TRANCER WORLD
とある小説を丸パクリしたにも等しいテスト作品であり、漫画で言えば第一話の本当に最初の一部です。
少しずつ更新していこうと思ってます。
プロローグ“Blight flower”
漆黒に染まった黒夜の空を、一閃の光が引き裂いた。
直後、その僅か後ろを追いかける様にして幾つかの箒星に似た光が駆ける。
少女は自分が今何処を飛んでいるのかさえ知らない。
逃げる、というもの程恐怖と焦燥感を感じさせるものは他に少ない。
後ろから迫る箒星のような物は既に少女の1メートル近くまで押し迫っている。あれを被弾すれば体を焼き焦がされ、そのまま地上に叩きつけられてしまうだろう。
少女は既に体力と気力を失いつつある。先刻箒星が腕を掠めた場所からは、肉が焦げる臭いと血の臭いが入り混じっている。
それでも少女は飛び続ける。何時か自分を助けたあの少年を、今度は自分が助けるために。
“帰路の悲劇”
学校中に響き渡る鐘の音が、授業の終わりを告げる。そして今日も何の変哲もない日常が終わる。
霊峰大学付属国立(くにたち)高等学校の生徒、轟日向は窓から空を見た。
何の変哲もない只の飛行機雲が漂っている。
-あの飛行機雲、朝もなかったか?
という突飛な発想を張り巡らせて、止めた。物を観察するのが好きな訳ではないし、朝から雲を見続ける程暇でもない。日向の頭の中は、別の事が半分を占めていた。
「テスト終わったからって遊びすぎると夏休みに特別課題プレゼントだからねー。あと今日の課題もしっかりしないとだめだよー?」
と言ったのは日向のいる1年C組の担任、尾道麗乃である。背中辺りまで伸びる長めの黒髪、アイラインのしっかりした大きめの目、絶妙な場所に位置するふっくらとした唇、そして同じく絶妙な場所に位置する鼻という、俗に言う『可愛い人』であり、生徒、保護者共に絶大な支持を得ている。特に男子の。
テストと言えばいえば今回のテストは良くも悪くもなく順位もそこそこだろうと思っていると、二人の少年が日向の席に近づいて来た。
黒というより茶に近い髪をした少年-川崎雄太と、黒髪の凛とした顔立ちで、スマートフォンを片手にした少年-桜井悠樹である。
「おい日向、一応調べて来たけど」
悠樹のスマートフォンの画面に、3人が目を向ける。
『SランクとAランクが戦闘』という見出しと共に、一枚の写真がある。変電所だろうか。鉄塔はひしゃげ、折れ曲がり、管理小屋と思われる建物は所々が傷を負っている。
3人は約2分もの間無言でその写真を見つめていたが、そこにもう一人の男子-そう、今回の問題の発端が歩いてきた。その少し癖っ毛の少年、鈴木連は3人を見るなり声をかけてきた。
「おーい行こうぜー」
つまり、連はこの魔界にも似た場所に行こうと行っているのだ。これが今日日向の頭の半分を占めていた課題である。
雄太、悠樹、日向の3人は無論行く気が無かった。日向が3人の心情をそのまま言葉にする。
「おい連…これマジで行くのかよ…?」
「…え、本気に決まってるじゃん…え?みんな行くよね?」
「あ、悪い俺今日はちょっと…彼女との約束が…」
悠樹がスマートフォンを弄りながら言う。
「おま、いくらリア充だからってそれは許さんぞ!え、雄太は?」
「え、俺は…あのーそのー…あっ宿題が」
「嘘つけよ!!!」
連が悲しみの声を上げる。が、既に教室には日向達以外誰も残っていないため、悲痛な叫び声が教室中に響き渡る。
「おいおいおいお前ら何なんだよその今日のノリの悪さは?」
少し呆れた顔をする連に、俺はこの一日で出した自分の結論を言葉にした。
「別に明日でも良いんじゃない?今行っても規律委員がいて無理じゃん」
いきなり連の顔付きが変わり、すっきりとした顔になって、
「あーなるほどなー…じゃぁ明日行こう」
納得はや!と、ここで3人の心情は完全にシンクロした。
いつもこうなのだ。連は納得が早すぎる。そんな事でこれから大人の世界でやっていけるのか。
しかし今そんな事を考えても意味が無い。明日その場所へ行くのだ。SランクとAランクの戦闘跡とやらに。
日向がまた少し落ち込んでいると、連が声を上げた。
「じゃぁ帰るかー」
大体の生徒が帰ってしまったのか、廊下には日向達以外誰もいない。そういえば課題があるから皆帰ったのか、と日向は今更ながら思い出す。
校門で悠樹、帰路の異なる連と別れ、雄太と歩き出す。
「あー明日マジで行くのかよー」
「俺も行きたくねーわー」
雄太と日向が愚痴を零す。そもそも何故日向達が行きたくないのかというと、面倒臭いというのもあるが、それ以上に危険性があったからだ。
規律委員に見つかればその時点で終わりだし、たまたま来ていたSランクと出くわしてしまう可能性もある。
連はその事も考えているのだろうか。
と、ここで雄太が俺の心情を察したように言い始めた。
「でもSランクが能力使った跡ってだけでも凄いと思わない?」
「…まぁ俺たち凡人からすればな」
Sランク、というのはこの霊峰大学学園に13人しかいない最強クラスの超能力者『トランサー』である。Sランクの下にはAランク、Bランク、そしてC、Dと続く。
トランサー、というのは8年前に発生したある事故の後に発生した超能力者の事だ。霊峰大学はその能力を悪用しようとする若者を監視、そして戦力として育成するために、「入学料、授業料免除」という表向きで設立された。事故によって荒地となった神奈川県の半分の敷地を使った巨大な学園は、正に学園都市である。学園内ではトランサーの発生の原因となった『QL素粒子』の研究が密かに進み、トランサーを人工開発する事に成功した。しかし、自然のトランサーとの能力の差は大きく、こうしてランク付けがされるようになった。
Bランクの悠樹はともかく、Dランクの連や雄太には少なからず憧れはあるのだろう。
「凡人って日向は日向で珍しいよな」
「珍しいってよりかは有り得ないらしいな」
この学園内では全員の生徒が能力を持っている。QL素粒子を特定の用法でDNAに導入する事で、少なからず何かしらの超能力を使えるようになるのだ。物体浮遊、透視能力、スプーン曲げ、など。
しかし、日向は何の能力も発症しなかった。つまりランク付けもされていない。つまり、学園内で能力を所持しない生徒は、轟日向ただ一人だけなのである。
それもそのはずだ。日向は既にSランクに匹敵する能力を持っていたのだから。
交差点を曲がると、突き当たりで道が二つに分かれている。ここで日向は右に、雄太は左に曲がる。
「もう行くしか無いな…」
「まぁその帰りとかにファミレスでも寄ればいいじゃん」
「せやなー…じゃぁまた明日」
「おう」
勇太は左に曲がり、そのまま歩いていく。日向はその姿を見ていたが、やがて呟いた。
「…また、俺は嘘ついたのか…」
日向は能力の事を誰にも言っていない。怖かったのだ。大衆とは違う目で見られ、他の人間に狙われ、そして傷を負う事が。
臆病ではない。これが普通の思想なのだ。SランクやAランクの人間には戦いを好む者がいるが、何の意味があるのだろうか。
気がつくと既に自分の住む団地の傍まで来ていた。学生の為だけに建築されただけあって、黒を基盤とし、中心にドア、ロビー、エレベーターをたを全て配置したマンションは築7年とは思えない新しさを放っている。自動ドアが開き、認証パネルにカードをタッチする。4桁の暗証番号を入力すると、ロビーへのドアが開く。3年間続けている慣れた作業。エレベーターの中に入り、7階のボタンを押す。ドアが閉まり、日向一人を入れた鉄の箱が上へと動き出す。
そういえば今日の課題は「トランスの使用による重力に反する運動」についてのレポートだった筈だ。
携帯を取り出し、時刻を見る。既に5時半を回っていた。
-時間が足りない。
レポート作成にはかなりの時間がかかる。この調子だと今日はあまり眠れないだろう。
エレベーターが止まり、ドアが開く。7階からみえるのは、いつもの見慣れた風景。日向は自分の部屋である705号室に向かう。
と、ここで日向は違和感を感じた。少し焦げ臭い。どこかで火事でも起こっているのだろうかと思い、手すりに近づき辺りを見回してみるが、どこにも異変は無い。
気のせいか、と思いつつ自分の部屋である705号室のドアを見る。
瞬間、日向は凍り付いた。
ドア一面ドアノブを中心にが黒っぽく変色し、中心であるドアノブは焼き焦がされ、一部が溶けて下に落ちている。
本当に自分の部屋か、と疑惑が浮かぶが、ドアの上方には一部が焼けて見えなくなっているが、確かに《705号室》と書かれているのを確認する事が出来る。
朝部屋から出た時は勿論こんな事にはなっていなかったはずだ。つまり、これは日向が学校に行っている間に起こったという事になる。
「…ちょっと待て」
ここで日向の頭の中を二つの疑問が走った。
一つ目は、ドアノブを焼き切られた、という事は、誰かが部屋の中に入った、という事。それも鉄を焼き切るとなると相当ランクが高い筈だ。
そして二つ目は、能力を行使してまで日向の部屋に侵入する人間の意図だ。わざわざこんな普通すぎるマンションの普通すぎる部屋に空き巣をしようとは考えられない。
となると、その人間の狙いは日向だという事になる。
日向は腹を決め、恐る恐るドアノブに手を伸ばし始めた。緊張、焦り、そして恐怖が日向の体を包む。
既に冷えていたのか、ドアノブには熱がこもっていなかった。ただ金属質の無慈悲な冷たさが、彼の手に流れ込む。
ドアノブは案外簡単に回った。ドアの隙間から見えたのは、何の変哲も無い自分の部屋だった。
日向は少し安堵して、ドアを完全に開け放とうとした。その時。
-ドアに何かが引っ掛かった。
それも少し柔らかい。恐ろしい程の恐怖が日向を襲う。恐る恐るその物体を見る。
そこにあったのは、気絶した少女だった。
失われた記憶
時刻は九時を回った。
眼前では白髪の少女が日向の作った夕食-肉じゃがを口に運んでいる。
日向も肉じゃがを口に運ぶ。が、何故か夕方の頃のあの食欲は消え失せている。日向は眼前の白髪の少女に目を向けた。
純白の髪は肩まで伸び、左右からは結ばれた白尾が首に向かって流れている。橙々色を帯びた琥珀色の目は不思議な気分を誘う。口元は小さく、鼻は絶妙に顔の中心を走っている。こんな美少女がドアノブを焼き切る程の能力を持っていると思うと、日向の背筋は凍りつきそうになる。第一聞いたことが無い。
確かに抜群のルックスと強い能力を兼ね備えている人間がこの学園内にはいる。しかし、この少女はどう見ても日向の知識中には無かった。
彼女は一瞬こちらに目を向けたが、すぐに夕食へと視線を戻した。
名を咲神梓というらしい。まず何故このような状況になっているのか。時は三時間前に遡る。
----------------------------三時間前---------------------------------
目の前に少女が倒れている。しかも自分の部屋の玄関で。
日向は一度状況の再確認をした。
「まず、ドアを焼かれてて、それで誰かが入って、んで入ったのはこいつで…」
日向が言い終わらない内に、少女の指が僅かに動いた。よく見てみると、右手の二の腕の部分が燃え、そこには今にも膿みだしそうな火傷の傷走っていた。
「…うっ!!」
確か、この前保体のテスト勉強のために買った傷の手当についての本がある。そこには火傷の治療法も載っている筈だ。
日向は全速力で勉強部屋に駆け込み、テストが終わってから放置していた本の山を崩し始めた。そして、上から十冊目辺りで例の本を見つけ出した。
直ぐに火傷の治療法が載っているページを開く。ざっくり見た所、こういう順序でやるらしい。
1,流水などで傷口を流し、冷やす
2,消毒する
3,ガーゼ、包帯を付ける
という事は、まずこの傷口を洗い流さねばならない訳だが、多量の水となると風呂場までこの少女を運ぶ事になる。
日向は少女を背負う形で風呂場に向かう。少女からどこか懐かしさを感じさせる匂いが流れ、日向の鼓動は一瞬速くなった。
風呂場に着き、少女を背から下ろす。先刻本でみた限りでは、無理に患部を出して洗うより、服の上から洗った方が良いらしい。
蛇口を捻り、出てきた冷水を少女の腕にかける。流れ出る流水が、次々と少女の傷口を冷やしていく。
「…もういいかな」
蛇口を閉め、消毒液をリビングから持ってくる。蓋を開け、ティッシュを使いながら傷口に流す。
消毒が終わると、残るはガーゼと包帯を巻くだけになる。と、その時だった。
「………ん」
風呂に連れてきた辺りから恐れていた事が現実になった。少女が意識を取り戻したのである。
「………っ!!」
日向はとっさに体を仰け反らせた。今の今までまるで恋人の様に肉迫した状態で消毒をしていたのだから。
少女は琥珀色の目を俺に向け、そして言った。
「…やっと会えた」
「……あの?」
「なに?」
「ガーゼ巻きたいんだけど」
「お風呂入りたい」
「…はい?」
「お風呂入りたい」
「あー風呂沸いてないですが」
「シャワーだけでもいいから」
「じゃぁシャワー浴びたらガーゼ巻くから」
「ん」
この会話の後、約10秒の沈黙が続いたが、先に口を開いたのは日向だった。
「名前何?」
「梓」
「え?」
「あずさ。咲神梓」
「咲神な。とりあえずシャワー浴びといて。俺晩飯作っから」
「ん」
その会話を最後に、日向はは風呂場を出た。
さて、晩飯は何にしよう。自分で作れて、ある程度美味しくて、かつ栄養がしっかりしている料理。
「…肉じゃがでいいかな、うん」
確かこの間安売りしていたじゃがいもと昨日食べた牛丼の肉の余りがあった筈だ。
調理器具、材料を並べ、先に米を研いでから肉じゃがを作り始める。霊峰学園の生徒は、皆一人暮らしもしくは友人と同居をしているため、大体の人が料理をする事が出来る。
…コンビニやファミレスに頼り続ける者いるらしいが。
肉じゃがの調理は30分程で終わり、後は米が炊き上がるのを待つのみとなる。
そういえば風呂場からはまだシャワーの音がする。女子というのはシャワーだけで時間がかかるものなのか。
TRANCER WORLD