サイレンは深夜鳴る

サイレンが遠く鳴り響く。

深夜、眠れないままベッドに横になっている。秒針は容赦なく時を刻み、夜はいよいよ更けていく。さっきまで木々を揺らしていた風はいつの間にか止んで、そのかわりに、小さな雨の、ひかえめに屋根を打つ音が轟音に混じって微かに聞こえていた。
僕はとりとめもなく巡っていく思いをそのまま浮かぶに任せて、警笛の出どころに想像を馳せてみた。その先にあるのは火事か交通事故か。あるいはそれとも、殺し合いかーーー
いずれにせよ、僕の想像も及ばないような辛苦が、まるで名前も知らない誰かの身に振りかかっているのだろう。サイレンの鳴るところにあるのはいつも、そういった良くないものばかりだ。

両腕で体をきつく抱いて、ぎゅっとまぶたを閉じる。でも、いくら固く閉ざしても、良くないことはほんの小さなすき間からすべりこむようにして入ってくる。そうして、たまらくなって目を開けるのを意地悪く待っているのだ。

ああ、サイレンが遠く鳴り響く。鳴り続ける。サイレンは鳴り続ける。続ける。
僕は体を折って息を殺して、ただ待つことしか出来ない。ただ、轟音の過ぎ行くのを待つ。待つだけだ。

だが朝が来れば、きっと新しい太陽が僕を洗うだろう。

夜明け前、空が白み始める。僕は太陽の昇る場所を探した。
東か、それとも西か。
それは昇るまで分からない。

サイレンは深夜鳴る

サイレンは深夜鳴る

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-03-02

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted