に甘えてきた。健司はそれを黙って受け入れてくれた、無制限に。健司はずっと身近にいた。あまりにも身近にいて、馬鹿な私はそれに気づかなかった。

健司は最も身近な大事な人。

今夜は眠れそうにない。今夜は健司のブログをもう一度最初から読みに直そう。
そして、明日健司が帰ってきたら“ありがとう”と言おう。今日、いや、これまで健司を何度も足替りに使ってきたけれど一度も“ありがとう”と言っていない。
そして、泊り明けの明日でなく、明後日の日曜日に二人カメラと弁当を持って散歩に出かけよう。丁度、H川の堤防には黄色の花が絨毯みたいに咲いている。N川には鳥だってたくさんいる。健司に名前を教えて貰おう。
それから、これまでの二人のことを話し合おう。勿論、これからの二人のことも……。

朝の九時、健司が帰ってきた。
美鈴は表に飛び出し、健司に「おはよう」と言った。健司も「おはよう」と答えた。
美鈴と健司の二人に春の柔らかな陽の光が降り注いでいた。

     了

身近な人

少し甘くなりましたが、まえがきに書いた通り、地元の文学賞投稿予定なので、そこは……。

身近な人

美鈴の姉が彼を連れてきた。でも、その彼より半年前に姉をドライブに誘いにきた男のほうがイケメンだし背も高い。 でも、姉は気が利かない彼の方が良いという。 美鈴にはよく理解できなかった。

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-03-03

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