私の席は窓際一番後ろ
一番後ろの席の彼女が、恋心を自覚する物語。
そういうものには敏感だから、視線を感じることは少しあった。
まさか、そういう類のモノだったなんて。
いわゆる「家庭の事情」というやつで、高校に入学してから直ぐに数か月間休んでしまった私。ギリギリ進級には差し支えない単位数だけれど、クラスの輪には明らかに出遅れてしまっていた。
もともと明るい性格ではない為、そこまで他人に自主的に関わることもなく、かといって人を引き付けるオーラみたいなものも持ち合わせているつもりなんて更々ない。
つまりは、入学早々クラス内で孤立してしまった。
久々に学校に登校した時が、授業中に遅刻という形で余計に注目を浴びてしまったせいもあるかも知れないが、これから3年間はお世話になるクラスで、この時期から孤立してしまうのは、ただならぬ不安が隠し切れなかった。
そんな中で唯一「友達」のカテゴリに入った、クラスの男の子。
接点と言えば、座席が前後しているくらいの筈。単に私が覚えていないだけで、どこかで何かがあったのかもしれないけれど。
その男の子が、最近よく話しかけてくれる。
話題はいたってありきたりの、最近のドラマやバラエティ番組、どの芸人が面白いやら、どのアイドルがかわいいやら…本当に当たり障りのない話題ばかりだ。
私はそういうのに疎いため、まともに返答できている気がしないのだが、最終的には、毎日話すようになった。
それから、トントン拍子で仲良くなった。
一緒にお昼を食べたり、授業で何かがあればペアを組んでみたり、休日にショッピングに出かけたり…今思い返せば、軽くデートみたいなこともしてたと思う。
そして昨日、よりによって告白された。
典型的に「付き合ってほしい」と言われ、爆発しそうになった私は、よりにもよって一目散に逃げ出してしまった。
「……私、最悪だ。」
そうして今は自室のベッドの中。
今までの行動やついさっきの言動を思い返して、もう数えきれないほどの自己嫌悪に陥っている。
別に、彼の事が嫌いというわけではない。しかし好きなのかと聞かれれば、返答は「分からない」のだ。だって、まともに恋愛をしたことがないのだから。恋愛感情なんて分かるはずがないじゃないか。
漫画みたいに胸がドキドキすることもなければ、小説みたいに顔が火照ったりすることもない。ただ少し、暇なときはよく彼の事を考えるようになっただけで。彼に会える日が楽しみになっただけで。
『つーか、それが恋だろ。』
「!? お兄ちゃん!?」
臥せっていた枕から顔を上げれば、部屋のドアを開け放ち、枠にもたれかかるようにして立っている、5つ離れた兄の姿。
「ちょ、人の部屋に入る時は声かけてよ!
ってか、いつから居たの・・・?」
『ほぼ最初から、かな。
それにお前が気づかなかっただけで、声もかけたしノックもした。』
「応答ないのに入ったの!?」
『空返事だろうが、ちゃんと応答してたぞ?』
どうやら私は無意識のうちに返事をしていたらしい。常の慣れからなのか、相当考え込んでいたのか…。
『さて、今日は母さんに頼んで赤飯でも炊いてもらおうかな。』
「へ? なんで赤飯?」
ニヤニヤと意地の悪そうな顔をして兄が部屋から出て行こうとする。
が、私はまったく意味が分からずキョトンという顔をいていた。
『お前・・・あれだけ自覚しておいて分かってないのかよ。
・・・・要するに、お前もその告ってきたヤツの事が好きなんだろ?』
「・・・え?」
兄の言っている意味が分からない。彼が私の事を好きなのは分かった。けれど、私も彼の事が好き? もしそうだとしたら、一体いつから?そしてどこを好きになった?
脳内思考が常に合理主義の私にとって「根拠」がないなんてことは全く持って初めてで、意味が分からなくて……再度枕に顔をつっぷした。
『ま、お前が早く自覚しなきゃ意味ないけどな。
・・・・そうだな。いいこと教えてやるよ。
ソイツがお前以外の女子と中良さそうに話してることを想像してみろ。
直ぐに答えは出るだろ。』
そういって、もう何も言うことがないというかのように兄はドアをキッチリ閉めて部屋から出て行った。
私は一人、薄暗い部屋で考え込む。頭の中を占めるのは、先ほど兄が言い残していったあのセリフ。
もし、彼が私の目の前で、私以外の女の子と仲が良さそうに・・・・楽しそうに話していたら? もし、彼が私以外の女子と二人きりで遊んでいたら? お昼をお食べていたら?
「・・・・・なんだ、そういうことか。」
ふつふつとわき上がってくる感情は、紛れもない怒りの感情。そして、それらはすべてただの独占欲と嫉妬心に変貌するもの。
つまり、私も彼の事が好きなのだ。
理由なんていらない、根拠なんて必要ない。この気持ちだけがあれば、それでいい。
「一先ず、逃げた謝罪をしなきゃ・・・ね。」
こんなにも、明日が怖くて楽しみなのは初めてだ。
私の席は窓際一番後ろ
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