星の向こう側

ぽっと、音がしました。それは、余りにも小さな音でしたので誰も気がつきません。ろうそくはぷよぷよと揺れて、なんだかとても楽しそうなのでした。
橙の灯はだんだんと増えて大きな街になりました。夜の空をその光で映し出します。川の中を覗き込むとその中にももう一つ大きな街が、楽しそうに揺れながら光るのでした。足を水に浸して、ぴちゃぴちゃやっていると、街の灯が一つ近づいてきました。
「やぁ」と、声をかけてきたので、「やぁ」と返事を返しました。
「私もその仲間に入れてくれないか」と、水に浸した足を指差しながら、言います。「もちろん、構わないよ」少し、身体を寄せて入れる隙間をつくると、軽いお礼をいいながら隣に座った。
「今夜はいつもより過ごしやすいね。いつもは暑くてたまったものじゃない。」と、同じようにぴちゃぴちゃやりながらいいました。頷くと、子どものように笑いながら足をばしゃばしゃ動かして歌うのでした。
「アメンボ、アメンボ、アメンボは、いったいどこまでのぼろうか。アメンボ、アメンボ、アメンボは、どこまでどこまで帰ろうか」
その歌を聞いていると何故だかすごく懐かしい気持ちと、さみしさも少し感じるのでした。

空はどこまでも深くて、大きくて、海のようだと感じました。空に光る星たちは、その身体を空に浸して流れのままに流れていくのでした。それから慌てて思い出したかのようにチカチカとやるのです。
まるで、自分たちを写す鏡のようだと思いました。
「あ、君はどこまでいくのかな。まぁ、川の流れにそっていくのだから、 行き先はみんな一緒だけど」
気がつくと、パシャパシャやっていた足を止めて、こちらを見ながら尋ねてきました。「僕はあの星の向こうまでいこうと思う」素直に思ったことをいいました。今日の空を見ながら、そう思ったのです。
「そりゃいい考えだ!全く、それはいい考えだよ!」また、足をシャバシャバ動かして目を見開きながいいました。
「じゃ、君はお星様になるんだね。それは、それは本当に素敵なことだよ」何度もそういいながらパシャパシャやりました。
鐘が一つなりました。出発の合図です。それを聞くと、パシャパシャするのをやめてすくっと立ち上がりました。
「そろそろ時間のようだね。名残惜しいけど、そろそろ僕も戻らなくちゃ」
そういうと、また一つぽっと音をたてて灯がともるのでした。

「それじゃ、さよならだ。星の向こうにいけたら、星の王子様にひとこと頼むよ」といいながら、街に戻っていきました。
街は揺れています。赤く橙に染まる街は、何故だかさみしく一度震えました。
僕もそろそろいかなくちゃな。あのお星様の向こうまで、行かなくちゃ。
そうして、進み始めた灯たちを風がそっと包みました。街は、急かされるようにゆっくり流れてゆきました。僕もそれに続いてゆきます。あの空の向こうまで、ゆっくりと、流れてゆきました。

星の向こう側

星の向こう側

「あ、君はどこまでいくのかな。まぁ、川の流れにそっていくのだから、 行き先はみんな一緒だけど」結局、行き着く先など分かっているけど、それでも、星の向こうまでいけることを信じている…。そんな物語

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-03-02

CC BY
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