ソーダ水の海

小さな世界を垣間見る、少女の物語。


 ソーダ水の海に溺れて、甘い甘いユメを見た―――


 大きな音を立てて、身体が波に打ち付けられる。一瞬にして水を吸い込んだ服に身を任せ、私はセルリアンブルーの海に沈んでいった。目を開ければ、空よりも深い蒼の世界が広がっていて、太陽の光に反射したそれらを、少しだけ綺麗だと思った。

 ここまで考えて、少しだけ口を開く。
酸素が、透明な泡が私の口から広がり、海の色に染まって、気づけば消えていた。
 静かに目を閉じる。きっと、どんどん底へ向かっているのだろう。けれど私は、身体を動かす気分になれなかった。もう少しだけ、この綺麗な深い蒼の世界に居たかった。
 重力にすべてをゆだねた僕。自然と、恐怖は薄れていった。

 その瞬間、勢いよく腕を引かれる。まるで、流星の如くめぐるましい日々の走馬灯を見ているような、早送りの感覚が私に襲いかかった。何か月ぶりだろうと思えるほど、久しぶりに感じた地上の空気を、小さく開いた口で精一杯吸いこみ、目を開ける。

『溺れてるかと思った。』

 肩を上下させながら、必死に涙をこらえる彼を見て、どこか嬉しい気持ちが頭の中を過った。

「大丈夫、心配しないで。
 こんなにも愛してる貴方を置いて、私はどこにもいかないわ。
 それに、溺れてなんかいないのよ。
 ……少し、小さな世界を見てきただけだから。」

 そういうと、安心したように脱力しながら笑ったあなたを見て、私も小さく微笑んだ。

ソーダ水の海

閲覧ありがとうございました。

ソーダ水の海

そこは、空よりも深い、蒼の世界。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-03-02

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