勝手 (かって)

登場人物

幸 英明 (ミユキ ヒデアキ) ーー親しい間柄からはエイメイともヒデとも呼ばれる。街に息づく二十歳。

明治通り

昨夜の酒の強さが、昼を過ぎても喉を焼いていた。
喉の感触をごまかす為に立ち寄ったラーメン屋の入り口に、ラーメン雑誌の切り抜きが、ラミネートされ下がっているのを見た。
半分程つけ麺を啜った辺りで、ヒデアキの懸念は的中した。香ばしい以前と比較して味が下がっている。焦げていて温い。

しかし、寛容を自称するヒデアキは、店主に文句を付けるでも、金を払わずに店を出るでも、機嫌を悪くして残して帰るという事もしない。
どころか、お手透きでスープ割りを頼む。育ちがいいのだ。

店を出て、タバコに火を着けながらもう一度ラミネートを見た。
記事は見開きだが、半分以上の見出が別の街のラーメン屋の記事で、
金色に透き通ったスープに春菊やら筍やらが載っている。
こうした前衛的なラーメンに対しても、ヒデアキは職人の努力を汲む甲斐性を持っていた。
一方で、やたらと暗く陰影をつけて撮られ、焼豚が怪しい光を発する、先程までヒデアキが食べていた七百五十円のつけ麺は、同系の雑誌では飽きる程見られた物だった。

ヒデアキは、いかにもこれから、客が離れてゆくこのラーメン屋の、ラミネートされた記事が、半年後の梅雨などを経て、ラミネートがヒビ割れ、中が水滴で滲む所までをイメージした。
「でも俺くるよ、また」
低く小さく、口を動かした。
思い遣りのある、優しい青年。そうヒデアキは自らの自堕落を消化していた。

勝手 (かって)

勝手 (かって)

「変わらない気分屋」であるヒデアキが、 変わり行く物事から、己を守らずに身を任せる。 大したトラブルの無い、現実の東京を舞台に、 ヒデアキは日々、退屈を避けて遊んでいる。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-03-02

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