家族の旅路

今は亡き人

運転好きの父親が運転する赤いワゴン車で、山間の温泉地に泊まりがけの旅行に行く途中の車内。
後部座席の一列目左右の席には僕とじいちゃん。
長椅子のようになった最後部座席には母親と妹と祖母。
冬だったのでみんなそれなりの厚着をしている。
じいちゃんはお気に入りの薄いサングラス。
これからの旅に心躍らせ皆笑顔だ。
僕はふと気がついた。
ばあちゃんは亡くなったばかりじゃないか?
しかし後ろの席を振り返ると母と妹と共にニコニコしているばあちゃんが居る。
そして、隣で外の風景をもの静かに眺めているじいちゃんも8年前に亡くなってるはずだ。
僕はその現実に驚いて、あまりに単刀直入に後部座席の母親に尋ねた。
「なんでばあちゃんが生きてるの?しかもじいちゃんまで。これは夢?」
「夢かもしれないね」と母親は微笑みながら、しかしいつもの口調で答える。
ばあちゃんとじいちゃんはニコっとしただけで、それについては何も言わない。
だけど、妹は俺と同様に驚いたようだった。
これは神様がプレゼントしてくれた、今は実現不可能な6人家族全員でのひと時か。
そんな話をしながら山村の細い道を進んでいると、車の前方右輪が道をはみ出し
1メートル程度掘り下げて作られた田んぼに横転してしまった。
スピードを出さずゆっくり運転しており、田んぼのぬかるみがクッションになったせいもあって、
家族に怪我はなく、車も引き上げてそのまま乗れる状態だった。
傾いた車から降りて、道にあがった。
その周辺には田舎風情のバス停や小さな商店があって、人がまばらに居た。
驚く事に、そこに居る人達は知ってる人ばかりだった。
中学校時代、部活の先輩だった上級生や、実家の近所の小さな個人商店の老夫婦など。
何人かはもうこの世には居ない人達だった。
みんな生き生きしてる表情で、まるで事故の事などなんとも思ってないように感じた。
だけど、実際これは事故というものではないかもしれないとふと思った。
この場所に止まるべくして止まったのだと。
実際、田んぼに落ちた事など、家族の誰も気にした様子はなく、
むしろ今は会えない昔からの知人に会えるというイベントを楽しんでるようですらあった。
僕は何気に携帯電話を取り出し、この現象を誰かにメールで知らせたいと思った。
メールで一番最近やりとりしていたのは、7年前に付き合ってた彼女とだった。
内容は当時のまま。
俺は7年前にタイムスリップしたのか?
そしてこれは夢?
よく理解出来ないが、同様に妹もこの現象に驚き、そして感動している。

目が覚めた。
俺は自宅のベッドの中。
夢の中の現実で素晴らしい夢を見ていた事になる。
忘れないうちに文字として残しておく。

家族の旅路

家族の旅路

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-03-03

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